弟子が勇者になりました
何となく、ふと思いついて……今日一日で勢い書き上げました。
何かおかしな表現やらがありましたら笑って許して下さい。
私の名前はアリシア・アトレイユ。
未だ修行中の身ながら……縁あってかつて一度だけ、弟子を取ったことがある。
まあ弟子とはいっても、お遊び的なものだったけど。
それでも弟子は本気だったし、私も当時の出来る範囲で弟子に応えた。
あの時、正式なものではなくとも……私達は確かに『師弟』だったんだ。
その弟子がこの度、魔王を討取って王都に凱旋したらしい。
なんでそうなった。
【弟子が勇者になりました】
かつて苦笑交じりに弟子と呼んだ青年は、凱旋パーティの席で「自分が魔王を倒せたのは偉大なる父祖の加護と……誰よりも尊敬する憧れの師に受けた薫陶のお陰です」と酒に酔って涙ながらに語ったらしい。
おま、ちょ……酒の席で語るにしても、なんてことを!
当初人々は、師とは彼に剣術や魔術を教えた名の知れた誰か……彼の家は御大層な家系なので、そこの家庭教師の誰かかと思われたらしい。
または彼の将来を期待して、時折剣の手解きをつけていたという近衛騎士の団長さんかと。
しかし酒に酔った弟子は、そんな予想も憤慨した調子で否定したとか。
いや、私もその場に居合わせた訳ではないので何分にも伝聞調になってしまうのだけれど……
師匠の予測をあれこれ憶測で立てられて、奴はこう言ったそうだ。
「違いますよ!! 俺の、俺の師匠は……俺にとって、この心の師と言える方はただ一人! 俺の孤独を救い、笑顔を与えてくれたアリシア・アトレイユだけです!!」
なんてことを言ってくれたんだ、こん畜生。
お陰で以来、職業と本名を聞かれたら答え辛いことこの上ない状況に立たされてしまうじゃないか。
だって私の職業は……『ものまね芸人』、なんだからさ…………。
そのへん、慮ってほしかった。
そもそも私の家は、代々続く芸人家系。
人々に笑いと腹痛と狂気を与えることこそを旨とし、人生の喜びとまで家訓に示す変人……いや、変態一家だ。
先祖から連綿と続く宿業だろうか。
例に漏れず、我が家の家人は一人残らず人を笑顔にすることが大好きである(穏便な表現)。
その為なら、手段を選ばないともいう。
お陰様で『芸人一族アトレイユ(変人の巣窟)』として名高いけれども。
いや世界規模とか、国家規模でじゃないよ?
うちの実家がある田舎の地方規模で有名だ。
そんな家に長女として生まれた私。
うん、ご多分に漏れず、幼少期からの両親の変態的な指導もあり……物心つく頃には将来の夢は旅芸人、人生の目的は人に笑顔を無理やりにでもお届けすることと落ち着いていた。
そこに着地するなよ、と友人に諌められたこともあったが……
思春期も青春期も笑いに捧げた。
人を笑顔にするという、たったひとつの夢に捧げた。
本来明るい性質ではないが、スイッチが切り変われば驚くほど人格も豹変して明るく楽しく人を笑わせることができた。
己の適正ともじっくりと向き合い、やがてどの分野を専門に修行するかと自分に問いかけ続けた結果……選んだ道が、物真似芸人だった。
真剣だった。
ひたむきに、馬鹿馬鹿しいほど真剣だった。
だけどその成果か、一時期ちょっと話題になって……実家のある田舎のご領主様に宴会に呼ばれた時は、私の時代が来たと思った。
その家は、たいへん格調お高い一族様で……
有態に言って、勇者の家系だった。
なんでそんな家系のお殿様が、気軽に駆け出し芸人を呼んでいるのかと、こんな事態に陥った今となっては物申したい。
有事の際には誰よりも果敢に、先頭に立って戦い勇気を示すことを求められる一族が、offった私的時間に笑いを求めることは悪いことか?
