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お化け少女と契約《エンゲージ》  作者: 探偵コアラ
お化け少女と契約《エンゲージ》Ⅱ
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第78話 それぞれのやるべき事

 ゆずの研究室に行くまで大した時間はいらなかった。良太から連絡を受けて急いで支度をし、弥生を走らせなくていいようにコネクト状態となって、歩いて来た道を走って行く。

 ふと、空を見ると薄い緑色の光が見えた。すっかり暗くなってしまい、黒と小さな星々が輝く空。そこに紛れ込むその光は美しいが、同時に恐ろしくもある。


 やっぱり、関係があるんだろうな。あの人たちに。


 頭の中で自然と出てきた予想。しかし今は急いで状況を知らなければならない。

 そう思いながら、俺は更に走る速度を上げた

 


☆     ☆     ☆     ☆     ☆



「ごめん、遅れた!!」


「ハルっ!!」


「ハルくんっ!!」


「まったく、遅いわよ、春人」



 扉を開けると電話をしてきた張本人である良太がこちらに視線を向けてきた。メンバーは特待生とそのパートナー、更に沼島先生や未羽、愛琉までもが揃っている。

 室内を軽く見渡すと、数種類の機械が作動していた。特に窓際には、大きめのテレビアンテナの様なモノが設置され、隣にあるモニターの画面には街のマップが表示されている。それは、一定時間ごとに変化を繰り返していた



「ごめんよ、ハルくん。ホントは今日ぐらいゆっくりしてほしかったんだけど、どうやらそうはいかないらしくて」


「しょうがないさ。それより状況はどんな感じなんだ? 外で緑色の光が見えてたけど……」


「それは多分、結界系の魔法の光……ですね」


「結界の光?」



 俺の言葉に答えたのはゆずだった。彼女は変化していく画面の一部を操作しながら、赤く点滅する部分を拡大する。

 点滅部分は合計で三ヶ所。その全てがこの街から少し離れた山脈にあり、点同士もまた、それぞれが離れた位置に存在している。方角的に言えば街を中心に、北側と西側と東側。繋げてみると、その形は三角形になっていた



「この赤く点滅している部分。ここから強力な魔力が検知されています。恐らく、超大型魔法を使う準備中なんです」


「その超大型魔法って?」


「魔法には発動までチャージ時間のかかるモノもありますよね? これはその規模が大きな魔法なんです。そしてチャージ時間が長い分、威力や効果は大きくなります。さすがにどんな魔法かは分かりませんけど……」


「それだけ大がかりな事をやって何も無い、なんて事は多分ないよな」


「だと思います。あと最近は望月さんや天川さん、春人さんのお父さんの件もありますから、彼らがここにいる可能性もあるかもしれません」


「まぁ少なくとも、このまま無視ってわけにはいかないだろう。ここまで言えば、どういう状況か分かるか?」



 腕を組み、真剣な表情の沼島先生。彼の言葉に察しがついた俺は、コクリと頷いた。

 ゆずや先生の予想通り、あの三ヶ所にはきっと望月さん、天川さん、そして俺の父親がいる。そして、超大型魔法を使おうとしているのだ。

 もちろんそれがどんな魔法なのかは分からない。けれど、危険な可能性が高いのは確かで―――



「止めなきゃ……ですね」


「その通りだ。そこでお前と紫乃原、猿渡の出番となるんだが……。だが水上、お前や良太は霊技の修行中だと聞いた。どうする? 戦える状態か?」


「俺は大丈夫だぜ。というか何とかする。霊技に関しては気合だ、気合!!」


「『気合って……まぁなんともアナタらしい答えね。けど、頼もしいわ。やるだけやってみましょ』」


「とまぁ、猿渡はこんな感じだが……水上、お前はどうだ?」


「…………」



 真剣なまなざしが向けられた瞬間、俺は身体に軽い強張りを感じた。先生に恐怖しているわけではない。だが、すでに心の中に浮かんだ決断に不安を感じていた。

 本当にこの選択でいいのだろうか。

 そんな考えが頭の中を駆け巡り、だから言葉として伝える事をためらってしまう

 


