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お化け少女と契約《エンゲージ》  作者: 探偵コアラ
お化け少女と契約《エンゲージ》Ⅱ
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第61話 氷河の気持ち

 魔法機械兵マジックゴーレムの掌から黒い弾丸が放たれた。ヒュンという特徴的な音と共に数メートルあった距離を詰めてくる。

 それに応じて後方へと飛躍すると、弾丸は地面に当たって破裂し、その場に砂煙が漂った



「くっ……!!」



 反射的に目を細める。

 慣れてきたとはいえ、洞窟内、しかも時間帯が夜である事から視界はあまりよくなかった。そんな状況で発生した砂煙だ。厄介と言わざるを得ない。

 無闇に動く事が出来なくなったまま辺りを見渡した。狭まった視覚だけでなく聴覚も使い、起こるであろう変化を見逃さない様にと心掛ける。

 重量な機械が地面を駆けている事は分かった。その音の源は前方から左側へと移動し、最終的には後方へと変わっていく



「…………」


「『……ッ!! ハルッ!!』」



 先に反応したのは弥生だった。彼女の声に合わせて振り向くと同時に、カリバーから≪プラズマ・ショックウェーブ≫を放って攻撃を仕掛ける。

 しかし、命中したのはゴーレムの本体ではなかった。数分前と同じように、直撃の感覚と共に小さな爆発が発生する。それが弾丸である事はすぐに分かった。

 歯車の回転音が鳴り響き、頭上にうっすらと黒い影が現れる。それは徐々に大きくなっていき――



「チッ!!」

 