いや、笑いの求道者の一人として、私は誰が何と言って否定しようが……そう、私とアトレイユ一族だけはそんなことは言わない。
むしろ率先して普段周囲からの抑圧でお疲れ気味な勇者の末裔の皆様に笑いと癒しを提供し、彼らに腹筋の引き攣る痛みをfor youするだろう。
笑いを提供するだけなら、何も問題はなかった。
皆さん普段から緊張感の伴う厳しい毎日を送っているためか、笑いの沸点低かったし。
お陰で私の興行も大盛況。
ええ、何も問題はございませんでしたとも。
問題は、一人息子だった。
魔王の復活が間近に予言された、瀬戸際の時代。
そこに丁度合わせたかのように生まれ落ちた一人息子。
周囲に期待させるな、抑圧させるなというだけ無駄だっただろう。
勇者の家の一人息子さんは、将来立派な勇者となって魔を討つことを期待……いや、強制された毎日を送っていた。
遊ぶことも友達を作ることも、そんなことを考える余裕すらない日々。
おいこら、子供は遊んで笑うモノだぞ。
そんな負荷掛けてたら歪んで壊れるぞ、こら。
私が思わず心配してしまうぐらい、子供の毎日は厳しかった。
まあ、それが本人の……どうしたって悪に立ち向かわなくてはいけない将来、死なない為だというのもわかる。
周囲の大人の気持ちだってな。
けどまあ、大事なのはひとつだろ?
勇者一族の息子は、ガキなのに笑顔がなかった。
普段からがっちがちに厳しくプレッシャーかけられてりゃそれも仕方なし。
余所様の家庭事情だの、教育方針だのに口を出せるほど、物真似芸人は偉くない。
偉くはないが……私にだって、笑い方を知らない子供ひとり笑わせることくらいはできるはずさ。
だってそれが私の使命なんだから!
笑えない人を笑わせ、笑わない人を笑わせ、笑いを忘れたひとを抱腹絶倒の爆笑地獄に突き落とす。
それこそがアトレイユ家のジャスティス!
私はその使命を全うすべく……何より、私自身が、はにかみすらしない子供の辛気臭さ漂う顔が気に入らなかった。
あの顔を全開で笑わせてみたい……!
難しいことは抜きにして、私の心にはそれしかなかった。
だからやってやった。
やってやったさ、全身全霊、全力を振り絞って……!
我ながら、今でもあの時ほど必死に、滑稽に、全てをかけて笑いの神を喚起したことはなかった。
いざ、今こそ我が身に降りよ笑いの神!!
その一心で、私は半ばトランス状態。
……今でも途中から何をやったか記憶があやふやなんだが、私は一体なにをやったんだろうな?
気がついたら勇者一族の屋敷のベッドで寝ていた。
私は一体いつ意識を手放したんだろう……?
ベッドの傍で私に付添い、お世話をしていてくれたらしい巨乳の美人メイドさん(レベル高ぇ……)に「途中から記憶がないんです……」といえばさもありなん、という顔をされたんだ…………。
あれ、わたし、ほんとうに何やった……?
真剣に笑いの神を呼んだ15の夏。
何か大切なものを失ったような気がした。
芸人をやっている時点で既に今更だったが。
しかしその甲斐はあった。
うん、甲斐がなかったら心に大ダメージだが、私の努力は実を結んだらしい。
目覚めた私の元へと一番に駆け付けたのは、怒り心頭の使用人頭でも屋敷のご主人でもなく、笑わない筈の子供。
勇者の末裔一族、一人息子のジャスティアン(11)だった。
意識を失う前、宴会の最中で何をやったのか欠片も覚えていないが……何故か、私は坊ちゃんに全力で懐かれたらしい。
扉を開け放った時の第一声が、「お目覚めですか、師匠!!」だったのが大変気になるんだが……本当に、何をやったんだ、私。
混乱に頭を抱える私。
そこにようようおっとりやってきたのが、お屋敷のご主人夫妻で。
夫婦同伴で詰られるのか、と戦慄したね。
……そっちの方が、まだ傷は浅かったかもしれない。
「昨夜は笑わせてもらったよ」
「本当に……あんなに笑ったのは生まれて初めてでした。人前ではとても見せられない姿でしたが…………不思議と爽快で、楽しい時間でした」
「は……そう言っていただけて、恐悦至極……」
「まあ、そんなに畏まらないで?」
「そうだな、昨夜のあけっぴろげな君はどこに消えたのだろうか」
な・に・し・た、私ぃぃいいいいいいっ!!?
