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お化け少女と契約《エンゲージ》  作者: 探偵コアラ
お化け少女と契約《エンゲージ》Ⅱ
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第35話 地下への用事

 そこは、とても暗かった。僅かな光が足元を照らし、灰色の階段が見えている。聞こえるのはコツ、コツという足音のみ。静けさの中で響くそれは、未知の場所を訪れている事も相まって、緊張感を抱かせていた



「……二人とも、大丈夫かい?呼吸が苦しくなったりしてはいないかな?」 



 沈黙していた京也さんがそんな言葉を投げてくる。果たして何故なのだろうか。歩き続けて数十秒、体調なんて一切聞かれなかったのだ。それなのに、何故……?

 そんな事を考えているうちに、目の前を歩く弥生が右手を上げ、そんな不思議な問いに答えた



「はい。だいじょーぶです!!」


「うんうん、春人くんは大丈夫かい?」


「はい、俺も大丈夫ですけど……。いきなりそんな事を気にするなんて、どうかしたんですか?」


「いやね、ここは特殊な空間なんだ。弥生ちゃんにはちょっと説明が難しいけど、春人君にはそうだな……「魔法試施室」って言えば、何か思い出せる事はあるかな?」



 少し微笑んだ声で京也さんが言った。「魔法試施室」その単語を聞いて俺には思い当たる事があった。数日前に訪れた場所。確かそこの名前が―――



「あっ、それって前に俺とラグさんが行った部屋の名前だ……」


「そう。そこと同様、ここも魔法を使う際に必要とする要素「魔力原子」が多く存在しているんだ。その影響で体調を崩してしまう人もいるんだよ。実際、良太君が昨日来た時には少し気分を悪くしていたらしいしね」


「えっ、良太もここに来たんですか?」


「あぁ、そうだよ。本来なら僕は彼の担当でね。日本からファンタジアまで連れて来たのは僕なんだ。昨日は別件で他の人に任せたんだけど……っと、着いたね」



 京也さんが立ち止まった。目の前にあるのは1つの扉。懐中電灯の明かりで照らされたそれには、細かい刻印が刻まれている。形に見覚えは無い。しかしそれがきっと、何かしらの意味を持つ事は見ただけで分かった。いや、正確には「何かを感じ取った」と言った方が良いかも知れない



「……京也さん」


「ん、どうかしたかい?」


「その扉に描かれている刻印って何なんですか?すごく細かくて、手が込んでるように見えるんですけど……」


「……ハハッ。これには何か意味がある、そう考えたんだね?」


「考えた、というわけじゃありません。ただ、それを見た時に何かを感じたんです。正でも負でも無い……純粋な「力」を」



 我ながら珍しい言い回しだとは思った。正と負なんて使ったのは、数学の授業の時以来かも知れない。だけど、俺の感じた力を表現する為には、その表現が適切だと思ったのだ。

 そんな俺の言葉を聞いて、京也さんは小さく「フッ」とほほ笑んだ



「正と負か。なるほど、面白い例えをするね。一般の人じゃなかなか使わないような例えだ。それはまさに……そう、ゲームやアニメと言った「想像」を愛する者が使う例え、と言った所かな」


「えっ?そ、そりゃあ好きですけど……いけませんか?」


「いやいや、そんな事は無いさ。すまない、気を悪くしないでくれ。それは別に悪い事じゃない。むしろ、大切な事だよ。特にこのファンタジアではね」


「えっ……?」



 驚く俺を見て微笑み、京也さんが扉に手をあてる。するとそれは自動で動き始め、ゆっくりと開かれた。その影響で隙間から溢れる灯り。次第に見えてくる未知の景色に、視線が釘付けになる



「さぁ、ここが今日の目的地。ファンタジア学園の生徒の中で、特待生のみが持つことを許された特殊な魔法武器「ディレクトリ」の製作所だよ」


「ディレクトリの……製作所……」



 目の前に広がったのはいくつもの武器だった。剣、槍、斧、鎌……様々な種類のそれらが、樹木の机に置かれている。そんな初めて見る光景に、俺は目を見大きく見開いた



「す、すごい……。こんなに武器があるなんて……」


「これ、ぜーんぶが魔法の武器なんですか?」


「そうだよ。ここはファンタジア学園が公認している製作所でね、特待生のディレクトリは主にここで制作してもらっているんだ」


「それってつまり、ハルの、えーっと……「でぃれくとり」もここでもらうって事ですか?」


「そう言うこと。さ、奥の部屋へ行こう。そこに「親方さん」もいるはずだからね」


「お、親方……?」



 一体誰の事だろうと思ったものの、質問する間も無く、京也さんは部屋の奥へと進んで行く。そんな彼の後ろを、俺と弥生は追って行った



☆     ☆     ☆     ☆     ☆



「こんにちわ、親方さん」



 京也さんがそう言った。その視線の少し先にはイスに座って作業をしている人物がいる。彼の目の前には木製の机があり、その上には1つの剣が置かれていた。どうやら武器の微調整を行っていたらしい。

