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お化け少女と契約《エンゲージ》  作者: 探偵コアラ
お化け少女と契約《エンゲージ》Ⅱ
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第59話 一樹との再会

 授業の終わった放課後、俺たち特待生とオバケたちは第一グラウンドに集まっていた。

 メンバーが足りないという事はない。全員が揃っている。そんな光景が珍しい様で、部活に向かう生徒たちの視線を浴び続けていた



「ハ、ハル? なんだか私たち、注目されてませんか?」


「そう言えば、今まで特待生が集まった事ってあまり無かったからな、珍しいんじゃないか?」


「珍しい……ですか。言われてみれば、みんなそういう目をしてる気がします」


「弥生ちゃん、恥ずかしがっちゃダメだぜ? こういう時は堂々とするんだ。こう……スターになった気分になるんだよ」


「え、えーっと、スター……ですか?」


「そうだぜ!!」



 弥生の隣で良太が胸を張った。両手を腰に当て、顔はキメ顔をしている。少し歯を見せている辺り「ナイスガイ」とか思っているのだろう



「良太、弥生に変な事教えるなよ?」


「安心しろって、変な事なんかじゃない。これは有名人になった時の為の修行の一つだ。覚えておいた方がいいだろ?」


「いや、弥生はそんなの目指してないと思うんだが……」


「おいバカ猿、何をやっている。時間が惜しい、早く行くぞ」


「んなっ!! アイツ……俺はバカ猿なんかじゃねぇぞ!! 猿渡だ、猿渡!!」



 既にカレブトロへ歩き始めた氷河を、良太が文句を言いながら追っていく。少し前まで見られなかった光景。それが何となく不思議で、思わず笑みを浮かべた。

 すると、それに気づいたゆずが首を傾げ、俺の顔を覗き込んでくる



「春人さん、なんだか嬉しそうですね」


「そりゃあ、氷河が少しでも俺達に心を開いてくれてる訳だからな。それにもうすぐ、一樹との約束も果たせる。嬉しいに決まってるさ」


「約束……。そう言えば、「アレ」はもう借りてきたんですか?」


「あぁ、ここに来る前に沼島先生から借りておいた。バックの中に入ってるよ」



 そう言いながら、俺は手に持った黒いバックを少し掲げた。中から「カチャリ」と金属音が聞こえる



「準備万端ですね。それじゃあ一樹さんとの約束、果たしに行きましょうか」


「あぁ」



 会話を一度中断し、目的地に向かって歩き始める。時刻は4時半。空は茜色に染まり、夕日に照られた雲が独特の色をしていた



☆     ☆     ☆     ☆     ☆



 「思現機」の存在を知ったのは、つい数時間前の事だった。

 思念体はあくまで姿の無い意志のみの存在。だから、霊力の高い人間でなければその姿を視覚的にとらえる事も、話す事も出来ない。そこで開発されたのが「思現機」だ。

 これは腕に付ける機器で、魔法を使える人間が装着し魔力を一定量以上流し込む事で、一時的に特殊な結界を生み出すというモノ。その結界内では霊力の高くない人間でも思念体の存在を認識する事が出来る様になるらしい。

 言ってしまえば「霊力の低い人間が思念体の存在を知る為の機械」と言うわけだ


 そんな機械をいくつか手にして、俺達は洞窟の奥へ奥へと進んでいた。今の所モンスターの気配はない。ある意味不気味なほど静寂に包まれていた



「おいおい、本当にここなのか? 噂じゃカレブトロにはモンスターが出るって話しだったけど、全く出てこねぇじゃねぇか」


「場所はあってるはずだ。けどおかしいな。前に俺が来た時には少しだけど出てきたのに……」


「も、もしかして、隠れてたりするのかな……? ぼくたち、しらない間におそわれちゃうのかな……?」


「大丈夫だよ、リク。その時はちゃんと守ってあげるからね」



 怯えるリクを陽花さんがなだめる。それに安心したのか、リクの表情は一変し笑顔へと変わる。

 実の所、俺達も彼と同じ事を考えていた。天井などに注意を向け、不意打ちを受けない様に警戒する。けれども、異変は全く起きなかった。

 歩く音が鳴り響き、たまに発する声が最深部へと伝わっていく。それが妙な緊張感を生み出していた



「それにしても、カレブトロ洞窟か。案外広いものだな」


「氷河やゆずは来た事って無かったのか?」


「俺は無い。なんせ、この場所に用事がないからな。その上モンスターも出るとなれば、なおの事訪れる機会は減るだろう」


「私も無いですね。多分、学園内の人でも来た事があるって方はかなり少数だと思いますよ」



 二人の意見に納得するのは簡単だった。ここは特に何か施設があるわけでもなく、多少とはいえ危険が伴う場所。となれば、好んで訪れる人はそういないだろう



「確かに、俺も一樹に呼ばれなければ来る事なかっただろうからな……っと、ここだな」



 辿りついたのは以前見た事のある空間だった。あの時と変わらず、人の手は加えられていない。変化と言えば、頭上から降り注ぐ光がオレンジ色という事だろうか。あとは―――



「これは……?」



 立ち止って数メートル先の地面に視線を向けた。するといくつかの部分の土が抉られ、小さな穴が出来ている。その大きさは目測で50㎝以上。人の足跡で無いのは明らかだった。

