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お化け少女と契約《エンゲージ》  作者: 探偵コアラ
お化け少女と契約《エンゲージ》Ⅱ
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第44話 魔法学


「えーまずは魔法についてだが、殆どのヤツらにとっては既に知ってる基本だ。眠くなるかも知れないが、だからと言って睡眠の許可はしない。暇になったら大人しく、ノートに落書きでもしとけ。いいな?」



 沼島先生の言葉に生徒達が了承の返事をした。半数の生徒は既に筆記用具を手に持ち、ノートに向かって筆を走らせている。しかしそれを、先生が注意する事はなかった。どうやら本当に落書きならしても良いらしい



「(メ、メチャクチャな先生だな……)」


「えー、今回教えるのは魔法の仕組みについてだ」



 そんな事を俺が思っているのを知ってか知らずか、彼は俺達に背を向け黒板に文字を書き始める。そこにはいくつもの単語が並べられ、矢印やイコールを使ってその関係性が示されている。

 そしてその数十秒後、眠たそうなその瞳で俺達の方を振り返った



「俺達の体内では日ごろから魔力が生成されている。しかし、基本的にはそれだけじゃ魔法を使う事は出来ない。魔法を使う為には周囲の空間に魔力が散らばっている必要があるからだ」


「体内と空間、どっちにも魔力がないとダメって事ですか?」


「あぁ。空気中に散らばっている魔力は「魔力分子」と呼ばれていてな。体内の魔力も魔力分子も単体では機能せず、交わり合わさる事で初めて、特殊な現象を起こす事が出来る。その特殊な現象と言うのが「魔法」と呼ばれているのだ。ここまでは、理解出来るな?」



 その質問と同時に彼は大きく欠伸をした。やはり立派な先生というイメージを持つ事は出来ない。

 しかし、彼の説明は案外分かりやすかった。その証拠にあの良太ですら頷き、納得している。それなりの実力を持った先生なのだろうか。ちょっとした期待が俺の中に生まれる。しかし



「よし、それじゃあ早速実践だ。水上と猿渡、ついて来い」


「えっ!?い、いきなり実践ですか!?」


「当たり前だ。実際、魔法に関しては分からない事が多いし、一々説明するのは面倒だ。実践で覚えた方が早い」


「ホント、面倒くさがり屋なんですね……」


「何か言ったか?」


「いや、何でもないです」


「それじゃあ他の連中は適当に自習でもしてろ。ほら、オバケの2人もいくぞ」



 軽く手招きをした先生の後を追いかけ、俺と良太、弥生と鈴が教室を出て行った



☆     ☆     ☆     ☆    ☆



 連れて行かれたのは「第一バトルフィールド」と呼ばれる場所だった。グラウンドの様に屋外であり、雨風を凌ぐモノはない。今日が晴れだったのが幸いだったと言えるだろう。そんな空をチラ見して、沼島先生は首を軽く動かした



「んじゃ早速実践だ。そうだな……よし、水上からやってみるか」


「って言われても困りますよ。ホントにいきなり実践をするんですか?俺、攻撃用魔法ってしらないんですけど……」


「バカが。それこそ大切なのは想像と意思だ。自分の行う攻撃を頭の中に思い浮かべて、強い意志で念じて見ろ。その攻撃が、その魔法が、お前に使えるものであれば、自然と名前も浮かび上がってくる。感覚的に……な」


「感覚的に……ですか」


「そうだ。その前に、まずはお前のディレクトリを出してみろ。お前が望めば、自然と出てくるはずだ」


「望めばって……」



 多少強引な気がする指示だったが、彼の言っている事は何となく分かった。だから、心の中で出てくるよう念じ、右拳を持った時の形にしてみる。すると1つの小さな光が現れ、剣の形へと変化していった。そして



