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お化け少女と契約《エンゲージ》  作者: 探偵コアラ
お化け少女と契約《エンゲージ》Ⅱ
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第29話 いざ、ファンタジアへ!!

 俺が襲撃され、ファンタジアへの移動を決意した日から1週間後、俺達はついに「ファンタジア」へ出発日を迎えていた。

 聞けばあの日、俺と同じように良太も襲撃され、助けてもらってファンタジアの存在を知り移動を決意したらしい。それから移住の準備に追われ、今に至るというわけだ



「それじゃあみんな、集まってるね?」



 ラグさんの声に俺、陽花さん、弥生、リクが頷いた。良太と鈴は別の人と一緒らしい。するとラグさんはこの前使った剣を取り出し、魔法陣を展開する。

 話しによればあの剣は「カリバー」という名前でラグさんの相棒だそうだ。機械剣である為、色々なシステムが組み込まれているなんて話も聞いた。今はエネルギーで作られた刃を出現させていない。恐らくサポート機能を使っているのだろう。

 そんな事を思っている間に魔法陣の放つ光は徐々に強くなり、周りに張られた緑色の結界も色が濃くなっていく。そして光が最高潮に達した瞬間、俺達の体は異空間へと吸い込まれた




☆     ☆     ☆     ☆     ☆



 

 その空間では、体は浮いており勝手に前に飛んでいた。オーロラのような景色が延々と続く中を飛んでいく。同じ景色だったが不思議と嫌ではなかった。むしろ非現実的なその光景は、俺の期待を更に増幅させてくれる。隣にいる弥生も辺りを見て喜んでいるのだから、きっと同じ気持ちなのだろう



「ハルっ!!ハルっ!!すごいですよ、ほら、すっごく綺麗ですよ♪」


「あぁ、そうだな」



 俺ははしゃぐ弥生を見て少し笑ってしまった。この素直さが何とも可愛らしい。これで俺と同い年なのが不思議なくらいだ。すると弥生は頬を膨らませて、こちらを見てきた



「むぅ~、ハルは反応が薄いですね。嬉しくないんですか?」


「そりゃあ嬉しいさ。正直かなり興奮してる。けどほら、俺達って……浮いてるだろ?だからあんまり動くと落ちたりするのかなって思ってさ」


「お、落ちる!?あわわっ、それは困ります!!」



 急に大人しくなる弥生。少しからかおうと思ったわけだが、まさかここまで効果があるとは思ってもみなかった。成功したイタズラに思わず笑みが零れる。すると前を飛んでいたラグさんが後ろの俺達に視線を向けた



「そろそろ着くからね」


「はい、分かりました」



 返事をして下を見ると、陽花さんとリクが話しを楽しんでいる。きっとファンタジアの事を話しているのだろう。もうじき、ファンタジアに到着する。そう改めて認識した時、俺の口は勝手に動いていた



「……弥生」


「は、はい。なんですか?」



 体を硬直させ、おかしな格好になっている弥生が返事をしてくれた。そんな彼女を見て俺は思いを伝える



「これからのファンタジアでの生活……一緒に頑張ろうな」


「……はい、もちろんですよ」



 妙に明るい声が耳に聞こえた瞬間、目の前が光に包まれ、思わず目を閉じる。そして体の浮く感覚が無くなり、意識が体の奥底へ沈んで行った



☆     ☆     ☆     ☆     ☆



「……ここは、ファンタジアなのか」



 目を開けると、足元に魔法陣が広がっていた。辺りを見渡すと、木で作られた壁が俺達を囲っている。どうやら屋内の様だ。かなり巨大な、まるで宮殿のような広さ。人の数も多く、耳を澄ませば騒ぐ声も聞こえてくる



「広いな。けどここって……」


「時計台の中だよ。外部からファンタジアに来る時には必ずここに転送されることになってるんだ。こんなに広いのは、沢山の人が利用するからなんだよ」



 後方でラグさんが説明してくれた。話しによれば時計台内部のこの場所は「転移ゲート」と呼ばれているらしい。今日は平日ということで利用者が比較的少ないらしいが、休日になると一気に増えるそうだ。その辺りは日本の交通機関とあまり変わらないのかも知れない



「カリバー、ご苦労様」



 ラグさんがそう言った瞬間、手にしたカリバーが光の粒になり、足元で光っていた魔法陣も消滅する。と、同時に俺達を覆っていた緑色の結界も瞬間的に消えた。何ともファンタジーな光景。それに慣れない俺は思わず「おぉ……」と声を発してしまった



「さて、それじゃあ行こうか」



 ラグさんの声に俺達は頷き、彼の後に付いて行く。何か変化を感じるわけではなかった。体の感覚も、時計台内部の光景も、歩いて行く音も、日本と大差は無い。だけど「魔法の国に来ている」という事柄が俺の興奮を掻き立て、異様な期待を生みだしていた。

 そんな中、ラグさんは出入口の説明をしてくれた。どうやら出入り口には門があるものの、それを開ける必要は無いらしい。魔力持ちであれば通り抜ける事が出来るそうだ。もし、魔力持ちで無い人が通る場合は開けるらしいが今回の場合は必要無い。

 そんな彼の話を聞いている内に、俺達は巨大な門の前に辿り着いていた。するとラグさんが後ろを振り返った



「さぁ、いよいよファンタジアの街だよ」



 その言葉を最後に、ラグさんが門へと一歩踏み出した。するとその体は門を見事に貫通し、すり抜けていく。

 そして俺達も、その後に続いて行った



☆     ☆     ☆     ☆     ☆



 最初に見えたのは巨大な塔だった。街の中心に建てられたそれの周りには、いくつもの家々が建てられている。古風な物から真新しいものまで、実に様々だった。一言でいえば「歴史と最先端の入り混じる街」だろうか。そんな光景に俺だけでなく、全員が「おぉ……」と声を零した



