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お化け少女と契約《エンゲージ》  作者: 探偵コアラ
お化け少女と契約《エンゲージ》Ⅱ
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第80話 漆黒の重力―――≪ブラック・グラビティ≫

 陽花が手に持ったディレクトリを振り一つの水塊を作り出した。もう一度振るとそれは放たれ、狙いである美加に向かって飛んでいく。

 それを見て美加は笑みを浮かべた。小さな一言と共に両手に影を纏わせて、それを勢いよく投げつける。

 その結果、両者の攻撃は打ち消し合った。衝撃で生まれた風が地面の砂を巻き上げるが、視界を遮る程ではない。


 陽花と美加の戦闘が始まって数分が経過した。まだ長期戦と呼べるレベルではない。約五分ほどお互いに遠距離魔法を撃ちあっているが、攻撃は未だにどちらにも命中していないのだ。


「どうしたの、陽花。攻撃が当たってないよ。それじゃいつまで経っても私を倒せないんじゃないかな?」


「くっ!!……≪ハイドロキャノン≫!!」


「ふふ、≪シャドウ・イリュージョン≫」



 陽花の魔法発動とほぼ同時に美加も魔法を発動した。美加の姿が影に消え、水流は誰もいなくなった空間を通り過ぎていく。

 すると、陽花の後方で小さな影が渦巻いた。彼女が気付いて振り返るとそれは徐々に大きくなり、中から美加が現れる



「(やっぱり≪シャドウ・イリュージョン≫を何とかしないと攻撃が当たらない。あの魔法の弱点はある程度分かるけど、それを突くには上手くタイミングを作らないといけない。となれば、もう少し時間を稼ぐしか……)」


「ねぇ。陽花さ、前に言ってたよね。空間移動が陽花の可能性の一つだって。もしそれを習得してるなら≪シャドウ・イリュージョン≫の弱点とか知ってるんじゃないの?」


「……どうかな?知ってはいるけど、まだそれを突いていないだけかも知れないよ?」


「そう言いながらこれまでの戦闘中に突いてこないってことは、もしかして空間転移の習得には失敗したってことかな?ふふ、残念だったね。陽花」



 陽花は意味深な表情を浮かべるが、美加はそれに意味があるとは思っていない。だからこそ見せるのは言葉とは真逆に同情などなく、むしろ喜びに満ち溢れた笑み。

 それを浮かべながら彼女は両手に影の弾を作り出した



「そんなアナタに私からプレゼントをあげるよ。ほら、≪シャドーバレット≫!!」



 美加が手を陽花に向けると作られた弾が同時に放たれ、一気に距離を詰めて行く



「≪バブルスプラッシュ≫!!」



 陽花は自身のディレクトリ「ルミナス」を一振りし、目の前に大量の泡を出現させた。二つの弾はそれに命中して爆発する。

 爆発の衝撃は他の泡が防ぎ、その後ろにいる陽花に一切ダメージは無い。


 長杖型ディレクトリ「ルミナス」は陽花専用のディレクトリだ。

 長杖の名の通り持ち手部分である柄は長く、その先端には紫色の球水晶とそれを護る金色のフレームが取り付けられており、柄と先端の結合部分には五段階のゲージが備えられている。

 純粋な武器としては少々物足りないが、魔法補助という点で考えると優秀なディレクトリだ



「あーあ。せっかくのプレゼントなのに受け取ってくれないんだね。それを受けて倒れてくれれば、戦いは終わったのに」


「悪いけど、私の負けじゃ終われない。この戦いは私の勝ちじゃないと終わらせないよ」


「駄々っ子だねぇ。けど、いいよ。そうやって、なかなか自分の意志を曲げない。それが陽花だもん。そんなアナタを倒してこそ、私の勝利にも意味が生まれるってもんだよ……ねッ!!」