「……おぉ」



 光が勢いよく弾け飛び、右手に感じる重量感が増す。そこにあったのは俺のディレクトリ「カリバーⅡ」だった



「すごい。本当に望んだだけで出て来た……」


「そのディレクトリは主をお前だと認識しているから、望めばすぐに姿を現す。ようは慣れだ。そしてそれは、魔法に関しても同じ事が言える」


「魔法に関しても?魔法も慣れって事ですか?」


「大ざっぱに言えばな。想像を「魔法」として発動する感覚を正確に説明するのは、まず不可能だ。だからこそ、その感覚が分かる……才のある人間だけがこの力を使う事が出来る。まぁその才と言うのも、本来であれば殆どの人間が持っているものなのだがな」


「それって、どういう事なんですか?」



 俺の質問に先生は顎に手を当て考え、すぐに答えてくれた



「そうだな、例えば。カップを目の前にして、念じればそれが浮くような想像。手のひらを前に出して、そこから光線が出る様な想像。指を鳴らせば、自分の身体を瞬間移動できる様な想像。……お前は子供の頃、そんな不思議な力を想像した事が無かったか?」


「言われてみれば……似たような事を考えた事あります」

 

「子供の想像力というのは無限に広がって行く。現実に縛られていないからこそ「有り得ない事」を発想し、夢に見る事が出来る。しかし大人はどうだ?成長していくにつれて現実を知り、その想像をいつしかバカにするようになってしまう。想像を愛するのではなく、不要なものとして切り捨ててしまう。だから、魔法の才も失ってしまうのだ」


「…………」


「もちろん、成長していくにつれて見なければならない現実はある。それは確かだ。だがそれは、想像を愛する事を止め、想像を切り捨てる理由にはならない。現実は想像によって更なる進化を遂げ、成長してきた。それが何よりの証拠だ」


「…………」


「……おっと、俺とした事が。ダルい長話になったな。ったく、これだから年をとるのは嫌だな」



 面倒くさそうに先生がため息をついた。冗談で誤魔化そうとしたものの、それは意味を成さなかった。その瞳はとても悲しそうで、寂しそうで、思わず言葉を失ってしまう。

 彼はきっと残念に思っているのだ。想像を愛すると言う事は、夢を愛すると言う事で。それを捨てると言う事は、夢を捨てると言う事で。夢を捨てると言う事は、希望を失うと言う事で。

 だから、彼は―――



「ほら、今度は魔法だ。水上、ここに1本の魔法柱がある。これを魔法を使って壊してみろ」


「えっ?」


「いいから。やり方なんて考えるな。お前の自由な想像を頭に思い描いてみろ。想像妄想大好きッ子だろうが。ほら、さっさとやれ」


「は、はい……」



 促され、俺はとりあえず目を瞑った。いきなり想像しろと言われても、正直何を思い浮かべればいいのか分からない。ラグさんに教えてもらった≪イマジネクト≫は今回使っても意味がないだろう。言ってしまえば、俺に有利な策は無い。

 おまけに俺と魔法柱との距離は結構ある。目測で10メートル程だっただろうか。普通に考えれば、それを壊す事など出来るはずもない。

 それでも、俺は焦らなかった。失敗しても良いからとか、そういう諦めがあるからじゃない。むしろ、確信していた。出来る、と。

 だから――



「…………」



 静かに瞳を開けた。やはり魔法柱は目測通り少し遠くにある。集められた魔力の集合体が風に揺られる事も無く立っており、周囲は沈黙に包まれている。その状況を把握し、俺は



「弥生、力を……貸してくれ」



 右腕と共にカリバーを空へと掲げた。その瞬間、右手の甲にある「エンゲージ・クレスト」が輝きを放ち始める。その拳の周りで、徐々に魔力原子が集まってくるのを感じた。そして、カリバーのコア部分が点滅し、機械的な音声を響かせた



「ゲージ……ブレイク」



 1つのゲージが破壊され、その魔力が俺の中に流れ込んでくる。その時、俺は初めて知った。今、俺の中に溢れているのは「魔力だけ」ではない。≪イマジネクト≫成功時にも感じなかった「何か」。それがどんどん溢れて来て、俺の力になってくれる。そして―――



「ッ!?」



 頭の中に謎の名前が浮かびあがり、それを口にしようと息を吸った。しかし



「くっ……」



 咄嗟の頭痛に襲われ、それは一気に拒まれてしまう。そして俺は意識を失い、地面へと倒れ込んだ




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