第34話 特待生
「特待生」
「特待生」とは、「学園に存在する問題に対処する事」を目的に、学園側からスカウトされ、入学した生徒を指す言葉だ。
特待生として入学することで、様々な待遇を受ける事が可能となり、より専門的に魔法について学ぶことが出来る。
また、通常の生徒は持つ事の出来ない魔法武器、「ディレクトリ」の所持が認められ、その使用が許される。
なお、ファンタジア学園ではこの待遇を受ける条件を「ファンタジア学園に入学希望の者」以外に「ファンタジア外で発見した強力な魔力所持者」や「ファンタジア予備学園で優秀な成績を残した者」と公開している。
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「な、なるほど……」
俺はその話しに頷くしかなかった。それに対して何か意見がある訳でもない。とすれば、俺に出来るのは「理解した」という相槌を打つことぐらいだ。すると、そんな俺の反応に気付いた男性は申し訳なさそうに苦笑いした
「ハハッ、すまないね。「こんな話しを聞いても……」って言うのはよく分かるんだけど、一応キミにも説明しておかなきゃいけない事だからさ。まぁ、頭の片隅にでも置いといてくれ」
「はい、了解です」
思わず俺も苦笑いした
ファンタジア学園を訪れたその日の夜、俺達は学生寮に泊った。すると偶然か否か、俺と陽花さんの部屋は横同士。更に言えば俺の隣の部屋は良太だった。
こんな珍しい事があるだろうか。というか、そもそも男女で寮が分かれていないのだろうか。昨日の夜は、色んな疑問が頭の中で溢れていた。しかしそれは、早朝から解消された。
そして解消した人物は今、俺の隣で歩いている。名前は「神無月京也」さん。20代半ばの男性だ。細身な体で、金髪に黒いスーツという格好。話によると「情報屋」として働いており、今回は俺を「とある場所」へ連れていく依頼を受けているらしい
「でもビックリしましたよ。まさか陽花や良太と部屋が隣だなんて。というか良太はともかく、陽花さんまで同じ寮って……大丈夫なんですか?」
「本来であれば別れるんだよ。けどまぁ、彼女達はキミと同じ状況の仲間なんだ。近くに居てくれた方が安心じゃないかい?」
「それはそうなんですけど……」
「それとも……アレかい?思わず夜中、勝手に部屋に忍び込んでしまったり……しそうかい?」
「なっ!?し、しませんよっ!!そんなこと!!」
「そうか。それじゃあ……「あぁ、この壁の向こうに陽花さんが……ハァハァ!!」って発作を起こしそうかい?」
「なりません!!というか、なんで俺にそんな変態的イメージが付いちゃってるんですか!!俺達、さっき会ったばかりですよね!?」
「それは……ほら、キミって意外とスケベそうだから?」
「ち・が・い・ま・すっ!!ってば……」
いつの間にか息が切れていた。こんな事で苦しくなるなんて、我ながら体力が無いなぁと思う。一方の京也さんは笑っていた
「まぁそうか。よく考えればキミの部屋には弥生ちゃんも一緒にいるんだったね。となれば、そんな妄想をする事もないか」
「当たり前です。っていうか弥生がいなくてもそんな事しません」
「……弥生ちゃん、気をつけるんだよ?春人君が「ハァハァ」と暴走を始めたら、一刻も早く逃げるんだ、いいね?」
「はい、了解しましたっ!!」
「って、そこぉー!!元気に肯定するなっ!!」
弥生も雰囲気に乗ったのか、京也さんに合わせてくる。確かに弥生が同じ部屋だという事に少しドキッとはしたけど、これまでも同じように生活してきたのだ。変化なんてある訳もない
「……あれ?これってなんかフラグっぽいな……」
「どうした春人君!!何かイケナイ事でも考えてしまったかい?」
「そうなんですか、ハル?」
「いいから京也さんは黙っててもらえますかっ!?余計な面倒が生まれちゃいそうなんで!!」
息を切らしながら叫ぶ俺を見て京也さんは笑っていた。そんな彼の目の前ではあったものの、俺は思いっきり大きなため息をついていた
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「さぁ、着いたよ。ここが今日の目的地だ」
京也さんがそう言った。目の前にあるのは一軒の家。というより店だろうか。まるで駄菓子屋のようなそれは、年季の入った建物に見える。その証拠に、たまに吹く風を受けてドアがガタガタと揺れていた
「えーっと……京也さん、ここは駄菓子屋の外装をしたお化け屋敷ですか?」
「えぇ!?ここってお化け屋敷なんですか!?わ、私、入りたくないです……」
「ハハッ、心配いらないさ。ここはお化け屋敷ではないからね。どちらかと言えば……駄菓子屋の方が近いかもしれないな」
軽く笑みを浮かべながら、京也さんがボロボロのドアを開けた。見かけによらずドアは安易に開き、中の光景が見えてくる。しかし、これと言って何かが見えてるわけではない。むしろ目立つのは部屋の薄暗さだ。不気味な雰囲気のそれに、思わず警戒してしまう
「あの……京也さん?なんかここ、かなり怪しいんですけど……」
「大丈夫だって。ほら、騙されたと思って僕に付いてきてくれ」
「それ、本当に騙されそうで怖いですよ」
半分冗談。半分本気なその言葉を言った瞬間だった。京也さんの手が壁に触れると、突如足元は光を放ち始め、地面がゆっくりと裂けていく。まるで小規模な天変地異。そんな異常事態が目の前で起きていた
「きょ、京也さん!?これって何なんですか!?」
「これかい?一種の隠し通路が開き始めているのさ。ほら、創作物語でよくあるだろう?本棚にある特定の本を押したり抜いたりすると隠し通路が現れるような……。あれと似たようなモノさ」
腰に手を当て、裂けていく地面を見る京也さん。それはまるで手慣れている様に見えて、妙な安心感を抱けてしまう。一方の弥生は恐怖を忘れて、光り輝く地面に集中していた。恐らく好奇心が勝ったのだろう。そんな彼女の様子に微笑んだその時、地面の開きは止まり奥から階段が現れた
「これは……階段、ですよね?」
「そう、これで今から地下に降りるんだ。今日の用件はそこで済ませる。さぁ、早速行ってみようか」
京也さんが懐中電灯を取り出し、地下への階段を降りて行く。何かしら光を灯す魔法は無かったのだろうか。そう思った瞬間、服の裾が引っ張られる
「ハルっ!!」
「なんだ、弥生?」
「早く私たちも行きましょう!!」
視界が悪いにも関わらず、弥生が瞳を輝かせていることはハッキリと分かった。加えて元気そうな声。恐らく地下に行くという事でワクワクしているのだろう。さっき店の前で見せた不安は一体どこへ行ったのやら。思わず苦笑してしまう
「好奇心が恐怖心に勝った……って所かな」
「えっ?」
「あぁ、いや、何でもない。そうだな、行こう。このまま、ここで立ってるのも意味無いしな」
そうだ。さっき京也さんは「この店に用事がある」と言ったんだ。であれば、選択肢は付いて行くしかないだろう。そもそも京也さんの性格的に本当に危ない場所に連れて行くという事は、まず無い
そして俺達は京也さんの後を追って、地下への階段を降りて行った