 しかし京也さんの声に反応して、付けていたゴーグルを外しこちらに顔を向けてきた



「ん……?おっ、京也じゃねぇか。ここに顔を出すなんて、珍しいな。もしかして、遊びにでも来たのか?」



 彼はニヤリと笑った。ラグさんと同じような制服。違いと言えば中に来ているTシャツが緑色と言う事ぐらいだろうか。髪は逆立っており、活発そうなイメージを与えている。そんな彼の言葉に、京也さんは苦笑しながら答えた



「違いますよ。そもそも僕が仕事をサボったりするなんて稀じゃないですか。少なくとも、どこぞの親方よりかは、ね」


「へへっ、言うじゃねぇか。とまぁ冗談はさておき、どうした?もしかしてディレクトリの微調整か何かか?」


「いえ、微調整じゃありません。ディレクトリを貰いに来たんですよ。特待生の話し……聞いてますか?昨日も来たと思うんですけど……」


「特待生?あぁ、聞いてるぜ。ってことは、お前の後ろに居るヤツが……」


「えぇ。春人くん、軽くで良いから挨拶をお願いできるかい?」


「あっ、はい」



 京也さんに促され、一歩前に出た。後ろにいた弥生は表には出ず、継続して俺達の後ろに隠れている。すると、首だけこちらに向けていた親方さんが、立って体をこちらに向けてきた。妙な緊張感が全身を駆け巡る



「えっと、水上春人です。先日ファンタジア学園に通う事になりました。よろしくお願いします」


「…………」


「……あれ?」



 静まる空気。まるで挨拶を失敗したような、そんな雰囲気が辺りに広がった。無言でこちらを見続ける親方さん。もしかして何か他にも求められているのだろうか。汗が頬を伝ってくるのが分かった



「(も、もしかして結構マズイ状態なのかな。何がいけなかったんだ……?)」



 そう思ったその時、黙っていた親方さんがその口をゆっくりと開けた



「なぁ、えっと……春人だっけか。お前今、魔法って使ってるか?」


「えっ、魔法ですか?いや、使ってないはずですけど……」


「そうか……。おい、京也。こいつ、スゴイな」



 ニヤリと笑った親方さん。それを見て京也さんも「でしょう」と言っている。一体なんの事だろうか?そもそも、なぜ魔法を使っているかと聞かれた?様々な疑問が頭の中で交差し思考する。すると親方さんはさっきと打って変わって笑顔になり、話し始めた



「なぁ春人。俺達が今、何について話していたか、分かるか?」


「いえ、さっぱり。何のことなのか……」


「お前の、魔力の話しだよ」


「えっ……?」


「お前、「オバケ」と契約してるよな?」


「っ!?」



 驚いた。まだ弥生は俺達の後ろに隠れているから親方さんは見ていないはず。それなのに俺が契約していることを即座に見抜いてきた。もしかすると事前に情報を聞いていたのだろうか。そう思った俺は親方さんにそれを聞いてみる



「ど、どうして分かったんですか?もしかして、誰かに聞いた……とか?」


「あぁ、ラグに聞いたんだよ。特待生の中に契約者が3人いるってな。そしてお前からはあまり見た事が無い魔力を感じる。だからお前が「契約者」って分かったんだ」


「な、なるほど……」



 身振り手振りで、親方さんが説明してくれる。もしかしてこの人、言葉使いが少し荒いものの、かなりの実力者なのだろうか。ここまで詳しく解説されると、そんな風に考えてしまう。すると彼は俺の視線に気づいたのか、ニカッと笑い腕を組んだ



「まぁその内、魔力を納めとく練習もしなきゃだな。そのまんまじゃ、ある程度実力のあるヤツから丸わかりだからよ。……っと、自己紹介が遅れたな。俺の名前は「シルキ」。ここでディレクトリを作ってるんだ。よろしくな、春人」


