第4話 弥生のお説教
「それで、どういうことなんですか?」
「え、えーっと……」
目の前で腰に手を当て、怒っている弥生が俺の顔を覗き込んだ。それに反応して俺は顔を伏せてしまう。あの「スカートの中覗き事件(仮)」から数十分後、俺と弥生は屋上に来ていた。
吹いている風が妙に冷たい。すると弥生が「ハァ」とため息をつく
「もう、誰のスカートを覗いたのか言えないんですか」
「だからもう一回言うけど、俺は覗いてなんかないんだって」
「じゃあ、なんでお友達とそれに関して喋っていたんですか?どうせ「俺はアイツのスカート覗いてやったぜ」「おぉ、見れたのか?」「あたぼーよ。俺を誰だと思ってんだ?スカート覗かせりゃ校内一の春人様だぜ?」…………なんて言ってたんでしょう?」
弥生がちょっとドヤ顔でそう言った。どうやら自信があるらしいが、そんな話をしていないし、それ以前に気になる事がある。この会話ではどうやら「俺」がスカートを覗いた事を自慢しているらしい
「……あの弥生さん。そんな話をしていないという前に、いくつかオリジナル設定があるようなんですが……?」
「えっ、だって思春期の男子はエッチな事を考えてるじゃないですか。これに関して間違いが?」
「えっとまぁ、そこはあえて否定しない。だけど、なんで俺が覗いてるんだ?しかも、その話しの通りなら俺、かなり常習犯っぽいんだけど……」
「それは完全に私のカンですよ。あ、でも安心して下さい。今回はハルだったというだけで、あのお友達さんもバッチリ仕事してるはずです。そう、2人は完璧なコンビネーションでスカートを覗きまくる、覗きのエキスパートなのですよ!!」
想像した設定がどんどん膨れ上がっていくのが楽しいのか、怒っていた弥生はいつの間にか瞳をキラキラさせてそう言った。
しかし待ってほしい。この設定は、あくまで覗きの設定だ。二人のコンビネーションで覗きまくるって辺り、俺達がただの変態でしかない
「ちょ、ちょっと待ってくれ弥生。俺たちは覗きもしていなければその道のエキスパートでもない。ただの平凡な学生だ。その辺りを忘れないでくれよ」
「むぅ、これからもっと巨大な組織が出てきそうだったんですけど……」
「いやいや、スカート覗きで巨大組織ってかなりおかしいだろう?想像は程々に抑えてくれ」
「……分かりました。ハルがそこまで言うならこの設定は無しにします」
ようやく分かってくれたようで、俺はホッと息を吐いた。とりあえずこの誤解は解く事が出来た。そう思うとさっきまで冷たかった風が今度は温かく思えてくる。
そんな時、弥生が口を開いた
「それで……」
「それで?」
「ハルは一体誰のスカートを覗いたんですか?」
「…………」
また、風が冷たくなった気がした
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「……もぐもぐ、なるほど。ハルやお友達は誰のスカートも覗いてないってことなんですね?」
「だから最初からそう言ってるだろ」
冷たいのか温かいのかよく分からない屋上で、俺と弥生はご飯を食べていた。
購買で適当に買ってきたパン達。その中でも弥生は「クリームパン」がお気に入りだったらしく、合計で三つあったそれを全て食べている
「それにしてもよっぽど気に入ったんだな、そのクリームパン」
「はい。トロ~ンとしてて美味しいです。あっ、でも私が食べちゃったからハルは一個も食べてませんよね……?」
「いいよ、俺の分はまだあるし。それより誤解が解けてよかったよ」
「むぅ、私のカンじゃハルは隠れスケベさんだと思ったんですけどねぇ……」
「俺は変態かよ……」
弥生のコメントに苦笑しつつ、小さくなったあんパンを口に頬り込んだ。すると独特の甘みが一気に広がり、口の中を満たしてくれる。そんな味をを堪能しつつ噛み、飲みこんだ。
その時だった
「……ん」
突然の強風が吹き荒れ、俺と弥生は顔を伏せた。天気は悪くないので一時的なものだろう。
俺はペットボトルに抑えられた購買の袋が飛ばされないように手に持ちつつ、自然と弥生に視線を向けていた
「大丈夫か、弥生……っ!?」
思わず声が裏返り、唖然とした。目の前では弥生が風に吹かれて、思いっきり目を瞑っているのだが重要なのはそこではない。
彼女の下半身、スカート部分に問題があるのだ。
弥生はこの学校の制服では無いが、スカートをはいている。
そして今、強風が吹いた。つまり必然的に何が起こったかは予測出来てしまうだろう
「大丈夫ですよハル……きゃ!!」
目を開けた弥生が自分の状態に気付き、スカートを急いで抑えた。それから一、二秒後には風が止み、先ほどと変わらない太陽の温もりが俺達を包んでいる。
しかし俺達の雰囲気は急変していた。弥生が俯き、プルプルと震えている。これは非常にマズイ
「あ、あの……弥生さん?」
自分でも驚くほど控えめに名前を呼んだ。
すると彼女は顔を上げ俺を見てくる。赤くなったその表情は言葉に出さなくても恥ずかしがっているのが伝わってくる
「ハル……見ましたね?」
「み、見たって何を……」
「とぼけないで下さい」
「はい、見ました」
怒りに震える彼女に動揺し、正直に即答してしまった。
その瞬間、彼女の顔は更に赤くなり頭から湯気でも出るんじゃないかと思うレベルに達した。
そして
「や、や………やっぱりハルは変態さんですーーーーっ!!!!」
誰かに聞かれたら物凄くマズイ事を大声で叫んだ。
幸いここは屋上、誰もいないので俺は止めはしない。というか、今の状況で彼女を止めようと触れれば、それこそ空気と戯れる変態と思われるだろう。それを考慮して俺は大人しく、額に汗をかいていた
「もう、ハル!!なんで見ちゃうんですか!!今話したばっかりですよね?なのになんで見ちゃうんですか!!」
「だ、だって風が吹いて……。で、でもアレだ。俺は可愛くて良いと思うぞ?弥生の白パ……」
「きゃーーーーっ!!だからなんでそんなこと言っちゃうんですか!!」
なんとかなだめようとした俺の言葉をかき消そうと、弥生が言葉を重ねてくる
「とにかくそこに正座して下さい!!」
「えっ?」
「「えっ?」じゃありません!!私が今から…………お説教します!!」
「で、でも授業が……」
「知りませんっ!!」
弥生に言われた俺は大人しく正座し、説教を受けることになった。
そして、それが終わったのは授業の始まる一分前だ。当然、間に合わなかったのは言うまでもない