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お化け少女と契約《エンゲージ》  作者: 探偵コアラ
お化け少女と契約《エンゲージ》Ⅱ
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第86話 雷光の実力

「≪ハイドロスティンガー≫!!」



 ラグの後方に水の短剣が生成された。その数は全部で十二本。その全てが瞬時に発射され、魔法獣の元へと向かって行く。

 命中するとそれは爆発した。威力の低い牽制技。だが、それを二つ受けた魔法獣は倒れ、元の魔力へと姿を変えて行く



「…………」



 改めて敵の存在を認識した魔法獣がラグを睨み付けた。しかしそこに彼の姿はない



「≪プラズマクラッシャー≫!!」


「ッ!!」



 響いたのはラグの声。その声のする方向―――頭上を魔法獣たちが見上げると、カリバーに電撃を纏わせたラグが急降下してきていた。

 位置は魔法獣の集団の真ん中。そこに向けてラグが勢いよくカリバーを振り下ろす。

 すると電撃とともに衝撃が発生した。飲み込まれた魔法獣は姿を消し、ラグが地面に着地する。


 刹那、魔法獣たちがラグに襲い掛かった。前後左右、何処を見渡しても敵だらけという状況。それは好まれない状況であり、自らその状況を作り出すことは通常であれば絶対にない。

 だが、それはあくまで通常の場合だ。

 カリバーのゲージが一つブレイクされ、ラグが地面を殴りつけながら魔法名を宣言する



「≪ライトニング・ギガスパーク≫!!」



 周囲に黄色い電撃が迸った。それに触れた魔法獣の身体には即座に電気が流れ込み、ダメージを与える。

 だが驚くべきはその威力じゃない。攻撃範囲だ。ラグを中心に展開されるギガスパークは何十体もの魔法獣に攻撃をしている。これなら敵の懐に潜り込んだ方が効果は一段と大きくなる。


 魔法の効果が終了するとラグは拳を地面から離し、立ち上がった。そして辺りを見渡す



「(まだ結構な数がいるね。だったら……)カリバー、ソードフォーム!!」



 ゲージが一つブレイクされ、カリバーが光に包まれた。収縮する刃と本体。大剣というべき大きさを誇っていたその姿が細長い太刀へと変化する



「―――ッ!!」



 そしてラグが走り出した。剣を振り、地面を駆け、次々と魔法獣を切り倒していく。時折、魔法獣の攻撃が飛んでくるが、ラグにそれは効かない。わずかな回避と同時に斬撃を放ち、他の魔法獣も巻き込んで魔力へと戻していく。

 そんな中、一瞬だけラグが目を見開いた



「っ!?」



 右側、左側、そして前方。三カ所からの攻撃が仕掛けられた。

 それは今までとは違い、ただの攻撃ではない。右爪に纏った魔力の塊。形状は大型の爪へと変化し、一つの「魔法」として起動している。

 攻撃を行っていた最中ということもあり、ラグの拳と地面との距離はそれなりにあった。≪ライトニング・ギガスパーク≫は間に合わない



「……≪ライトニングウイング≫」



 だがラグは冷静だった。カリバーのゲージがブレイクされラグの背に魔力が収束すると、翼が作り出された。

 電撃による雷光の翼。それをラグは力を込めて羽ばたかせ、自身の位置を後方へとズラす。

 その結果、魔法獣たちの攻撃は空を切り衝突する



「カリバー、インクリネイションフォーム!!」



 ラグは即座にカリバーに指示を出した。カリバーの姿が再び光を纏い、今度は大きく変化していく。

 剣という形からの変形。それは刃を持たず、矢を放つ事で攻撃する武器―――弓だ



「≪聖光雷弓矢≫!!」



 魔力で矢を生成し、それを素早く放つ。そして矢は三体の魔法獣を貫いた。更に後方で爆発を起こし、その周辺にいた魔法獣を消していく



☆     ☆     ☆     ☆     ☆



「ラグさん、やっぱりスゴい……スゴい!!ねっ、未羽!!」


「……そうだね」



 興奮する愛琉の隣で未羽が小さく返事をした。だが彼女は愛琉と違って落ち着いている。

 未羽は考えていた。

 純粋な魔力の暴走によって生まれた魔法獣は想像イメージする事が出来ないため、頭の中でそれを必要とする技としての「魔法」を使えない。出来るのは魔力を纏ったり固めただけの単純な斬撃や射撃だけのはず。

 しかしあの魔法獣たちはラグに斬撃の「魔法」を繰り出していた。

 ということは―――

 