「『大丈夫ですよ』」


「(弥生……?)」


「『どんな選択をしたとしても、それがハルの決めた事なら大丈夫です。自信を持って下さい。私もちゃんと一緒ですから』」


「(……あぁ、ありがとう)」



 心の中で弥生に励まされた俺は拳に力を込めた。

 そうだ、信じるんだ。自分自身を。自分の決断を。そして、自分のパートナーを。

 だから、俺は―――



「大丈夫です、いけます」


「……そうか。まぁその目をしてるなら、本当に大丈夫そうだな。さすがに、ここで拒否されたら、どうしようか思ったってのが本音だが」



 沼島先生が小さく笑う。普段の彼が見せない、まるで親が子供を信頼するような瞳。正直少し照れてしまうが、信じてもらえるのは素直に嬉しい。

 すると、俺達の様子を見ていた愛琉が突然、立ち上がった



「決まったわね。それじゃあ早速、現場に行っていくわよ。ゆず、マップのデータを私たちのディレクトリに送ってちょうだい」


「……ちょっと待って、愛琉」


「えっ?」



 やる気を見せる愛琉への抑止。それは未羽の声だった



「何よ、未羽。まさか、このまま放置するなんて言うんじゃないでしょうね?」


「そうじゃないよ。けど、一旦待った方が良い。そうだよね、ゆずちゃん?」


「はい。皆さん、これを見て下さい」



 ゆずが指差したのはマップの表示された画面。俺達全員の視線が向けられる。

 すると、さっきまで無かったであろう赤い小さな点が大量に表示されてた。まるでゲームマップの「敵」を示す様な表示。

 という事は、まさか―――



「今、この街は魔法獣に囲まれています。唯一魔法獣がいないのは北側だけみたいですね」


「巨大な魔法反応に反応して暴走しているのか、それとも何者かの手によって操られているのか……。どっちにしろ、北口以外の街門前には魔法獣がいるという事か」


「って事は、もし放っておけば、街門を壊して街の中に入ってくる可能性だってある……よね?」


「その通り。だからハルくん達以外のこの場にいるメンバー、ゆずちゃん達には街門の警備をお願いしようと思うんだ。学園の上級魔法師と連携を取っての仕事、出来るよね?」



 未羽の問いに氷河達が迷うことなく頷く



「当然だ。この街には一歩たりとも入らせはしない」


「同感です。任せて下さい」


「だったら学園の方には俺から連絡を入れておこう。動けるヤツらを手配して、三門に向かわせる」


「ありがとう、ぬーちゃん。助かるよ」



 未羽の言葉に苦笑を浮かべる沼島先生がポケットから携帯を取り出して連絡を始める。

 すると、壁にもたれかかっていた氷河と座っていたゆずがこちらに近づいてきた。それから真剣な表情で、だけど少し笑って見せた



「全ての力を以て止めてこい。必ず、出来るはずだ」


「こちらの事は任せて、頑張って来てくださいね」


「あぁ、ありがとう。絶対に止めて来るよ」


「数が数だから大変だとは思うけど、街のこと、お願いね」


「帰ってきたら、そん時はパーティでもやって盛り上がろうぜ」



 特待生全員が右拳をぶつけて微笑み合う。それを未羽や愛琉、沼島先生が見て笑顔を浮かべた。

 それぞれにやるべき事がある。だから今は、それに全力を尽くそう。きっとそれが、勝ちに繋がる要因になるはずだから



☆     ☆     ☆     ☆     ☆




 ゆずや氷河達と別れ、俺達は街門へと向かっていた。

 街の外へと出て行く際に通る事になる「街門」。魔法石で作られた巨大なそれは、街の外に生息する魔法獣の攻撃をある程度凌ぐためのモノで、この街の東西南北に設置されている。

