たっぷりキノコのアヒージョ
トリュフ豚ことスラスターさんの背中を見送って、すこし。
スラスターさんはたっぷりとキノコを採ってきてくれた。
さすがにトリュフはなかったようだけど、いろんな種類のきのこがあったようだ。
私にはわからないものが多いけど、『嗅覚◎』を持つスラスターさんが選別してくれているので食用にしても大丈夫なはず。
まあ、スラスターさんがあえて毒を仕込んでくるという可能性も皆無ではないが、食べる人には王太子であるエルジャさん、最愛の弟レリィ君がいるので、そこは安心してもいいだろう。
というわけで。
「それじゃあ、雫ちゃん、手伝いをお願いします」
「はい!」
キノコを持ち、『台所召喚』をした私。
雫ちゃんも一緒にね。
「あ、椎奈さん、この冷蔵庫……」
「うん! そうなんだ……! わかっちゃうよね……!」
雫ちゃんが台所に来て、まず最初にみつけてくれたのは冷蔵庫。
そう今まではツードアの一人暮らし用って感じのやつだったんだけど、今回、なんと700Lのものにしてみたのだ……!
使用したポイントは30万ポイント……。すごく、すごく奮発しました。
「北の騎士団でみんながいっぱい食べてくれて、ポイントがすごく増えたんだ。あ、もちろん雫ちゃんのおかげもあって」
北の騎士団のみんなには『台所召喚』で作ったごはんを食べてもらっても大丈夫だったので、初回ボーナスも含めて、かなりのポイントをためることができた。
『台所召喚』を使わなくても、調理場で作ったものでも経験値が入っていたしね。
雫ちゃんに関しては、設定ポイントが段違いだから……一万ポイント。
そのおかげで、台所に大きな冷蔵庫が君臨!
「みんなで海に行くってことも考えて、旅行中に食糧を保管できるところがあればいいなぁと思って、一番大きな冷蔵庫にしたんだ」
「すごいです。うちにあったやつよりも一回り大きいです」
「だよね。4~5人家族だと、500Lぐらいだから」
「だから椎奈さん、北の騎士団でいっぱいごはん作ってたんですね」
「うん。オーブンレンジを交換したり、家電ラックやスベースを交換したらあっという間になくなっちゃってて……。冷蔵庫のためにみんなに協力してもらったんだ」
冷蔵庫の性能すごいからね……ワンドアぱたんでちょうどいい温度にしてくれるし、最適な状態で保存してくれるし。
「今はね、北の騎士団でもらったお肉と、王都の市場で仕入れた野菜でぎっしりだよ」
「そうなんですね。それじゃあ今からキノコと一緒に料理にするんですか?」
「うーん。それでもいいんだけど、せっかく森のキノコで、市場には出回らないってスラスターさんが言ってたから、キノコメインがいいかなって。あとあくまで休憩だからおやつ感覚で食べられるやつ」
「いいですね」
「うん。……あ、でも、ちょっと足りない食材があるから、それを交換しちゃうね」
雫ちゃんに声をかけてから、ポイント交換をするために液晶の前に立つ。
そして、必要なものを選んで――
「よし。交換終了!」
私の言葉とともに、調理台の辺りが白く光り、ポイント交換したものが出現する。
雫ちゃんはそれを見て、ぱちりと目を瞬かせた。
「唐辛子と……パン?」
「うん。鷹の爪と食パンの六枚切りだね。使い方はそのときに説明するとして、まずは作っていこう!」
「はい!」
雫ちゃんと二人で頷き合って、さっそく調理開始!
「じゃあ、雫ちゃんにはキノコの汚れを取って欲しいんだけど、お願いしていい?」
「はい」
「キノコは水洗いをすると風味が逃げちゃうんだけど、今回は森のキノコだから、すごく汚れちゃっているところや土が落ちにくかったら、水で洗っちゃおう」
「はい」
「あんまり汚れがついていないやつは、キッチンペーパーで拭く感じで……。あとは石づきの部分は包丁で切っちゃうね」
調理台を前に、私と雫ちゃん二人で並んで、スラスターさんの採ってくれたキノコの下ごしらえをしていく。
汚れがひどいものは、水洗い。少しの土汚れはキッチンペーパーで拭き、きれいなものはサッとほこりを払っていった。
一人だと大変だけど、二人で話しながら作業をしていけば、時間があっという間に過ぎる。
たくさんあったキノコも気づけば、すべてきれいになっていた。
「それじゃあキノコを裂いていこう」
「裂く、ですか?」
「うん。キノコは手で簡単にバラバラにできるから」
雫ちゃんに説明しながら、石づきを切り落とした、しいたけっぽいキノコをカサと軸に分ける。
カサの部分を手で四つに割ればOK。
はい、と雫ちゃんにまだ分けていないキノコを渡せば、雫ちゃんも見よう見まねでキノコを裂いていく。
「わぁ……すこしの手ごたえのあとに避けていくから、ちょっと楽しいです」
「うん。わかる」
キノコによってちょっとずつ手ごたえも違うしね。
しいたけっぽいの、まいたけっぽいの、しめじっぽいの、よくわからないの。
どれもいい感じに裂いていけば、キノコの下ごしらえは終わり。
「次はにんにくを剥いて、薄切りにするね。私がにんにくの皮を剥くから、雫ちゃんは薄く切ってもらっていい?」
「はい!」
キノコが終わったので、にんにくを切る作業へ。
にんにくはちょっと多めでしっかり五かけ。
「よし、終わり! ごめんね。手に匂いがついちゃったよね……」
「大丈夫です。……椎奈さんとおそろいなので」
「……雫ちゃん」
