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お化け少女と契約《エンゲージ》  作者: 探偵コアラ
お化け少女と契約《エンゲージ》Ⅱ
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第64話 カードロードシステム

 俺は、外を見ていた。教室から窓を挟んで青い空やいくつのも建物、緑の木々が視界に入ってくる。その景色に不思議と安心感を抱いていた。それはどんどん眠気へと変わり、心地よい睡眠へと誘っていく。

 要約すると、俺は寝ようとしていた。机に伏せ、身体の力を抜き、意識をどこかに飛ばしていく。徐々に周囲の音や声が遠ざかって……。

 しかし、そう上手くいかなかった



「みなさーん、こちらです。こちらに集合してくださーい」


「………………」



 外からメガホンによって拡声された声が聞こえた。ゆっくりと首を動かし、グラウンドに目を向けてみる。すると、普段なら体育の授業や魔法の実習が行われるその場所は、今日に限っては違う一面を見せていた。

 生徒の姿は一切ない。代わりに学園の教師や白衣を来た大人達が数十人も歩き、建物内部に入っていく。

 白衣を着た彼らの顔に見覚えは無い。学園外部の人間である事は明らかだった



「………………」


「すげぇよな、この人の数。あの白衣を来た人たちって魔法とかディレクトリとか、その他もろもろ……何かしらの研究者なんだってよ」


「良太……」


「へへっ、自習―――もとい、睡眠の時間は終わったぜ、ハル。これからは、昼飯の時間だ」


「あぁ、そっか。もう終わりか」



 「おうよ」と笑った良太が手に持った弁当箱を見せてきた。正面の時計を見れば、確かに授業が終わる時間を過ぎている。どうやら終了に気づかなかったようだ。

 カバンから弁当箱を二つ取出し、机の上に乗せる。すると、後ろから誰かに抱きつかれ、軽い衝撃に身体が揺れた。

 首元の腕を見てみる。細くて適度に柔らかい腕。間違いない、それは弥生のモノだった

 


「ハール!! 早く屋上に行きましょう。私、お腹空いちゃいましたよ」


「っと、そうだな。それじゃあ、行こうか」



 俺の声に弥生、良太、鈴の三人が頷き、俺達はざわつく教室を後にする。屋上に着いたのは、その5分後の事だった



☆     ☆     ☆     ☆     ☆



 屋上に到着するとそこには多くの生徒が集まっていた。

 手作りの弁当、家庭科で作った料理、購買での戦いで勝ち取ったパンやおにぎり達。それぞれに食べるものは違えど、昼食時間を満喫している事に変わりはない。

 いつも通りの光景。そんな中、こちらに気付いた二人の少女が大きく手を振っている。陽花さんとゆずだ



「あっ、ハルさん達が来たみたいですよ」


「ホントだ。みんな、こっちこっちー」



 集まっている生徒数が多い事もあって、位置を知らせてくれること自体はありがたい。だがこの状況だと、その声は必然的に多くの生徒に聞かれる事になり、同時にその視線がこちらに向けられる。

 特に目立ったのは男子生徒の視線だった。普段とは違う、言ってみれば「刺さるような視線」に苦笑いで対応しつつ、俺達は陽花さん達の元へと歩いて行く。

 彼女たちが集まっているベンチには陽花さんとゆずの2人とリク、それに加えて氷河も座っていた。すると俺の後ろを歩いていた良太が前方に飛びだし、声を張り上げた



「って、おい、氷河!! なんでお前、もう陽花さんやゆずと一緒にいるんだよ!! ズルいぞ、この野郎!!」


「フッ、俺はたまたま会って合流していただけだ。お前の言う事など知った事か」


「クールに対応しやがって……。チクショウ、今度は俺が先に合流してやるからな、覚えとけ!!」


「先にって……良太、具体的にはどうするんだよ」


「授業を15分前に切り上げる。屋上に来る。ここのベンチでスタンバっとく。ほら、完璧だろ?」


「そんなのダメに決まってるでしょうが!!」



 鈴が良太の頭にツッコミの衝撃を加え、黙らせる。それを見て、陽花さん達が笑っていた



☆     ☆     ☆     ☆     ☆



「そう言えばよ、なんで今日は研究者達が集まってんだ? ここでなんかあるのか?」



 食事を終えた良太が言った。その正面で同じく食事を終えたゆずが胸の前で「ごちそう様でした」と両手を合わせ、箸などを片付けながら、その質問に答えた



「今回、この学園で「魔法のカード化」に関する研究が久々に進んだんです。なので、その成果公開をしているんですよ」


「魔法のカード化……?」


「魔法のイメージを専用のカードに書き込んだり、カード内に記録された魔法を性能を少し弱めて、一時的に使える様にする技術の事だよ。例えば、良太くんが≪ハイ・アクセル≫をカード化したら、そのカードをロードする事で、良太くん以外の人も一時的に≪ハイ・アクセル≫を使える様になるの」


「この技術は数十年前、とある遺跡で見つかった「カード」を解析して発見された、遥か昔の技術なんです。それ以降同じモノを作ろうと研究はされていますが、発掘された「オリジナルカード」と同性能のモノは未だ未完成なままで」


「そんなに難しいのか?」


「「オリジナルカード」は元の魔法の8割程の力を発揮するのに対し、現代の技術で作った「レプリカ」は元の魔法の5割程の力を発揮します。つまり、同じ魔法を使う際、レプリカよりオリジナルカード、オリジナルカードより元の魔法の方が強いという事なんです」