 実はここを通るのは初めてではない。以前カレブトロ洞窟に行く際、通った事のある場所なのだ。だけど、あの時感じなかった緊張感を今は感じる。

 あの時、持っていたのは未知への好奇心。


 しかし―――今は違う



「さぁ、これが北口だね。今から開けるから、開けたら全速力で走って行ってもらえるかい?」


「全力で走るのか? 体力はなるべく温存しておいた方が良いと思うけど……」


「温存は確かにしておいた方が良い。だけど、ここを通れなかったら温存しても意味が無いだろう?」


「意味が無い? それって……」


「理由は今に分かるさ」



 俺の言葉を最後まで聞かず、未羽が門に触れて魔力を込める。すると彼女の手元が光り、門が音を立てて動き出した。

 徐々に見えてくる街の外の景色。記憶通りであれば、そこには草木と道があるのだが、今は少し違っていた



「これってまさか、魔法獣か……!?」



 俺の眼に映り込んできたモノ。それは黒い影の身体を持った獣たちだった。

 魔力によって作られた獣―――魔法獣。

 その赤い眼がいくつも光り、夜という事で比較的くらいこの空間でも、こちらを見ているのが分かる。

 だが、更に驚いたのはその数だ。一、二匹じゃない。それこそ十何匹を超えるであろうその姿は、月明かりに照らされ、不気味さを増している。

 その時、門が完全に開き「ドンッ」と大きな音がした。それを合図にするかのように、獣たちが少しずつ俺達との距離を詰めて行く



「なんで……魔法獣は北口にはいなかったはずじゃ……」


「多分、移動している時間で北口にも移動してきたんだろうね。可能性が無かったわけじゃないけど、これはちょっと面倒かな……」


「なんて言ってても仕方ないッスよ。邪魔するんだったら、ぶっ飛ばして通るしかねぇ!!」



 良太がアロンダイトを出して、攻撃の態勢に入る。しかし彼がそれから行動を起こす事は無かった。彼の目の前に、二つの影が歩いて現れたからだ



「ったくもう、喧嘩っ早い性格なんだから。良太達がここでディレクトリを出す必要はないのよ」


「なんでだよ、愛琉。コイツらを倒さないと先に進めない。って事は、現場に行けないって事だろうが。だったら答えは……」


「さっきボクは言ったでしょ? 「全速力で走って行ってもらえるかい?」って。それがつまり、どういう意味か、もう分かるんじゃないかな?」



 言いながら前に出てきた未羽と愛琉がそれぞれ「マーティカルソード」と「ガラティクルバスター」を構える。

 唸る犬型の魔法獣たち。しかし彼女達は臆することなく、笑って見せた



「ここはボク達が引き受ける。今から数秒だけ道を作るから、その間に走って行ってくれ」


「未羽たちが!? 二人だけでか!?」


「そうよ。他の人たちはみんな他の三門を守ってる。だったら、ここは私たちが守るしかないでしょ?」


「でも……」


「でも、じゃないの。行きなさい。アナタ達には、この先で戦うべき相手が待ってる。止めるべき相手が待ってるの。だからここは、私たちに任せなさい」


「愛琉……」


「……約束するわ。ここは一歩たりとも通さない。私たちの街は、私たちが絶対に守ってみせる。だからアナタ達は私たちを信じて、この先に進みなさい。いいわね?」


「そういう事だよ。それに愛琉は見ての通りかなり頑固な性格だ。言った事は滅多に曲げない。そしてボクは、そんな愛琉に何があっても付き合う。ボクたち二人揃って、約束を守るって言ってるんだ。ちゃんと、信じてくれる……よね?」



 二人の言葉に少し戸惑いを感じながらも、俺達は頷く事しか出来なかった。それを確認した二人はディレクトリを構え、魔法の発動準備をする。

 少しずつ感じる冷気と電気。それがそれぞれのディレクトリに集まっていき、光へと変わっていく。

 そして―――



「≪コールド・フェニクシア≫!!」


「≪ライジング・ディストラクション≫!!」



 マーティから氷の不死鳥。ガラティから電撃球が放たれ、魔法獣に命中すると共に爆発した。彼女たちの大技であるその威力は高く、衝撃によって生まれた煙がこちらにまで届いている。咄嗟に腕で目を隠し、意図的に視界を遮った。

 それから煙が晴れた事を確認しつつ、門外に視線を向けると、さっきまで魔法獣がいた場所に真っ直ぐな道が出来ている。その左右には魔法獣がいるものの、手足が凍ったり、光によって目にダメージを負い動けない状態の様だ



「さぁ、今のうちに行くんだ、みんな!!」


「しっかりバシッとやってきなさいよ!!」


「……あぁ、ありがとう」



 彼女たちの声に喜びを感じながら、俺は地面を蹴り上げた。陽花さんや良太もそれぞれにお礼を言いつつ、俺の後を走ってくる



「『ハル、絶対に止めて帰りましょうねっ!!』」


「あぁ、もちろんだ!! 行きましょう、陽花さん!! 良太!!」


「うんっ!!」


「おうっ!!」



 力と覚悟の籠った声。それは暗い空に、確かに響いていた




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