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お化け少女と契約《エンゲージ》  作者: 探偵コアラ
お化け少女と契約《エンゲージ》Ⅱ
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第83話 一瞬の勝機

 静かな空間に風が吹いた。同時に双方の持つ刀が僅かに動き、カチャリと音を立てる。


 その音がハッキリ聞こえるほどの静けさ。


 良太はそんな沈黙を破り、一言呟いた



「≪ファントム・アーマー≫……?」



 その言葉に司がコクりと頷く



「そう。自身の身体を一時的に幻影へと変え、実体を無くす事で攻撃を無力化する技。故に「幻影の鎧」とも呼ばれる禁断魔法の一つだ」


「『禁断魔法……奪われたカードは≪ブラック・グラビティ≫だけじゃなかったの……?』」


「俺達は学園から二枚のカードを回収している。「漆黒の重力」は天川が、「幻影の鎧」は俺が所有しているというわけだ」


「ってことは、ハルの親父さんはカードを持っていない……?」


「あぁ。だがあの人の場合、禁断魔法カードは「必要ない」といった方が正しいだろうがな」


「必要ない?それってどういう……っ!!」



 言いかけた良太が途中で言葉を止めた。真っ直ぐ前にあった視界はすぐ後方へ向けられ、遅れて身体も動き始める



「仲間の心配をしている場合か?」


「―――っ!!」



 咄嗟にアロンダイトを大きく振り、頭上から迫る刃を受け止めた。刃と刃がぶつかり合い、鍔迫り合いが発生する



「ほう、なかなか良い反応速度だ。もう少遅れていたら、それなりのダメージを受けていただろう」


「今の状況で、それは勘弁してほしい……ッスね」



 良太が一度腰を下ろしてしゃがみ、イヴォル・リッパーの刃が空を切った。

 司の足元で構える良太。

 アロンダイトのゲージがブレイクされ刀が炎を纏う。その勢いは≪クリムゾン・パニッシャー≫と同様のモノ。


 つまり彼が放つ技は―――



「≪クリムゾン・パニッシャー≫!!」



 刀が振られ、目の前の司に向かって迫っていった。


 だがその瞬間、司の姿に歪が生まれた。やがて蜃気楼の様にボヤケ始め、結果的に≪クリムゾン・パニッシャー≫がその身体をすり抜けていく。


 ≪ファントム・アーマー≫が発動した事は良太も理解していた



「ムダだ。それは、効かん」


「まだまだァ!!」



 右足で大地を踏みしめ、アロンダイトを両手で頭上に構える。次の瞬間、彼はそれを力一杯振り下した。

 魔力を纏った攻撃は地面を抉り、飛び散った土が視界を悪くする。

 いかに攻撃を透かせる状態といえど身体は反射的に動き、司の腕が顔に当てられた。

 

 その隙に良太が後ろに回り込み、ゲージを一つブレイクする



「≪フレア・ストライク≫!!」



 炎を纏った突きを良太が放つ。だがその攻撃さえも、司の身体を貫く事は無かった。

 パニッシャーと同様にすり抜け、落ち着いた表情の司が何事も無かったかのように振り向く。そして、良太に純粋な斬撃を行った。

 ギリギリ防御の間に合った良太はそれをアロンダイトで受け止め、後方へと飛ばされる



「クソッ!!この技ならイケるかと思ったんだけどな……」


「『防御破壊が通じてない。だったら時間を稼いで、良太。必ずどこかで弱点が見えてくるはずよ』」


「あぁ、分かってる」



 良太が頷き、司に視線を向ける。その時だった



「……リミットバースト」


「なっ!?」



 瞬間、司の身体から大量の魔力が溢れた。その影響で風が強く吹き、光が周囲の空間で輝きだす。


 自身の魔力を底上げし、魔法の威力や効果を増大させる強化能力「リミットバースト」。それを発動させた司は冷静に前だけを見つめていた。対する良太は動揺し、驚愕の表情を浮かべている

 