「ッ!?」



 刹那、陽花の足元に複数の魔力弾が生成され白い輝きを放ち始める。

 それが一体何なのか、陽花はすぐに理解した。自分の足元にルミナスを向け、ゲージを一つブレイクする



「≪フラッシュインパクト≫!!」



 陽花の声と共に衝撃が発生した。足下に発生したその勢いで陽花の身体は地面から離れ空中へと飛ばされる。

 その瞬間、美加の仕掛けた魔力弾が破裂し爆発を起こした。爆発規模は小さいが、地面は削れて黒い爆煙が立ち込めているのを見ると、あの場に残っていればそれなりのダメージを受けていただろう



「うーん。せっかく隠してたのに残念だなぁ」


「美加、手を隠してるのはアナタだけじゃないよ」


「……えっ?」



 空中で微笑む陽花を見て、妙な気配を感じた美加はすぐに頭上を見上げる。そして、思わず声を漏らした。

 そこにあるのは水の短剣。だがその数は一本ではない。二本、三本、四本―――合計で十本もの短剣が宙で待機している



「まさかこれ、全部私を狙ってる……?」


「≪スプラッシュダガー≫、全発射!!」


「ヤバッ!!」



 美加が慌てて後ろへ移動する。すると、さっきまでいた場所に一本の剣が突き刺さり爆発が発生した。

 それを発端に次々と剣が撃ち込まれ爆発を起こす。美加は何とか回避するが、その顔に余裕はなくなっていた。

 そして全ての剣が放たれ終わると陽花に視線を向け、苦笑する



「ふぅ、今のは危なかったよ。陽花ったら、いつの間に不意打ちが得意になったの?」


「避ける相手に設置型の攻撃を仕掛けるのは得策だからね。対戦で得策を取るのはそう珍しい事じゃないでしょ?」


「……なるほど。そう言えば陽花、ゲームでもテクニカルキャラの扱いが得意だったもんね。それがこの実戦で役に立ってるわけか」


「そう。力で押すのは苦手なんだ。けどまだ……終わりじゃない!!」


「……?」



 陽花が右手を構えると美加の後方で強い光が発生した。振り向くとそこには爆発していない短剣が二本、地面に突き刺さっている。光を放っているのはその短剣たちだ。


 魔法使用者のアクションと同時に起こる発光。それはきっと―――


 美加は瞬時に陽花の狙いを察した



「不発短剣!?ってことは……」


「ダガー……爆破!!」



 陽花が指を鳴らすと共に光は更に強くなり、魔力が一気に膨張する。

 爆発。それが起こる事は間違いなかった。短剣と美加の距離はかなり近く、防御しても多少のダメージは覚悟しなければならない。

 美加は歯を食いしばり、そして―――



「しまったっ!!……なーんてね、≪シャドウ・イリュージョン≫!!」



 微笑を浮かべた。彼女の姿が再び影に飲まれて消える。

 爆発はあと少し間に合わなかった。規模の小さな爆発が起こるが、それに意味はない。

 だが、陽花の表情には悔みが無かった。むしろ、より引き締まっている様に見える。まるで、まだ「狙い」は終わってないかの様に。


 そんな陽花の顔を見る事もなく、美加が陽花の後方に現れる。

 彼女が現れたのは地面から少し離れた空中。と言っても、落下してケガをしてしまう様な高さではない。

 咄嗟の事で少し転移位置をミスしてしまったが、これは転移者にとって比較的「よくある事」であり、このレベルであれば予想の範囲内ではあった。

 それに何より今の二人には物理的に距離があった。だから美加に焦りは無かった。


 そう、視線を陽花に向けるまでは―――



「えっ……?」



 美加は思わず目を見開いていた。空中から地面に降り立とうとしている彼女に向けられているのは、陽花のディレクトリ。その先端が彼女の方向へ向けられている。よく見ればゲージも一つ消費されていた。

 ≪シャドウ・イリュージョン≫を使った時にはディレクトリは構えられておらず、ゲージもブレイクされていなかった。

 つまり、それは―――



「(まさか私の移動先が読まれてた……!?)」



 彼女はさっき以上の焦りを感じた。

 ≪シャドウ・イリュージョン≫にはとある弱点がある。それを陽花が知っているかどうか知るために、ワザと挑発して確認したのだ。その結果、美加は陽花が「弱点を知らない」と判断して≪シャドウ・イリュージョン≫を使った。