 軽く舌打ちをしながら、降り降りてくる影をカリバーの刀身で受け止めた。身体を駆け巡るのは大きな衝撃。

 ゴーレムの腕を使った攻撃は「リンクコネクト」によって強化された全身を使っても完全には防ぐ事が出来ず、跳ね返す事も出来ない。

 だが、それはチャンスでもあった。今ならば、ゴーレムの「位置」で迷う事なく攻撃を仕掛けられる



「っ!! りょ、良太!!」


「はいよっ!!」



 俺の後ろから飛びかかった良太がディレクトリ「アロンダイト」を頭上に構え、ゲージを一つ消費した。

 刀型であるその武器の刀身は、紅の炎に包まれ燃え盛る。そして



「≪フレア・スラッシャー≫!!」



 それは勢いよく振り下ろされた。金属と金属がぶつかり合う音と共に、良太の攻撃がゴーレムの頭部に直撃し、同時に小規模な爆発が発生する。

 切断こそ出来なかったが、かなりの威力だった。反動で良太の身体は吹き飛ばされたものの、上手く態勢を立て直し着地。

 一方のゴーレムはその衝撃に耐えられず、大きな足を動かして数メートル後退した。

 生まれた「チャンス」、それを彼女たちが見逃すはずもない



「≪アイアン・スラッシャー≫!!」


「≪グラビティ≫!!」



 気づけば、ゆずが空中へと飛躍していた。そのままグングニールを振りおろし、ゴーレムの頭部に再び打撃が与えられる。

 するとその衝撃によって足部が地面に埋まり、下部の動きが止められた。

 その瞬間だった。かかる重力が強くなり、その巨体の動作が封じられる。



「ハァ……ハァ……。これで、アイツの動きは封じたな」


「あぁ。けどよ、この状態で戦うってのは、さすがに持たねぇんじゃないか?」


「まぁ、確かにな。けど、仕方ないさ。どう考えても、硬すぎる」



 苦笑する良太に同じ表情を見せながら頷く。

 俺たちがやっているのは、あくまで時間稼ぎだ。時間が長引けば長引くほど、魔力は消費され、こちらが不利になっていくのは目に見えている。

 だから、本来であれば早く倒してしまうのが得策なのだろう。

 しかし、ゴーレムの防御力は予想以上に高かったのだ。思現機に魔力を送るという制約を受けながら、それをするというのは、今の俺たちにとってかなり難しいのは明らかだ



「ゲージを一個使った≪フレア・スラッシャー≫でも後退するだけだったもんな。ったくよ、あの硬さは一体どうなってるんだ?」


「ゴーレムは実験機とはいえ、政府さんが制作しているはずです。それなりの費用や労力が使われるのに、手抜きして作られているとは思えません」


「つまり、防御性能が良い素材を使ってあるって事か……」


「そういうことになります」



 合流したゆずが言った。顎に手を当て、考える。政府という大きな組織が動いて作っている様なモノだ。

 工事現場という環境も考慮して、良太の攻撃を軽く耐えるぐらい頑丈に作られるのは当たり前と言えるだろう。

 しかし、納得できないのはそこではなかった。防御力の高さじゃない疑問が、再び俺の頭の中に過る。

 それは――――



「どうして、こんな場所にアレがあるんだ……?」



 小さく呟いた。その瞬間だった



「……えっ?」



 思わず、目を疑った。轟音と共に天井が砕け散り、射す月の光量が増加する。そして、それ同時に巨体が降ってきた。

 カラーリングは少々違えど、今俺たちの目の前にいるモノと外見に大きな違いは見られない。

 違いを挙げるなら「地面に埋もれていない。≪グラビティ≫の影響を受けていない」ということぐらいだろうか。

 それは大きな歯車の音を鳴らしながら、ゆっくりと顔を上げていく



「二体目の……ゴーレム……?」



 言葉にしながら脳内で事を整理する。恐らく予想は間違いなかった。

 腕に取り付けられている丸い装備。

 掌には弾丸を放つための発射口。

 大きさも目測だが殆ど変りない。

 それらから考えるに同種機なのだろう。

 すると、二体目のゴーレムが掌をこちらに向けた。稼働する各部の部品。それが弾丸発射の合図だという事はすぐに分かった。

 俺は良太達と目を合わせて頷き合い、カリバーを振り上げて攻撃態勢に入る。そして弾丸が発射されると同時に振り下ろした。

 しかし



「出……ない……!?」



 ≪プラズマ・ショックウェーブ≫が放たれることはなかった。焦りながらもう一度構えて、再び振り下ろすものの、技は出る気配すら見せることない



「ど、どういうことだよ、これ!!」


「『分かりません。けど……ハル!!』」



 弥生の声にハッとした。気づけば、弾丸はゴーレムから放たれ、こちらに向かって飛んできている



「くっ……!!」


「≪アクア・パージェスト≫」



 すると、異変を感じた陽花さんが代わりに技を放ってくれた。生成された水球は誘導弾として飛んでいき、黒い弾丸と衝突する。

 水は衝撃によって固体を失い弾け飛んだ。同様に弾丸も破壊され黒い部品が地面に落ちる。だが、今度の攻撃はそれだけでは終わらなかった



「なっ……ッ!?」



 宙を舞う水。その中を一つの物体が突き抜けていく。

 その小型の弾丸が、さっき破壊した弾丸の中に仕込まれていたのは明らかだった。

 迫る弾丸に対応しようとするものの、魔力の供給や戦闘によって疲労している身体が動くまでには微妙な誤差があり、一瞬の痛みが動きを鈍くしてしまった。

 間に合わない。そう思った、次の瞬間―――


 肌にひやりと冷たさを感じた。それとほぼ同時に地面が凍てつき、まるでスケートリンクの様な光景が目に飛び込んでくる。

 あの弾丸も凍結し、爆発する事なく転がっていた



「す、すげぇ……」



 唖然としながら、良太が言う。まさにその言葉のとおりだった。

 一面に広がる透明感のある青いフィールド。それは、さっきまでの洞窟内の光景とあまりに違いすぎる。その強力さ故に、二体のロボットも足が凍らされ身動きができない状態にあるくらいだ。

