第46話 初の本格魔法戦!!春人VS氷河
その日の空は晴天だった。清々しい程青に染まっており、心地よさを感じさせる。そんな絶好のサボり日和の中、俺はグラウンドの砂を踏みしめていた。
大きく息を吸って呼吸を整え、早くなっている心臓の鼓動を少しでも抑えようと試みる
「いよいよ……来たな」
思わず浮かべてしまう笑みを極力抑え、目の前の相手に視線を向ける。
白銀氷河。眼鏡を付けた細身な男子生徒は、こちらとは対照的に落ち着いた目をしていた。身長が高い事も相まって、威圧感すら感じる。
交流戦当日、第1バトルフィールドは時折吹く風の影響で不思議な静けさに包まれていた。俺と氷河以外の生徒やオバケ達は近くに設けられた観客席に座って観戦しており、ここにはいない。
観客席の前、俺と氷河の周りには透明な魔力壁が設置されていた。普段よりも防御性能の高い魔力壁のようで沼島先生曰く「全力で暴れても構わん」らしい
「お前が……俺の対戦相手か?」
「あぁ。ちょっと前に学園長室で会ったよな?水上春人だ。よろしくな」
「水上……あの時エンゲージパートナーを連れていた特待生か。なるほど、だから沼島は普段より力を発揮してもいいと言っていたのだな」
氷河は何かに納得すると静かに頷き、こちらに視線を戻してきた。訪れる2,3秒の沈黙。それから彼は、ゆっくりと口を開いた
「水上、俺は力を求めている。今よりも更に上の、圧倒的な力だ。それを手にする為には強者と戦い、俺自身がより強くならなければならない。だから、お前が俺と同じ「特待生」としてどれだけの力を持っているのか。戦う意味のある相手なのか。この戦いで見極めさせてもらう」
どこか冷たさを感じる声色で言い放った彼は、手元に魔力を集め自身のディレクトリを出現させる。
形状は「矛槍」だった。柄の部分には青いカラーリングが施されており、槍頭には銀色のエネルギーで出来た少し大きめの刃が備えられている。魔力ゲージはカリバーと同様の5ゲージ。どうやら受け取った時から変わってはいないらしい
「まぁ、お手柔らかに頼むよ」
何気ない一言と共に、右手に僅かな力を込めるとディレクトリ「カリバーⅡ」が姿を現した。自動的に機内のエネルギーが変換され、黄色の刀身が生成される。こちらの魔力ゲージにも変化は無く5段階。武器性能に大きな違いは無いはずだ。つまり、この勝敗を分けるのは完全に―――
「(使用者の実力ってことか)」
手足に力を溜め込み、攻撃の態勢を作り出す。一方の氷河は矛槍を左手に持ったまま動きを見せなかった。
そんな状況の中、俺達の前には数字の描かれた魔法球が現れ、開始のカウントダウンが始まる。最初のカウントは5で、4,3へと変わって行く。そして
「―――ッ!!」
0になり戦闘が始まった瞬間、溜め込んでいた力を一気に使い氷河との距離を縮めた。両手を頭上に掲げ、届く範囲に入り込んだ所で振り下ろす。技では無い単純な打撃。最初は様子見のつもりでこれを仕掛ける。
すると、氷河は矛槍の先端で地面を一突きし、目の前に氷の壁を作り出した。攻撃はそれに弾かれ、俺を後方へと弾き返した
「っ!!なるほど、流石に堅いな。単純な打撃じゃヒビすら入る気がしない」
「どうした?俺はお前の「力」を見たいんだ。軽い攻撃ではなく技や能力を使ってかかって来い」
「言ってくれるな。だったら、見せてやるよ。カリバー、ゲージブレイク!!」
コアが1度点滅し、ゲージが1つ破壊される。そして
「撃ち抜け!!≪ソニック・イレイザー≫!!」
刃を氷河に向け、技を発動させる。