「キミが召喚者さんかな?」



 突然のラグの声に未羽がハッと顔を上げた。

 ラグの視線の先に人型が見えた。黒いローブを纏った人間。少し距離があるので詳しくは分からないが、その足元には赤と黒色の魔法陣が展開され光を放っている



「(黒いローブ……これってどこかで……)」


「ククク……クァハッハッハ‼」



 どうやら中身は男性のようで、低い声で不気味に笑いだした



「まったく、困ったものだな。いくら暴走魔力を使っているとはいえ魔法獣を作り出すのはそれなりに苦労するものだ。にも関わらず、その速度で倒されてしまうとは……。これでは生成が追い付かない」


「だったら攻撃を止めてよ。何か用があるなら、ちゃんと話し合いをしよう?」


「話し合い?バカをいうな。俺たちがファンタジアを襲う理由は「依頼された」からだ。襲撃以外に用なんてない」


「依頼?そんなの一体誰が……」


「おっと、話してる暇はないぜ?」



 ローブの男が指を鳴らすと周囲にいくつかの魔法陣が描かれ、魔法獣が出現した。

 どうやら引く気はないらしい。それを悟ったラグは一度深呼吸をし、静かにその視線を男に向ける



「本当に話し合う気はないんだね」



 言いながらラグは大剣(ブレード)へと姿を戻したカリバーを構えた。それを見た男はニヤリと笑みを浮かべる



「そういうことだ。それにしてもこの軍勢を見て膝をつかず剣を構えるなんて、相当な実力者なのか?それとも……単なるバカか?」


「なっ!!アンタ、ラグさんにバカだなんて……」


「この街と僕を慕ってくれる二人が交わした約束を守る為に戦ってるだけだよ。実力がどうかは……キミ自身に評価してもらおうかな」


「いいだろう。ただし、その評価をお前が聞けるかどうかは保障出来ないがな。……いけっ!!」



 合図と共に魔法獣たちが走り出した。その全てがラグを狙い、距離を縮めてくる。前線を走る魔法獣の爪は先ほどと同様、鋭い物へと変化していた。ローブの男の魔法。魔力にはまだ余裕があるらしく、見える口が小さく吊り上っている。

 一方のラグはカリバーを地面へと降ろしてみせた。そのまま左手を魔法獣やローブの男の方向へと向け、目を瞑る



「どうした!!怖気づいたか!!」



 男の声が響き渡るもラグが目を開く事は無かった。そのまま彼は左手に力を加え、小さく言葉を紡ぎ始める



「輝くは雷光。今この手に集いて迫る敵を、広く、大きく、包みこめ!!」



 その瞬間、周囲の魔力がラグの左手に集束された。エネルギーは一つの球体へと姿を変え、内部から溢れた電気が独特の音を鳴らしている。

 カリバーのゲージが一つブレイクされた



「雷空球封!!……≪ライトニング・エミッション≫!!」



 声と同時に辺りは雷の輝きに包まれた。その光は距離の離れていたローブの男も包み込み、僅かな電撃がその身体に流れ込む。

 男が指を動かすと、一瞬痺れを感じた。どうやら身体は微弱な麻痺状態になってしまった様だった



「(麻痺か……だが、魔法の使用に大きな影響はない。削れなかった魔法獣を向かわせ、その間に新たな魔法獣を……)」



男が思考を巡らせる。その時だった



「っ!?」



 男は思わず絶句した。彼の目の前で大量に唸りを上げていた魔法獣たち。その姿が彼の視界から完璧に消えているのだ。

 残っているのは残留している魔力。つまり魔法獣たちは倒され、元の魔力へと戻っているということになる



「マジかよ……」


「空間全体を攻撃する技だよ。効果範囲が広ければその分威力は下がるけど、この威力でキミの召喚した魔法獣は倒しきれる」


「コイツ……数十体消し去ったくらいでいい気になるんじゃねぇぞ!!」



 光が無くなった薄暗い闇の中で男は叫びを上げた。

 僅かに動く指先を鳴らし、再び魔法獣を生成しようとする。数をさらに増やし、効果範囲を広めさせて威力を最大限に下げるつもりだった。

 しかし、魔法獣の再生成のよりも先にラグが動きを見せる



「遅いっ!!」



 ラグの声と共に男の周囲に3つの雷球が出現した。抱きかかえられる程の大きさ。迸る微電流が空間を泳ぎ、中のエネルギーが光を放つ



「≪サンダーボール≫……爆破!!」



 雷球は爆発を起こした。爆風に飛ばされた男は後方へと転がり、歯を食いしばる。衝撃で麻痺状態は回復していた。それを悟った男は躊躇うことなく、手のひらに力を込め魔力エネルギーを集める



「チッ!!やってくれんじゃねぇか、クソが!!お前の実力は十分本物だ!!だから見せてやる!!」



 魔力が輝きを放ち、その形状を変化させた。

 現れたのは剣というべき形状を持つ武器。全体的に黒いカラーリングが施されており、刃はエネルギー製。3段階だが限定結晶破壊ゲージまでもが備わっている。

 それは紛れもない。ラグや未羽、愛琉も持つ機械武器―――「ディレクトリ」だ



「アイツ、ディレクトリなんて持ってたの!?」


「ゲージ、フル・ブレイク!!そしてカードロード……≪アサルトレイン・クリュード≫!!コイツで終わりだァ!!」



 ラグに向けられた剣先に魔法陣が描かれ、巨大な魔力光線が放たれた。特殊効果のないシンプルな魔力攻撃。その大きさはラグの身長を僅かに上回る程であり、破壊力を重視した攻撃だった。

