表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お化け少女と契約《エンゲージ》  作者: 探偵コアラ
お化け少女と契約《エンゲージ》Ⅱ
49/141

第47話 魔法戦の決着

 春人と氷河の対戦が始まって数分が経過した。フィールドではディレクトリを使った純粋な攻撃以外にも、時折攻撃魔法が発動して辺りを爆煙で包み込んでいる。

 積極的に攻めているのは春人だった。氷河が氷の壁を作ったかと思えば、それを無理矢理削ろうとする。それがもう何度も繰り返されていた



「ハル……」



 そんな彼を見て、少女の口から小さな呟きが零れた。


『小鳥遊弥生』


 水上春人の契約者パートナーである彼女は、最前列でその戦いを見ていた。まるで祈るかのように胸元で両手を合わせ、軽く握りしめている。

 そんな彼女の肩にポンと何かが置かれた。始めに見えたのは少し大きめの右手。それから腕、肩へと視線を移し、最後は顔に辿り着く。

 弥生の知っている人物だった。魔法学の先生で、この戦いを考案した張本人「沼島哲」だ



「どうした、パートナーがそんなに心配か?」


「あっ、ぬーちゃん……」


「ぬーちゃんじゃない、沼島だ……なんて言うのも、最近ダルくなってきたな。歳のせいか?」



 冗談なのか本気なのか分からない愚痴を言いながら、彼は弥生の隣に座った。足を組み、真っ直ぐバトルフィールドに視線を向ける。そして大した間も空かず、再び質問が繰り返された



「それで、どうなんだ?パートナーが……水上が心配か?」


「それは……心配に決まってます。だって、また倒れちゃうかもしれないんですよ?それを考えたら不安にもなっちゃいますよ……」


「ふむ、だったら一つ言っておこう。それに関しては恐らく心配する必要はない」


「……どうしてですか?」


「水上が魔法を使い始めてもう一週間になる。つまり、時期的に慣れてくる頃だ。それにアイツ自身、魔力コントロールが得意だからな。以上の点から、心配は不要と判断する」


「……ふふっ。ぬーちゃん、なんだか先生みたいですね」


「みたいじゃない。先生なんだよ、一応な。それはともかく、お前はアイツを信じてやれ。契約を交わしたパートナーだろ?」


「……はい♪」



 沼島の一言に弥生は笑顔で頷いた。そんな彼女を見て沼島も安堵の表情を浮かべる。しかしそれはあくまで「表情」だけ。内心では安心なんてしていない。むしろその逆で、先ほどの弥生と同じように心配をしていた。

 だけどそれは春人の体調面じゃなくて―――



「頼むぞ、水上……」



☆     ☆     ☆     ☆     ☆



「≪カルダルト・クラッシュ≫!!」



 魔力の籠った刀身が氷の壁に直撃した。その衝撃で壁の一部が破壊され、その奥に居る使用者の姿が見えるようになる。

 飛び散る氷を目の前に春人は得意げに微笑むものの、氷河は無表情のままだった。そのまま互いに後方へ小さく飛び、適度な距離を作る。


 春人の攻撃が防御を突破したのはこれで3回目だった。それを見て流石に分が悪いと判断したのか、氷河は魔法を解除し、槍頭を地面に向けていたブリューナクを構える



「なるほど、どうやら≪フリージング・ハイウォール≫は攻略したようだな」


「あぁ。あの技は光線みたいな「遠距離攻撃」には強いけど、純粋な打撃技……「近距離攻撃」には弱いんだろう?そこさえ分かれば、あとは少し威力が高めの接近攻撃技を使っていくだけさ」