≪ソニック・イレイザー≫、刀身の魔力を光線にして放つ遠距離攻撃だ。威力を犠牲にしている代わりに発動から発射までの時間が短く、ダメージを与えやすい。更に言えば、この技は今ゲージブレイクの恩恵も受けており、通常よりも速度が増している。しかし
「……ブリューナク、ゲージブレイク」
「ブリューナク」と呼ばれた矛槍型ディレクトリの魔力ゲージが1つ、カリバーと同様に壊され槍頭が青い光を放ち始める。それを≪ソニック・イレイザー≫に向けて彼は、一言小さく呟いた
「≪フリージング・ハイウォール≫」
同時に彼の足元が微動し、氷の壁が姿を現した。表面は先ほど見た槍頭の青と殆ど同じ色であり、放つ冷気の影響か白い煙を出しているように見える。
氷系の技だろうか。そんな事を考えた瞬間、放った光線は壁と衝突し消滅した。光の粒子が空中に溶け込んで見えなくなっていく
「脆い……脆すぎる。水上、お前の力はこの程度か?もしこれが全力だと言うのであれば、この戦いは意味を持たないぞ」
「そう焦るなよ。戦いはまだ、始まったばかりだろ?」
魔法を解除した氷河に俺はニヤリと企みの笑みを見せた。すると何かを察したのか、彼はブリューナクを一振りし辺りを見渡す。
流石というべきだろうか。その反応に内心驚きながらもカリバーを握った右手に力込め、この戦いで「2つ目の魔法」を発動させる
「≪ボムフェルム≫!!」
刹那、氷河の頭上に球体が現れ回転を始めた。その数、合計で4つ。それらは徐々に輝きを増していき、最終的に直径30センチ程へと変化する。
発動から約2秒、氷河は無言で見上げそれらに視線を向けていた。しかし既に準備は出来ている。あとは――
「ファイア!!」
破裂の合図を出すだけだった。4つの球体は一斉に爆発を起こし辺りに黒い煙を漂わせる。爆風自体にはあまり威力が無く、それほど強い訳ではない。
しかしあの球体の至近距離であれば話しは別だ。≪ソニック・イレイザー≫の分解によってばら撒かれた魔力を圧縮して攻撃力を上げているのだから、それを間近で受ければ爆風以上のダメージが期待できる。
これが俺の狙いだった
「どうだ?これなら、それなりにダメージが……」
「入った、かと思ったか?」
それは予想外の声だった。突風と共に黒煙は吹き飛ばされ氷に覆われた少年が姿を見せる。どうやら瞬時に発動したそれが、盾となって彼を守っていたらしい。つまりダメージは0。思わず舌打ちをしてしまう
「ちっ、≪ボムフェルム≫も効かないのか。その氷、すごい防御力だな」
「≪ボムフェルム≫は魔法学の教科書に載っている基本的な魔法だ。特化した能力を持つ者であれば話しは別だが、お前が使ったところでそれほど大きな威力を発揮する事は出来ないだろう。であれば、俺が得意とする氷結系魔法でそれを防ぐのは、そう難しい事ではない」
「なるほど。この技は通用しないってことか。だったら……」
淡々とした彼の説明に納得し、カリバーを構えなおす。魔力をあまり使いたくないと言う理由で≪ボムフェルム≫を使用したわけだが、どうやら彼は「基本的な技」が通用する相手では無いらしい。
そんな状況にワクワクしながら、ゲージを1つブレイクする。俺が得意とする魔法は≪ソニック・イレイザー≫だけは無い。この数週間でいくつかの魔法を会得しているのだ。それこそ、弥生にだって知られていないものもある。
だから、これから俺がやる事はもう既に決まっていた
「他の技で挑むしか……ないよな!!」
魔力の光を帯びた剣を片手に、再び氷河との距離を詰めようとする。しかしこの時、氷河が俺とは全く違う感情を持っていた事に俺はまだ、気づけていなかった