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お化け少女と契約《エンゲージ》  作者: 探偵コアラ
お化け少女と契約《エンゲージ》Ⅱ
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第50話 見える世界

 沼島先生の話しの後、俺達はそれぞれ寮の部屋に戻った。もうすっかり慣れた玄関を通り、少し広めのリビングに辿り着く。そしてそのままソファーに直行。軽めに飛んでダイブし深く空気を吸って、大きなため息をつく



「もう、ハル。何やってるんですか?それはお布団じゃないですよ?」


「分かってるよ。でも、たまにはいいだろ?ほら、今日は色々……あったしさ」


「まぁ……そうですね」



 弥生が苦笑いを浮かべる。それから彼女はイスに座り、こちらに視線を向けてきた



「ハル?ハルは氷河さんの過去、どう思いますか?」


「どうって……。すごく難しい問題だろうな。アイツ自身、これまでずっと罪悪感を抱いてきるわけだし。それを俺達がどうにかするっていうのは、かなり厳しいと思ってる。弥生はどうだ?」


「私も同じ意見ですよ。心の傷って、そう簡単には治らない。精神的な問題だからこそ、他人が解決するのは難しいと思ってます」


「そうだよなぁ」



 そう言いながら、仰向けになって天井に目を向ける。しばらく、静寂がその場を包み込んだ。気まずいわけではないが、手詰りな状況にまたため息が出そうになる。それを感じながら、ゆっくりと目を瞑った


 俺には、自分の手で友達を殺し失った経験がない。だから、氷河の気持ちを想像することは出来ても、完全に理解することは出来ない。

 けれども、それが当たり前なのだ。この世に同じ過去を持って、同じように生きている「コピー」された人間はいない。それぞれが違った経験を積み重ねて生きている。

だから


―「俺はお前達とは違う」―


 冷たく言い放たれたモノとはいえ、あの言葉はきっと正しいのだ



「……やっぱり、簡単に仲良くなろうなんて無理だったのかなぁ」



 止めるように意識していた溜息と共に、そんな本心が口からこぼれた。

 すると、数秒の間をおいて弥生がイスから立ち上がり、俺の隣まで歩いて来た。そのままソファーの空いている部分に座り込み、こちらの瞳を見つめてくる



「弥生……?どうし……」


「難しいとは思います。けど、そんなのハルらしくないですよ」


「えっ……?」



 弥生の声が上手く重なり、思わず喋るのを止めてしまった。しかし彼女は落ち着いた様子で、変わらず話を進めた



「さっきも言った通り、心の問題って簡単には治りません。私やハルみたいに最近出会った人なら尚更難しいと思います。でもそれって、あくまで「難しい」ってだけであって、「無理」じゃないですよね?」


「…………」


「難しいだったら可能性はありますけど、無理だったら可能性はありません。その差は大きいと思うんですよ。それに何より……ハル?友達って、なるのが難しそうだからって、諦めちゃっていいんでしょうか?」



 彼女の質問は、何か感情が籠っているとは思えない本当に純粋なモノだった。だからこそ、俺の耳にしっかり入り込んでくる。だけど、それを考える時間は無かった。気づけば、口が勝手に答えていた



「……ダメだ。なるのが「簡単だから」とか「難しいから」とか、友達にそんな事は関係ないと思う。だから、そんな理由で諦めちゃいけないと……思う」


「はい、そうですよね。ハルならそう言ってくれると思ってました」


「でも、問題があるんだ」


「問題、ですか?」


「あぁ。具体的にどうすればいいか分からないんだ。もし俺が同じ立場になった事があれば、気持ちが分かるかもしれない。でも、俺にそんな経験はない。俺は、アイツとは違うから。だから……」


「あの……ハル?」


「ん……?」


「今ハルが言ったそれって、別に普通の事じゃないですか?」



 弥生が小さく首を傾げた



「例えば私とハルだって同じじゃないですよね?陽花やリク、良太も鈴も違います。でも、私たちは友達です」


「まぁ。確かに、そうだな」


「みんな違って、分からなくて、良いじゃないですか。それぞれに見える世界を、それぞれが見て何かに気付く。人ってそうやって自分の見える世界を広げて、理解して、友達になっていくんじゃないですか?」


「……見える世界、か」



 弥生がゆっくりと頷いた。

 世界だなんてスケールの大きな話だとは思う。だけど、彼女の言っていることを間違いだとは思わなかった。それは俺自身も同意できる考えだったから。だから、それを忘れていた自分に微笑した。

 それから少々疲れている体を起こし、立ち上がった



「……確かに、俺とアイツは違う。今までの経験も、抱えてる過去も。俺はアイツの見ている世界を知らなかった。けど、それはアイツだって同じはずなんだ。アイツが知らない世界を、俺たちは知ってる。だからアイツに知って欲しいんだ。「こんな世界もあるんだ」って気づいて欲しいんだ」


「うんうん。そっちの方がハルらしいですよ。ちょっと恥ずかしいセリフな気もしますけど。だからこそ、ハルにピッタリ似合ってます」


「後半部分は余計だ、余計。……でも、ありがとな弥生。おかげで元気が出てきたよ」


「えへへ、それはよかったです」



 そう言って弥生が笑顔を見せた。その時だった。ポケットに入れた携帯が振動し、メールが来たことを知らせる。

 いくら魔法のあるファンタジアでも連絡機器であるこれは、割と多く使用される。だから連絡が届く事自体はおかしい事ではない。しかし、問題はその内容だった



「……っ?」


「どうかしました、ハル?」


「……いや。ちょっと用事が出来ちゃってさ。少し出かけてくるよ」


「外……少し暗くなっちゃってるけど、大丈夫ですか?」


「あぁ、すぐに戻ってくるよ」



 心配そうな顔をする弥生が撫でると笑顔を見せてくれる。それにホッと安心し、俺は立ち上がった



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