 だが今、ディレクトリ「ルミナス」は対象の場所を捉えて攻撃態勢に入っている。予想外の事態だった。

 美加は戦いが始まって初めて、本気で眉を潜めていた



「……≪グラビティ≫!!」


「ッ!?」



 さすがに身動きの取れない美加。そんな彼女が着地する瞬間を狙って陽花が≪グラビティ≫を発動した。

 美加にかかる重力が一気に強くなり、彼女の動きを鈍らせる。

 それを合図にルミナスのゲージが光を放ちブレイクされた。同時に陽花がその先端を美加に向け、リクが魔法名を告げる



「『≪ハイドロキャノン≫』!!」


「くっ……≪ナイトメア・カノン≫!!」



 迫った水の塊に美加が何とか手をかざして影の砲弾を撃ち込んだ。水と影、魔力と魔力は互いに衝突し破裂と同時に小さな粒となって空中に消えていく。

 だが、相打ちにはならなかった。魔力を十分に練られなかった≪ナイトメア・カノン≫は≪ハイドロキャノン≫を完全に消す事が出来ず、威力の抑えられた≪ハイドロキャノン≫が美加の身体に命中する。


 別の魔法を使った事で陽花の≪グラビティ≫は解除されていた。少し吹き飛ばされていた美加はゆっくりと立ち上がり、そして笑って見せる



「≪シャドウ・イリュージョン≫の弱点……分かってたんだね」


「転移場所は「相手の背後」って決まってる。それは初めて使われた時とこの戦闘の中で気づいた事だったよ」


「……だから私が≪シャドウ・イリュージョン≫を使った瞬間、後方に≪グラビティ≫をスタンバイして、私の動きを止めたんだ。けど、連続転移の可能性は考えなかったの?」


「その可能性もゼロじゃない。けど、それを考慮した上で良い作戦が思いつかなかったの。だから、連続転移が出来ない事に賭けて、この作戦を実行した。……まぁそれも大きなダメージにはならなかったみたいだけど」


「そんな事ないよ。正直私、防御ってあんまり得意じゃないんだ。だから威力の弱まった≪ハイドロキャノン≫でも結構ダメージは食らったよ。フ……フフ……フフフッ!!」



 そこまで言うと美加は急に笑みを浮かび始めた。それはさっきまでの弱々しいモノではない。まるで少し狂っているかのような笑い。

 それを見た陽花が警戒してディレクトリを構える



「強い……強いね、陽花。この前よりもっと強くなってる。きっと、たくさん努力したんだろうね。でもそれじゃ、私には勝てないよ」


「……へぇ、この状況でそんなこと言っちゃって大丈夫なの?」


「うん、大丈夫だよ。だって私が陽花より強いって事に変わりないんだから」


「……≪クリスタルパージェスト≫!!」



 眉を潜めた陽花は創り出した結晶を放ち、攻撃を仕掛けた。五つのクリスタルは軌道を変える事もなく、真っ直ぐ美加の元へと飛んでいく。

 だが。美加に避ける様子は無い



「そう、忠告してあげてもやっぱり抵抗するんだ。だったら、見せてあげる。カードロード!!」



 小さく笑みを浮かべた美加が右手にカードを出現させた。

 カードの中心にあるコア。その色は青色に輝いている。それはつまりカードの中に魔法が入っていて、それを美加が使えるという事だ。

 すると、彼女は魔力を集めて杖の様なモノを作り出した。彼女のディレクトリと言うべき武器。

 そのままカードをディレクトリに読み込ませ、ディレクトリのコア部分に文字が映る。そこにあるのは「black gravity」の文字



「ッ!?」



 その瞬間だった。美加へと迫った攻撃は次々と黒い渦に吸い込まれ、消えていく。それはまるでブラックホールを見ている様だった。攻撃を全て飲み込み、渦は何事も無かったかのように消滅する



「『そんな。パージェストがきえちゃった……』」


「これって、まさか……っ!?」


「そうだよ。これが禁断魔法の一つ。漆黒の重力。≪ブラック・グラビティ≫だよ」



 そう言いながら、美加はニヤリと微笑んだ



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