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お化け少女と契約《エンゲージ》  作者: 探偵コアラ
お化け少女と契約《エンゲージ》Ⅱ
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第92話 現実を超えし想像

 光り輝く小さな粒子はたった一声によって手錠へと変わった。右手と左手の手首を拘束し一瞬だけ動きを封じる。

 粒子は魔法の残骸。ゆえにその効力は正式な魔法よりも劣る。だが今はそれで十分だった。

 今度は腕の一振りを合図に空中で粒子の球体が生成され、目標―――水上健次郎に向かって行き、そして爆発する



「……ッ!!」



 バックステップで避けたであろう健次郎が煙の中から姿を現し上空へ跳んだ。手錠は破壊されている。やはり脆く、その破壊は容易だったらしい。

 だが、それすら想定外のことではない。まだ想定内。だから春人は両足に力を込め、地面を強く蹴り上げる。

 すぐに健次郎の目の前に姿を現した。カリバーを振りおろし健次郎が地面に落ちて行く。着地か落下かどちらかは分からないが衝撃により激しい砂煙が舞った。

 春人は地面に降りるとカリバーの剣先を煙に向け、数発の≪ソニックイレイザー≫を打ち込む。

 すると、そのうちの一発の軌道がズレた。自然なズレ方ではない



「……粒子を組み合わせて攻めてきたか。その能力チカラに目覚めて間もないだろうに、なんてコントロール力だ。驚いたよ」



 煙の中から健次郎が姿を現した。しかしあれだけの攻撃を食らっても彼にはまだ余裕があった。見えるダメージは精々服の腕部分が破けていることぐらい。息も荒れておらず、意識もハッキリしている



「【No.5≪粒子操作パーティクル・オペレーション≫】、普通の魔法師が扱うことのない魔力粒子を操る能力。その利点は使用魔力量の少なさだ。普通の魔法が発動や効果の発揮に魔力を使うのに対し、お前のそれは粒子を操る分だけの魔力があればいい。その差は歴然としたものではないが、時間が経つにつれ効果は徐々に現れるだろう。おまけに長期戦になればなるほど空気中に粒子は増えていき、お前が操る事が出来る量も増えていく。長期戦を想定するのであれば、かなり優秀な霊技だ。……だが」



 刹那、健次郎の表情が変わった。同時に体制も左足が移動し、プルートを持った右腕が前方に構えられる。ゲージが一つブレイクされた



「あくまで長期戦を考えた場合だ。お前がそれを発動させて大した時間は経っていないことから、その効果の恩恵は大して受ける事が出来ない。加えて使う魔力が少ない分、粒子によって作られた拘束や攻撃は脆い。つまりその能力チカラでは―――俺は倒せない」



 健次郎の身体が動き、一気に加速する。春人は粒子を操り壁を作ってその妨害をするが、壁はたった一撃で破壊され、足止めにはならなかった。

 それでも春人はいくつもの壁を作り上げた。その度に健次郎は剣を振り、それを破壊する。

 数が増えれば増えるほど稼げる時間は少しずつ増えていくが、だがそれは所詮時間稼ぎにしかならない


 それでも―――



「まだだ……まだだ。この能力チカラは、俺達の想像は、現実を超える!!力を貸してくれ、クロスカリバーッッッ!!」



 健次郎が立ち止る。

 春人の叫んだのは聞いた事のない名前だった。しかし、それに応える様に彼の右手のカリバーが光を放つ。それはつまり、彼の言葉に反応しているという証拠。

 このタイミングで武器変形アクティベイトか!?

 健次郎一瞬考えたが外見に目に見える変化は特にない。それを確認した健次郎は再び走り出し距離を詰めて行く



「……弥生!!」


「『はい!!魔力共鳴稼働クロスドライブ!!』」


「―――ッ!?」



 春人まであとわずかという距離で突如、健次郎の身体が動きを止めた。腕も足も自由に動かすことが出来ない。

 気づけば春人の右手が視線の先の健次郎に向けられていた。それから彼はカリバーの柄を握り、健次郎の前に現れる



「―――≪クロス・ショック・ドライブ≫!!」



 春人の剣が二連撃を放った。その攻撃は動く事の出来なかった健次郎にヒットし、身体を大きく飛ばす。

 今度ばかりは健次郎も苦しそうな表情を見せた。が、途中で地面に手を付き、速度を減少させながらなんとか態勢を立て直す



「ハァ……ハァ……今のは間違いなく≪ボルト・テッド≫と≪クロス・ショック・ドライブ≫だった。まさかお前もその技を使えたのか?それとも、土壇場になって使えるようになったか?」