「「カード化された魔法と使用者との相性がよくないと使えない」ってデメリットは同性能なんだけどねぇ。強さ的なモノはどうしても越えられないし、同じにもならない。あっちの方が強力になっちゃうんだよ」


「うーん、なんか難しい話し過ぎて俺にはよく分かんないッスけど、昔の技術力って相当すごかったって事ッスよね?」


「そういう事かな」



 良太の辿りついた結論に俺も同意だった。

 現在では届かない過去の超技術。それはつまり、過去のファンタジアが今と同じか、またそれ以上に発展していたという証拠だ。そもそも、そんなに前からこの国は存在していたのだろうか。そんな頭の中に思い浮かんだ



「……というかサル。最近研究が進んだという話題は生徒内でも割と広まっているモノだぞ? まさかとは思うが、お前、知らなかったのか?」


「えっ? あ、あぁ、知ってる知ってる。すげぇ知ってるさ。ただちょっと聞いてみただけだよ。あは、あはは……」


「お前……。変な話しは聞き付けるくせに、こういう話しに関しては情報が遅いのだな」



 良太の分かりやすい反応に氷河が小さくため息をついた。正直な所、俺もこの話題に関してはあまり知らなかったので、氷河と同じ反応が出来ず内心で苦笑した



「そ、そういえばさ。カード化した魔法って言っても、魔法は魔法だろ? どうやって使うんだろうな?」


「あっ、それに関しては多分、実物を見てみた方が早いですね。午後の自習の時間に行ってみましょうか」


「見に行くのか? 生徒の俺達がこのタイミングで?」


「はい、そうですけど……?」



 俺の質問にゆずが不思議そうな顔をした。

 今、この学園には大勢の研究者たちが研究の成果を見る為に集まっている。もしかしたら俺達が知らないだけで、その道の専門家なら誰もが知っている様な有名な人物も訪れているのかもしれない。

 そんな中、ただの生徒である俺達が一緒になって見て回れるとは到底思えるはずもなかった



「なぁゆず、行ってみるのはいいけど流石に見れないんじゃないか? 今は研究者さん達が見てるわけだし、俺達生徒が彼らと一緒に見れるとは思えないけど……」


「あっ、気にしてるのはそういう事? それなら心配はいらないんじゃないかな?」


「どうしてですか? もしかして、こんな場面で特待生って何か特権とかあったり……?」


「うーん、それは分からないけど、ちゃんと見せてもらえると思うよ。だってその研究には少しだけど、私やゆずちゃんも関わってるからね」


「えっ……えっ……えぇぇ!?」



 青い青い空の下、屋上にいる全ての生徒の視線が俺達に向けられた



☆     ☆     ☆     ☆     ☆




「これがそのカードだよ」


「これ……ですか」


「うん。、あぁオリジナルは第1研究室にあるから、ここにあるのは全部レプリカだけどね」



 差し出されたそれを手に取った。軽い金属製のカード。IDカードや電子マネーカードと同じくらいの大きさだった。中心部分には透明な小型の球体が埋め込まれており、銀色のボディによって機械的な印象を受ける。


 陽花さん達に案内されたのは、学園の「研究室」だった。

 何でもこの部屋は第3研究室らしく、今来客者のいる第1研究室とは数メートル離れている。その影響か、部屋の入口付近も含め俺たち以外は誰もいなかった



「これってもう魔法は入ってるんスか?」


「それにはまだ入ってないね。えーっと、これには入ってるかな」



 陽花さんが周囲を見渡し、1枚のカードを手に取った。それは他のカードと殆ど同じだが、中心の球体が透明ではなく青色になっており、僅かに光り輝いている



「その球体が光ってたら魔法が入ってるって事なんですか?」


「そうだよ。その球体―――「コア」って言うんだけど、それが点灯してれば魔法が入ってるって証拠。ちなみにその色にも意味があって、カードを手に持ってコアの色が青のままなら相性が良いって事で、カードに入ってる魔法が使える。その逆で、赤に変わればその魔法は使えないって意味があるの」


「じゃあ、このカードの魔法を俺は使える……?」



 陽花さんがコクリと頷いたのを見て、俺は再びカードに視線を向けた。

 表面だけでなく側面や裏面も見てみるが、スイッチらしきものは見当たらない。この状態で、一体どうやって魔法を発動するのだろうか。そんな事を考えた時、ちょうど同じ事を思考していたらしい良太が、他のカードを手にしながら言った



「これ……スライド式のスイッチがあるかと思ったら無いんスね。どうやって発動させるんスか?」


「あっ、えーっと、それはですね……」



 ゆずが彼に近づき、説明をしようとした―――その時だった。

 突然室内にサイレンが鳴り響き、俺達の耳に伝わってくる。耳を澄ますと、どうやら校内全体で鳴っているようだった。しばらく沈黙してみるが、10秒経っても鳴り止まない。作動ミスといった感じはない。

 それはつまり―――



「何かあった、って事か」



 カードを机に置き、その場のみんなと視線を合わせた。考えは一致していたようで、全員が一緒に頷く



「ハル。何だか私、嫌な予感がします」


「あぁ、俺もだ。とりあえず……問題のありそうな場所に行ってみるか」



 その一言をきっかけに、俺達は研究室を後にした




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