十度目の正直"四回目の衝突と……"
私はいつの間にか涙を流していた。
「大丈夫ですか……?」
顔を上げると目の前に仙狐が心配そうな顔をしていた。
私は袖で涙をゴシゴシと拭いてにっこり笑って大丈夫と応じた。
「仙狐、残ってたんだね。てっきり多岐くんたちと行ってるのかと思ってた」
「あの、正凪さんの妖狐さんが……回復に向かったので、その……」
「回復?」
私はカバンを開けた。
見るとそこには妖狐の姿はなく、代わりに青い石が置いてあった。
「これは?」
「その中に正凪さんの妖狐さんがいます。私たちは卵から生まれると私たちの家は石の中になるんです。まだ生まれたばかりで能力を使った正凪さんの妖狐さんは回復するために石の中に入ったんです」
「ふぅーん」
私はその石を手に取って眺めた。
これが自分の妖狐だと思うと嬉しかった。
私はその石をポケットに入れて立ち上がった。
「空狐は?」
「広大さんたちについて行かれました」
私は多岐くんたちの様子を見に行くために保健室のドアを開けた。
その時、私は派手な音を立てて尻餅をついて倒れた。
「イタタタ……」
「いってぇ……」
前を見ると多岐くんが顔を抑えて倒れていた。
私の頭と多岐くんの顔がぶつかったみたいだった。
「ごっ、ごめん!」
私は反射的に謝った。
一体今日で何回目だろうか。人とぶつかるのは。
多岐くんは立ち上がって手を差し伸べてきた。
「気をつけろよ。せめて、立ってから謝れよ」
「えっ……?あっ、うん」
私は多岐くんの手を取って立ち上がった。
私は少しびっくりした。
あの多岐くんが人を助けるなんて……
私がジロジロ見ていると多岐くんはウザいと言わんばかりに手を振り払った。
「物珍しいものを見るような目で見るなよ」
「いやぁ〜。ごめん、ごめん」
私は頭をかきながらにこりと笑った。
「そういえば、如月くんは?」
保健室の椅子に腰掛けて淹れたてのコーヒーを飲みながら辺りをぐるっと見渡した。
「知らねぇ。こっちに戻って来る時に女子に連れて行かれた」
「多岐くんよく逃げれたね」
「ああいうの嫌いだから」
そう行って多岐くんは私が淹れたコーヒーに角砂糖を三つ淹れた。
「多岐くんって甘党?」
「だったら悪い?」
「ううん。なんか意外だな〜って思って」
私たちはたわいのない話をしながら如月くんの帰りを待った。
私たちがコーヒーを二杯目飲み終わった頃に息を切らせて如月くんが戻ってきた。
如月くんはネクタイがほどけてシャツがヨレヨレだった。
ドアを勢い良く閉め保健室に入ってきた。
すると多岐くんが携帯を取り出した。
「何するの?」
私が問うと多岐くんは無表情のまま携帯を見せた。
「110番通報」
「やめろー!」
慌てて如月くんが多岐くんに飛びついた。
その拍子に携帯は宙を舞い、床に鈍い音をたてて落ちた。
「あーあ……」
「……」
「やっ、そのっ」
多岐くんはその携帯を無表情で拾い上げ開くが光を放つことはなかった。
「そのっ、ごめんな?弁償するから……その……」
すると多岐くんはツカツカと如月くんに近寄り襟を掴み上げた。
私が制止に行ったが多岐くんの目を見て何も言えずに制した手を力なく下ろした。
多岐くんの目には溢れんばかりの涙とゾッとするような強い瞳があったのだ。
そのまま乱暴に如月くんを投げ捨て保健室を出て行った。
保健室には重い空気しか残っていなかった。