十二度目の正直"多岐の過去"
更新遅くなりすいません!続きです!
「俺さ、兄がいたんだ。」
いた?いたってことは……私は黙って多岐くんの話を聞くことにした。屋上から見える空は、どんよりと曇っていた。
「広大!」
そうやってニカっと笑う兄の顔が、俺多岐広大は大好きだった。
12歳の頃、兄は中学2年生だった。俺はピカピカの制服を着た後、家の中でそわそわしていた。もうすぐ中学生!俺がスキップしながらリビングを歩いていると、兄が入ってきた。
「おお、広大。なんだ!制服じゃねえか!様になってるな!」
「だろだろ!?これで俺も兄ちゃんみたいに大人っぽくなっただろ?」
俺は兄と同じように中学生になれるのがとても嬉しかった。憧れの兄と同じ学校に通って、部活して……俺はもうすぐの中学校生活に夢を膨らませていた。
「じゃあ、俺部活行ってくる!じゃあな!」
「行ってらっしゃい!」
俺はいつも通り兄を見送った。この時の俺は今の俺と同じ人間とは思えないほど、元気だった。如月みたいなキャラだったんだ。そして、その日の夜……
「兄ちゃん、遅いなー……」
雨がポツポツと降り始めていた。俺はリビングでゲームをしながら兄を待った。いつも帰る時間より二時間以上経っていた。部活が長くなる時があったり、自主練してくる時があるが、ここまで遅くなったことはなかった。俺がそう呟いた後だった。
〈プルルルル〉
電話が鳴った。「はいはーい。」と母が出ると、一時して母の顔が青冷めていった。何事かと母の方を見ていると、母は受話器を置いて俺の方を見た。
「龍大が……龍大が……!」
龍大とは兄の名だった。母はそのままその場に崩れ落ちた。俺は急いで母の元に駆け寄り肩を支えた。
「び、病院に……」
俺の顔を見た母の顔は、涙でぐしゃぐしゃになっていた。俺はコクリと深く頷き、病院に駆け出した。
(兄ちゃん……!兄ちゃん……!)
俺は心の中で、大事に至っていないよう祈りながら走った。ざあざあと激しくなった雨なんて気にせずに。
「病院に行ったら兄は……医者が言ってたんだけど、携帯電話を離さなかったんだって。新品の携帯電話を。親が言ってたんだけど、中学になる俺のためにお金を貯めて貯めて、その日に買ったらしい。兄は酔っ払った男が乗った車に轢かれたんだって。」
私はその話を聞いて知らずのうちに涙を流していた。頬を流れる涙をそのままに多岐くんを見ていると、多岐くんは少し慌てたように私の涙を拭いてくれた。
「そっか。じゃあ、その携帯は大切な物だったんだね。」
「ああ。だから、事情を知らないから仕方ないけど……腹が立った。弁償してもらっても、もうそれは兄から貰った物じゃないから。」
多岐くんは少し寂しそうに俯いた。だが、すぐにパッと顔を上げていつもの顔になっていた。曇っていた空にはもう雲は無くなっていた。
「ありがと……な。話、聞いてくれて……」
照れ屋さんなのかな?最後の方はもごもごとしていた。頬を少し染めながら、でも多岐くんらしく礼を述べた。私もにっこり笑った。
「うん。こちらこそ、言ってくれてありがとう。よし!如月くんに会いに行こう!このままじゃ喧嘩したままだし!」
私がそういうと、多岐くんは首を振った。私は戸惑いながら多岐くんを見ると、清々しい笑顔だった。
「俺たちは言わなくても分かってるんだ。怒ったことには理由があるって。友達って、そういうもんだろ?」
そう言った多岐くんの瞳は輝いていた。ああ。多岐くんと如月くんの関係っていいな。私は多岐くんを見ながら、少しモヤっとした。でも、私にはその正体がわからなかった。