「俺はその二つを知りもしなかったし、このバトルの間に覚える技術も余裕も持って無い。ただ「父さんの残した魔力粒子を使って魔法を再現させただけ」だよ」


「魔力粒子を使った魔法の再現だと……?」


「『そうです。ハルの魔力と相手の魔力が交差して共鳴し、再び魔法を創りだす。それこそが魔力共鳴稼働―――「クロスドライブ」』」


「そしてカリバーは俺がこの能力チカラを使える様になるために「本当の俺の武器ディレクトリ」になってくれた。だから俺は名前を贈ったんだ。魔力と魔力の交差、共鳴を果たす武器ディレクトリ……「クロスカリバー」って名前をな」


「……そうか、共鳴か。なるほどな。ところで春人、気づいているか?向こうにお前の仲間たちが来ていることを」


「えっ―――?」



 春人が振り返るとそこには良太や陽花たちがいた。

 少し距離のある場所でこの戦いを見ている。後方に人がいる事も確認できた。それが誰かまでは分からないが、その予測は出来る。それを知った春人は戦闘中ながら少々安堵の息を漏らした



「お前の仲間たちは美加や司に勝利したようだ。そして今お前のことが気になり、あぁして様子を見に来ている。恐らく身体的にも魔力的にも負傷を負ったり、消耗しているにも関わらずだ。並みの信頼関係じゃ、きっとあぁはならない」



 そこまでいうと健次郎は大きく息を吸い、そして吐いた。真っ直ぐ春人に視線を向け、小さく呟いた



「ディレクトリ、仲間、そして契約者パートナー……お前はもう一人で旅立てるようになったんだな」



 口元が微妙に動く。きっと春人の位置からでは聞こえていないし見えてもいない。だがこの時、健次郎は確かに笑った。

 それからプルートを頭上に掲げ、その剣先が漆黒の夜空に向けられる



「クロスドライブは確かに強力だ。だが、大きな欠点もある」


「欠点……?」


「その能力は魔法の再現。だからまだ発動されていない、粒子となっていない魔法は再現する事が出来ない。つまり、俺が今から使う切り札を再現して、相殺することは出来ないということだ」