「そうか……。ならば、そろそろ俺からも攻撃を仕掛けさせてもらおう。防戦一方の茶番はここまでだ。いくぞブリューナク、ゲージブレイク」



 刹那、氷河の背後で何かが煌めいたかと思うと、青い氷の塊がいくつも現れクルクルと回転を始めた



「≪アイスキューブ・キャノン≫」



 ブリューナクが振られた瞬間、氷は一斉に回転速度を上げ春人に向かっていく。しかし彼は慌てる事も無く、カリバーを背後に構えた。ゲージが2つ破壊されて魔力が刀身に込められると、バチバチという独特の音が鳴り始める。そして



「≪プラズマ・ショックウェーブ≫!!」



 カリバーが勢いよく振り下ろされ、刃に込められた魔力が衝撃波となって放たれた。それは春人の身長程の大きさであり、地面の土を抉りながら4つの氷魂の元へと飛んでいく。

 衝突によって起こる小さな爆発。それを見る事が出来たのは魔法が放たれた4,5秒後だった。両魔法は消滅し、白い爆煙の他、空中には小さな氷結晶と微力な電気が僅かに残っている



「ほぅ、4つのアイスキューブを1つの技で打ち破ったか。ゲージを2つ使ったとはいえ、強力な範囲攻撃の様だな」


「そう……だろっ!!」


「っ!!」



 氷河がブリューナクを後ろに振りまわすと「カンッ!!」という金属音が鳴り響いた。彼がゆっくりと振り向くと、春人の姿が視界に入り込む



「不意打ちか。判断力は悪くない。だが、爆煙の中からあの速度で飛び出してくるというのは失敗だったな。煙が異様な動きを見せていたから、お前の行動がすぐに分かったぞ」


「なるほど、これでもしっかり考えたつもりだったんだけどな。まだ甘かったって事か」



 カリバーに力を込め、弾いた春人は後方へと飛んだ。しかしその距離は今までとは違い「遠距離」とはなっていない。あえて言うなら「中距離」と言った範囲だろうか。

 それに気付いた氷河は、その鋭い視線とブリューナクを春人に向けた



「どうした、距離はもう取らないのか?」


「あぁ。遠距離だと≪フリージング・ハイウォール≫で防がれる。生憎、アレを破れそうな遠距離技は持ってないんだ。だからここからは……接近戦だ!!」



 春人は地面を蹴りあげ空中へと飛んだ。そのまま氷河に向かってカリバーを振り降ろすものの、軽いバックステップをされ難なく避けられてしまう。地面が削れ、土が舞った



「ッ!!ッ!!ッ!!」



 カリバーが上下左右に激しく振られる。勢いのある「怒涛」と言えるであろう攻撃。しかしその殆どが空を切っていた。時折命中しそうになるものの、氷河はブリューナクを上手く使い、その攻撃を流していく



「ッ!!ッ!!クソッ!!ゲージブレイク!!……≪カルダルト・クラッシュ≫!!」



 痺れを切らした春人は≪カルダルト・クラッシュ≫を発動。刀身が再び輝きを放ち、それが一気に振り下ろされる。大して氷河は魔法を使わずにその攻撃を柄で受けた。衝撃が彼の身体を襲い、大きく吹き飛ばす



「くっ……」



 上手く着地し、視線を春人へと向けた。よく見て見ると、カリバーのゲージがまた1つ減っている。恐らく今の≪カルダルト・クラッシュ≫に使用したのだろう。ブリューナクの柄部分には傷が出来ており、その威力の高さを物語っていた



「まさか、ブリューナクに傷を付けるヤツがいるとはな。水上……春人か」



 春人には聞こえない小さな呟きに氷河は自分で微笑した。春人は彼にとって決して「求める強者」では無かった。≪フリージング・ハイウォール≫の攻略にはある程度時間がかかっているし、爆煙の時の様に動きに甘い部分はある。

 しかし、少しだけ違った部分があるのもまだ事実だった。「ゲージブレイク」「ディレクトリ」所有の有無では無い。≪アイスキューブ・キャノン≫を打ち破ったり、氷河の身体を吹き飛ばしたり、一般生徒ではなかなかできない事を春人はやってみせた。