 薄れた記憶を遡り、少し前ここを訪れた時の事を思い出してみるが見覚えは無い。それはつまり、俺がここを訪れた後に出来上がったモノだという事になる



「誰かが来たのか? けど普段人が来ることはないみたいだし、これは一体……」


「おーい、ハル。思現機持ってるか? とっとと始めちまおうぜ」


「……あぁ、持ってるよ。今行く」



 俺は良太たちに軽く手を振った。

 穴に関して気にはなるが、ここは自然に作られた洞窟だ。へこみがあってもおかしくは無いし、前に来た時に気付かなかっただけかもしれない。そんな風に考えながら、彼らの元へと小走りする。

 駆けつけると彼らは白い石の周辺に集まっていた。バックを地面に降ろし、中を手探りする。出てきたのはリストバンド型の装着機器。鉄製であり、一つの小さな赤いボタンといくつか結晶が埋め込まれている



「へぇ、これが思現機か。なんていうか……こう、地味な感じするな」


「お前から見たら地味かもしれないけどこれ、一個数十万するらしいからな。壊さない様に扱ってくれよ」


「す、数十万!? コイツ、すげぇ高いんだな……」



 機器を受け取った良太が苦笑しながら視線を向けた。それから腕に付けてボタンを押す。すると、散りばめられた結晶が青い光を放ち始めた。薄っすらと輝くそれは、微量な光度を保ちながら良太の足元に同色の魔法陣を展開させる



「え、えーっと、これで魔法が発動した……のか?」


「あぁ、それが≪リバイバル・リボーン≫の発動エフェクトのはずだ。魔法、使ってる感覚はあるか?」


「あるぜ、魔力持ってかれてるのがよく分かる。コイツァ、すげぇ魔力喰うな」


「適合魔法じゃないからな。少し無茶やってる分、消費魔力が大きいって沼島先生が言ってた」


「なるほど、そりゃ納得だ」



 話しながら、実際に機器を装着する。身体にかかる負荷はとても分かりやすいモノだった。まるで長距離を走っている様な感覚。耐え切れない訳ではないが、これをずっと維持し続けろと言われれば、流石に厳しいだろう。

 それは陽花さんやゆずも同じだった様で、苦笑いしつつこちらを見ている



「みんな……ごめんな。ホントだったら俺だけこれを使うのが理想だったけど、それだと強さが足りないらしくて」


「ううん、いいよ。ちょっと疲れるけど氷河くんの為だもん。みんなで、頑張ろ」


「私も大丈夫ですよ、春人さん。むしろ協力出来て嬉しいくらいです」


「ダチだからな、遠慮せず頼ってこいよ」


「みんな、ありがとう。……それじゃあ、氷河」



 「準備はいいか?」という意思を込めて視線を向けると、氷河もまた強い意志を持った眼差しで深く頷いた。それを見て俺は一度深呼吸する。そして



「……≪リバイバル・リボーン≫」



 魔法名を小さく呟いた。すると、四人の手首に付けられた思現機が強い光を放ち周囲の空間を覆っていく。ここが洞窟内である事を忘れるかのような、青い青い世界が瞳に飛び込み思わず魅せられてしまっていた。

 それから数秒後、世界は綺麗に弾け飛んだ。気づけば夕日がもう沈んだのか天井からかはあの時と同じ様に月明かりが射している。

 そして―――



「…………」


「ありがとう春人くん。本当に氷河を連れて来てくれたんだね」


「あぁ、約束……したからな。それよりほら、せっかくの機会なんだ。お前の望み、ちゃんと叶えてくれよ?」


「うん」


 嬉しそうな声。俺は疲労感に耐えながら笑って答えて見せた。どうやらそれを分かっているらしく、彼は複雑そうに微笑む。それから彼は視線を向ける相手を変えた。自分の隣にいる存在、白銀氷河に視線を向けた



「か……か、一樹……? 本当に一樹なのか……?」


「うん、そうだよ。久しぶり、やっと……会えたね。氷河」



 俺たちの、氷河の目の前に現れたのは、俺をここに呼び依頼した張本人

「菊池 一樹」だった

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