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お化け少女と契約《エンゲージ》  作者: 探偵コアラ
お化け少女と契約《エンゲージ》Ⅱ
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第63話 情報屋

 少女が一口、ココアを飲んだ。すると「わぁ」という歓喜の一言と共に、もう一度口を付けごくごくと飲んでいく。それが空っぽになるまで、大した時間は必要なかった。

 数十秒で中身は無くなり、飲み干した少女はハッとして恐る恐る前を見る。そこいるのは優しい笑みを浮かべる京也さん。彼は飲み終わった事を察し、右手の人差し指を立てた



「美味しかったみたいだね。もしよかったらもう一杯、飲むかい?」


「……うん!!」



 少女は大きく首を縦に振った。京也さんは近くにいた店員さんに声をかけ、追加注文を行う



「すいません、ホットココアを一つ下さい。それと……春人くん達はどうかな?」


「あっ、俺達は……大丈夫です」


「そう? それじゃあ、ココアだけお願いします」


「かしこまりました」



 注文を受けた店員さんが紙にメモを取り、店の奥へと歩いて行く。

 視線を向けてみると数十分前まで怯えていた少女の顔色はすっかり良くなっていた。京也さんと彼女の目が合うとお互いに頬が動き、ニカッと笑う。

 それはさっきまで初対面だったなんて思えない程の仲の良さで、正直驚いていた。それこそ初めは、何か魔法を使っているのかと思ったが、その様子は全くない。

 ただ彼は、まるで友達と話すかのように少女と親しくしただけだった。たったそれだけで、彼女の怯えはどんどん無くなり、今のこの状況に至っていた


 注文したココアがきたのは1,2分後だった。再び目の前に置かれたココアを見て少女が瞳をキラキラさせる。

 京也さんが「どうぞ」と言うと、両手でカップを持ち、口へ運んだ。今度は一気に飲み切れなかったものの、口を離すと満足げな表情がそこにあった



☆     ☆     ☆     ☆     ☆



 その後、少女の母親が迎えに来た。

 事情を聞くと、少女は犬の散歩中に興味本意であの路地裏に行った際、そこに集まっていた男達に囲まれ、あの状況になっていたらしい。

 京也さんは少女に軽い注意をすると、最後には笑顔で彼女達に別れを告げた。

 それから俺達は、彼を加えて再び寄り道をしている。

 今訪れているのは、京也さんがよく来るという喫茶店だ。偶然にもお客は俺達だけだが京也さんによると、もう一時間もすると人が一気に増えるらしい。

 そんな話しをしつつ、ついさっき状況を話すと、京也さんは「うんうん」と頷いた



「なるほど。春人くんはあの子を助けようとしていたのか。それは、ちょっと悪い事をしちゃったね」


「いえ、結果的にあの子が助かればそれでよかったんで大丈夫です。それに俺があの場に出てたら、被害の出ない抑え方は出来なかったかもしれませんから」


「ほほぅ。それは力が強すぎる……からかな?」


「ち、違いますよ。そういう事じゃなくて……」


「ハハッ、ごめんごめん。キミの言いたい事は何となく分かるよ。僕を評価してくれた結果の言葉だったんだよね?」



 コクンと頷くと、京也さんは「ありがとう」と言ってそのイタズラな笑みを緩める。どうやら、からかわれていたようだ。何とも言えない心情になりながら、俺は苦笑しため息をついた



「そう言えば京也さん、何であんな所にいたんスか? 今まで街中じゃ見た事なかったッスけど……」


「僕だって街中を歩くことくらいはあるさ。けどまぁ、今回の件に関しては「任務」だったんだよねぇ」


「任務……ですか?」


「あぁ。あの男たちは、前々から問題を起こしている集団でね。僕の所属している組織でターゲットになっていたんだ。そして今日、街中で見回りをしていたら見つけたから捕捉した、というわけさ」


「あの、組織ってもしかして、ラグさんの所属してる「絆」ってチームですか?」


「えっ?」



 俺の何気ない質問に京也さんは明らかに驚いた。けれどそれは「マズイ」というようなマイナス的なモノじゃない、純粋な驚き。

 2,3秒の沈黙に良太たちも雰囲気の変化を感じ取ったのか「アレ?」といった表情を浮かべた



「へぇ、驚いたな。その事はラグさん本人から?」


「はい。少し前、ラグさんにリンクコネクトについて教わった事があるんですけど、その時に話しを聞きました。何でも魔法国の手伝いをしてるとかで。詳しくは聞けなかったですけど……もしかしてこれって、極秘だったりしました……?」