驚くほど友好的なご夫妻の温かい眼差し。
お言葉はそれこそ本望なのだが……度を越しただろうという予感があるだけに、芸人の領分を超越しちゃっただろうと予想がつくだけに、胃が重い。
だが、夫婦はまことに友好的だった。
その一人息子の笑顔のお陰で。
「あはっ 本当に昨夜の師匠は凄かったよね!」
「…………わ、わらった」
「師匠?」
笑った。
あの笑顔何それなんて顔をしてた、息子さんが。
いま驚くほど自然に……笑ったーっ!!
もうそれだけで、嬉しくてうれしくて。
どうしてだか私が嬉しくて、息が詰まった。
だけどそう思ったのは、私だけじゃなかったという話。
「…………ジャスティアンのこんな顔は、情けないことに初めてでね」
「この顔を見て、はじめて……わたくしたち、気付かされましたの」
この子には、笑顔が足りないって。
いままでどうして笑わせてあげられなかったんだろうって。
可哀想なことをしたと、沈鬱な顔をする夫婦。
あ、あーあーあー……そんな顔しないで下さいよ!
物憂げとか、悲しげとか、そんな笑顔が一番苦手だ。
笑顔を知らない能面ヅラは嫌いだが、悲しい顔は苦手だ。
おろおろする私の手を、お二人はひしと夫婦で握ってこう言ったね。
「どうか、この子の側に暫くの間、留まってはいただけませんか……!」
「この子がこんな顔をするのは初めてなんです!」
「おねがいします!」
「「おねがいします!!」」
待て、貴族が芸人に頭下げちゃいけないだろう。
いやそれよりも御家柄か何なのか……体育会系の勢いに呑まれそうだ。
びしっと腰を90度に曲げて声も揃った異口同音。
お願いしますと繰り返す貴族の夫婦。
え、なにこの光景……。
更には隠居したという一族の爺様や婆様も出てきて、一族総出で「跡取りたる総領息子のためですじゃー……! 何卒、なにとぞ!」……と、無碍にしたら此方が鬼かといわんばかりの怒濤のお願いコールが発生。
当の坊ちゃん本人も、「僕は、まだ師匠に側にいていただきたいんです……! 何でもします、なんでも!」と全力で縋られた。
そんな息子さんの「子供らしい我儘」がこれまた物心ついてからは初めての事態だったらしく……忘れ去られていた子供らしさの回帰に感極まった大人達(使用人含む)に全力で引きとめられた。
ここまで必要とされたら芸人冥利に尽きるけどさ……
あの、自分達の力で坊ちゃんを笑わせようとか、そういう発想は……?
どうやら努力はするが、今まで出来なかったモノを今更すぐにどうにか出来るか、ということらしい。
これから方法を模索するにしても、当面の間は私の力を借りたい……と。
どれだけぎこちなくても、家族の温かさが感じられたら状況は改善していくと思うんだけどなぁ……どうやら勇者一族は、完璧主義者らしい。
宴会の時、私が笑わせることに成功する前からジャスティアンの目が実は芸を披露する私に釘付けだった、とか。
前から微妙に芸人の芸を見ている時だけ表情が微かにあどけなくなるジャスティアンの為に、そもそも私が呼ばれた……とか。
更にはジャスティアンがこんなに懐いて心を開いた大人(しかし実年齢15歳)は私だけだった、とか(それで良いのか家族)。
色々な要因を鑑みて、総合的な判断だと説得された。
一応家庭教師扱いで賃金は払うとまで言ってもらった。
ここまで必要とされて……芸人として拒絶なんて出来ようものか。
何より、まだ私がいなければ笑うことなんて出来ないという、ジャスティアンの涙ながらの訴えに負けた。
笑いの伝道師として、笑えないなんて言葉は放っておけない。
当面の興行予定地が近場の街で、通える距離だったこともあり……最終的に私は屋敷への逗留を受け入れた。
まさかそれから4年近く拘束されることになろうとは思いもしなかったけどな……!!
