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お化け少女と契約《エンゲージ》  作者: 探偵コアラ
お化け少女と契約《エンゲージ》Ⅱ
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第49話 氷河の過去

 木造の階段を昇り扉を開くと、そこにはいくつかの個室が用意されていた。例えるなら、日本にもある「ネットカフェ」の様なイメージ。数回訪れた事のあるそれを思い出しながら、前を歩く沼島先生に付いて行く。


 途中で辺りを見渡してみると、いくつかの部屋の前には靴が置かれていた。どうやら他にも来客者がいるらしいのだが、さっきからそれらしい音が聞こえない。響くのは俺達の足音のみで、話し声も無ければカップをテーブルに置く音も無かった



「なぁ、ぬーちゃん。ここって人いるんだろ?なんでこんなに静かなんだ?」


「この個室の壁は防音性の高い魔法樹を加工して作ってある。だから、よっぽどの事がない限り音が漏れする事が無いだよ。それと、俺は沼島な?」


「おう!!分かってるって。略してぬーちゃんだろ?」


「お前なぁ……んまぁいい。今はそれよりも話しの方が優先だ。そら、ここに入るぞ」



 注意する気も無くなったのか、沼島先生はため息と共に話題を元に戻し目の前の部屋に視線を向ける。部屋番号であろう「005」と書かれたドアを開け、先生を先頭に俺達も続々入室する。

 個室内にはオレンジ色の照明が設置されていた。靴を脱ぎ、木で作られた床へと上がって、適当な椅子に腰を掛ける。

 椅子の配置はバラバラだった。しかしその数はちょうど8個。なかなか珍しい偶然な気がする



「というか普通、1つの個室に椅子が8個もあるか……?」


「ふふ、多分これは沼島先生が用意してくれたんだよ。ですよね、先生?」


「あぁ。水上がお前らに連絡していたのは知っていたからな。だからここで先に予約を取っておき、お前ら全員が揃ってから迎えに行ったと言う事だ」


「それってつまり、待ち伏せしてたって事ですか」


「まぁ、そう言う事になる。さて、と……」



 ゆずが苦笑いを浮かべるものの、先生は気にした様子は見せずに足を組んだ。それから机の上に置かれたメニュー表を手に取り、開いて俺たちに差し出してくる



「今日の夕飯は俺が奢ってやる。選択はパスタ、チャーハン、ラーメンから好きなのを一つ選べ」


「えっ、いいんですか……?」


「あぁ。あとから生徒に金もらうってのもダルいしな」


「おぉ!!それじゃあ、二つ以上頼んでも……」


「ちなみに奢ってやるのは一品までだ。二品目からは自分で金出せよ?」


「……へーい」



 だらしの無い返事と共に良太が渋々メニューを受け取る。茶色のカバーで覆われたそれには、様々なメニューが書かれていた。

 例えば、ラーメンだけ見てもその種類は豊富であり、「塩」「味噌」「醤油」など馴染のある味はもちろん、「チャレンネ」なんて聞いた事が無いモノまである。商品説明によると「チャレンネ」という辛味の強い食材を使ったラーメンらしい



「(へぇ、こんな食材もあるんだな……)」



 そんな事を思いながら、それぞれに注文するメニューを選んでいく。その結果、陽花さんとゆずはクリームパスタ。弥生とリクと鈴はあんかけチャーハン。俺と良太、そして沼島先生はチャレンネラーメンを頼む事にした。壁に設置されたインターホンの様な機器で連絡を入れた



「……すまないな。1,2階が結構混雑してるらしく、少しばかり遅れるらしい。お前ら、時間に問題はないか?」



 彼の言葉に全員が目を合わせ頷いた



「よし。それじゃあ飯は待つとして、その間に氷河の話しをするとするか。これからお前らに知ってもらうのは、アイツの過去についてだ」


「氷河の過去……?」


「そうだ。アイツは「他人と接する」「仲良くする」という事を避けている。だけどそれは、最初からという訳じゃない。それなりの原因があるんだよ」


「その原因って何なんですか?」


「……アイツはな、「殺しちまった」んだよ。自分の大切な「友達」を……な」


「えっ……?」



 その瞬間、思わず耳を疑った。予想外の話しに口を開けたまま固まってしまう。それから4,5秒後状況を脳内で整理してから、確認の一言を返した



「殺したって……どういう事ですか……?」


「そのままの意味だ。アイツは過去に自分の魔法で、自分の友達を殺している。具体的にいえば、氷結魔法を使って人体を凍らせ、冷死させた」


「あの……それって本当に氷河さんがやったんですか?何かの間違いと言う事は……」



 ゆずが首を傾げながら言った。それに対して先生は首を縦に振った



「当の本人もそれを認めてるんだからな。間違いないだろう。それだけなら、氷河はただの犯罪者だ。だが、アイツだって無意味にそんな事をしたわけじゃない」


「理由が……あるんですか?」


「その友達は前々から小さな「魔力暴走」を起こしていたという話しがあってな。度々大人が止めていたそうだ。しかし、アイツが友達を殺したあの日は氷河と友達、2人だけで遊んでいた」


「つまり、その暴走を止める為に氷河くんは友達を殺したんじゃないか……と」


「正確には止める為に「凍らせた」のではないかと考えている。実際、大人達が止める時も大抵動きを封じて、暴走が収まるのを待っていたらしいからな。アイツも同じ事をしようとしたんだろうよ」



 彼はゆっくりと視線を落とした。何とも言えない静寂がその場を包み込み、それぞれが悲しげな表情を浮かべる。

 以前氷河は言っていた。「俺はお前とは違う」……と。その意味が今ようやく理解出来た。

 俺は極々普通に暮らしてきたのに対して、アイツは小さな頃から「自分で大切な友達を殺した」という過去を抱えて生きてきたのだ。違うという事にも頷ける



「それから数年後、アイツはファンタジア予備学園に入学した。もちろん周りの生徒はこんな過去を知らないから、アイツの態度を見て「ただの感じ悪いヤツ」と思ってしまう。けどまぁ、お前達だけは知っておいてやってくれ。アイツにもそれなりの過去があるってことをよ」



 そう言って先生は苦笑いを浮かべた



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