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お化け少女と契約《エンゲージ》  作者: 探偵コアラ
お化け少女と契約《エンゲージ》Ⅱ
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第32話 侵入者VSチビッ子博士

「大丈夫ですか……?」



 彼女は優しく微笑んだ。

 腰辺りまで伸びた長い金髪、薄いピンク色を基調にしたベストに純白のスカート、そして小柄な体格に合って無い大きめの白衣。それはまるで「博士」をイメージさせる格好だった。しかしそれに似合わず年齢は結構幼く見える。弥生と同じくらいだろうか。いや、そうなると俺達と同い年と言う事になってしまう



「(けど、弥生も見た目は同い年に見えないし。まさか意外と年上ってこともあるのか……?)」


「あの……大丈夫ですか?」


「えっ、あ、あぁ。全然、何とも無いよ」


「そうですか、それはよかったです」



 彼女はまた笑った。あまりに急展開すぎて敬語を使うのを忘れていたが、どうやら問題無かったようだ。すると彼女は何かを察知したように真剣な顔をして男に視線を移した。右手に持たれた細身なランスがゆっくりと構えられる



「おいおい譲ちゃん、邪魔、しないでもらえるかぁ?」


「…………」


「なんだ、黙まりか。だったら……≪ストーン・ブレッド≫!!」



 男は両手を前に出し、土の弾丸を放った。魔力の込められているであろうそれは、こちらに勢いよく向かってくる。銃の弾丸と大差ない程危険なモノだ。しかし



「――っ!!」



 少女は弾丸が目の前に来た瞬間、ランスを振ってそれを切り裂く。すると、それはそのまま後方へ飛んでいき地面に被弾、爆発を起こした。数秒前に起きた現象と同じものだった



「ちっ、ランスのクセにまた切り裂きやがった……」


「私のランス「グングニール」は切断能力を持っています。だから、私にあの技は効きません」


「ほほぅ、なるほど。だったら譲ちゃん、今度は接近戦でもしようじゃねぇか」



 その瞬間、周囲の土が男の体に張り付いていき、硬化していった。まるで岩石の鎧。体のあちこちが尖っており、危険性を感じる。そうでなくても石なのだ。あれで攻撃され当たってしまえば、それなりのダメージは受けてしまうだろう。頭などを打った場合は最悪、大怪我に繋がる可能性だってある。そうなると、対戦者である目の前の少女が急に心配になってくる



「大丈夫なのか?あの鎧、かなりヤバそうだけど……」


「ふふ、心配して下さるんですね。ありがとうございます。でも、大丈夫ですよ。魔力によって身体強化はされていますし。それに私、接近戦が得意ですから」



 少女はそう言った。そんな事も気に留めず、男が少しずつ歩き近づいてくる。それに対して少女は、足に力を込め、地面を蹴りあげ低空飛行の状態で男との距離を一気に詰めていく。それを見た男は立ち止まり、構えた右手に力を込めた



「近づいてくるとはいい度胸じゃねぇか。だったらこのまま……押しつぶしてやる!!」



 ちょうど目の前に来たタイミングで、男の拳が少女に向かって振り下ろされる。すると、少女は右足で少し地面を蹴り、自身の体を左側にずらした。一方男の振り下ろした右腕は空を切り裂き、地面に激突する。地面が抉れ、土が飛び散る。かなりの威力だった。しかし、彼女へのダメージは一切無い



「コイツ……速いっ!?」


「っ!!」



 刹那、彼女は持っていたランスを空へ振り上げ、岩の装備された腕に攻撃を仕掛けた。すると、岩にヒビが入り、僅かに破片が飛び散った。まるで壊れる前兆。それを見た男の顔が驚きに包まれる



「なっ……」


「まだですよっ!!」



 男が腕を引く前に、今度はランスを振り下ろす。すると耐えきれなかったのか、岩は完全に破壊され、粉々に砕け散ってしまった。ゲームで言うと「武装破壊」だろうか。それを彼女は易く成功させた。男の顔は歪み、同時に左腕に力が込められる



「このガキ……調子に乗るんじゃねぇぞ!!」



 今度は左腕が振り下ろされた。こちらにはまだ岩が装備されており、威力を失っては無い。しかしそんな攻撃にも彼女はバックステップで後方へ下がり冷静に状況を判断、攻撃を回避する。攻撃は空振り。威力は相変わらず高いものの、やはりダメージは入らない



「くそっ!!ちょこまかと……」


「≪アイアン・スラッシャー≫」


「ッ!?」



 男が腕を引こうとした瞬間、もう一度振り上げたランスを下ろしながら、彼女はスキル名を告げた。ランスはエネルギーの光を纏い、引きさがる直前の岩石腕に衝突する。すると、今度は一瞬にして岩石が砕かれ、生身の腕が丸見えになった。急に動作を止める事が出来ず、腕をひっこめた男は自分の両腕を見て唖然とした



「コイツ、俺の≪グランド・アーマー≫を一撃で……」


「≪アイアン・スラッシャー≫、硬化させた武器で攻撃する技です。これでアナタの作った岩石の腕は両方破壊しました。さて、どうしますか?」


「クソッ!!」



 少女の元気な声に悔しがりながら、男は地面を蹴りあげて飛んで距離を取った。このままではマズイと思ったのだろう。一方、少女の視線はそんな彼をゆっくりと、だが確実に追っていた。そして男は着地した瞬間、また舌打ちをした