「リ、リミットバースト!?どうして先輩がそれを……」


「っ!!」



 言いかけた、その時だった。空を切る音と共に司の姿が消え、良太の目の前に姿を現す。

 良太はなんとか反応し刀を目の前に構えた。刹那、司が純粋な斬撃を繰り出し、その衝撃で良太の身体が地面に転がる



「クソッ!!」


「『増加した魔力の衝撃で一瞬だけ移動速度を上げた。いえ、それよりこの状況でリミットバーストなんて……』」


「どうやら驚いている様だな。だが今使っているのは、お前も発動している限界解放―――「リミットバースト」だ。俺が使っても不思議ではないだろう?」


「そうッスね、不思議じゃない。けど、厄介ではあるんスよね」



 立ち上がる良太の顔にもはや余裕は無かった。司の力を目の当たりにしていく度に「勝てる」という希望が無くなっていく。

 「ファントム・アーマー」の突破方法もなく「リミットバースト」まで使われたこの状況。良太の中で冷静さが失われ、焦りと悔しさが込み上げてくる。


 だがまだ完全に諦めたわけではない。何故なら彼には、まだ「切り札」が残っているからだ



「『くっ、このままじゃ時間稼ぎすら出来ない……』」


「……あぁ。だったらさ、鈴。時間を稼ぐんじゃなくて、可能性に賭けてみた方がいいよな」


「『えっ……?』」


「俺達にはまだ、切り札がある。未完成で効果も分からない、名前だけ分かってる魔法。あるだろ?」


「『……アナタまさか、霊技を使うつもりなの!?』」



 鈴の言葉に良太が頷いた



「そうだ。まだ効果の分かっていないアレなら、この状況でも勝てる可能性が見えてくるかもしれないだろ。だったら賭ける価値がある」


「『確かに可能性は見えてくるかもしれない。けど、いいの?それを使ってもしダメだったら、あたし達の勝てる可能性は、ほぼゼロパーセントになっちゃうわよ?』」


「このままじゃどの道、負け確定だ。それに可能性があるんだったら、賭けてみた方がいいだろ?出し惜しみは絶対にダメだ」


「『……分かった。霊技、使いましょう。あたしもサポートするわ』」


「あぁ、ありがとよ。相棒!!」



 アロンダイトを両手で持ち、良太はその眼で司の姿をしっかりと捉えた。深呼吸と共に意識を集中させ、手元に力を込めていく。

 心臓の放つ鼓動は重くなり、身体全体に痺れる様な緊張感が流れた。肌に当たる微量の風すら察知する程、神経を研ぎ澄ませる。

 ゲージが二つブレイクされると、足元に「Ⅲ」と描かれた魔法陣が現れた。同時に良太の瞳が銀色に輝き、その手にあるアロンダイトの刃が虹色の光を纏う。

 何か大きな技が発動されている事は明らかだった。だからこそ、司は眉を潜め、カードスキャンの態勢に入る



「『良太、イメージしなさい。アナタとあたしの契約に眠る、必殺の魔法』」


「この状況をひっくり返す、切り札」


「『そう。その名前は―――』」



 刹那、良太の姿が消え、司の目の前に現れた。構えは≪クリムゾン・パニッシャー≫と同様のモノ。

だが、彼が使うのはそれではない



「(この魔力……ま、まさか!?)」


「幻影を切り裂け!!霊技……【No.3≪次元斬波じげんざんぱ≫】!!」


「くっ!!≪ファントム・アーマー≫!!」



 良太が斬撃を放つと、司がカードをロードし≪ファントム・アーマー≫を発動させた。

近距離ではあったが≪ファントム・アーマー≫は瞬時に発動し、刃が届く前に司の姿を幻影へと変える。

 しかし―――



「……何っ!?」



 迫った刃が身体を透けていく事はなく、彼の右肩に直撃した。その衝撃で司は数メートル飛ばされるが歯を食いしばり、すぐさま体勢を立て直す



「……どういうことだ。攻撃が透けなかっただと……?」


「や、やったぜ、鈴‼攻撃が……当たった!!」


「『えぇ‼これなら≪ファントム・アーマー≫を相手にしても、有利に戦いを進められるわ』」


「おっし、それじゃあこっからは……追撃だ!!」


「くっ!!」



 突破口を見つけた良太は≪ハイ・アクセル≫を使い、司に接近した。

 それから全身に再び力を込めて【No.3≪次元斬波じげんざんぱ≫】を発動させ、アロンダイトの刃を振り下す。



 だが―――



「……えっ?」



 その斬撃は虚しく空を切り裂いて終わった。

 何かに当たった衝撃はない。実際、目の前にいる司にもダメージは一切与えられていなかった。

 見えるのはさっき発動に成功した≪次元斬波≫によるダメージだけ。二撃目の攻撃は、司に何も影響を与えていない



「な、なんで……」


「『良太!!怯んでる暇はないわ!!もう一度、霊技を発動して!!』」


「あ、あぁ!!霊技【No.3≪次元斬波じげんざんぱ≫】!!このっ!!クソッ!!」



 鈴の指示通り改めて発動させるが、変化は何もなかった。

 全ての斬撃が身体をすり抜け、空を切るだけ。良太の中に一気に焦りが生まれ、彼の心に溢れてくる。


 司はしばらく黙っていたが、痺れを切らしたのか良太に攻撃を仕掛けた。

 【No.3≪次元斬波じげんざんぱ≫】の発動に集中していた彼は攻撃を受けてしまい、地面に転がる。


 地に倒れる良太。そんな彼に司は近づき、静かに見下ろした



「どうやら、終わりの様だな」


「くっ……!!」



 静かに呟く司に、良太が悔しそうな表情を浮かべる。


 それはまるで「勝者」と「敗者」の様な後景だった

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