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お化け少女と契約《エンゲージ》  作者: 探偵コアラ
お化け少女と契約《エンゲージ》Ⅱ
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第75話 ファンタジア政府

「クソッ!! 京也よ、特待生たちの霊技習得はまだ終わらんのか!!」



 野太い怒鳴り声が室内に響いた。それとほぼ同時に机が叩かれる。その男性は眉間にシワを寄せていた。

 黒いスーツに白いシャツ、青いネクタイ。身に付けている衣服のどれもが、ファンタジアで生産された高級品だ。

 その中でも一際目立つのは、胸の部分に付いる花びらの描かれた記章。それはこのファンタジアの政治を行う組織のメンバーだけが付ける事の出来る代物。

 そう、彼は「ファンタジア政府」のメンバーの一人なのだ。


 そんな彼に、スーツ姿の京也は負けじと眉を潜めて見せた



「もう少し待って下さい。つい先日、彼らは、未羽と愛琉を通じて霊技の存在を知りました。現在、その修行を行っている最中です。あともう少しすれば……」


「霊技が使える様になるとでも言うのか? バカバカしい、それまで待ってられるか!!」


「最近、他の魔法国から援護の提案も出されています。今は被害も少ないですが、これから先もそうだとは限らない。事がこれ以上大きくならないうちに対処すべきです」


「その通りだ。となれば、やはりチーム「絆」のメンバーに依頼を出した方がいいじゃないか。彼らは今、このファンタジアに居るのだろう?」



 その場に座ったメンバーたち十数人が次々と口を開いていく。

 やはりこうなってしまうか。

 黙った京也が小さなため息を吐く。予想しなかった展開ではない。だが、実際目の前にすると面倒くさいと思わざるを得なかったのだ。

 そして、そう思ったのは彼だけではない



「なんだなんだ。随分と、騒がしいじゃないですか。もう少し静かにして下さいよ。こっちは寝不足で頭がガンガンいってるんですから」


「お前は……沼島。何故お前がここいる? 学園の授業はどうしたんだ?」


「京也が現状の報告をしに行くって言うから、付いて来たんですよ。学園の方は他の先生に任せてます。あっ、侵入じゃなくてちゃんと正式に入って来てるんで。そこん所は、よろしくお願いしますよ」



 ドアの向こうから現れた沼島が右手のカードをチラつかせた。そこにあるのは、一枚のカード。来場者用のIDカードだ。この建物に入る為に必要なそれは、どうやら京也によって渡されたモノらしい。

 それを察したメンバーの一人が、小さく咳払いをした。すると沼島はカードをポケットに仕舞い、一歩前に出た



「んで、騒ぎの元はアレですよね。ウチから逃げた奴らに関して……でしたっけ?」


「そうだ。逃走している隠れた契約者たちを一刻も早く捕まえる為、「絆」に依頼を出した方がいいという話しだ」


「隠れた契約者って……そりゃまたスゴそうな名前が付いたもんだな」


「そんな事はどうでもいい。とにかく今は被害が出ない様、奴らの捕獲を急がねばならんのだ」


「へぇ。だから、ウチの特待生たちには任せておけないって言うんですか」


「そ、それは……」



 目を細める沼島。そんな彼の一言に、威勢よく話していた男は言葉を詰まらせた



「それに何より、今ファンタジアに「絆」の三人はいません。ラグさん、シルキさんは自分たちのディレクトリの調整、キノさんはその付添いで他の魔法国に行ってます」


「他の魔法国だとっ!? それじゃあ……」


「えぇ。だから今、あの人たちに依頼するのは無理ですよ。物理的に」


「くっ…………」



 顔をしかめる政府メンバー達。それを見た沼島は表情を変えずに話しを進める



「もちろん、あの人たちが帰ってくれば話しは別だが、それも数日後の話しになる。それまでに逃走者―――隠れた契約者たちが動き出せば、そん時はウチの特待生たちが対応する事になる」


「…………」


「京也の言う通りアイツらは霊技の修行をしています。契約者の一人は既に使える様になって、他の二人も毎日修行をしている。契約者でない二人も、強化改造されたディレクトリの扱いに慣れようと特訓している。だったら、アイツらへの不満を言うんじゃなくて、アイツらに期待しなきゃいけないんじゃないんすか?」



 感情が籠り、少しずつ強い口調になっていく沼島。

 すると、奥の席に座っていた白髪の男が右手を上げた。しかしそれは、ただ上げただけではない。沼島への抑止の合図。それが理解出来た彼は一歩足を引き、口を閉じた

 右手で抑止したのは沼島のよく知る人物。ファンタジア学園の副学園長兼政府メンバー「白瀬彰」だ



「アナタの意見は分かりました、沼島先生。もっともな意見だと、私も思います。ですから私たちは支援の意味も込めて、これから、捜索指令室と合流して隠れた契約者たちの居場所の捜索に努めるとしましょう。直接的な支援ではないですが、それでどうでしょうか?」


「……分かりました、お願いします」


「はい。それじゃあ京也くん。報告、ご苦労さまでした」



 白瀬はそう言いながら、二人の退出を促す。沼島と京也はそれに素直に応え、会議室を出て行った



☆     ☆     ☆     ☆     ☆



「いやぁ、助かりましたよ、沼島先生。ありがとうございました」


「そんな事をはどうでもいいんだよ。あのジィさん達が文句言うのなんて目に見えてたからな。それでウチの生徒が愚痴られるのが、気に食わなかっただけだ」


「へぇ。やっぱりアナタは、あの子たちの先生なんですね」


「……うるさいな。というかダルい」



 優しくもイタズラな笑みを浮かべる京也。その隣で沼島は頭を掻きながら呟くように言う。

 しかし、そんな時間もつかの間。すぐに京也の表情が真剣なものへと変わった。それは沼島も同様だった



「けど、実際の所どうなんです? 陽花さんが霊技を使える様になったのは聞きましたけど……良太くんと春人くんは使える様になりそうなんですか?」


「どうだろうな。状況を聞く限り、猿渡の方は霊技名が少しずつ分かってきているらしい。が、水上の方はちょっとヤバいだろうな」


「ヤバい……?」


「霊技名が浮かばないそうだ。しかもラグさんに言われた魔力粒子もまだ見えていないらしい」


「そうですか……」


「水上自身は努力しているんだがな。もしかしたらアイツの霊技は少し特殊なのかも知れん。場合によっては、霊技無しで事態に当たる事も考えられるだろう」



 沼島が両手をポケットに入れた。それから視線を少し上へと向ける。

 透明なガラスの天井の向こうには、沈みかけた夕日があった。空のあちこちには、小さな星たちが確かな輝きを放っている。

 それを見た沼島が息を吸い、深呼吸した



「まぁとにかく、今の俺達に出来るのはアイツらを信じる事だ。……ダルいけどな」



 いつもの表情に戻った沼島。そんな彼に「そうですね」と答え、京也はファンタジア政府を後にした

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