……うん、ジャスティアンが嫌がってさ。
結局、ジャスティアンが15歳になって成人する直前まで一緒にいた。
最後には置き手紙で「もう大人だから私はいなくても大丈夫ですよね?」と一方的に別れを告げて屋敷を出させてもらったよ。
だってさ、なんかさ……最初は遊びの一環だと思ったんだよ。
だけどまさか、奴の師匠発言が……本気も本気、マジだったとは。
誰がそんなこと思うだろう?
子供らしさが息を吹き返してのことだと思ったんだよ。
私も、ジャスティアンのご両親も。
勇者の修行も真面目にやってたからさぁ……
まさかうっかり奴が、本気で物真似芸人の弟子入りを志願していようとは。
いや、職業選択の自由は貴様になど無い!なんて言う気はないぞ?
ないけど……勇者の末裔にして次の勇者と目される若者が、それ選んじゃならんべ?
私も遊びの一環だと、本気で思ってた……!
本気でそう信じ込んでたから、うっかり遊びのつもりで結構色々教えてしまったし。
うん、弾みで色々……つい本格的なことまで。
それらの修練を必死に行う姿を見て、真面目な子だなぁとは思っていたけれど。
でもさ、目がマジなんだよ。
最初は気付かなかったけど、年々キラキラ度が増していくんだよ。
いや、最初から結構キラキラした目で私を見上げてたけど。
目の奥の炎が熱を増していくのがわかるんだよ……!!
ついには「師匠、成人の暁には正式に弟子としてお認め下さい。そしていつか……師匠の伝導(笑的な意味で)の旅に僕もお連れいただければと思うのです」……と、超マジな顔で言われた。
紛れもなく、本気だった。
どうしようかと思った。
そんなことを夕食の席で奴は言ったのだ。
恐れ多くも私は何故か家族同然の存在として、共に食卓を囲む権利を頂いていてな?
笑いの溢れる食卓づくりの一環として。
だからこそ、奴のマジ宣言は家人の多くが目にするところとなった。
普段はそつなく、マナー完璧な貴婦人を絵にかいたような奥方。
粗相? なにそれ?……な彼女の手から、フォークがポロリ。
部屋は沈黙に包まれた。
奴のマジ加減を目撃し……私とご両親は頭を抱えたよ!!
そこで本気でお互いに思い悩みながら、私とご両親と3人で協議に協議を重ねた結果。
まるで夜逃げするように私が消息を眩ませるという強引な結末を迎えた。
……本当はもうちょっと穏便な終わりを予定してた。
でもレベルの高いメイドのマリアが、ジャスティアンのベッドの下から家出セットを発見し……生半可な方法では強引についてくる結果が簡単に予測できた。
また、困ったことに勇者としてあらゆる分野……それこそサバイバル術まで極めた奴が強引についてきた場合、私に振り切れる自信がなかったんだ。
だからといってこのままずるずるとお屋敷に留まったら……なんか、全部台無しになる気がしたんだよーっ!!
ジャスティアンは一本気な少年で……
これと決めたら頑として譲らず、そして一度やると決めたことはやり通そう努力を怠らない少年で。
色々と考えた末の、私達の強硬策だったんだ。
ちなみに旅立ちの朝には一服盛ってお別れした。
そうでもしないと本当に追跡されそうな気がしたから。
逃走の為にわざわざ隠居した爺様の伝手をお借りして、一服盛るのにはお屋敷付きの主治医のおじ様にお知恵をお借りした。
最終的に遠方から取り寄せた象用の麻酔を使ったんだが……奴が元気に使命を果たせたというのなら、後遺症の類は残らなかったのだろう。
良かった、ちょっと心配だったんだ。
けど主治医のおじ様が大丈夫だって親指立てて太鼓判押すからさぁ……
まあ、何のかんのとぐちゃぐちゃ言ったが。
そんな訳で、まあ、なんだ?
私と魔王退治を達成した勇者様の間にはそんな因縁がある訳だが……
ジャスティアンが15歳になる直前のあの時を最後に、私はもうずっと彼には会っていない。
私の4歳下だったから、今は……えーと、22歳?
