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お化け少女と契約《エンゲージ》  作者: 探偵コアラ
お化け少女と契約《エンゲージ》Ⅱ
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第28話 ハルの気持ち

「そう、キミ達が魔力以外に持っている力……。「霊力」だよ」


「霊……力?」



 疎い反応の俺の言葉にラグさんが頷いた。霊力。聞いたことが無い単語に思わず聞き返してしまった。と言っても全く予想が出来ないわけではない。霊とつくくらいだから「オバケ」が関連している事は予測できる。そんな事を考えたその時、ラグさんが話しを進めた



「霊力って言うのはね、オバケと契約した人が持ってる力の事なんだ。春人くんは、弥生ちゃんと契約してるでしょ?だから霊力を持っているんだ。そしてそれは、キミと同様に契約している陽花さんも例外じゃない」


「えっ、それじゃあ陽花さんも……?」


「うん。魔力持ちで霊力持ちだよ。だからラグさんとは知り合ってたの。今日行くって言ってた用事も、ラグさんと会う用事ってことだったんだよ」



 笑顔を見せる陽花さん。そんな2人の話しを聞いて、理解は大分出来てきた。そんな俺を見てホッとしたのか、ラグさんは冷め始めたコーヒーを口に運んだ



「けど、オバケと契約ってことは……良太もそうなんですか?」


「そうだね、良太くんも霊力はあると思うよ。そして魔力も持ってる。つまり私たち3人は同じ状況ってことなんだよ」


「……つまり、俺はその霊力を持っているから狙われたってことなんですか?」


「そうだと思うよ。実際、僕もキミ達が高ランクの魔力持ちで、しかも霊力持ちだからここに来たわけだからね。ただ、彼らの様子を見ると、僕たちとは目的は違うみたいだけど……」


「んまぁ、そうですよね……」



 正直苦笑いだっだ。もし仮にラグさん達の目的が、あの男と同じ俺の「抹消」であれば、今頃俺はここに居ない。そう考えると妙な気持ちになってしまう



「……ってあれ?それならもしかして、良太も狙われてるんじゃないですか!?俺や陽花さんと同じ状況だったら、アイツらが良太を狙ってもおかしくない。そうですよね、ラグさん!?」


「あぁ、それなら大丈夫だよ。彼の所には別の人が行ってるから。僕も名前しか知らないけど……それでも、かなり強いって話しだし。安心して良いと思うよ」


「そうですか、それならよかった」



 落ち着いて、目の前にあるカップを口まで運びコーヒーを飲んだ。冷たくなったそれは、だけど決して不味くは無い。そんなことに感心しながら俺はそれを全て飲みほした。するとラグさんが何かを決心したように、頷いて話し始めた



「それでね春人くん、僕がここに来た理由なんだけど……」


「あぁはい。俺達が魔力や霊力を持っているからですよね?それでその検査をする為……と」


「それが……それは少し違うんだよね」


「……えっ?」


「それは「普通の魔力持ち」の人の場合なんだ。だけどキミ達は違う。オバケと契約して「霊力」を持っているよね?だから……その……」



 少し言いづらそうにラグさんが一度視線を外した。なんだ?なんで視線を外したんだ?まるで困った様に、する彼を見て俺は疑問に思った。そしてその数秒後、そんなラグさんの行動の意味を俺は知る事になる



「検査……じゃなくてね。暮らして欲しいんだよ」


「暮らすって……まさか……」


「うん。「ファンタジア」で暮らして欲しいんだ」


「………………えぇぇぇ!?」



 苦笑いしながら放たれたラグさんの言葉、それ聞いて俺は思わず叫んでしまった




☆     ☆     ☆     ☆     ☆




「まさか……だろ……」



 俺はベットで横になっていた。もちろん自分の家。いや、正確には「日本にある自分の家のベット」だ。慣れたその柔らかい感触に埋もれつつ、俺は数時間前に聞いた話を思い出していた。



 あの後の説明は簡単なものだった。俺や陽花さん、良太は一種の「特別な存在」らしい。だから検査するだけではなく、ファンタジアで生活して欲しい。それがラグさんからの、いや、ファンタジアからの頼みだった。


 と言っても、学校側にはもうその事を話しているらしく、しかもそれを了承しているらしい。もちろん俺の親にも連絡が行っているそうで、同じく了承を貰っているそうだ



「いつの間にか……だもんな」



 俺は思わず微笑した。急過ぎる展開。考える間もなく変わっていく環境。それに対して不安に思う事が無いと言えば嘘になる。

 だけど、そんな状況に無性にワクワクし、期待している自分がいる。それは事実だった。例え学校や親への連絡がまだだったとしても、俺はきっとファンタジアへ行くのだろう



「なんだかんだ、楽しんでるんだな」



 弥生と一緒に学校へ潜入した時といい、今回といい、俺は案外自分の人生を楽しんでいるようだ。実感した事は無かったが、改めて考えるとそう思えてくる。

 そう思った瞬間、俺の体に何かが乗ってきた



「おっと……弥生か」


「私もお風呂に入ってきましたよ。いやぁ、良いお湯でしたね。極楽でしたよ」



 俺の上に乗っかって弥生が髪を拭いていた。シャンプーの良い香りが鼻を擽る。どうやら彼女はかなりご機嫌らしい。そんな彼女は髪を拭きながら、俺の顔を見てきた



「……ハル?」


「ん、どうした?」


「ハルはさっきのお話……どうするんですか?」


「えっと、ファンタジアの件……だよな?」


「はい……」



 弥生が頷いた。いつの間にか真剣な顔をしている。動作を止め、その瞳には俺の姿が写っていた。そんな彼女を見て俺は、一度深呼吸をしてから話を始めた



「……行くさ」


「行く……んですか?」


「あぁ、正直不安が無いと言えば嘘になる。だけど、それでも俺はあの時魔法を見て感動した。熱くなったんだ、胸の奥が。言葉じゃ満足に言い表せないけど、多分ワクワクしてる……んだと思う。だから俺は、そんなワクワクがある場所で、お前と一緒に沢山思い出を作りたいって思ってるんだ」


「ハル……」



 それは純粋な気持ちだった。魔法に対しての感動、ワクワク、そして弥生と思い出を作りたいということ。俺の抱いた全ての思いが意外と簡単にスラスラ出てきた。そんな俺の言葉を聞いて弥生は驚いたのか、口を開けてこちらを見ていた



「理由がこれじゃ……ダメかな?」


「い、いえ、ダメじゃないと思いますよ。むしろ私は嬉しいです。その……ハルが思い出を作りたいって言ってくれて……」



 弥生が照れくさそうに横を向いて髪を拭き始めた。心なしか少し笑っているように見える。いつもとは違った角度から見える彼女のそれに、俺は思わず微笑んでしまう



「……なぁ、弥生」


「はい、何ですか?」


「ファンタジアに行ってもさ、その……なんだ。お前とはパートナーなわけだからさ、よろしくな」


「…………はいっ!!」



 俺の言葉に元気に頷いてくれた弥生。俺はゆっくりと天井を見上げた。そして新たな旅立ちに、期待を抱いていた




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