表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お化け少女と契約《エンゲージ》  作者: 探偵コアラ
お化け少女と契約《エンゲージ》Ⅱ
79/141

第76話 小さな一歩

 霊技の修行が始まって数十日が経過した。


 陽花さんは「【No.2≪空間転移ディメンジョン≫】」の出現ポイントの精度を更に上げ、回数制限付きの連続転移も出来る様になっていた。


 一方の良太は霊技の発動自体は成功していないものの、霊技名を完全に知る事が出来たらしく、毎日、その名前を叫んではアロンダイトを振り降ろしている。

 そして、俺はというと―――



「…………」



 対戦の行われているフィールドを見学し、魔力粒子を探していた。現在行われているのは未羽と陽花さんの対戦。


 未羽が間合いを詰めマーティを横振りしたかと思えば、陽花さんは霊技を使って空間を移動し、その攻撃を回避する。そこから陽花さんは魔力弾を発射するものの、未羽はその一つ一つを切り裂いて、また間合いを詰めていく。

 近距離型と遠距離型で対戦をする場合の基本的な立ち回りだ。どちらかがミスして一度攻撃を受けてしまえば、動きは鈍り、そこから連続して攻撃が仕掛けられる。

 実戦者としてはなかなかスリルのある展開。陽花さんはそれをつい最近使える様になった能力で行っている。

 そう考えると、自然とため息が出てくる。正直、霊技の名前も分かっていない自分が情けない



「『二人とも、すごいですねぇ』」


「だなぁ……」



 呟く弥生に返事をする。自分で聞いても分かるほど、力の無い声。それに気づいたらしい弥生は「あっ……」という一言を最後に、言葉を詰まらせた。

 流れる気まずい空気。こちらもこちらで、どんな事を言えばいいのか分からず、口を閉じたままになってしまう



「『え、えーっと……』」


「…………」


「『そっ、そうです。ハル、私も探しますよ、魔力粒子!!』」


「探すって……弥生と俺の視点って違うんだろ? だったら一緒に探しても……」


「『無駄じゃありません。きっと気分の問題です。それにほら、一緒に探せば見つかるかも知れないじゃないですか』」


「気分って……。それで見つかるもん、なのか?」


「『見つかるもんかも知れないですよ。何より、私とハルはパートナー同士じゃないですか。だから私も探します、一緒に。ねっ?』」



 元気のいい弥生の声が響き、俺は苦笑する。彼女の言っている事は一見すると、強引な単なる根性論の様に思える。いや、理由が理由なだけに、きっと根性論で間違いないのだろう。

 けれどもその気持ちが嬉しいのもまた事実だった。自分だけ成長出来ていないこの状況で、彼女は何とかして俺を支えてくれようとしている。それは、素直にありがたい。

 そんな事を思っていると知ってか否か、弥生が「よーし、いきますよ」の掛け声と共に黙り込んだ。それに合わせて、僅かな期待を胸に秘めながら、再びフィールドに視線を向け集中力を高めていく。


 ―――その時だった



「……っ!!」



 自分の視界に映る景色を疑った。見えるのは小さな輝く複数の粒。数えきれない程のそれは、まるでホタルの光の様で、薄い黄色の発光を保ちつつ、未羽たちの周囲に散らばり宙を舞っている。

 純粋に綺麗な光景。幻想的という表現の方が正しいかもしれない。


 けれど、これは一体―――?


 そう思った瞬間、ハッと意識が戻ってきた。それから現状を頭の中で理解しようとする。

 今見えた「粒子」と言うべき浮遊物。考えてみれば、答えは簡単に思いついた。

 そう、アレは……いや、アレがきっと―――



「もしかして……今のが……?」


「『ハルっ!! もしかして、ハルも見えたんですか?』」


「もしかしてって……弥生。お前にも見えたのか?」


「『はい、バッチリ見えました。フワフワ飛んでる小さな粒。きっと、あれが―――』」


「「『魔力粒子!!』」」



 俺と弥生の声が重なる。それは俺がこの数日の間で、初めて感じた成長だった




☆     ☆     ☆     ☆     ☆




「おぉ。ついに見えたんだね、ハルくん。おめでとう」



 報告をした後の未羽の第一声はそれだった。

 驚きは無く、いつも通りの落ち着いた雰囲気が感じられる言葉。てっきり驚かれたり怪しまれたりするだろうと思っていたので、彼女の予想外の反応にむしろ、こちらの方がビックリしてしまっていた。