「……どういうことだ。「アイツ」から聞いた情報と違うじゃねぇか!!」


「アイツ……?一体誰の事ですか?」


「けっ、お前に話すような事じゃねぇよ」



 無愛想に答えてから男は再び腕を構えた。周りの石が装着されていき《グランド・アーマー》が再発動していく。だがあれはさっき攻略されたばかりの技。それをこのタイミングで発動させる意図が分からない



「……食らえ、コイツが俺の必殺技だ」



 男が狂気じみた笑みを見せた。どうやらあれは≪グランド・アーマー≫とは違った技「切り札」らしい。もちろん言葉でしか聞いていない為、嘘だという可能性はある。だけどそれはきっとハッタリではない。何か具体的な確証がある訳ではないものの、男の雰囲気で確信した。どうやら俺と同じように少女もそれを察したらしく、ランスを持った右手に力が込められる



「必殺技、ですか。だったら……早めに対処しなきゃいけないですね」



 必死と言うよりは少し嬉しそうな声が辺りに響いた瞬間、彼女は脚力を使って前方に飛んだ。

 今更ながら、きっとそれも魔力によって強化されているのだろう。だから一度も足を地面に着ける事無く低空飛行状態で進んで行く。

 一見さっきと同じ行動。だけどよく見ればそれは少々違っていた。僅かではあるが、その速度はさっきよりも遅い。少しでも相手の攻撃に対処しようというならば、最大速度で向かっていくはずだ。これまでのダメージ総量が多いのであれば納得できるが、攻撃を避けていた彼女に致命的なダメージがあるとは考えにくい。つまり彼女は「意図的に」減速させたという事になる



「ハハッ!!そうやって接近戦に持ち込もうとするか。けどな、一つだけ教えといてやる。俺の必殺技は接近戦用なんかじゃねぇ。中距離でこそ威力を発揮する……技なんだぜ」



 少女の速度を見て男が言った。それと同時に腕の岩石は手のひらの前に集まり巨大な弾丸へと変化していく。言うなれば≪ストーン・ブレッド≫を大きくしたような形。もちろん少女もそれに目を向けるが、勢いをつけた突進は止まるはずもなかった



「それじゃあな。あばよ、譲ちゃん。≪グランド・ブレッド≫」



 不敵に笑った男はその両手に力を込めた。刹那、男を中心に風が吹き荒れ、草木を荒く揺し、石で造られた弾丸が発射される。向かってくる弾丸。一方の少女はその勢い故に止まる事は愚か、左右に移動する事も出来ない。終わったと確信した男がニヤリと笑った。その時だった



「≪アイアン…………スラッシャー≫ッ!!」



 「グングニール」と呼ばれたランスを両手で持ち直し、少女が思いっきり横に振った。すると彼女の前に飛んできた弾丸≪グランド・ブレッド≫は真っ二つに切断され、彼女の足元に被弾する。そして巻き起こる爆発。しかしその時はもう既に遅く、彼女は男の頭上にいた



「お、俺の≪グランド・ブレッド≫を一撃で……」



 男は驚きを隠せない様子だった。無理も無い。あれだけ大口を叩いた技が一瞬で破壊されてしまった。減速させたのは攻撃の準備をする為だったのだろう。こうなってしまえば、もはや彼に抵抗策は無い。万事休す。

 しかし彼は少女の様子を見て、再び狂気の笑いを浮かべていた。彼女の手にあるはずのランス「グングニール」が消えているのだ。どうやらさっきの攻撃で破損してしまったらしい



「フハッ、だ、だがお前の武器も損傷しているようじゃねぇか。だったら俺は≪グランド・アーマー≫を装備して……」


「あっ、その必要はありませんよ」


「なにっ!?」



 次の瞬間、男は目を丸くした。身を乗り出し、口は半開きのまま止まっている。魔法を発動する動作は一切見られなかった。完全に思考が停止している事が素人の俺でも分かる。そんな彼の瞳に映ったモノ。それは少女の姿。いや、正確に言えば彼女の手に持たれた「モノ」だった



「なっ……なっ……」


「――っ!!」



 男の目の前に着地した少女がその手の「モノ」を横に構えた。男は言葉にならない声を発しながら、右足を一歩後退させる。しかしそれでも、彼女の攻撃可能範囲からは逃れることが出来なかった。そして少女は魔法を発動させる



「終わりですっ!!≪メタルティクス・ブレイバー≫ッ!!」



 「モノ」は強い光を放つと主によって勢い良く振られ、男の外装に直撃した。未破壊の胴体部分を始め、足元にもその衝撃が伝わった瞬間、石は粉々に砕け散り殆どのそれが破壊される。そしてそのまま男の体は近くの太い樹木に直撃した。

 圧倒的な威力だった。小柄なその体からは考えられない程のパワー。彼女のさっき言っていた「それに私、接近戦が得意ですから」という言葉が頭に浮かんでくる。今ならそれが強がりでも慢心でも無い。唯の「事実」だという事が実感できた



「な、何故だ。お前の武器は……「グングニール」だったはずなのに……なぜ……」


「私の武器は確かにランス型の「グングニール」です。けれど、「それだけ」ではありません」



 殆ど虫の息となっている男に、少女は自分の手に持った「モノ」を見せつけた



「「グランニール」。私の持つ「二つ目」の武器、ディレクトリですよ」



 微笑んだ少女の手にある剣「グランニール」。その白銀の刀身は、太陽光に当たる事でより一層、美しさを増していた




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