「これが……」


「そう。魔法の国「ファンタジア」だよ」



 目の前に設置された手すりを握って顔を前方に出し、辺りを見渡す。ゲーム内で見るかのような光景、それはとても綺麗で魅力的で、思わず言葉が出てこなくなってしまう程だった



「どうかな?気に入って……もらえたかな?」


「はい!!本当にファンタジー世界みたいで……ワクワクしてきます」


「それはよかった。もちろん、ファンタジアは僕の所有物なわけじゃないけど、住んでる街が誉められたんだったら嬉しいよ。っともうこんな時間か。みんな、着いたばっかりだけど、ちょっと早めにホテルに行こうか」


「えっ、ホテルに泊まるんですか?」


「そうだよ。2,3日はそこに泊ってもらってから学園の寮に住んでもらうんだ」


「でもラグさん、もうちょっと街を歩いちゃダメですか?もっと見たいですよぉ……」



 弥生がラグさんを見て頬を膨らませながら抗議している。きっと珍しい所に来ているのだから色々な事を知りたいのだろう。それは俺も同様だった。だけどラグさんは申し訳なさそうに苦笑いしていた



「ごめんね。けど一旦ホテルに行って受付をしないといけないんだ。それに冬だから早めに帰らないと真っ暗になっちゃうよ?」


「えっ、今ファンタジアって冬……なんですか?」


「そうだよ。ここは他の国とは季節、というか日付が違うんだ。キミ達がさっきまで居た日本はまだ8月だったと思うけど、ここではもう12月なんだよ」


「12月って……真冬じゃないですか!!それにしては、俺達半袖なのに全然寒くないですけど……」


「それはさっき転送された時に僕が魔法を使ってるからだよ。体の周囲に膜を作って寒さを凌ぐ魔法をね。もしそれを取っちゃえば一気に寒くなると思うよ?」



 早速非現実的な事が目の間で発生した。特に動作もなかったから簡単なモノではあるんだろうけど、俺達はいつの間にか魔法の効果を受けていたのだ。気になって手のひらを見て見るが、膜の様なものは全く見えない。そこにあったのはいつもと変わらない、ただの素手だけだった



「キミ達はまだここに来たばっかりだからね。ここの魔力に慣れてくるのは明日ぐらいからじゃないかなぁ」


「元々魔力持ちでもダメなんですか?」


「うん。詳しい事は学園で教わると思うけど、簡単に言えばキミ達の持っている魔力がA、ここにある魔力がBって感じで魔力の種類が違うんだよ。そして今、キミ達の体は魔力Bに慣れようとしている。それが終わるのが大体、ファンタジアに来た翌日からなんだよ」


「なるほど、それじゃあ今日は自分で魔法自体を認識したりは出来ないんですね」


「そういうこと。とにかく今日はホテルに行こう?この時間帯に行けばきっとおいしいお菓子もあるだろうからさ」


「おかしー♪弥生ちゃん、はやくいこ!!いこ!!」


「リ、リク?まったく、お菓子で釣られちゃうなんて、ダメですよ~?」



 「お菓子」と聞いたリクが弥生を引っ張って坂道を下りていく。連れられた弥生は注意しつつも顔が笑っていた。明らかに嫌がっていない



「むしろあれは、お菓子って聞いて喜んでるな」


「ふふ、二人とも相変わらず可愛いね。ところでラグさん、ホテルの方向はこっちで合ってるんですか?」


「うん、大丈夫だよ。ここを下りればすぐだから。それじゃあ僕たちも行こうか」



 先頭に弥生とリク、その後ろに俺達が付いて行き坂道を下りていく。そして俺達はホテルへと向かった




☆     ☆     ☆     ☆     ☆




 ホテルに着いてからの受け付けは案外簡単だった。予約がしてあったらしく、俺達はちょっとした書類を書くだけ。今は受け付けの人がそれを確認している最中だ。その間俺達は案内されたロビーで待っていた



「見て下さいハル!!このホテルすごいですよ。なんと……この籠からお菓子を取ってもまた出てくるんです!!もうこれはアレですよ、エンドレスお菓子ですよ。モグモグ……」


「えんどれす♪えんどれす♪おーかーしー♪モグモグ……」


「二人とも、あんまり食べ過ぎるなよ?」



 テーブルに出されたお菓子に反応したオバケ2人がそのシステムに感動していた。籠に入ったお菓子は確かに1つ取ると数秒でまた同じものが出現している。ラグさんによるとこれは、転送系の魔法で転送されているらしい



「けどこんなに食べて大丈夫なんですかね?ホテルの人に申し訳ない気がしますけど……」


「それは気にしなくていいと思うよ。食べて欲しいから出してるわけだし。それに多少沢山食べても尽きる事はないからね」


「それって、どういうことなんですか?」


「ファンタジアには「お菓子の木」って言うのがあるんだよ。それをここのホテルは栽培しているはずなんだ。だからある程度食べてしまっても尽きる事はないんだよ」


「お菓子の木って……ホントにファンタジーって感じがしますね」



 俺が苦笑いしながらお菓子に手を伸ばしたその時だった。少し離れ位置にある階段から数人の人が下りてきて、こちらに向かってくる。先頭を歩いているのは少女だった。白いローブから長めの髪が見えている



「(もしかして俺達と同じような人かな?)」



 少し気になった俺は視線を向けた。するとあちらの人も気づいたらしく、こちらに視線を向けてくる。そしてお互い相手の顔を見た瞬間、驚愕した。少なくとも俺は手に持ったお菓子が落ちてしまうほど驚いた。すると彼女は、その場に立ち止まって言った



「は、ハル……にぃ?」



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