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お化け少女と契約《エンゲージ》  作者: 探偵コアラ
お化け少女と契約《エンゲージ》Ⅱ
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第60話 伝えたかった事

「本当に一樹なのか……?」



 声が、静かに響いた。驚きの込められた少し震えた声。呟き程度の小さなものだったが故に、すぐに薄れ消えてしまう。

 だがそれは、しっかりと彼に届いている様で、目の前にいる「菊池一樹」は優しく微笑み、氷河の言葉に答える



「うん、そうだよ。久しぶり、やっと……会えたね。氷河」



 宙を降り地に足を付けると、頬を一滴の涙が流れた。それは降り注ぐ月明かりに照らされ、一瞬だけ煌めき地面に落ちる。

 生者と死者の再会。本来であればあり得ない光景が魔法という奇跡によって、目の前で実現している。それはとても不思議な感覚だった



「ねぇ、ハルくん。あの子が前に話してた一樹くんなの……?」


「はい。彼が菊地一樹。正確にはその思念体です」


「初めまして。菊池一樹です。皆さん、今回は力を貸してくれて、本当にありがとうございました」



 礼儀正しい感謝の言葉と共に、気持ちを込めた一礼が陽花さん達に向けられた。一方の彼女達は≪リバイバル・リボーン≫の負荷に耐えながら、それぞれが笑みを浮かべる。その時だった



「……疑問に思わなかった」


「えっ?」



 突如、氷河が呟いた。俯き気味だった顔を上げ、一樹に一歩近づく。

 僅かな明かりで見えるその表情に穏やかさは一切感じられなかった。それどころか、残る驚きとは別にどこか苦悩している様にさえ見える。そして彼はその表情を変えないまま、話しを続けた



「水上からお前の話しを聞き、戦いの後に思念体の存在を確信し、ここまでやってきた。だが、事がスムーズに進むが故に疑問に思わなかった事がある。一樹、お前はどんな目的があって俺をここに呼んだんだ?」


「……はは、まず理由を知りたがるなんて氷河らしいなぁ。そんな所は相変わらずなんだね」


「誤魔化しは不要だ。単刀直入に言ってくれ。お前は……俺にどんな報いを与えたいんだ?」


「報い? 氷河、キミは何か勘違いをしているみたいだね。僕はそんな事の為にキミをここに呼んだんじゃない。分かって欲しい事があったから呼んだんだよ」


「分かって欲しい事……だと」


「うん。それはね――――」



 一樹が言ったその瞬間だった。彼の後ろで何かが煌めき、消えると同時に弾け飛ぶ。すると大きな音が洞窟内に響き渡り、衝撃によって飛ばされた小石が足元に転がった。

 数メートル先に薄っすらと見える煙。それが爆発である事はすぐに分かった。咄嗟に右腕を目の前に構え、少し遅れてくる爆風のダメージを最小限に抑える。

 


「おいおい、こりゃあどんな状況なんだよ!!」


「知らないさ。けど、あまり良い状況じゃ……ないだろうな」



 爆風が収まると共に、視線を爆発場所へと向けながら苦笑する。目に飛び込んできたのは金属製の物体だった。爆発によって広がったであろう天井の穴から降り注ぐ月光。それを浴び、独特の輝きを放っている。例えるなら「ロボット」と表現するのが的確だろう、というレベルだった



「あれは……もしかしてマジックゴーレム……」


「知ってるのか? ゆず」


「はい。ファンタジアの政府さんが提供してる魔力を動力とするロボットです。まだ試作段階で一部の工事現場なんかで試験運用されてるって聞いてますけど……」


「ここって明らかに工事現場じゃないよね」



 陽花さんの苦笑に俺も同意だった。こんな所でそんなロボットが試作運用されているはずが無い。つまり、この状況は間違いなく異常なのだ。

 そう確信した瞬間、ロボットの腕部分が稼働した。少しずつ上昇し、その手先が俺達に向けられる。鳴り響くギアの回るようなカチカチという音。そして魔法陣が展開された、その瞬間