随分と変わったんだろうなぁ、勇者として魔王を倒したんだから立派な大人になったんだろうなぁ……と、そう思っていたのに。
なんだろう、この残念なきもち。
てっきりもう、物真似芸人への道は諦めたモノと思っていたのに……!
返せ、私の安堵感!
ジャスティアンが勇者として魔王討伐の旅に出たって聞いて、もうこれで押しかけ弟子になられることなく安泰だー……なんて思っていた私の温かい気持ちを返して!
今となっては相乗効果でむしろ胆が冷えたわ! ひえっひえだわ!
とりあえず、遠くから立派になった弟子の姿を一目だけでも見ておこうか、なんて殊勝な気持ちを柄にもなく発揮してさ。
うん、感傷的になってたんだと思う。
……折悪く、だよね。
折悪く、奴の凱旋パレードを見る為に時期を合わせて王都に来ていた私。
そんなことを考えるんじゃなかった。
むしろ早急に船にでも乗って、遠い異国を目指すべきだったかもしれない。
…………薄情者と言うなかれ。
結構確実な線からの話……っていうか実は密かに連絡を取っていた、奥様からの情報でね?
ジャスティアンが「俺がここまでやってこれたのも、こんな立派な功績を残せたのも全ては師匠のお陰……嗚呼、直接お会いして、この感激と感謝を是非にでもお伝えしたい! そして今度こそ、本格的な弟子入りを……!!」なんぞいう……恐ろし過ぎる世迷言を酒に酔っていながらもマジな目で語り、周囲をドン引きさせた、と。
そうお聞きしちゃったわけで。
前職勇者の、物真似芸人志願な弟子。
はは……笑えねぇって。
何よりも、世間様からそんな肩書じゃ笑いを貰うどころか……失笑されて、冷たい目を向けられてしまう!
世界を救った勇者様に、何をさせているんだって!
逃げよう。
うん、かつてない程に全力で。
今すぐ速攻、光の速さで逃げるんだ……。
実行力のあり過ぎるジャスティアンのこと、思い立った時にこんなに近くにいては即座に捕獲されて本当に師弟関係にされてしまう。
そうならない為にも、今の私にできることは逃亡一択しかない!
私は我ながら蒼い顔で、手を震えさせながらも……
何とか恐怖を捩じ伏せて、情報を貰ったその足で王都を脱出したのだった。
夜の野外?
知ったことかー!!
モンスターなんて、モンスターなんて……ジャスティアンの修行を観察していてついつい覚えちゃった剣士のモノマネで全部捩じ伏せて逃亡成功させてやるよ!
こうして、私は王都を逃げ出した。
かつて共に過ごした、懐かしい弟子に顔を一瞬たりとも見せることなく。
もう、もう、逃げなくてはという強迫観念でいっぱいだった。
そんな私が、勇者として大成してパワーアップしたジャスティアンの猛烈な追跡劇に本能レベルで危機を覚えるのは……また、別のお話なのであった。
っていうか、いい加減に諦めようよ、ジャスティアン……。
最後まで読んでいただき、有難うございました!
登場人物
アリシア
笑いの神を崇拝する根っからの物真似芸人。
様々な無茶を『物真似』で押し通す、口が悪い女の子。
剣士の真似をすれば一流の剣技をふるい、魔法使いの真似をすれば本当に魔法をぶっ放す。果てはいわゆる『ユニークスキル』すら真似してみせる。
しかしその『物真似』は既に『物真似芸人』の域を越えているのだが……
本人は自覚が無く、気付いていない。
ジャスティアン
アリシアの自称弟子。しかしその師弟関係は正式なものではない。
勇者の末裔として生を受け、周囲の期待を受けて魔王を討つ。
……が、魔王戦で戦闘の行方を決定づけた奥の手が『魔王の物真似』であった事実はひっそりと旅の仲間達の胸の奥にしまわれた。
本当は鎧ではなく、芸人の衣装を着て戦いたかったらしい。
笑いを忘れ、胸にあいた空虚な穴を抱えてどうすれば良いかわからなかった少年期、救いとなったアリシアのことを崇拝している。
それが尊敬なのか、それ以上なのかは……アリシアは知らない方が良さそうだ。