 さらに魔力ゲージがフル・ブレイクされている事によって、その威力は跳ね上がっている。

 しかし、それがラグに命中する事は無かった



「―――≪ソニック・スラッシュ≫ッ!!」



 ラグが右手に力を加えた。そのままカリバーが頭上に掲げられ、一瞬で魔力が刀身を包み攻撃の態勢に入る。

 それからカリバーが素早く振り降ろされた。放たれたのは三日月型の衝撃波。その大きさは小柄だが圧縮された魔力が輝きを放ち、同時に電気属性の証拠である微電流が纏わりついている。

 双方の攻撃は衝突して相殺し、一瞬にして爆発を起こした



「相殺!?あの技を……しかもフル・ブレイクまで使ったのにか!?」



 男の驚愕が思わず声となって漏れた。無理もない。3段階とはいえフル・ブレイクを使用した魔法攻撃をあっさり破られてしまったのだ。

 もう勝利を見出す事は出来なくなっていた。出来るのはこの場から逃走すること。彼はそう判断すると、相殺によって悪くなった視界を利用して移動魔法を発動させようとする。

 だが、それよりも早く男の目には黄色い輝きが映った



「これは、まさか……!?」


「終わりだよ!!≪デンインパクト≫ッ!!」



 圧縮された電撃が一気に解き放たれ、男の身体に衝撃が走った。その勢いによって後方へと吹き飛ばされ地面に倒れる。

 起き上がる気配はない。気絶している。それはつまり、この戦いが終わった事を意味していた。

 ラグがカリバーをクルりと回し、維持を解除して振り返る



「ふぅ。2人共、お待たせ。少しは回復出来た……かな?」


「うん、かなり回復出来たよ。ありがとう、ラグさん」


「どういたしてまして。さて、それじゃあこの人をファンタジアの保護所に預けたら他の門に向かおう。きっとみんな頑張ってるはずだからね」



 そう言ってラグが男の両手を電気で作られた手錠で固定した。そのまま背中に背負い、ファンタジアの中に向かって歩いて行く。愛琉はラグの戦いに興奮しているらしく、上機嫌で彼の後を追った。

 けれども隣にいた未羽はその足を止めた。愛琉が振り向き、彼女の様子をうかがう



「どうしたの、未羽?」


「愛琉、ボクたちはこのまま春人くんたちの元に行かなくていいのかな?」


「……どういうこと?」


「今回のこれはあまりに予想外の事が起きすぎている。現に北口にいないと思っていた魔法獣が現れて、しかも召喚者までいたんだ。ということは春人くん達の戦いにだって、隠れた契約者以外の人物が参戦してくる可能性もある。そうなれば、春人くんたちは今よりも更に不利な状況になってしまう」



 未羽が拳を握った。そのまま俯き、沈黙する。

 未羽は今回の問題に大きな不安を感じていた。その原因は彼女のいった予想を超える問題たち。一度は春人たちの気持ちを考えて隠れた契約者と彼らが戦うことに賛成したが、やはりそれは危険な判断だったのではないか。

 そう思った彼女の脳裏にはこれから春人たちの元へ行き、共に戦い、勝利する可能性を引き上げるという選択肢が芽生えていた



「だから愛琉、ボクたちも行って……」


「それはダメ。私たちが行っちゃダメだよ、未羽」


「もちろん、彼らの自分たちで解決するって気持ちは大切したい。けどもし何かあったら……」


「だいじょうぶっ!!」



 その時、未羽の手が温かい何か包まれた。それは愛琉の両手。彼女は手を握り、顔を上げた未羽の顔を見て笑顔でうなずく



「春人たちならきっと大丈夫。心配なのは分かるけど、今は信じてあげましょ。あの子たちを」


「信じる……か」


「そう。それにほら、見守るのだって先輩の役目でしょ?」



 愛琉が得意げにウインクをしてみせた。するとその後ろからラグが現れ、優しい眼差しで二人に視線を向けた



「ラグさん……」


「大丈夫だよ、未羽。だって春人くん達は未羽と愛琉が特訓してあげたんでしょ?あの子達はちゃんと強くなってる。信じてあげよう、ね」



 ラグの言葉に小さく微笑んだ未羽が頷いてみせる



「うん。それじゃあ行こう。みんなでこの街を守るんだ」



 ラグを先頭に未羽、愛琉も走り出す。彼らを包み込んでいた暗闇は少しだけ明るくなっている様だった

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