「やべぇ!!」


「くそっ!! ≪スパークルスマッシャー≫!!」



 放たれたのは鉄製の弾丸だった。大きさは目測で俺の身長の2倍ほど。俺はその巨大な弾に右手を向け、一時のチャージ時間をおいて、電撃の光線を発射させる。その結果二つはぶつかり合い小さく爆発、再び軽めの衝撃が俺達に襲い掛かった



「くっ、少し力を溜めて相打ち……。大丈夫か、みんな!!」


「ハルくんが防いでくれたから大丈夫だよ。ありがとね」


「それならよかった。……弥生!!」


「はいっ!!」


「「リンクコネクトッ!!」」



 隣にいる弥生が「妖精」へと姿を変え、俺の右手を握った。それから光が俺達を包み込み「コネクト状態」へと変化する。瞬時に取り出したカリバーを構え、警戒態勢に入る



「俺がアイツの相手をする。みんなは≪リバイバル・リボーン≫の維持に集中してくれ」


「バカ野郎!! そういう目立つ役目、お前にだけに譲ると思ってんのかよ?」


「りょ、良太、お前何を……」


「そうだよ、ハルくん。言ったでしょ? みんなで、頑張ろ……って」


「少なくとも、人数が多い方が時間は多く稼げるはずです。お邪魔にはならないと思いますよ?」



 そんな事を言いながら、三人と二人のパートナーが俺の横に並んだ。それぞれがディレクトリを取出し戦闘準備をする。どうやら闘志は十分に高まっているらしい



「『……だそうですよ、ハル。これはもう協力してもらっちゃうしかないんじゃないですか?』」


「…………あぁもう、分かったよ。そこまで言うからには最後まで協力してもらう。みんな、頼んだぜ」



 左右を見ると全員が頷いた。それを確認してから振り向き、氷河に視線を向ける



「氷河、お前はしっかり一樹と話してくれ」


「待て水上。今はそんな事を言っている場合では……」


「思現機は一度発動させれば30分間思念体を現出させるけど、そのあとは丸一日使えなくなるんだ。だったら発動している今、しっかりと要件を終わらせておいた方がいいんじゃないか?」


「それはそうだが、だが……」


「しっかり時間は稼いでやる。だから、ちゃんと話しをしてくれ。俺達のフォローはそのあとでいいからさ」



 少々強引かと思ったが、俺は振り向くのを止め今度は正面を向いた。

 目の前には相変わらずこちらに銃口を向けているロボットがいる。万全であれば話は別だが、今は全員が≪リバイバル・リボーン≫の使用の為、魔力をそちらに送り込んでいる状態だ。装甲の外見的硬さから見て、アレを破壊するのは難しいだろう。そうなると、俺達がすべき事は一つだった



「よし……いくぞっ!!」




☆     ☆     ☆     ☆     ☆




「誰かの為に自分たちの身体を張ってでも力になろうとしてくれる。氷河、キミはとてもいい友達を見つけたんだね」



 微笑む一樹とは対照的に氷河は浮かない表情だった。それはとても分かりやすいもので、一樹自身もそれをすぐに察して、話しを進めていく



「……さて、彼らの協力を無駄にしない為に、こちらはこちらで話しを進めよう。今度は僕が単刀直入に言う。氷河、キミはもう苦しまなくてもいいんだよ」


「それは……「アレ」を許す、という事か」


「そんな大層な事じゃないよ。キミは自分に厳しすぎるんだ。だって、僕は……」


「ダメなんだ!!」



 一樹の声に氷河の声が重なった。言葉は途中で途絶えてしまい、氷河は俯き身体を震わせている



「俺はお前を殺してしまった。自分の手で、唯一の友であるお前の未来を奪ってしまったんだ。それが……許されるわけがない」


「違うよ。キミはあの時、僕の頼みを聞いてくれた。あのまま暴走していれば、きっと僕は家族も、仲間も、そしてキミだって殺してしまっていただろう。僕にとってそれは、最悪の結末だった。だけどキミが僕を止めてくれたおかげで、その結末を免れた。キミのおかげで―」


