八度目の正直"多岐の怒り"
〈バシッ〉
私が目を瞑り身体に力を入れていると先生がいた方から乾いた音がした。
そっと目を開けると上にいた先生はもういなかった。
ベットから起き上がり見ると如月くんと多岐くんに抑えられている気絶した先生がいた。
私が呆然としていると如月くんが私を見て慌てて立ち上がり私の肩を掴んだ。
「大丈夫!?先生に何かされてない!?」
「うん。大丈夫だからその手離してくれないかな?痛い…」
「そっか。あっ!ごめん、ごめん」
如月くんはほっとして胸を撫で下ろし手を離した。
多岐くんは縄で先生を縛り終えて私をじっと見ていた。
私が動揺していると如月くんがにぱっと笑って多岐くんを立ち上がらせた。
「あのね!広大くんが一発で先生をノックアウトさせたんだよ!」
「多岐くんが!?一発で!?」
私はもう一度先生を見た。
白目を向いて気絶していた。これを一発でしたとは到底思えない。が、如月くんが言っているから本当なんだろう。
私は多岐くんの手を両手で包んでにっこり笑った。
「ありがとう、多岐くん」
「!?…ま、まぁ、やることやっただけだし…」
そう言って多岐くんは手を振り払い後ろを向いてしまった。
私がどうしたのか顔を覗き込もうとすると多岐くんはベットに潜ってしまった。
私は如月くんを泣きそうになりながら見た。
「如月くん…多岐くんに嫌われちゃった…」
「!…いや、あんなことされたらノックアウトしちゃうよ…」
如月くんはそう言いながら右腕で口元を隠した。
私は不思議に二人を交互に見て首を傾げた。
「こいつ、どうするか?」
先生が気がついたので二人とも深呼吸して先生を睨んでいた。
先生はブルブル震えていた。
「警察行きじゃないかな」
如月くんが言いながら先生を軽く蹴っていた。
私はその様子を見て先生が可哀想になった。
人間だから出来心ぐらいあるだろうし、先生だからって完璧じゃないと思った。
如月くんと多岐くんが先生を担ごうとした時、私は「待って!」と先生の前に来て制した。
「なんだよ、野々原」
「どうしたの?正凪ちゃん」
「今回は見放してあげない?」
二人は目を見開いて固まった。
「先生だってこんなことされたら反省してもうしないと思う。だから…!」
〈パシッ〉
私は頬を抑えて呆然としていた。
多岐くんは私を睨んでいた。
「何を言ってるんだ!お前は!」
「ちょっ…広大く…」
如月くんを無視して私に歩み寄り肩を掴んだ。
「こいつに泣かされた女は少なくないって言っただろ!?お前、されたこと忘れたのかよ!」
「でっ、でも…」
すると多岐くんは下を向いた。多岐くんの爪が肩に食い込んだ。
「痛っ…」
「もう、大事な奴が傷つくのは嫌なんだよ…」
多岐くんの肩は震えていた。
私は何も言えないまま俯いていた。
私は保健室に一人でいた。
如月くんと多岐くんは先生を担いで職員室に向かった。
私は、ベットに座ってぼーっとしていた。
多岐くんの言っていることは間違っていなかった。女子に最低なことをした先生が許されるわけないのだ。なのに、私はそんな先生を庇ってしまった。
途端に過去のことを思い出してしまった。
あの、忘れたい嫌なことを…