にんにくを切って、手に匂いがついたことを、こんなにかわいく表現できる子がいるだろうか。いや、いない。普通はいない。信じられない。
でも、ここにいるんです。
「かわいい」
かわいいがすぎる。
くぅと胸を押さえると、雫ちゃんが手を洗いながら微笑む。
雫ちゃんのあとに私も手を洗って、鋳物の鍋を取り出した。
「これはバーベキューで使った鍋ですよね?」
「うん。王宮で料理長が使っていた鍋なんだけど、旅に出るって言ったら、一つ持っていけってくれたんだ」
それは使い込まれた、鋳物の黒く光る鍋。
私はそれにたっぷりのオリーブオイルを入れた。
「椎奈さん……揚げ物を作るんですか?」
「ううん。煮物、かな?」
「煮物……。でも、こんなに油を入れたら……」
「うん。だから、これはオイル煮、だね」
「オイル煮……」
「アヒージョって言えば、わかるかも?」
頭の上に『?』を浮かべる雫ちゃんが分かりやすいように、言葉を変える。
すると、雫ちゃんはピンと来たようで、小さく頷いた。
「あ、聞いたことがあるかもしれません。エビとかで作るヤツですよね?」
「それだと思う」
「だから、パンもポイントで交換したんですね」
「うん。アヒージョってさ、具ももちろんおいしいけど、オイルが最高においしいから……やっぱりパンをつけて食べたいよね」
「……楽しみです」
「じゃあ、コンロに火をつけて、鍋ににんにくと唐辛子を入れるね」
まだオイルが温まる前ににんにくの薄切りと鷹の爪を投入する。
にんにくも鷹の爪も焦げやすいので、低い温度から入れておいて、しっかりと香りと風味を出していくためだ。
オイルの温度が上がるとともに、パチパチと弾ける音がし始める。
そこへ、たっぷりのキノコ!
「すごい……とってもいい香りです」
「うん。にんにくとキノコすごいね……」
鍋の中身をぐるりと一混ぜして、立ち上る香りに雫ちゃんと二人でごくりと喉を鳴らす。
まだまだ嵩が多く、すべてがオイルに入っていないけれど、キノコはじきにしんなりし、ちょうどいい量になるはずだ。
「雫ちゃん、ときどき様子をみて、キノコを混ぜてもらっていいかな?」
「はい。わかりました」
「私はパンの準備をするね」
「パンはこのままじゃないんですか?」
「うん。アヒージョのパンは柔らかいとオイルを吸い過ぎちゃうから、パリッとさせたいくて……。本当はパンの種類としてはバゲットが合うかな、と思うんだけど……」
アヒージョにはやっぱり硬めのパンが合うとは思う。
でも――
「食パンが恋しくて……」
耳がカリカリ、表面がこんがり、中身がふんわりもちっ。
そんな食パンを食べたい気分……。
私が呟いたその言葉に、雫ちゃんは深く頷く。
「はい……私も、食べたいです」
「だよね」
食パン、食べたい。
「でも、パン一袋で足りますか?」
「え、足りないかな?」
私、雫ちゃん、ハストさん、レリィ君、スラスターさん、アッシュさん、ゼズグラッドさん、ギャブッシュ、エルジャさんの計9人。
一応、時間的にはおやつだし、そんなに量はいらないかな、と思ってるんだけど……。
「私と雫ちゃんは半分こ。レリィ君とスラスターさんで半分こ。ゼズグラッドさんとギャブッシュで半分こ、でいいかなって……」
「……私が、椎奈さんと半分こですか?」
「うん」
「……わかりました」
雫ちゃんは、何回か「椎奈さんと半分こ」と呟いたあと、しっかりと頷いた。
「――足りると思います」
「よかった」
では、雫ちゃんのお墨付きもいただいたので、パンを切る作業へ!
食パンの袋を開け、一枚取り出す。
そして、その食パンへ包丁で切り込みを入れていった。
「切り込みを入れるんですか?」
「うん。こうやっておくとね、普通よりパリッと焼けるし、オイルをつけるときに、ちぎるやすくなるんだ」
四角い食パンにまずは縦、横、半分にした切れ込み。
さらにそれぞれを等分するように切れ込みを入れれば、縦横、四つのブロック、計十六のブロックができるのだ。
これをオーブンでこんがりにするわけだけど、六枚を一度の焼くのは難しい。
でも、私の台所にはワンドアぱたんオーブンがあるので、二枚入れてぱたん、二枚入れてぱたんと3回ほどすれば、あっという間にパンは完成です!
「わぁ……いい色」
食パンの表面はこんがりきつね色。
切れ込みの入った部分はまだ白色をしていて、その対比がより食欲をそそる。
オーブンから取り出せば、小麦のいい香りがほんわりと広がった。
「椎奈さん、キノコもかなり減りました」
「あ、本当だ。しっかりオイルに漬かってるね。焦げてもないし! ばっちりだね!」
雫ちゃんがしっかりと鍋を見ていてくれたおかげで、キノコもとってもいい感じ。
仕上げに塩を振り、味を調えれば、完成!
「あ、台所がパンかごを出してくれてる……」
そっと調理台に乗ったカゴ。
好き……さりげなさ……好き……。
そのカゴに焼き上がった食パンを入れて、雫ちゃんに持ってもらう。
そして、私はミトンをつけた手で鋳物の鍋をしっかりと持った。
「それじゃあ、雫ちゃんは私の腕に手を回して」
「はい!」
私の言葉を合図に、雫ちゃんがきゅっと私の腕に手を回したのがわかる。
台所に広がる、にんにくとキノコと小麦の香りをいっぱいに吸い込んで!
――たっぷりキノコのアヒージョ
「『できあがり』!」
活動報告にたっぷりキノコのアヒージョの写真をupしました