「あっ、はい」



 慌てて右手を差し出し握手をする。やはり悪い人では無いらしい。むしろ気軽に話せるアニキといったタイプだろうか。何にせよ、頼もしい人である事は間違いないだろう



「それで親方さん、春人君のディレクトリを……」


「……待て、京也。ソイツはちょっと後にしてくれ」


「……どうか、したんですか?」


「あぁ、感じるんだよ。気配をな」



 そう言ってシルキさんが京也さんの方を見る。正確にはその後ろだろうか。俺達の入ってきた扉を一点に見つめ、彼の表情が真面目になる。明らかにさっきまでとは違うそれは、俺に再び緊張感を与えてきた。すると彼は1歩1歩扉に向かって歩いて行く。そして



「……やっぱりか」



 しゃがみ込んでそう言った。そんな彼の前にあるのは扉では無い。京也さんの後ろに居た少女。俺のパートナー、弥生だった



「なぁ、春人。お前のパートナーってのは……この子か?」


「えっ、あ、はい。すいません。紹介が遅れちゃいましたね」



 もしかしたら、シルキさんは紹介が遅れた事を怒っているのかも知れない。そう思った俺は弥生に視線を向け、自己紹介をするように促した。するとそれを理解したのだろう、弥生が自己紹介を始める



「た、小鳥遊弥生です。え、えーっと……」


「可愛い!!!!」


「……え?」



 その瞬間、少し重かった空気が一気に軽くなった。その証拠に弥生は唖然とし、目の前のシルキさんを見つめている。一方のシルキさんと言えば、さっきのシリアス雰囲気は一切なくなり悶えている。どうやら、怒っているわけではないらしい



「なんだよ春人。お前のパートナーってメチャクチャ可愛いじゃねぇか!!昨日来た鈴ちゃんも可愛かったが、弥生ちゃんも可愛い!!ちくしょう、お前らホント羨ましいなぁ、おい!!」



 俺の背中がバシバシと叩かれる。そんな時だった



「もう、春人さん達がビックリしてる……でしょ!!」


「うがっ!?」



 シルキさんの頭部に衝撃が放たれ、彼に小さなダメージを与えた。そのおかげで俺は解放される。シルキさんはというと、叩かれた部分を押さえ、うずくまっていた



「いたた……キノか。相変わらずいきなりだなぁ」


「シルキが暴走なんてするからでしょ?」


「おいおい、暴走って……。俺はこの後、弥生ちゃんをお茶にお誘いしようかと思ってただけで……ハッ!?」


「うん、シルキ?今何か言ったかな?」


「い、いえっ!!何も言っておりません」



 シルキさんが急に大人しくなった。どうやら目の前の少女には頭が上がらないらしい。そんな2人を見て、俺や弥生は苦笑いするしかなかった



「あはは、親方さん。相変わらずキノさんには弱いんですね」


「まぁな。コイツに逆らうと後で色々恐ろしいからな……」


「ん?どうかしたかな、シ・ル・キ?」


「い、いや!!それよりあれだな、春人達にキノを紹介しないとだな。春人、コイツは「キノ」。ここで俺とディレクトリを作ってる仲間だ」


「初めまして、キノと申します。あの……シルキがいきなり、すいませんでした」



 キノさんが深々と頭を下げた。どうやらかなり礼儀正しい人らしい。それを示すように女子制服であるセーラー服は綺麗に着こなされており、髪もポニーテールにしてまとめてある。清楚さの感じられる格好だった



「それにしても親方さん。キノさんという彼女がいるのに、女の子をお茶に誘うクセ直って無いんですか?」


「当たり前だろ?これは俺の本能だ、魂だ!!誰であろうと止める事は出来……」


「シルキ?」


「すいませんでした」



 さっき見た光景がまた再現された。どうやらシルキさんは直感とかそういう事で動くタイプらしい。言ってしまえば良太の様な人と言う事だ



「それで、春人さんに渡すディレクトリはもう決まってるの?」


「いいや、まだだ。昨日もそうだったが、やっぱり個人個人合う武器ってのは違うからな。春人には春人に合った武器を、ってことだ」


「それってつまり……」


「あぁ、昨日と同じだ」



 シルキさんが笑みを浮かべた。それに対してキノさんは「はぁ」とため息をついている。そんな2人を見て、俺は嫌な予感を感じてしまう。そして



「なぁ、春人」


「な、なんですか?」


「お前、「マジックバトルコロシアム」ってゲームやった事あるよな?」


「あ、ありますけど……それが何か……」


「よし、それじゃあバトルだ」


「……えっ?」


「もちろん……俺とな!!」


「えっ……えぇっ!?」



 俺はその場で口を開けたまま硬直してしまった。一方弥生は同様に固まり、京也さんは苦笑い。キノさんのため息が空しく響き渡った



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