魔王(お子ちゃま)のヨメ
私は魔王のヨメ。
ある日魔王に誘拐された。
てっきり殺されるか食べられるかいたぶられるかと戦々恐々していたら、魔王が一言、俺のヨメ、ktkr! と不可解な言語を叫んだ。
ヨメって……花嫁とかそういう意味なのか?
勘弁して下さい。
だって目の前の魔王はどう見ても5歳前後のチビッコにしか見えない。
そんなお子ちゃまのヨメにどうやってなれと?
でも、魔力が世界一だから魔王らしい。
こんなんが魔王でいいのか、魔界の魔物たちよ。
魔力で逃げられない枷をつけられ、私は強制的に「魔王のヨメ」という称号を押し付けられた。いらん、全力で。
そんな私達の、リア充とは程遠い、てんで爆発しない新婚生活を、やる気ゼロでお届けしようと思う。
新婚といえば朝チュンだ。
私達新婚? 夫婦の朝はどんな感じか、かなり投げやりなムードで話そうと思う。
目が覚めると、大抵魔王が私の腕枕でオネンネしている。プーヒュルルルーーと謎の寝息を立てて。
なかなか起きないのでゴロンと頭を転がして腕からどかしたら、猛烈に怒られた。
なんでも成長期は食う寝る遊ぶが主体で、それを妨げる者はお尻百叩きの刑に処するそうだ。
枕で寝ればいいのにと呟いたら、腕枕は新妻の義務だと言われた。初耳すぎる。
また、魔王は寝相が悪く、夜中の寝返り回数が半端無い。
毎晩ゴロゴロローラーをかけられたおかげで、ぷにぷにだった腕の贅肉が非常にスッキリした。それについては、感謝しておく。
成長期の魔王は大食いだ。朝から旗付きお子様ランチを10皿は軽い。見ているだけで胃がもたれる。
そして魔王ゆえに職務もある筈なのだが、お子ちゃまな為、今は臣下一同自転車操業でやり繰りしているらしい。がんばれ。
なので昼間はお砂場でどでかい城を作ってはぶっ壊し、ちっちゃい車輪付きの板みたいの乗っかっては暴走し、木登りに付き合わされて足つって死地を見たりした。魔王のヨメ、大変。
お昼ごはんを食べたらお昼寝タイム。……今度は膝枕ですか、そうですか。太腿と胸圧でサンドイッチにしてやろうか。
パッチリお昼寝から目覚めるとまだ遊び足りないらしくお外へ行きたがるが、私にそんな気力体力は皆無なので、強制的に読書タイムとなる。ただし戦闘モノ以外はダメだ。仕方なくドッカーン! とかドドドッ! とかシュバッ! とかいう騒々しい擬音たっぷりの物語を延々と読まされる。
……なんだか心底面倒になってきたので、夕食の後はすぐ寝る。以上。魔王と魔王のヨメの一日でした。終わり。
そんなこんなな生活が一年ほど続いた。
ようやく夜、私の腕枕で魔王のぷにぷにほっぺが潰れてタコ唇になっているのになんとか失笑しないくらい慣れてきたある日のこと。
夫婦の寝室に行くと、見知らぬ変質者が我が物顔で寝台に寝転んでいた。見知った変質者などいないので、とりあえずただの変質者ということでいいだろうか。
無精髭をはやし、ゴッツイ体躯の壮年のおっさんが、いた。……誰だ?
その男は私を見てニヤリと笑ってこう言った。
俺のヨメ、ktkr! と。