「……クロスドライブで使う魔法は全てが俺に適合しているわけじゃない。だから再現させたところで、必ず相殺出来るわけじゃない」


「だったら尚更どうする?俺の切り札にどう抵抗する?」



 健次郎が魔力を集約しながら春人に問う。常識的に考えれば春人の不利な状況。苦悩の顔を見せたとしてもおかしくはないだろう

 だが、春人の顔に苦悩は―――曇りはなかった。健次郎と同じように口元が動き、笑っている



「決まってるだろ。俺の魔法を使って、父さんの切り札に真正面から挑むんだよ」


「真正面から挑む……か。面白い。俺の全力を超えられるものなら超えてみろ、春人!!」



 プルートのゲージが全て破壊される。フル・ブレイク。それは健次郎の全力を意味していた。解放された魔力は健次郎の後方に創られた魔法陣に吸収され、溜めこまれていく。

 春人は両足に力を込めた。それは避ける為のモノじゃない。

 立ち向かい、挑み、勝利する為の構え。ゲージがフル・ブレイクされ、カリバーの刀身に魔力が集まっていく。

 互いの準備はもう出来ていた。あとはそれぞれの魔法を放つだけ。


 そして―――



「≪ライトニング・ギャラクシア・ディザスター≫!!!!」


「≪ライトニング・パトリオットブレイバー≫!!!!」



 二つの「電撃」が同時に疾走を始めた。

 健次郎の電撃を集約した光線。

 春人の電撃を纏った突進。

 それは数秒も経たずにぶつかり合い、互いの魔力を削ぎ落としていく。

 健次郎は向けた右腕に力を込め、春人は柄を持った両手に力を込める。

 その間、削がれた魔力は近くの地面に落ちて行った。一つ一つが地面に当たる度に爆発を起こし、その場に電磁波の様なモノが広がる


 離れた場所にいる良太や陽花もこの戦いが終盤に差し掛かっていることは理解した。だからこそ、届かないと分かっていても春人の勝利を願う


 とても長い時間のように感じられた。だが、ぶつかり合いも永遠に続くわけではなかった。徐々に春人のカリバーが光線を切り裂き、一歩一歩、健次郎に近づいて行く



「ディザスターが……斬られていく……?」


「『ハル!!みんなが応援してくれてます。カリバーが応えてくれてます。そして私が力になります。だから……ハル!!頑張ってぇぇぇぇ!!』」


「うおおおおおおおっ!!!!」



 春人が雄叫びをあげ、地面を強く蹴り上げた。春人の身体が勢いに乗って健次郎に向かって行き、立ちはだかる光線は真っ二つに切り裂かれていく。

 そしてカリバーの剣先がついに健次郎の身体に届いた。魔力によって刺さる事はなかったが、健次郎の身体は吹き飛ばされ、春人の数メートル先に移動する



「ハァ……ハァ……」


「……よく……やったな、春人。お前の……勝ちだ。お前の想像は、俺を―――目の前に立ちはだかる現実を超えた。打ち破ったんだ」



 健次郎は立っていた。だがそれも気力によって成り立っているらしく、動く気配はない。

 息を整えながら春人が考える。

 父さんは俺の勝利だと言った。それはつまり、この戦いが終わったということだ。父さんの持っていたであろう野望を阻止するという目的は達成できた。

 だが、ここからどうなるのだろうか。父さんはこの戦いの中で言っていた。「俺は死んでいる」と。

 死んでいる。それじゃあ、この戦いが終わってしまえば父さんはどうなって―――



「さぁ、春人。トドメを刺せ」


「……えっ?」



 春人はその言葉に耳を疑った



「父さん……今、なんて言った……?」


「トドメを刺せ、と言ったんだ。俺が今回やるべき事はもう終わった。弥生から聞いたことがあるだろう?人は死んで「やり残した事がある」場合はオバケとなって現世に留まる。その応用だよ。俺はやり残したことがあったから、再びこの世界に現れた」


「やり残したことって……」


「「お前の成長を見る」ことだよ」



 健次郎はまた笑った。だが今度のその表情は春人にもハッキリと見えている。魔法師や敵ではなく、父親としての優しい笑み。だからこそ春人は何か苦しさの様なモノを感じた



「本当のことを言えば美咲や母さんの様子も見てみたかった。だが、お前との戦いで魔力も霊力も使い果たしてしまってな。もうまともに動くことも出来ないんだ」


「ちょっと待てよ。なんだよ、それじゃあまだ、やり残したことがあるじゃないか。それなら消える必要なんて……」


「俺が現世に来るために霊界で魔力と霊力をもらっている。それが尽きればここに居座る事は出来なくなるんだよ。安心しろ、お前の言う通りやり残したことはあるんだから、きっとまた現世に来れるさ」