「極秘ってわけじゃないけど、一応非公開事項だね。少なくとも、一般の人たちが知っているような事ではない、というのは確かだ」


「えーっと、それってどういう事ですか?」


「……まぁ、キミ達なら問題もないか」



 弥生の問いに、京也さんの表情が変わった。真剣なそれはさっきの気軽な雰囲気とはまるで違う。きっとこれが仕事中に見せる顔なのだろう。そんな事を考えていると、彼の説明が小声で始まった



「キミ達も知っての通り、僕は情報屋だ。けれど、普通の情報屋じゃない。この国の政治を動かす組織、ファンタジア政府と関わりのある情報屋なんだよ」


「関わり……?」


「そう。政府に事件や問題に関しての情報を提供し、それが軽度なモノであれば解決する。それが僕らの仕事だ。それに対して、ラグさんのチーム「絆」は、集めた情報を元に直接ターゲットと戦ったりして問題を解決する。つまり、僕らが「情報」を集め、ラグさん達が「戦闘」によって解決する、と言ったところかな」


「じゃあ、京也さんとラグさんは別の組織に所属しているって事ですか?」


「そういう事だね」



 京也さんが再び頷いた。すると、今度は良太が不思議そうに首を傾げた



「けど、なんでそれを隠してるんスか? 別に知られてマズイ事じゃないと思うんスけど」


「隠しているというより、言う機会がないってだけかな。街の人々にわざわざ言うような事でもないしね」


「まぁ、確かにそうッスね」



 納得した良太が苦笑した。それから京也さんは腕時計に視線を向け、「こんな時間か」と言葉を漏らす。

 するとそのタイミングで店の入り口のドアが開いた。数名の男性客がスーツ姿で入店し適当な場所に座る。

 どうやらお客が増えてくる時間帯になったらしい



「さて、時間も時間だし、そろそろ外に出ようか。マスター、今日はごめんね。その分、今度来た時に注文させてもらうよ」



 入店して何も注文しなかった事を謝ると、店主の男性は右手を構え、グッと親指を立てる。口数は少ないが、良い店主さんなのだろう。今度また来てみるのも良いかもしれない。

 そんな事を思いながら、俺達は店を後にした



☆     ☆     ☆     ☆     ☆



「そう言えば最近、この辺りで怪しい男を見かけたって情報があったんだ。キミ達なら大丈夫だとは思うけど、念のために伝えておくよ」



 そんな一言を区切りに、俺達は京也さんと別れた。彼にはまだ見回りの仕事が残っているらしく、数十秒もしないうちにその姿は人々に紛れ見えなくなっていた。

 一方の俺達はというと、時間も時間という事で帰宅する事になっていた。もし何かしらの目的があったのであれば話は別なのだが、今回は自由気ままに街を歩いていただけだったので、その意見に誰も首を横に振る事は無い



「それにしても、裏で活躍する情報屋か。フッ、なかなか良い職業だな」


「あー。お前好きそうだもんな、そういうの。あの話し聞いて、やっぱり憧れたりするのか?」


「己の将来の事はまだ分からないが、選択肢の一つとして十分アリだとは考えている。なんせ裏での活動だからな。それだけで、何故か無性に笑みがこぼれてくるだろう?」


「いや、ソイツはちょっと分かんねぇかな」



 氷河の微笑に良太が苦笑した



「そう言えば京也さん、最後に言ってたね。怪しい人がいるかもって。もしかして見回りって、その人を探すためのモノなのかな?」


「それは分からないですけど。でも注意はした方がいいですね。なるべく誰かと行動する、とか」


「そうだな」



 ゆずの提案に相づちを打ちながら空を見上げた。オレンジ色に染まった空は、もうすぐ漆黒の夜空へと変わる。思えば風も少し冷たくなってきていた。

 季節が急に変化するこのファンタジアでは、それ自体は珍しい事ではない。けれども、この寒さはそういうモノとは違っていた。自分の感じた感覚に謎を抱いた―――その時だった



「ッ!!」


「あっ、すいません」



 目の前を歩いて来た人と肩がぶつかった。相手は成人男性らしく、少し身長が高い。帽子で顔が隠れており、「もしかして怒ってるかな……」と内心不安になる。

 しかし、彼はこちらを振り向く事もなく言った



「心配は無用だ。私の方こそ、考え事をしていた。すまなかった」



 彼はそれだけ言うと、そのまま歩いて行ってしまった。結局顔を合わせる事もなかったが、声色からして怒っている様子ではない。その事にホッと一安心する



「ハル、どうかしたんですか? もしかして体調が悪い……とか?」


「いいや、何でもないさ。ちょっと考え事をしてたんだよ」



 不安げな表情を浮かべる弥生に軽く笑い、元気だとアピールをしながら学園へと足を進める



「…………なるほど。今のがファンタジア学園の特待生、か」



 そう。この時俺は、何も知らずに学園へと足を進めていた

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