「違う!! 本当に最悪だったのは、お前が死んでしまう事だった。そして俺は、自分の手で、その最悪へと事態を導いてしまった。取り返しのつかない罪を……犯してしまったんだ」



 氷河が歯を食いしばり、拳を強く握りしめる



「だから決意した。更に強くなり、命を蘇らせる術を身に付けようと。そして、お前に再び生きてもらおうと、俺はそう思ったのだ」


「氷河……。だけどそれは……」


「もちろん分かっている。命を取り戻す魔法なんてこの世には存在はしない。だが、魔法は想像の力だ。思い続ければ、それが生まれる可能性は十分にある。今はまだ無いが、可能性は……ゼロじゃない!!」



 口調が強くなった。

 奇跡に頼るしかない生命の再生。ファンタジアの魔法史の中でも成功例を見ない魔法。

 そんな現実と彼の中の執念にも近い願いが入り混じり合い、爆発したかの様だった。

 そしてその爆発はすぐさま収まるわけもなかった



「俺は必ず蘇生魔法を完成させる。思現機に頼るんじゃない。完全なる命の再生。その術をもって、再びお前がこの世界を生きていけるようにしてみせる。その奇跡を成す強さを得る為なら、それでお前がもう一度この世界を歩めるなら、俺は例え苦しみ続けたとしても構わない」


「……そのせいで、友達が出来なくてもいいのかい?」


「当たり前だ。過去に友の命を奪った俺には、仲間を作る資格などない」



 地面へと視線を逸らし、氷河が俯く。その瞳は強い意志を秘めているものの、どこか悲しげで切なく見える。

 一樹は一度「ふぅ」とため息をつき、彼に優しく微笑みかけた



「氷河、「友達を作る」「大切にする」と言う事に資格が必要だと思うかい?」


「それは……。だが、俺は……」


「キミが心を痛める必要は無いんだよ。ずっと一人で苦しんで、悲しんで、迷い続けた。もう、終わりにしよう。だって僕は……キミに感謝しているのだから」


「感謝……? お前は俺に感謝しているというのか!?」


「そうだよ」



 一樹が笑顔で、ハッキリと言った



「氷河、今まで僕の為に頑張ってくれてありがとう。けれどこれからは、キミがキミの為に生きる番だ。過去に囚われるんじゃない。僕の分まで、今を精一杯に生きてほしいんだ。それにほら、キミだって本心では友達が欲しかったんじゃないのかい?」


「っ!?」



 一樹の言葉に氷河がピクりと反応した。それを見て「やっぱりね」と言いつつ、一樹が後方に視線を向ける。

 そこには春人達がいた。時間を稼ぐために、必死でマジックゴーレムに応戦しているが、不利な状況故、徐々に徐々に押されているように見えた



「もう一回言うよ。キミはもう苦しむ必要はない。さぁ、行っておいで。キミの仲間を、友達を助けてあげるんだ。戒めから解かれた今のキミなら、大丈夫だよね?」


「一樹……。そうか。やはりお前は……俺の最高の友なんだな」


「うん、僕も同じことを思っているよ」



 一樹の身体が少し宙に浮き、光を纏い始めた。

 それは消滅の合図。この世から思念すらなくなる瞬間の前触れ。彼は少し前に進み、氷河の元へと浮遊していく。

 それから



「さようなら、僕の最高の友達。そして……ありがとう」



 一樹が氷河に向かって倒れ込んだ。

 氷河が咄嗟に受け止めようとするも、輝きを帯びたその身体は一瞬で光の粒子へと変わり、触れる事が出来ないまま彼の身体と重なった。

 煌めきながら、空へと昇っていく粒子たち。それらは月明かりの中に溶け込み、僅か数秒で見えなくなっていく。

 氷河は拳を握りしめた。

 そして



「一樹……ありがとう」



 俯きながら、足元にいくつかの涙を落としながら、彼は小さく呟いた




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