「……それって、いつなんだよ」


「分からない。なんせ俺はもう霊界から嫌われている人間だからな。少しずつ力を溜めるから、それなりの時間はかかると思う」


「だったら―――」



 春人が何かを言おうとするが、健次郎はそれを右手の合図で止めた



「それは出来ない。俺は霊界と関わり合いのある人間でお前は今、霊界と関わりの無い人間だ。俺がここに居れば結局お前にも危害が及ぶ」


「そんなの何とかする。戦って何とかする。だから、だから―――」


「……ありがとよ、春人。けどそれじゃ俺がイヤなんだ。お前なら分かってくれるだろう?」



 健次郎はその表情を崩す事なく言う。対する春人は抑えきれず、涙を流していた。涙が頬を伝って、地面にポトリポトリと落ちていく



「一番気がかりだったのは春人、お前のことだったんだ。だから安心したよ。こうして俺を超えるほどの成長を見せてくれたんだからな。ありがとう、春人」


「うぐっ……うぐっ……」



 涙を流し続ける春人に対し、健次郎は誇らしげに笑って見せた。

 そして彼は言った



「さぁ、春人、最後に見せてくれ。お前が抱いた思いの強さ。不可能を可能に変える力。現実を超える……想像を」


「…………あぁ、行くぞ弥生、カリバー」


「『……はい』」 



 春人の中で魔法が想像される。健次郎を霊界へと送る魔法。春人はそれを使ってもう一度伝えたかった。

 自分はもう大丈夫だ―――と

 強くなった―――と

 そして、健次郎の意志はちゃんと引き継いでいる―――と


 一瞬、健次郎の≪ライトニング・ギャラクシア・ディザスター≫を発動させることも考えた。だがそれは、ただ再現をしただけ。春人の魔法―――春人自身の力ではない

 だから―――



「……弥生、俺のムチャに付き合ってくれるか?」


「『……もう、いまさら何を言ってるですか?……もちろん、付き合うに決まってるじゃないですか。私は、ハルのパートナーなんですから』」


「……ありがとう」



 涙をぬぐい、カリバーを健次郎に向ける。

 ≪粒子操作パーティクル・オペレーション≫によって操られる粒子たちが春人の背後に集約され、魔法陣の中へと入っていく。

 春人は静かにカリバーを頭上に掲げた。

 そして―――



「いくぞ!!」


「「『≪スターブライト・ギャラクシア・ストーム≫!!!!』」」



 カリバーを振りおろし、魔法を発動させる。

 彼は思ったのだ。この戦いに終止符を打つのは、健次郎の思いを引き継ぎ、なおかつ春人自身が想像した魔法こそが相応しいと。

 それはつまり、健次郎の魔法を春人自身がアレンジし、春人の魔法として放つということ。

 

 放たれた光線は健次郎に直撃した。するとその足元に魔法陣が描かれ、その中で粒子たちが飛び交う。

 魔法陣の中で繰り広げられているのは魔力の嵐。無数の光が高速で空間を駆け抜け、激しい光が周囲に広がる



「『……いくつもの魔力粒子が魔法陣の中で飛び交い、まるで宇宙に輝く星の嵐みたいに見える。それがあの魔法の由来……ですか?』」


「……あぁ」



 春人が右手を振り、魔法が終了する。

 健次郎は立っていた。外見的に見ればあまり変化は無い様だがダメージを受けているらしく、春人が駆け寄る頃には、弥生が消える時と同様に身体の一部が光の粒子となって宙に飛んで行っていた



「父さん!!」


「……春人。さっきの魔法、俺のディザスターとよく似ていた。それはつまり俺の魔法を継承してくれた、ということか?」



 春人は顔を上げることなく、ただ静かに「あぁ」と言って頷いた



「そうか……ありがとな。俺の力がお前の力になれてよかったよ」



 健次郎の手が春人の頭を撫でた。とても大きな手。それはまさに父親のモノであり、春人に安らぎを与える



「どうやらお前の仲間たちもこちらに向かっているようだ。体力も魔力も消耗しているだろう。みんなで街に帰るといい」


「うぐっ……うぐっ……」


「……春人、大切なモノを守れるほどに強くなったお前を見る事が出来て本当によかったよ。たまには美咲や母さんにも顔を見せてやってくれ。それとあまり無茶はし過ぎるなよ。それから、弥生。お前にも色々迷惑をかけて悪かったな。そんな状況でいうことでもないかも知れないが、お前は春人の最高のパートナーだ。これからもコイツを支えてやってくれ」


「……はい!!任せて下さい!!」



 涙をこぼしながら弥生が返事をする。それを見て健次郎はまた笑顔を見せた。それと同時に健次郎の手が春人の頭から離れる。すると俯いていた春人が顔を上げた



「父さん、本当に……ありがとう」


「こちらこそ、ありがとな。って何度も言わせるなよ。そろそろ照れてくるだろ…………っと」


「ッ!?」



 気づけば健次郎の身体はその大部分が消えていた。光の粒子は宙へと向かい、そして消えていく



「じゃあ、そろそろ時間だ。二人共……いや、カリバーも含めて三人共、仲間たちとぶつかり合ってもいいから、ちゃんと助け合って頑張れよ」


「あぁ……あぁっ!!」


「『任せて……うぐっ……下さいっ!!』」


「それじゃあな、春人、弥生」



 その一言を最後に健次郎の姿は完全に消えた。最後の最後まで笑顔のまま、消えて行った



「うぁぁ……ぁぁ……うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!」



 春人の悲痛な叫びが響き渡る。何度も、何度も響き渡る。


 分かっている。これもまた乗り越えないといけない現実なのは理解している。だから、だから今だけは―――


 「隠れた契約者」水上健次郎との戦いは水上春人の勝利によって終了した

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