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お化け少女と契約《エンゲージ》  作者: 探偵コアラ
お化け少女と契約《エンゲージ》Ⅱ
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第53話 反省タイム

 目の前で弥生が頬を膨らませた。その隣には陽花さんやリク、良太、鈴、ゆずが座っており、俺も含めて丸型のテーブルを囲んでいる。

 そんな中、運ばれてきたのはさっき注文した和菓子だった



「……それで、どうしてあんな事言っちゃったんですか?」


「だからその、つい勢いで……な?」


「「な?」じゃないですよ、まったくもう!!」



 弥生が再びむすっとして、そっぽを向いた。彼女の右手には串付きの「花見だんご」があり、目の前には運ばれてきた「みたらし団子」が2つ並んでいる。

 手作り和菓子として販売されているそれらは、スペシャルパフェと並ぶ「ブラウン」の人気商品で、メニュー表にも大きく掲載されていた。実際に見てみると、美味しそうな見た目や匂いが食欲をそそる。

 だけど今、それに手を伸ばすことは出来なかった。何故なら、それらの注文品は俺が弥生へのお詫びとして買ったモノだからだ



「あはは。弥生ちゃん、ご立腹みたいだねぇ」


「当たり前です。ハルったら、私のこと無視してお話し進めちゃうんですよ?その結果悩むことになって……自業自得です」


「うっ……それに関しては何も言い返せないな……」



 ジト目をした弥生が、愚痴を言いながら団子を頬張った。すると、その表情は一変。一気に満面の笑みになる。本気で怒っているわけではないようだ。そんな様子に内心で「ホッ」とした。

 すると、それまで静かに状況を把握していた陽花さんが口を開いた



「とまぁ、ハルくんの反省タイムは置いとくとして、問題はどうやって氷河くんに勝てるくらい強くなるか、だよね」


「えっ、そんなの特訓あるのみじゃないッスか?」


「もちろん特訓は必須だよ。でも、いつも通りの特訓をしただけじゃ短期間で強くなるのは難しいと思うの」


「いつもとは違う事をした方が良い……って事ッスか?」



 良太の質問に陽花さんが頷いた。それからゆずが小さく「うーん」と唸り、こちらに視線を向けてる



「その場合、まずは春人さんの所有魔法を見直すのがいいかもしれませんね」


「所有魔法の見直し?」


「はい。さっき対戦の映像を見せてもらったんですけど、春人さんが使用した魔法≪ボムフェルム≫は春人さん本人に合っていない様に見えました。だから、自分に合う魔法を見つけるべきだと思うんですよ」


「自分に合った魔法……か。他の魔法はどうだったんだ?」


「そうですね、≪ソニック・イレイザー≫や≪カルダルト・クラッシュ≫は≪ボムフェルム≫より合っていたと思いますけど、魔法の合ってる合ってないは使用者が一番よく分かる事なので詳しい事は何とも言えません」


「とりあえず、≪ボムフェルム≫は確実に合ってないって事か」



 机に視線を向け、あの時の事を思い出す。

 ≪ボムフェルム≫を使ったのは威力が高いという事を教科書を見て知っていたからだった。そこで使ってみたわけだが、実際のところあまり威力を発揮出来なかった。「合ってない」というのは、そういう事なのだろう。

 そんな解釈をする俺に、ゆずは「でも……」と話しを続けた



「でも、≪プラズマ・ショックウェーブ≫は合っていたと思いますよ。使ってみた時に何か感じませんでしたか?」


「言われてみれば思った通りの威力が出てたな。力を込めた感覚もあったし……あれが合ってるって事なのかな?」


「そうだと思います。そういう魔法を増やしていけば、より戦いやすくなりますよ。もちろん、氷河さんとの戦いでも有効なはずです」


「そうか。そういう事も考えないとだなぁ……」



 腕組みをして瞳を閉じ、思考を巡らせてみる。ちょうど、その時だった



「あれ?もしかして……春人くん?」


「えっ……?」



 聞き覚えのある声に顔を上げ、椅子を少しズラして振り向いた。

 そこにいたのは、この学園では見慣れない藍色のコートに身を包み、左胸に何かのバッチを付けている青年。ラグさんだった



☆     ☆     ☆     ☆     ☆



「なるほど、再戦……か。春人くんも面白い事をするね」



 話しの内容を理解したラグさんが楽しそうに微笑した。対する俺に余裕はなく、ため息交じりに言い訳をする



「うっ、自分でも無茶苦茶だって事は分かってるんですけど……」


「それでも、気持ちが前に出ちゃったんだよね?分かるよ、僕の周りの人も同じようなタイプだから」


「そうなんですか?」


「うん。シルキだってそんな感じだよ?もちろん、僕もね」



 彼は「僕たちって、似てるのかもね」と笑い、注文したコーヒーを一口飲んだ。それからカップをテーブルに置き、話の続きが始まる



「けど事情が事情なだけに、今回は負けらない。前回と同じ、今の状態で再戦をする……ってわけじゃないんだよね?」


「もちろんです。その為に自分に合った魔法を増やしてみようとは思ってます」


「「適合魔法」かぁ……。威力や使用感が変わってくるから、それは確かに大切な事だね。でも、氷河くんが相手となると、それだけじゃ勝つのは難しいかも……」


「それだけじゃ足りないですか……」



 自分に合った魔法―「適合魔法」―を増やしただけでは、氷河には勝てない。苦笑するラグさんの言葉に頭を悩ませる。すると、ゆずの表情が何かを思いついた様なものへと変化した



「あの、ラグさんから見て何か良い案ってありませんか?実戦で役に立つような練習方法なんかがあればと思ったんですけど……」


「そうだね……良い案と言えるのかは分からないけど、僕として「個人の長所を伸ばす」事をおススメしようかな」


「「長所」……ですか?」


「そう。短所の克服だってもちろん大切だけど長所―「自分の武器」を高める事だって同じくらい大切だと思うんだ。だから、それを伸ばす事を勧めるよ」


「長所……長所……。俺の長所って何なんだろう……?」


「魔法を使う上で自分を知る事は大事な事だから、本当だったらじっくり悩ませてあげたいんだけど、今回は時間がない。だから春人くん、僕から1つ提案を良いかな?」


「どんな提案なんですか?」


「僕と一緒に修行、してみない?」


「えっ?ラグさんと一緒に……ですか?」



 思わず聞き返してしまった。弥生達も同じように驚いたらしく、全員の視線がラグさんに集中している。そんな中、彼はあっさりと頷いた



「うん。誰かの為に頑張るキミ達を見てたら、力になりたくて。もちろん、これからどれだけ成長するかも楽しみだしね。どうかな?」


「もちろんお願いします。俺を……強くして下さい!!」



 俺の返答を聞いて、ラグさんが「うん。了解」と笑ってくれた。

 ラグさんの強さは前に見た事があった。ディレクトリや魔法を駆使して敵を圧倒するその姿は、今でも忘れていない。そんな彼との練習……いや、修行は今の俺にとって、とてもありがたい事だった



「それじゃあ、修行は明日から始めようか。どこか場所を借りておくから、決まり次第連絡するね」



 再びカップに手を伸ばしたラグさんは頼りになる笑顔で、そう言った




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