 そうして状況や強力さを確認したところで、俺たちは後ろを振り返った。

 この魔法の使用者は予測出来ている。だから、感謝の意をしっかりと込めて、その使用者に微笑みかける



「ありがとな……氷河」


「…………」



 一瞬視線が合ったかと思うと彼はすぐに目を逸らした。

 そんな彼を見て思わず良太や陽花さん、ゆずと顔を会わせて笑ってしまう。すると



「……!?」



 背後から何かが割れる音がした。結晶やガラスが割れる様な軽くて鋭い音。

 その直後には重圧を感じさせる足音が数回響き、洞窟の奥へと伝わっていく。

 ゴーレムの凍結が解除されていたのだ。

 彼らは、弾丸が無意味と判断し接近戦を考えたのか、まだ氷晶の残る足で、こちらとの距離を縮めていく



「(くそっ!! 今の状態じゃ満足に戦えない。この状況……どうする……!?)」



 歯をくいしばり思考を巡らせる。その時だった



「…………おい、そこのサル。火炎型のバリアーを用意をしろ」



 落ち着いた、けれど優しさのに氷河の声が響いた



「ハァ!?誰がサルだ、誰が!! ……ってバ、バリアー?」


「そうだ。お前の持っている防御技で、水上達を覆え。念のため魔力ゲージも使っておいた方がいいだろう」


「ちょっと待ってくれ氷河。良太だって疲労してるんだ。それじゃあ、アイツらの攻撃は……」


「アイツらの攻撃を、防ぐ必要はない」


「えっ……?」


「お前が防ぐべきは……俺の、魔法だ」



 刹那、洞窟一帯に冷たい空気が吹き荒れた。空中では雪が飛び交い辺りが白に包まれ始めている



「あの、氷河さんっ!? これって……」


「いいから黙っていろ。これは俺も初めて使う技だ。集中していないとコントロールが乱れる」



 氷河は歯を食いしばっていた。

 吹き荒れる雪は次第に勢いを増していき、辺りの岩を凍らせている。

 その威力によってゴーレムの身体は全体が雪に覆われ、その動きはかなり遅くなっていた。

 良太がバリアーを張って辛うじて逃れているものの、それが無ければ俺達は、今頃凍りついていたかもしれない



「一応≪フレイム・ガードフィールド≫は発動したけどよ……。何なんだ、この威力は。アイツ、こんな隠し玉持っていやがったのか?」


「それに関しては分かりません。でもこれが、氷河さんにとって「切り札」であり、かなり高位の氷結魔法だという事は間違いないです」


「……だよな」



 ブリューナクに目を向けるとゲージが全て無くなっている。

 「フル・ブレイク」、以前俺がリベンジ戦で見せた最終手段を氷河は今使っていた。

 生まれた圧倒的な量の魔力は彼に力を与え、その切り札であろう技の威力を最大限まで引き上げようとする。

 そしてそれは次の瞬間、彼の言葉をキーとして発動した



「吹き荒れろ、凍土の嵐。煌めく雪華は氷結の刃。全てのモノを凍てつかせ、白き氷の世界へと誘え」



 そして―――



「≪フリージング・ソリッドストーム≫」



 魔法名を告げた瞬間、舞う雪全てが短剣へと姿を変え、一斉にゴーレムに向かって飛んでいった。

 衝突すると氷へと変わり、その巨体を瞬く間に凍らせていく。

 腕を振って防ごうにも、身体の動きが鈍っており、破壊が追い付いていない。

 それから数秒後、俺たちの目の前には完全に機能を停止した二体のゴーレムの姿があった



「ハァ……ハァ……。終わった……な」



 氷河が息を切らしながらブリューナクを一振りすると氷雪は使用済みの魔力、魔力粒子へと変わり消えていく。

 彼はかなり体力を消耗したようでブリューナクを手元から消すと地面に片膝をついた



「氷河!! 大丈夫か!?」


「……あぁ。あの魔法が強力だったから一気に体力を持っていかれただけだ。心配するな」


「そうか。それならよかった」



 駆け寄って氷河の言葉を聞いてホッとする。すると彼は下を向いたまま、静かに喋りはじめた



「…………水上」


「ん?」


「……俺は一樹を失ったあの日からずっと、罪悪感を抱いてきた。許される事のない罪を犯してしまったと、そう思ってきた。だが、アイツは……一樹は、許さないどころか、俺に感謝をしていた。こんな俺に「ありがとう」と言ってくれた」


「……あぁ」


「それに加えて言われた。自分の分も今を精一杯生きて欲しい、と。だからこれからは俺なりに自分の人生を、精一杯生きていこう思う。その為に―――」



 氷河は立ち上がり、こちらを向いて右手を差し出した



「俺と……その……と、友になってほしい。一度はこちらから拒んだ事だが、許可してもらえないだろうか……?」


「……氷河、友達になるのに許可なんて堅苦しいモノはいらないさ。気持ちがあればそれで十分。つまり、俺達はもう友達って事だ」


「そうか。もう友……か」



 嬉しかったのか、氷河が僅かにだが微笑む。それは友達に見せる様な、初めて見る柔らかい笑顔だった



「そーそ。友達は無限に募集中だからな。これからよろしく頼むぜ、氷河」


「……ふむ。なぜか分からないが、サルに名前を呼ばれると違和感があるな」


「な、なんだと!? ってか誰がサルだ、誰が!!」



 早速氷河に近寄り、眉をピクピクと動かす良太。だが対する氷河は、その状況を楽しんでいるかのように微笑している



「とりあえずこれで、一件落着……かな?」


「『ですね』」



 呟きにコネクト中の弥生が嬉しそうな声で返事をしてくれる。そんな彼女の言葉に、俺もまた笑みを抑えきれなかった



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