 だから氷河は思った。彼は「求める強者になれる可能性がある」と。そう思うと、無表情が基本の彼でも思わず笑みを浮かべてしまう。


 だが、それは一瞬の事だった。彼の表情は春人が次に放った言葉によって、一気に変わってしまう事になる



「なぁ氷河、お前ホント強いな。こんな「楽しい」勝負が出来て俺、すごく嬉しいよ」


「っ!?」



 春人の心からの声。それを聞いた瞬間、氷河の表情が変わった。ブリューナクを持った左手に自然と力が込められていく



「楽しい……だと?」


「あぁ。こういう対決をしてると、やっぱり魔法って楽しいんだなって思えるんだ。お前は……違うのか、氷河?」



 続くその言葉に氷河は歯を食いしばっていた。呼吸がどんどん荒くなり、感情の高まりと共に魔力が大きく乱れ、彼を中心に渦巻いていく。

 地面は徐々に凍っていた。その影響は徐々に大きくなっていき、春人の足元にまで広がっている



「俺は……違う」


「えっ……?」


「俺は……お前達とは……違う!!「楽しい」……だと?ふざけるな……ふざけるな……ふざけるなァァァ!!」



 怒りの込められた言葉と共にブリューナクのゲージが3つ破壊され彼の身体に魔力が注ぎ込まれた。それと同時に彼の前には巨大な氷の結晶が出現し大きさを増していく



「こ、これは……」


「冷気を纏いし氷弾よ、捉えし者を凍てつかせ、凍土の地へと誘え!!≪コールドティアズ・バレット≫」



 氷河が右手を振りかざすと氷結晶は春人に向かって放たれた。それはさっきの≪アイスキューブ・キャノン≫と同じように直進で飛んでいく。しかし大きさがケタ違いだった。高めの身長である氷河よりも2倍以上の大きさ。放つ冷気に耐えながら、春人はもう一度カリバーを背に構えようとする。しかし



「なっ……」



 まるで植物の様に地面から伸びた氷によってカリバーの刀身が凍てつき、動かす事が出来なかった。気づけば足までもが氷によって固定され身動きが取れなくなっている。迫りくる氷結の弾丸。

 それを目の前に春人は―――



☆     ☆     ☆     ☆     ☆




「うっ、うぅ……」


「ハル!?ハル!?大丈夫ですかっ!?」



 彼がゆっくりと目を開けると、そこには弥生の姿がった。その背後には青い空が広がっており、雲が穏やかに浮遊している。

 そして春人はハッとした。今まで何を行っており、自分がどういう状況だったのかを徐々に思いだしていく



「くっ、痛いな……」



 全身に感じる痛みに耐えながら、彼は身体を起こした。辺りを見渡して、そこがまだ第1バトルフィールドであることを確認する。そして



「…………」



 視界が氷河の姿をとらえた。その手にブリューナクは無く、魔力の渦巻きも無くなっている。鋭い眼。それは対戦以前よりも冷たさを増しており、一瞬言葉を失ってしまうほどだった



「…………」


「ま、待てよ!!」



 目が合い、立ち去ろうとする氷河に春人は思わず声をかけた。反応した氷河が立ち止まり、ゆっくりと振り返る



「俺が「楽しそう」って言った事に怒ったなら、それは謝る。けど知りたいんだ。なんでお前は楽しそうじゃないんだ?せっかくそんな強さを持ってるのに……どうしてそんな、辛そうな顔をしてるんだ?」


「…………俺は娯楽感覚で魔法を使っている訳じゃない。俺には、目的がある。どうしても叶えたい願望がある」


「目的……?願望……?」


「俺はお前達とは違う。魔法を学び、強さを得て、成長に喜びを感じたいわけじゃない。俺にとって魔法は……頼らざるを得ない、最後の希望だ」



 その言葉を残して、氷河は再び前へと歩き始める。そんな彼の背中を、春人はただ黙って見ている事しか出来なった




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