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お化け少女と契約《エンゲージ》  作者: 探偵コアラ
お化け少女と契約《エンゲージ》Ⅱ
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第58話 リベンジ戦の結末

 目覚めると、まるで雲の上にいるかの様な感覚だった。視界に飛び込んできたのは見慣れない白の天井。小さな窓からは、少し弱めの心地いい風が入り込みカーテンを揺らしている。外は漆黒に包まれており、所々に小さな明かりが点いていた。



「夜……っぽいな」



 疲労感を感じながら、静かに上半身を起こすとそこには弥生の姿があった。椅子に座ったまま、俺を枕代わりにして寝ているらしい。規則正しい、落ち着いた寝息。それらは熟睡している証拠なのだろう。

 起こさないように注意しながら、彼女の頭を撫でて再び天井を見上げた



「……そっか。そういう事か」



 記憶を辿るのに大した時間は必要なかった。

 頭の中に浮かぶのは、気を失う直前のぼやけた風景。激しさに終わりを見せる独特の電撃音。そして、一気に奪われていく身体の自由。それから先の事は覚えていないなかったが、それでも、大方の展開は予想出来る。

 すると、ドアが開かれる音がした。壁で隠れて見えないが、いくつかの足音が聞こえる。そして、ファンタジア学園の制服に身を包んだ女性が姿を現した。足元には幼い外見の男の子もいる



「あっ、ハルくん。目、覚めたんだね」


「えーっと、おはようございます……って感じじゃないですよね……?」


「うん。もうこんばんわ、かな」



 軽い冗談をきっかけに二人で微笑する。それから彼女―「陽花」さんはバックから取り出した携帯を操作し始めた



「良太くん達にハルくんが起きたって連絡するね。みんな、すっごく心配してたから」


「はい。お願いします」



 陽花さんが近くに置かれた椅子に座る。この保健室が騒がしくなるのは、その数分後の事だった



☆     ☆     ☆     ☆     ☆



「体調はもう大丈夫なんですか?」


「あぁ。ちょっと疲労感あるけど、特に問題は無いさ。ごめん、心配かけちゃったな」


「いえ。私もカリバーに「フル・ブレイク」を指示したわけですから」



 弥生とお互いの顔を見て苦笑した。苦笑と言っても、マイナス的な気持ちがあるわけじゃない。むしろ、その逆でなんだか少し楽しかった。そんな俺達を近くにいた鈴が見て呆れる



「まったく、フル・ブレイクなんてアンタ達も無茶するわね。あれが初めてだったんでしょ?」


「はい。なんていうか自然とあんな流れになっちゃったんですよね」


「正直魔力もヤバかったしなぁ。それにほら、やっぱり本当の切り札を使う時って全力出すものだろ?」


「……なんだか、今回のハルは良太みたいな事言うわね」


「ちょ!!俺を悪い例みたいに使うなよ!!」



 「やれやれ」とため息をつく鈴に良太が反応した



「けどよ、ハルの切り札って≪パトリオットブレイバー≫じゃなかったんだな。俺はてっきりアレが切り札だと思ってたぜ」


「元々はその予定だったさ。けど≪パトリオットブレイバー≫が効かなくて困惑してる時に、弥生が力を貸してくれたんだ。そしたら、今まで上手くいかなかった想像が出来る様になった。それで生まれたのが≪ライトニング・パトリオットブレイバー≫なんだよ」


「ま、マジかよ……」


「あぁ」



 あの時の不思議な感覚が思い出される。

 俺の想像は基本的に曖昧だ。正確に、鮮明に、美しい想像が出来るわけじゃない。それは、あの時だってそれは変わらなかった。

 だけど、何か力を感じたのだ。想像が現実を塗り替える事が出来ると、根拠も無いのに確信できた。そして、頭の中に浮かんだ「強力な電撃を纏った剣」―――≪ライトニング・パトリオットブレイバー≫を現実で使用する事が出来た。

 具体的な事はよく分からないが、それはきっと弥生のおかげなんだと俺は思っている



「出来る様になったって……。あんだけの大技、瞬時に生み出せるもんなのか?」


「魔法の強さは「意志」とか「気持ち」とか、そういうものの強さに比例します。だから、土壇場で強力な魔法を使える様になる事は、有り得ない話しではないですけど、珍しいですね。それに人によって使える魔法は違いますから、あのタイミングで自分の使える魔法を想像出来たっていうのはすごい事だと思いますよ」



ゆずが微笑みながら言ってくれた。誉められて嬉しい反面、魔法使用後の展開を思い出してしまい、素直に喜べなくなる。自然とため息をついていた



「……けど結局、勝負には負けてるんですよね」


「えっ……?」


「俺、最後の最後で倒れて負けたじゃないですか。絶対に負けちゃいけない戦いだったのに、それなのに俺は負けた……」


「えっと……ハルくん? 何か勘違いしてるみたいだね」


「勘違い……?」


「うん。ハルくんはあの勝負に負けてないよ。まぁ勝ってもないんだけど」


「それってどういう事ですか?」


「うーん、ちょっと待っててね」



 首を傾げる俺を見て、突然、陽花さんが部屋から出て行った。周囲では良太たちが何かを企んでいる様な笑みを浮かべている。それから陽花さんが戻ってきたのは5,6秒後の事だった。だけど、彼女一人ではない。その後ろには―――



