表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お化け少女と契約《エンゲージ》  作者: 探偵コアラ
お化け少女と契約《エンゲージ》Ⅱ
74/141

第71話 未羽と愛琉

 翌日の午後、俺達は学園長室に呼ばれていた。

 まるで昨日何事も無かったかのように午前中の授業が終わり、昼食を取ろうとした時、急に呼び出しを受けたのだ。

 以前、訪れたことのある学園長室。しかし、その風景は少しだけ変化を見せていた



「やぁ、いらっしゃい。よく来たね」


「失礼します」



 優しく微笑む学園長に俺は一礼をして入室し、周囲を見渡す。

 あちこちの棚に置かれているのはお菓子。だが前と同じ和菓子ばかりではない。クッキーにキャンディー、チョコレートなどその種類は明らかに増えている。

 それに気づいた弥生が瞳を輝かせた



「わぁ、色んなお菓子があるじゃないですか!! これ、どうしたんですか?」


「いやぁ、実の所、以前はここに来てくれるキミ達に少しでもリラックスしてもらおうと思って和菓子を置いていたんだがね、試しに食べてみたら僕自身がハマってしまって。以来、和菓子だけでなく色々なお菓子を置いて仕事の合間に楽しんでるんだよ」


「仕事の合間って……それ、大丈夫なんですか?」


「まぁまぁ、そんな堅いこと言わないで。ほら、キミのお友達のサルちゃんだって授業中にパンなんか食べてるでしょ? そういう感覚だよ」


「あぁ、なるほど。確かにアイツ食べてるな……って、それはマズいですよね!?」


「おぉ、そこに気づいちゃったか」



 「ハッハッハッ」と笑ってごまかす学園長に俺は苦笑いを浮かべる。

 すると、背後からかなり賑やかな声が耳に入り、少しずつ近づいきた。やがてその声は室内に向くて発せられ、その正体を見せる



「おーっす。失礼するぜ、学園長」



 軽快に入室したのは良太だった。その後ろから鈴や陽花さん達が続き、軽い挨拶と共に入ってくる。

 そんな彼らに視線を向け、学園長は「うんうん」と頷いていた



「おぉ、サルちゃん達も来たね。実は今、ちょうどキミの話しをしていた所だったんだよ」


「へっ? 俺の話し?」


「そう。キミが授業中、食事を取っているという話だ」


「げっ!!」



 イタズラに笑う学園長に良太が一歩後退した。さっきと違って顔が引きつり、かなり真剣な表情になっている



「な、なんでそれを学園長が知ってんだよ……。ま、まさか、監視する魔法でも使ってんのか……?」


「いいや、教室でのキミ達に関して僕は何も知らないよ。ただ、冗談交じりに言ってみたらハルちゃんがそれらしい反応を見せてくれたからね。それで分かっただけさ」


「おのれ、ハル……。だったら俺は、お前がいっつも爆睡してることを暴露してやる。さぁ、覚悟はいいか!!」


「おい待てって。それ脅しのつもりなんだろうけど、もう暴露しちゃってるからな!?」



 不敵に笑う良太に少しの焦りを感じながらツッコミを入れる。

 と言っても、良太の早弁や俺の授業睡眠は割と知られているから、学園長の耳にはいるのも時間の問題だっただろう。もしかしたら、彼はその両方をもうすでに知っていたのかもしれない。

