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お化け少女と契約《エンゲージ》  作者: 探偵コアラ
お化け少女と契約《エンゲージ》Ⅱ
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エピローグⅡ

 

 風が少し冷たかった。隣には弥生がいる。彼女も寒さを感じたのか、手のひらに「ハァー」と息を吹きかけ温めている。

 俺は咄嗟にその手を握った。言葉は何もない。だが、どういう意図かは伝わったらしく、弥生はちょっと驚きながらも嬉しそうな笑みを浮かべる。そして俺はというとそんな彼女を見る事が出来ず、真逆の方向に視線を移す。


 俺達は街の公園を目指して歩いていた。

 このファンタジアにはいくつか公園があるが、今目指しているのはその中でも一際人のいない公園。しかも時間帯が学園の授業終わりということで夕方なのだから、きっと人はいないだろう



「…………」



 夕日のオレンジ色に染まった空を見上げた。少し冷たい風が通り過ぎて行く



「どうしたんですか、ハル?」


「……いや、なんでもないよ。それよりほら、早く行こうぜ」


「はいっ!!」



 弥生と手を繋いで歩き続ける



 「隠れた契約者事件」、そう名付けられたあの戦いから数十日が経った。あの戦いに参加した大勢の魔法師たちもそれぞれの生活に戻っている。

 それは隠れた契約者と直接戦った俺達も変わらない。一週間の入院はあったものの、今では学園に通って賑やかに毎日を過ごしている。


 良太と陽花さんに保護された司さんと美加さんは今は街の保護施設で暮らしている。

 沼島先生から聞いた情報によると、あの二人は数年前、誰かにファンタジアに連れて来られてずっと眠らされていたらしい。

 それから目覚め、それぞれの「良太の成長を見たい」「陽花と同じ強さに辿り着きたい」という強い思いが暴走して今回の事件に繋がってしまったそうだ。

 この状態は魔法医学的に「精神暴走」と呼ばれていて、本人たちの意志による問題ではなかった事から大きな罰にはならず、近いうちに施設を出て正式なファンタジアの住人として暮らせるようになる予定だという


 そしてもう一人の隠れた契約者「水上健次郎」―――父さんは消えてしまっていた。

 一応、魔力感知を得意とする魔法師たちが捜索したが、父さんのモノと思われる魔力反応は魔力粒子としてしか残っていなかったらしい



「…………」



 ポケットに手を入れ、一枚のカードを取り出す。魔法の込められているカード。父さんが消えた後に残っていたモノだ。コアは赤く光っており、俺じゃ使えないことを示している。

 普通に考えれば持っていても意味はない。きっと俺以外の使える人が持っていた方が有意義に活用できる。

 けれど俺はこれを手放す事を拒んだ。具体的な理由はない。ただ単に俺がこれを手放したくなかったからだ



「……それ、ハルのお父さんの残したカードですか?」


「あぁ。相性が悪いみたいで未だに使えないけど、なんだか持っておきたくってさ。……変かな?」


「いいえ。私はハルらしくていいと思いますよ」



 弥生が優しく微笑んだ。悪い気はしないのだが、何だか照れ臭くなる



「そ、そう言えばこのカードの中ってどんな魔法が入ってるんだろうな」


「魔力粒子も残ってないからクロスドライブを使っても再現出来ませんでしたもんね」



 弥生がうーんと唸る。が、すぐにこちらを向き



「……あっ、ハル。ハルはラグさんやシルキさんの所に行ってカリバーを見てもらったんですよね?その時に何か分からなかったんですか?」


「えーっと、それがカードに関して聞くのを忘れちゃってさ」


「むぅ、ハールゥー?」


「あはは……いやほら、何よりあの時の本題はカリバーに関してだったわけだし……なっ?」


「まぁ、それはそうですけどぉ」



 弥生にジト目を向けられつつ、苦笑する。



☆     ☆     ☆     ☆     ☆



 それはつい数日前のこと。俺はラグさんやシルキさん、キノさんの元を訪れていた。理由はあの戦いで進化を果たしたカリバー―――「クロスカリバー」の調子を見てもらうため。そして新たなシステムを搭載するためだ



「春人、カリバーのメンテ終わったぜ」


「機能に異常なし。それどころか刃が魔力と霊力の複合エネルギーで作られていて、性能が大幅に良くなってます。これなら近いウチに魔力ゲージ数も増やせると思いますよ」



 工房から出てきたシルキさんとキノさん。シルキさんがカリバーを持ち、その横にいるキノさんが解説をしてくれる



「ありがとうございます。ところであの……あのシステムってどうでした?」


「魔力粒子を保存しておくゲージのことか?アレなら無事に搭載出来た。が、いきなり実戦投入はするなよ。一度練習で使ってみてくれ」


「分かりました。……すみません、いきなりムチャなお願いしちゃって」


「ムチャではないが、まぁ珍しい要望ではあるな」


「基本的に魔力粒子を保存しておくメリットなんてないですもんね」



 思わず苦笑してしまう。実は今回、メンテナンスを受けると同時にとあるシステムの搭載を依頼したのだ。

 システム名「クロスゲージ」。空気中の魔力粒子をゲージ内に保存しておくシステムだ。

 さっきも言った通り、基本的に魔力粒子を保存しておくメリットはない。それどころかゲージ自体が邪魔になってしまい、最悪デメリットにしかならない。強いて言うなら相手に対してのハンデになるくらいだ。

 そんなモノを搭載しようなんて誰も考えない。だから最初に俺が依頼した時、シルキさんは少々戸惑っていた。そういう代物。

 だけど―――



「だけど、それをある程度の量を溜めておく事で「魔法の再現」という形で使うことが出来る。それがキミの霊技【No.5≪粒子操作パーティクル・オペレーション≫】なんだよね?」