 そんな俺の背中を愛琉が軽く叩いてくる



「やったじゃない、春人。今まで頑張った甲斐があったわね。これで一歩前進よ、前進」


「あぁ。ありがとう。と言っても、いつでも見えるわけじゃないんだけどな……」



 そう。魔力粒子が見える様になったとは言っても、いつでも好きな時に見れるわけではない。正確には弥生とリンクコネクトをしている状態で、時々見る事が出来るのだ。使いこなせている、とは言い難い。

 すると愛琉はため息と共に、俺に声をかけてくれた



「何言ってるのよ。それでも、見えなかったモノが見えたのは事実でしょ? 素直に喜んでいいの。むしろ、喜びなさい。あなたの頑張りがちゃんと実ったんだから」


「そうだよ。それにハルくん自身だって、実は結構嬉しいんでしょ?」


「ま、まぁ。それなりには嬉しいけど……」


「だよねぇ。だって、報告しに来る時のハルくんってば、軽くスキップしながら来ちゃうんだもん。外見でどんなに冷静ぶってもバレバレだったよ」


「ス、スキップ!? あのぴょんぴょん跳ねるアレか!?」


「うん。そうだよねぇ、弥生ちゃん?」


「『そうですねぇ。ハルってばスキップしてましたねぇ』」


「お、おい、弥生。それならそうと言ってくれよ……っていうか、黙ってないで止めてくれ!!」



 必死になって発した言葉を聞いて未羽と愛琉、そしてコネクト中の弥生が笑う。何とも気恥ずかしいが、みんな俺の成長を祝福してくれているのだ。そう考えると、嬉しくて自然と笑みが生まれてくる。


 そして、話しの話題が変わったのは、それから数分間後の事だった



「さて、そんな浮かれてるハルくんの事はこの辺で置いといて、これからの事を少し話そうか」


「これからの事?」


「そうよ。今回、春人にやってもらった魔力粒子探しは霊技修行の一部なの。つまり、これで終わりってわけじゃないのよ」


「ほら、その証拠にキミはまだ霊技の名前を知らないだろう?」


「言われてみれば確かに……。それじゃあ、今度からは何をするんだ? 魔力粒子を確実に見れるようにするのか?」


「それに関しては一度ラグさんに連絡を取ってみないといけないからね。今夜にでも連絡して聞いてみるよ。だから、キミの新しい修業は明日からって事になるかな」


「じゃあこれからの事って言うのは……?」


「修行には次があるよってお知らせだけさ。だから今日は、成長出来たって喜びをしっかり噛みしめてよ」



 軽くウインクをする未羽。さっきの愛琉の言っていた事と合わせて考えると「これからも修行はあるから気は抜くな、けど今日はゆっくりしろ」という事なのだろう。

 そう解釈した俺はコクりと頷いた



「分かった。今日はとりあえず寮に帰って休む事にするよ。っと、そう言えば良太たちは?」


「修行記録をぬーちゃんの所に届けに行ってるよ。数日分あるから、それなりに時間がかかっちゃうんじゃないかな」


「そっか。それじゃあ、俺達は一足先に帰るとするか」


「そうしなさい。明日からはキツーい修行が待ってるんだから」


「えーっと……愛琉? 内容を知らないボク達が言っても、あまり説得力ないんじゃないかなぁ……」


「ま、まぁとりあえず、お手柔らかに」



 得意げな顔の愛琉と苦笑する未羽。

 この数十日間、魔力粒子探しだけでもこんなに苦労したのだ。明日から改めて始まる修行は、愛琉の言う通り、もっと苦戦する事になるのだろう。


 だけど、弥生やみんなと一緒なら、きっと何とかなる。


 そんな事を思いながら、俺は帰り支度を始めるのだった

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