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お化け少女と契約《エンゲージ》  作者: 探偵コアラ
お化け少女と契約《エンゲージ》Ⅱ
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第43話 面倒くさがり屋先生

「ハル……?ハル……?」


「ん……ん……?」



 俺を呼ぶ声を聞いて意識がハッキリと浮かんできた。聞きなれた声だったのでその主が誰なのか、大方予測が出来てしまう。彼女ならば、俺を起こす為に名前を連呼しても珍しい事ではない。そんな事を思いながら、俺はゆっくりと目を開けた



「…………」



 初めに飛び込んできたのは天井だった。木製のそれは朝日に照らされ、自然な温かみを感じさせている。その時だった。俺は腹部に何か違和感を感じた



「…………えっ?」



 何事かと思い視線を向けると、そこには弥生がいた。名前を連呼していたのは間違いなく彼女だ。それは数秒前から予測していたので驚く事ではない。それ以上に、俺が驚愕したのは―――



「なっ……」


「ハル、おはよぉーございますぅ」



 彼女は笑顔でそう言った。しかしそれに対していつも通り返事をする事が出来ない。何故なら彼女は俺の上に乗っていたのだ。身体を左右に揺らし、楽しそうにしている。俺は精一杯平常心を保とうと努力し、苦笑いをした



「お、おはよ……。えっと……弥生?お前、そこで何やってるんだ?」


「ハルを起こそうと思ったんですよ。最初は呼び掛けだけでしたけど、それでも起きてくれないから、こうやって乗って起こしてるんです」


「あぁ、そうだったのか。それはサンキューな。そ、それじゃあ降りてもらっても……良いか?」


「えぇー。そんなの……嫌に決まってるじゃないですかぁ」


「お前な……って、うわっ!?」



 いきなり弥生が俺に飛び込み、少し起こした身体が再び布団に倒れ込む。枕もあった影響か衝撃はあまり無かった。弥生は俺の上に被さったので、彼女も怪我はしていないだろう。その代わり、俺は押し倒される形になっていた。



「え、えっと……弥生さん?距離がかなーり近いですよ?」


「…………」


「ほ、ほら。パジャマも乱れてるし1度直した方が……」


「ハル……♪ハル……♪」


「ちょ、ちょっと待て!!そ、そういうのは……そういうのは……」




―――




「そういうのは、いけない事だと思うんだ!!とりあえず!!とりあえず待ってくれぇぇぇぇぇぇぇ!!」


「……えーっと、春人くん?キミ、一体何を言ってるのかね?」


「……えっ?」



 そこはさっきと違って教室だった。周囲には生徒が座っており、良太もいる。黒板の前には先生が立っており、不思議そうな顔でこちらを見ていた



「あっ……えーっとですね、その……」


「待てと言われても、今回はキミ達ファンタジア外の特待生の為に学校の設備を説明しているだけだ。これから通う学校なんだし、今知っても問題ないと思うんだけどねぇ」


「あ、あはは。そうですよね、大丈夫ですよね。あは、あはは…………ハァ」



俺は肩をぐったりと落とした。隣の席では弥生が溜め息をつき呆れている。そんな光景にクラスの生徒が微笑を浮かべていた



☆     ☆     ☆     ☆     ☆



「へへっ、まさか授業初日から居眠りとは……早速やっちまったな、ハル!!」



 休み時間、周囲の生徒が雑談で盛り上がっている中で良太が「ニヒヒ」と笑いながら近づいてきた。どうやら、「さっきの事」を言ってるようだ。どうにも楽しそうに見える。

 しかし隣にいる鈴は違っていた。さっきの弥生と同じように溜め息をつき、首を横に振っている



「ってアンタ、人の事言えないでしょ?授業開始1分で寝て、それ以降アタシに起こされ続けたのは、一体どこの誰だったかしら?」


「まぁまぁ、堅い事言うなって。それよりハル、一体どんな夢見てたんだ?」


「ど、どんな夢って……?なんだよ、急に」


「いや、あんな叫んで起きるなんて珍しいじゃねぇか。だから気になってよ。「待て」って、何を待って欲しかったんだ?」


「別に、何も……。起きた時にすごく焦ったからかな。悪いけど覚えてない」


「ちぇー、覚えてないのか。面白そうだと思ったんだけどな」



 口を尖らせた良太がそう言った。実際、夢の内容を覚えてはいる。事細かくではないが大方どんな感じなのかは、しっかりと脳裏に焼き付いてしまっている。

 けど、だからこそ、話す訳にはいかなかった。明らかに、人に話す様な内容では無い。ましてや、登場人物が隣に居る状態では絶対にダメだ



「…………」


「ん?どうかしましたか、ハル?こちらをチラチラと見ている気がしますけど……」


「い、いや、何でもない。それよりも、次の授業ってなんだったっけ?」


「えーっと、次は魔法学ですね。いよいよここからが、本格的な魔法のお勉強ですよ」



 机の引き出しから弥生が教科書を取り出した。その厚さはあまりなく、教科書というには少々違和感を感じてしまう。

 噂によれば、魔法学は最初に魔法の基本的な事を学んで、それ以降は実習を繰り返すそうだ。つまり、この「最初」で魔法をちゃんと理解できるかどうかがキーポイントとなる



「魔法学か。くぅー!!楽しみになってきたぜ!!」


「楽しみなら、開始1分で寝ないでよ?」


「分かってるって。次の時間……5分は粘って見せるぜ!!」


「そのダメな目標、訂正しなさいよ……」



 「やれやれ」と小さく呟きながら2人が自分の席に戻って行く。

 時計を見て見るともう授業が始まる時間だった。それを知らせるチャイムが鳴り響き、周囲の生徒達も続々と席に戻って行く



「……おい、先生が来たぞ!!」



 廊下が側の生徒が注意を促し、全員が黙りこむ。そして



「よぉ、お前ら。今から魔法学を始めるわけだが……準備はいいか?」



 先生が教室に入ってきた。

 青いシャツに少し古びた白衣。顎の下には髭が生えており、ポリポリと頭を掻きながら教壇に上がって行く。

 印象としては「面倒くさがりな人」というのが正直な所だ。失礼かとは思ったが、それ以外に当てはまりそうな言葉が無い

 


「えー、面倒だが今回は特待生のヤツがいるからな。まずは自己紹介だ。殆どのヤツラは知ってると思うが、俺の名前は沼島哲。教員歴は未公開。好きな食べ物や嫌いな食べ物も未公開。あえて公開情報があるとするなら、男という事ぐらいだ。よろしく」


「み、未公開って……マジっすか?」


「当たり前だ。そんな情報、教えるのがダルいからな」



 どうやら予想は的中で彼は「面倒くさがり屋」のようだ。そんな先生の反応に慣れているのか、生徒はみんな苦笑いを浮かべている



「さて、それじゃあ特待生に自己紹介を……いや、それは別にいいか。水上とモンキー、居るか?」


「あっ、はい。いますけど……」


「先生!?俺の名前は猿渡ッスよ!?モンキーって名前じゃないッスよ!?」


「あーまぁ、そういう細かい事は気にするな。大して変わらんだろう。なぁ、モンキー・良太?」


「今度は芸名みたいになってる!?」


「さぁ、サルは放っておいて始めるぞ」



 良太の反応に先生は微笑を浮かべながら教科書を開いた

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