「はい」



 隣にいるラグさんの言葉に頷く。それからカリバーを渡され、持ち手と刃の結合部分にあるコアの下部に視線を向ける。

 青く透き通った色のゲージ。それに思わず見とれて言葉を失ってしまった。

 それを見たラグさんが微笑する



「それで、そのクロスゲージを搭載したカリバーには何か名前は考えてあるの?」


「はい。「クロスカリバー」。魔力と魔力、魔力と霊力の交差共鳴を果たすものって意味です」


「おぉ、いい名前じゃねぇか」


「うん。僕も良い名前だと思うよ。……それじゃあクロスカリバー。キミはこれから僕のエクスカリバーの二代目であると同時に、正式に春人くんのディレクトリだ。これからも春人くんや弥生ちゃんと一緒に頑張るんだよ」



 そう言いながらラグさんがまるで子供の頭を撫でる様にカリバーを撫でた



☆     ☆     ☆     ☆     ☆



 数日の前の思い出を回想しながら俺と弥生は目的の公園に到着した。案の定、人はいない。夕日が空を赤く照らしている。

 そんな中で俺と弥生は互いに向き合ってた。距離は手を伸ばせば届く程度でさっきと変わりないのだが、俺は精神的に大きく変化していた。ここに来るまでの様に回想する余裕はない。

 その理由は簡単。弥生が「告白してほしい」と言ってきたからだ



「な、なぁ、弥生。その……やっぱり言わなきゃダメか?一応この前言ったんだけど……」


「この前って戦いの最中じゃないですか。私はちゃんと言ってほしいです」


「そうは言ってもこっちも恥ずかしいんだよ……」


「むぅ……はーやーくぅーはーやーくぅ」



 唇を尖らせ急かしてくる。

 弥生の気持ちは分からないわけではなかった。嘘ではないとはいえ、あの告白は戦闘中のモノ。女の子からしてみればロマンの欠片も無いだろう。

 だからってこの状況がロマンがあるかと言われれば分からないが、弥生はこの状況での告白を求めているのだ。

 だったら、俺は恋人としてその要望に応えたい。つまり、覚悟するしかない



「分かったよ。ただし、告白なんて初めてだから、あんまり気の効いたセリフは期待しないでくれよ」


「気の効いたセリフなんていりません。ハルの想いの籠ったハルの言葉を私にください」


「……分かったよ」



 その綺麗な瞳に思わず恥ずかしさが増す。

 くそっ、こんな時に可愛いこといいやがって。

 俺は弥生を直視できず、地面に視線を向けた。そして改めて告白を始める



「弥生……その……す、好きだ。だからその……」



 チラリと弥生の顔を見てみるとその瞬間、彼女と視線が合った。

 そして思ったのだ。こんな告白で弥生に想いは伝えたくない。

 もっとハッキリ俺の気持ちを伝えたい。

 だから俺は大きく息を吸って、もう一度最初から想いを告げた



「……俺は弥生のことが好きだ。だからこれからもずっと俺と一緒にいてくれ!!」


「……分かりました。ハル、ありがとうございますっ!!」


「―――っ!?」



 俺が告白した瞬間、弥生は俺の胸に抱きついて来た。

 そして予想外の展開が起きる。

 俺と彼女の唇と唇が重なったのだ。間違いじゃない。自分の唇に自分の以外の温もりを感じる。いろんな感情が一気に頭の中で混ざり合い、上手く理解する事が出来ない。それはまるで時が止まったかの様だった。

 目の前の弥生は目を瞑り、頬を赤く染めている。

 そして彼女は唇が離れると、満足気に微笑んだ



「お、お前……今からかったな。急にキ、キスなんて……」


「わ、私だって恥ずかしかったんですよ。でも、ハルの言葉が本当なように、私の返事も本当です。その証拠が、その……今のキスなんです」



 弥生は恥ずかしかったのかクルりと振り返った。

 さっきまでは威勢がよかったのに何だかんだ恥ずかしかったんだな。

 そんな事を思いながら俺は微笑する。これが俺のパートナー「小鳥遊弥生」なのだ。

 そして数秒の沈黙で落ち着いたのか、彼女はこちらに振り向き



「ハル、私もハルがだーいすきですっ!!だからこれからもずーっと一緒にいて下さいねっ!!」



 最高の笑顔を見せてくれた



こんにちわ、コアラです。


お化け少女と契約エンゲージⅡ、エピローグⅡを最後についに完結しました。


エピローグⅡいかがだったでしょうか。事件後の事を知りつつ、ハルや弥生に萌えて頂ければ幸いです。


さて、1期の時と同じ様になってしまいますが読者の皆さん、本当にありがとうござました。

このエンゲⅡ(2期)になって「魔法」という要素が加わり、ファンタジー色の強くなった本編ですが皆さんのおかげで執筆を続け、完結する事が出来ました。


とまぁ似合わないセリフの数々は置いといて……


頭の中で生まれた物語を文章にするというのは難しいけど楽しい、やっぱり想像するっていいですね!!改めてそう思いました。


そして2期が終了ということで3期はどうなるんだって話なんですが……一応構想は出来ています。

ただし、それを3期として公開するのはある程度物語が出来上がってからなので、すぐに投稿する事は出来ません。なのでエンゲⅡの時とは違って、しばらくの間待って頂くことになります。

もし楽しみにして下さっている読者さんがいれば、気長にまって頂けると幸いです。


それでは皆さん、本当にありがとうございました

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