「ひょ……氷河……?」


「…………」



 気まずそうに視線を逸らす氷河がいた。まだ帰宅していなかったらしく、俺達と同じように制服を着用している



「学園に残ってたのか。けど、なんでお前がここにいるんだ……?」


「それは……水上、お前に要件があるからだ」


「要件? けど、俺はもうお前とは話せないんじゃないのか……?」


「……それは違う」



 氷河は首を横に振り、俺の言葉を否定した。一度、真っ直ぐこちらに視線を向ける。そこに、いつもの冷たさは微塵にも感じられなかった。それから少しの間をおいて、彼は多少強引に口を開いた



「あの時、お前のディレクトリの刀身が砕けなければ攻撃は俺に命中していた。あの状態であれば、恐らく俺は戦闘不能になっていただろう。つまり、お前の勝利もあり得たという事だ」


「……例えそうだとしても、カリバーの刃は砕かれて攻撃は届かなかった。それから俺は倒れて、お前に負けた。これが現実。……そうなんだろう?」


「だから、それが違うと言っている。俺は、お前に勝利していない」


「……はい?」


「お前が倒れた後、戦いは閉幕した。勝者も敗者もいない、両者引き分けという形で終わったのだ」


「ひ、引き分け!? あの状況で!?」


「そうだ」



 今度の氷河は堂々としていた。結果を聞いて俺の方が動揺している。しかし、それも仕方がなかった。予想外の結果だったのだ。俺を拒絶していた氷河が、俺との関わりを断つチャンスを無駄にしている。

 何か考えがあるのはほぼ間違いないだろう。そう思いながら、彼の企みについて質問をしてみる



「……お前、何を企んでるんだ?」


「企む……?」


「そうだ。俺を拒否してたお前がそのチャンスを逃すなら、何かしら狙いがあるんだろう? 一体、何が狙いなんだ?」


「狙い……か。そ、それはだな……」



 今度は氷河が動揺し、再び視線を逸らした。口籠り、続きをなかなか話さない。俺に聞かれたらマズイ内容なのだろうか。そんな事を考えながら、俺は彼から視線を外さない。

 すると、いきなり頭に軽い衝撃が走った。反射的に頭を手で抑え、追撃に備える。しかし二度目は訪れなかった。それから攻撃された方向を見ると、俺の横まで移動していた鈴が眉をひそめてこちらを見ている



「す、鈴。何するんだよ」


「何するんだよ、じゃないわよ。そんな喧嘩腰で。あんたは良太じゃないんだから、こういう時ぐらいもうちょっと冷静になって、場を見極めなさい」


「ちょ!!だから、俺を悪い例みたいに使うなってば!!」



 数分前に見たやり取り。それが何となくだが、俺の心を落ち着けてくれる。気づけば、リクが俺の右手を引っ張っていた



「どうしたんだ、リク?」


「あのね、あのね、ハル。氷河はハルとケンカしたいわけじゃないんだよ」


「喧嘩したいわけじゃない? それって一体……」


「もう、ハルくんは相変わらず鈍いなぁ。あのね、氷河くんはキミの話し、一樹くんの話しを信じてくれたんだよ。だから、ここに来てくれてるの」


「なっ!? ……そ、そうなのか?」



 恐る恐る聞いてみると、彼はコクリと頷いた



「お前の本気を見せてもらった。偽りの心を持ち、暇を持て余すために、あそこまで力を発揮する事は無い。それは即ち、お前の話しが真実だという事。だから俺は、その話しを信頼する事にした」


「そ、それはどうも……」



 思わず軽い会釈をすると、それが可笑しかったのか弥生が微笑んだ。彼女だけではない。その場の俺と氷河以外のメンバーが全員、優しく笑ってくれる。それはきっと祝福の笑み。だから俺も笑顔で返した



「それじゃあ、早速、カレブトロに行くとするか」


「待て、今日はお互い戦闘で疲労している。洞窟に行く日程は数日後を提案しよう」


「数日後って……なんで今からじゃないんだ? 一樹に早く会いたくないのか?」


「……ハル、氷河はハルや私の身体を気遣ってくれてるんですよ。ほら、フル・ブレイクを使ったばっかりじゃないですか」


「大量の魔力の扱いに慣れていない場合、疲労はしばらく続きます。それこそ、氷河さんの言う通り数日の休養を取った方がいいですね」


「そうなのか」



 ゆずが「はい」と頷いた。確かに疲労感はある。もし今戦えと言われれば、動きは大きく鈍ってしまうだろう。自分でもそれが分かる程、身体は疲れている様だった。

 だから「分かった」と首を縦に振った



「それじゃあ明日にしよう。一日間をおけば、それなりに回復してるはずだ」


「えーっと、ハル? 氷河やゆずは数日間って言ってますけど、聞こえてましたか?」


「聞こえてるさ。けど、何も冒険に出掛けようってわけじゃないんだ。洞窟までの距離がそんなに長いわけでもない。大丈夫さ。ってわけで、どうかな、氷河?」


「……了解した。では明日の放課後、第一グラウンド前集合するとしよう」



 一瞬、躊躇いがあったものの、氷河は静かに了承してくれる。俺はようやく果たせそうな約束に、小さく安堵していた




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