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お化け少女と契約《エンゲージ》  作者: 探偵コアラ
お化け少女と契約《エンゲージ》Ⅱ
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第91話 本当の力

「≪イヴォルスラッシャー≫」



 司の魔力を纏った斬撃が放たれた。それに答えるように良太は雄叫びと呼べる咆哮を上げ、斬撃に斬撃をぶつける。

 良太と司。両者のそれは衝突と共に勢いを失い、鍔迫り合いが発生する。ガタガタと揺れる刃。それを境にお互いがお互いの表情を伺う



「まだこれほどの力を残していたか。正直、驚いているぞ」


「せっかく鈴が作ってくれた道なんだ。無駄になんて出来るわけないじゃないッスか!!」



 刃を弾き合い、互いの距離が離れる。司は一度剣を振り、そして改めて構えを見せた



契約者パートナーとの絆の力といったところか。だが、いいのか?あのまま倒れていれば、お前もお前の契約者パートナーもディレクトリも、これ以上傷付くことはなかっただろうに」


「そうかも知れない。けど俺たちはまだ「本当の力」を見せちゃいねぇ。それなのに終われるわけないじゃないッスか」


「だが、察するにその本当の力とやらを見せるためには≪次元斬波≫の使用が必須の様だ。お前は何かを失うかもしれないにも関わらず≪次元斬波≫を使うのか?」


「使うッスよ。今の俺たちの全力、本当の力を見せること。それが俺の相棒たちの願いッスから」


「……」



 司の瞳に良太の姿が映る。そこに絶望の色はない。あるのは強い意志。決意と呼べるモノ。

 揺るぎないそれを持って、これから良太は更なる力を……本当の力を発揮してくる。



 ―――面白い―――



 司の表情にニヤリと笑みが浮かんだ



「そうか。ならばこちらも全力をもって戦うとしよう。お前の力……見せてみるといい。≪水剣―八俣大蛇ヤマタノオロチ―≫」



 司の剣から魔力弾が放たれる。「八俣大蛇ヤマタノオロチ」の名の通り、八つもの大蛇となった魔力弾。黒に近い青色の攻撃は素早く良太に襲い掛かる。

 一方、迫りくるそれを打ち破る技など良太には分からなかった。分かるのは並大抵の技では打ち破ることは出来ないということ。

 だから彼は―――想像した。

 大蛇を切り裂く火炎の刃。だがそれは、きっと「一本」では足りない。

 その瞬間、爆炎が彼を包み込んだ。まるで燃える竜巻のように風と共に赤とオレンジの炎が舞う。

 しかし、大蛇がそれを恐れることはなかった。そして



「【No.3≪次元斬波≫】発動―――切り裂け≪残波・炎衝乱舞≫!!!!」



 良太の声と共に炎が弾け飛んだ。同時に大蛇がその炎と良太に接近する。

 だが、大蛇が良太に触れることはなかった。飛び散った炎がその身を切り裂き、魔力粒子へと変えていく。

 ほぼ同じタイミングで接近した大蛇たちだったが、同様に切り裂かれたのもほぼ同時だった。

 圧倒的な攻撃速度。一見すれば、炎を操り炎刀を作り出し、同時操作したかのように思える。

 だが、現実は違った



「二刀流……だと!?」



 良太の手に握られているのはアロンダイト。しかしそれは一本ではなかった。右手に握られたそれ以外に、左手にも外見がほぼ同様の刀が握られている



「ありがとよ、鈴。アロンダイト。俺の想像に応えてくれたんだな」


「『「武器変形アクティベイト」。ディレクトリの形状を変化させる能力よ。そして右手の『アロンダイト フレア』と左手の『アロンダイト コロナ』……その二本こそが、あたしたちの新しい仲間たち』」


「一刀流から二刀流に変化させる事で攻撃の手数を増やしたか。だがそれを考えても、あの斬撃の全てを自身の身だけで果たしただと……!?」



 司の目には見えていた。あの斬撃は魔法によって同時操作されたモノではない。良太自身が刀に炎を纏い、切り裂いただけなのだ。いくら二刀流によって攻撃の数が増えたといっても、その速度は人間の繰り出せる速度を遥かに超えていた。

 魔法を使用し終わったであろう良太は軽く刀を振り、司に視線を向ける



「『≪残波・炎衝乱舞≫、高速で剣を振りまわす技よ。特殊効果はなし。ただそれだけ。けどシンプルゆえに難しいことを考えて使う必要もない。発動すれば刃の届く範囲に無数の斬撃を飛ばせる。ちょっとした「結界」みたいに使うことが出来るわ』」


「まさかそれをあの瞬間に想像したのか……?」


「『そうよ。それが良太の考えたあの状況を打破する方法。まぁ純粋な攻撃速度を上げるだけなら色々やり方もあるでしょうけど、わずかな時間で考えるならアレがベストでしょうね。それに……』」


「余計なことを考えない分、思いっきり振り回すだけでいい。だから全力で攻撃できる。その辺、俺にはすごく合ってたんスよ。んじゃ……いくぜ、もう一度【No.3≪次元斬波≫】!!」



 

 瞬間、良太が地面を蹴り上げた。勢いをつけ、司の元へと走っていく。発動されているのは移動速度を上げる≪ハイ・アクセル≫。その効果で彼はあっという間に司の目の前に姿を現した。