 そんな事を考えた、その時だった



「ふむふむ、なるほど。噂の特待生さん達はなかなか、賑やか面子みたいだね」


「そりゃあ、実技の授業の度に学園の防護壁を壊すくらいだもの。これで大人しかったら、それこそ不思議なくらいじゃない?」


「…………?」



 聞こえてきた声に反応して振り返ってみると、そこには見慣れない二人の少女が立っていた。


 一人は薄い水色の髪を持つ少女だ。腰まで届きそうな長い髪。瞳は青く、少し眠そうなジト目気味という事もあって落ち着いた、クールな雰囲気を感じる。

 一方、もう一人は黒い髪の少女だった。隣にいる彼女と同じ様に腰まで届くような長髪の持ち主で、翠色の瞳で俺達を見ながら、口元を不敵に緩め、得意げに微笑んでいる。


 やはり見覚えはない。が、着ているのはこの学園の女子生徒の制服だ。更に、小柄な体格で少し幼めなこの外見。情報はかなり少ないが、それでも大方の予想は出来る。

 そう、きっと彼女達は―――



「もしかしてキミ達、後輩さん達かな? 学園長に何か用事でも……」


「は、ハァ!? バカにしないでよ!! 私達は、あなた達より年上なのよ!!」


「……えっ? 年上……?」


「そうよ。私たちはあなた達より年上で先輩なの。分かってもらえた?」



 頬を膨らました黒い髪の少女がそう言った。俺は驚きを隠せず、何かの冗談かと思いながらも振り向き、学園長と目を合わせる



「えっと……学園長。この人たちって、本当に俺達より年上で俺達の先輩……なんですか?」


「あぁ、そうだよ。未羽くんと愛琉くんはキミ達より年上で先輩だ」



 優しく微笑む学園長。そんな彼の言葉に俺は



「えっ……えぇぇぇぇーーー!!」



 驚愕の叫びをあげていた



☆     ☆     ☆     ☆     ☆



「全くもう、失礼しちゃうわ」



 学園長室の応接椅子に座った黒髪の少女が言った。

 彼女の名前は「愛琉」さん。沼島先生が呼んだ「ラグさんの友達」の一人で、俺達の修行に協力してくれる人らしい。

 だが、さっきの事が気に障った様で未だに頬を膨らませている。もちろん、その原因を作ったのは俺なので、一向に頭が上がらない。

 そんな彼女の隣に座っている少女「未羽」さんが愛琉さんをなだめてくれていた



「まぁまぁ愛琉、怒るのはそれくらいにしておこうよ。じゃないと話しが進まないわけだし。何より、そう怒るような事でもないじゃないか」


「怒るような事よ。折角、ラグさんのお願いで呼ばれたからと思って来てみれば、後輩に後輩扱いされるなんて。私のガラスのプライドが傷ついたわ」


「それはまた、ずいぶんと薄いプライドだね……」



 未羽さんが「使い方、間違ってる気がするんだけど」と小さく付け加え苦笑する



「ごめんね。こんな感じだけど、ボク達はこの学園を卒業していてね。今は研究の為にここを使わせてもらっているんだ」


「そうなんですか……。それなのに俺、後輩だと思ってしまって……すいません」


「いいや、気にしないでくれ。それよりボク達としては、その敬語やさん付けの方を何とかしてほしいかな」


「えっ?」


「ボクも愛琉もそういう扱いをされるのが苦手でね。なのでこれからは、先輩ではなく友達として扱ってもらえると助かる」


「で、でも愛琉さんはさっき後輩扱いされて怒ってましたけど……」


「あぁ、あれには理由があってね。愛琉が「初対面でカッコいいと思われたい」って言って、予め二人分のセリフを考えてくれたんだ。しかも3パターンもね。そして、タイミングを見計らって登場したんだよ。けど、結果は春人くんの優しい後輩扱い。だから……」


「そ、そんな事は言わなくていいのっ!!」



 途中から手をバタバタと動かしていた愛琉さんがついに未羽さんの口を抑えた。

 そうか。登場時のセリフを、しかも3パターンも考えてタイミングまで考慮した結果、俺は後輩扱いしてしまったわけか。それは何と言うか、本当に申し訳ない。

 けど、セリフが全部で3パターンあるなら他の2パターンがあるはずだ。どうせだったらそれも聞かせて―――



「……春人。今、余計な事考えてるでしょ」


「えっ!? いや、考えてないですよ!? ただ、愛琉さんの考えたセリフ、他のパターンも聞いてみたいなって……」


「そ、それが余計な事なの!! それと私の事は愛琉さんじゃなくて愛琉よ。あ・い・る。分かった?」


「分かりま……分かったよ、愛琉」


「はい、よく出来ました」



 愛琉が立ち上がり机越しに俺の頭を撫でようとするので、俺は反射的に頭を彼女に近づけた。そして撫でられる頭。少し顔を上げてみると彼女は満足そうな笑みを浮かべている。

 とりあえず機嫌は直してもらえたようだ



「さて、早速だけどこれから、キミ達の修行に取り掛かろうか」


「取り掛かろうかって、授業はどうするの? 私たち、まだ午後の授業が残ってるよ?」


「ぬーちゃん達には既に報告してあるから問題ないよ。それにこれから取り掛かる「実戦」だからね。ほら、授業でもよく行うだろう?」


「実戦って……まさか……」


「そう。ボクか愛琉が戦ってキミ達の実力を見せてもらうんだ。もちろん、キミ達はボク達の実力を知る事が出来る。お互いを知るには単純で、だけど一番手っ取り早い方法だろう?」


「それはそうだけど……」



 未羽の言っている事は確かに、これから協力してもらう上で知るべき事を知れる有効な方法だと思う。だから俺が渋ったのはその意見に反対だからではない。その思い切りに、ただただ驚いているのだ。

 そんな俺の心情に気付いているのか否か、後ろから良太の元気な声が発せられ耳届いた



「おもしれぇじゃねぇか!! だったら俺が戦うぜ」


「えっ、ちょ、良太!?」


「俺も未羽たちがどんだけの実力を持ってんのか気になってるんだ。それに今は、強くなるために何かがしたい。だからやろうぜ、バトル!!」


「ふふっ、面白いね。その元気爆発って感じ、キミが良太くんだね」



 未羽が立ち上がり出入り口へと歩いて行く



「さぁ、それじゃあバトルフィールドへ行こう。そうだね、時間も無いから今回のバトルは1戦だけ。特待生側の代表、良太くん。キミのお相手はボク「未羽」だ」



 そう言って彼女は小さく微笑んだ



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