 だが冷静だった司は良太の姿を捉えると、腰にイヴォルリッパーを構え、居合切りの様な体制に入る。

 一方、仕掛けた良太は刀を頭上に掲げていた。同時に二刀となっていたアロンダイトは武器変形アクティベイトを解除し、一刀流へと変化している



「『フル・ブレイク!!』」



 魔力の込められたゲージが全て砕け散った。魔力は瞬時に刃に収束し紅の火炎へと変化する。

 司の頭に一瞬だけ≪ファントム・アーマー≫を使って避けるという選択肢が生まれた。だが彼はその選択を捨てた。

 今、良太の手に握られているアロンダイトは≪次元斬波≫を発動させている。その状態で≪ファントム・アーマー≫を使用しても透化効果を打ち消され、攻撃を受けてしまうことになる。

 それに何より、この良太の切り札を


 ―――避けるなんて、つまらない―――



「……面白い。見せてみろ。お前の……全力を!!」



 良太が、司が、大きく息を吸った。そして



「≪根源玉砕の一撃≫!!!!」


「≪超爆発アルティメット・ノヴァ≫!!!!」



 良太と司の互いの魔法が輝きと共に発動した。魔力を十分に込めた攻撃。この時、良太だけではなく司も彼と同様に切り札と呼べる魔法を発動していた。

 斬撃同士が激突し激しい衝撃波が飛び交う。が、その瞬間≪超爆発アルティメット・ノヴァ≫の魔法効果が発動した。


 ―超大規模の爆発―


 それによって両者の間には巨大な炎の塊が出来上がり、瞬間、互いの身体が吹き飛ばされる。

 発動者である良太ですらそのダメージは防ぐことが出来なかった。その証拠に地面に転がった良太はボロボロの状態であり、大技を食らったかのような姿となっている。

 しかしそれは攻撃を受けた司も同様。刃に纏った水泡は消えている。


 だが、両者共に倒れたままでいる事はなかった。刃を地面に刺し、力を消耗した身体を起こす。

 顔を上げると視線が交差した。互いがまだ立っていることを理解し、本来であれば眉をひそめるのだが、不思議と笑みをこぼす。

 動いたのはほぼ同時だった。最後の力を振り絞って刀を抜き、互いの元へと走っていく。

 もう移動に使う魔力は残されていない。残っているのは僅かな体力と溢れる闘志。それらを糧に両者は夜明けの戦場を走る。

 鈴がすかさず残った自身の魔力で良太を包み込んだ。これなら攻撃を受けても多少威力を弱めることができる。今の彼女にはこれが精一杯だった


 だが、良太は言った



「ありがとな、鈴。……コネクトアウト」


「えっ……?」



 呟いたその時、鈴の感覚が変わった。感じるのは少し冷たい空気。コネクト時には感じなかった外の感覚。地面に足が付き、重力を感じる。

 そのわずか一、二秒後だった



「ッッッ!!」


「ッッッ!!」



 同じような言葉が小さく聞こえた。だが声の主は違う。良太と司。それが二人のモノだという事はすぐに理解できた。そして彼女が慌てて顔を上げる。

 すると、そこには動きを止めた良太と司がいた。良太の背中に刺さっているのはイヴォル・リッパーの刃と思われる鉄の塊。対する司にも同様にアロンダイトの刃が突き刺さっている。

 良太の重心が後方へと下がった。刃が抜け、彼の身体が地面に倒れようとする


「……良太ッ!!」



 呆然とした鈴の足が動いた。それはもはや反射的な反応で倒れようとする良太の身体を小さいながら支えることに成功する。



「バカ!!なんであのタイミングでコネクトを解除するのよ!!」


「しょうが……ないだろ。コネクトしてる状態で俺が刺されれば、お前にもダメージが行くかもしれねぇ。お前に痛い思いは……させたくなかったんだよ。それに……ほら、さっきは俺が守ってもらった。だからお相子だ」


「なにがお相子よ!!こんなに傷付いて。アナタは本当に……バカだわ」


「おいおい……この状況でもバカ呼ばわりか。まぁ、お前が無事ならそれでいいんだけどさ」



 瞳に涙を浮かべながら抱きつく鈴。そんな彼女に良太は苦笑し、ゆっくりと司に視線を向ける。

 司は地面に片膝をつけていた。そして残された体力を使って良太に問いかける



「相打ち……か。だが、なぜだ。あの状況ならば俺の攻撃を避けることも出来たはず。だがお前の動きは避けることを考えず、まるで「当たりに行っている」ようだった。なぜ、あんな動きをした……?」


「へへっ、そんなの……簡単な話ッスよ。あれが俺の全力だったから、ッス」


「あれが全力……だと?」


「そうッスよ。先輩、アンタはこの戦いで俺が技を見せる度に笑ってた。だから思ったんスよ。きっと、この人は俺の全力に期待してくれているんだなって。だから、確実に攻撃を当てたかったかった。最後の最後まで全力で答えた。それだけッスよ」


「……そうか」



 司は小さく微笑み、地面に転がり空を見上げる。そこに敵として立ちはだかっていた彼はいない



「俺の見てみたかったお前の強さを今回見せてもらった。強くなったな、良太」


「そりゃあ、どうも。……けど、今回の戦いは引き分けッスよ。別に俺の勝ちじゃない。俺が勝ちたいのは魔力暴走みたいな状態の先輩じゃなくて「本気の先輩」ッスから。だからまた、勝負して下さい。そん時こそは、俺が勝ちますから」


「……いいだろう、約束しよう」



 司が良太に近づき、二人が拳と拳をぶつける。そしてもう一度地面に倒れ、再び空を見上げて呼吸を整える。

 

 「隠れた契約者」望月司との戦いは猿渡良太の勝利によって終了した

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