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お化け少女と契約《エンゲージ》  作者: 探偵コアラ
お化け少女と契約《エンゲージ》
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第3話 春人の災難

「うわぁ……学校、ですね」



 見上げながら弥生が呟いた。


 俺の通う学校「朝野宮学園」。全校生徒が四百八十人であり、この辺りではかなり規模の大きな学校だ。その分設備も充実していて、俺も初めて見た時には驚きやワクワクを感じていた。

 だが、彼女の反応はそれらとは違っている気がした。否、正確には中身が違うと言うべきだろうか。表向きは驚いてるのに、なぜか他の感情も入り混じっている気がする。

 そう、言うなれば「懐かしさ」という言葉がピッタリだろうか



「なぁ、弥生。お前ってここに来た事あるか?」


「えっ?」


「いや、なんか反応に懐かしさが混ざってる気がしてさ。もしかしたら来た事あるのかなって思ったんだよ」


「な、何を言ってるんですか。来たことなんて無いですよ。きっとハルの勘違いです」


「そうか?すごく特別なモノを見てる様な目だったと思うんだけど……」


「それは……。だってほら、ここはハルの……私のパートナーの通う学校なんですよ?そこを見れたんですから、嬉しくないはずがありません」


「……そっか。まぁ弥生が喜んでるならそれでいいかな」



 思わず弥生から視線をそらした。なんだか「パートナー」と言われると妙に恥ずかしい。顔が少し熱い気がした。そんな時だった



「あの……ハル?行かないんですか?」


「うわっ!?」



 気がつけば、俺の顔から僅か数センチ先に弥生の顔があった。

 綺麗に潤った大きな瞳、艶めく唇、改めて近くで見ると心臓がドキドキしてくる。頭が混乱しているからか言葉が上手く出てこない



「大丈夫ですか?なんだか顔が赤いですよ?……ハッ、もしかして熱でもあるんじゃ……」


「あ、いや、その……大丈夫大丈夫。別に熱があるわけじゃないから。心配しないでくれ」


「そうですか?」


「あぁ。ほら、それより早く中に入ろう」


「はわわっ、そんなに後ろから押さないで下さいよぉ」



 弥生がちょっと嬉しそうに笑っている。そうして俺たちは学校へと入って行った




☆     ☆     ☆     ☆     ☆




「……で、あるからしてこの答えは十になるわけだ。理解出来たか?」



 黒板の前に立った先生がそう言った。今は1時限目数学の授業中。しかし俺のノート真っ白で何も書かれていない。それもこれも不安な事があるからだ



「(弥生、大丈夫か……?)」



 心の中で呟いた。事の発端は数分前―――



「ハル、私ちょっとおトイレに行ってきますね」


「トイレって……オバケなのにトイレに行くのか?」


「もちろん。元々は人間だったわけですからね」


「言われてみればそうか……。でも、もうすぐ授業始まるし、何より俺は女子トイレなんて入れないから弥生一人で行くしかないけど……大丈夫か?」


「あのですねぇ、ハル。私だって赤ちゃんじゃないんですからトイレぐらい行けますよ」


「そっか。それじゃあなるべく急いでくれよ?」


「りょーかいです!!」



 なんて会話をした事から始まっていた



「(全く、こんなに心配するなんて。ちょっと過保護的過ぎるのか……?だけどなぁ……)」


「どうしたんだよ、そんな浮かない顔して」


「ん?」



 突然掛けられた声に横を見た。すると1人の男子生徒がニヤニヤしながらこっちを見ている。もちろん、知らないヤツというわけではない



「なんだ、良太か」


「おいおい、なんだとはなんだよ。お前の左側の席の人物って言ったら……俺しかいないだろ?なぁ、相棒!!」


「そんなキラキラしながら言うな。あと別に相棒じゃない。ったく、あまり騒ぐと先生に見つかるぞ。……それで、なんだよ?」


「いや、だからさ、なんとなくお前が浮かない顔してたからなんかあったのかなぁって思ったんだよ。ほら、今日も学校に来てからこの授業が始まるまでどっかに行ってたしさ」


「…………」



 俺は学校に来てから、弥生に色々注意事項を説明する為に人気のない部室に入っていたのだ。だからあまり教室にいなかった。それをコイツはしっかり見ていたらしい



「何か悩み事か?なんかあるんだったら相談に乗るぜ?」


「別に。悩み事なんて無いよ」


「そう言うなよ。もしかして……誰か好きな子でも出来たのか?」


「無い」


「じゃあ可愛い子がいたのか?」


「無い」


「それじゃあ……誰かのスカートの中でも見ちゃったとか?」


「……なぁ、良太。なんでお前の頭の中はそんなことばっかりなんだ?もっと他の事は考えられないのかよ」


「へへっ、そりゃあ無理だな。なぜなら俺は……紳士だからな!!」



 カッコつけていうものの、全く説得力が無い。

 きっとコイツをある程度知った状態で、今の状況を見たら誰もがそう思うだろう。それぐらい違和感が生き生きとしている。そう言った意味でコイツは天才なのかもしれない



「それにほら、そういうお前だってそうなんだろう?紳士なんだろう?」


「……知るか」



 良太の言葉にそっぽを向いた俺は改めて黒板に目を向けた。その時だった



「むぅ………」


「ッ!?」



 目の前の後景に上げそうになった声を必死に抑え、叫びを堪えた。

 目の前に映ったもの、それは黒板などでは無い。今までトイレに行っていた俺の不安の原因。弥生だ



「や、弥生。お前いつ帰ってきたんだよ……」


「さっきですよ。さっき、ちゃーんと帰ってきました」



 俺の左側が壁なのを活かして弥生が壁際に移動し、俺が静かに話しかける。良太や周りのみんなの反応が無い事から、どうやらバレてないらしい



「じゃあなんで声ぐらい掛けてくれないんだよ。俺はずっと心配……」


「ハル、一体誰のスカートの中を覗いたんですか?」


「え……え……えぇっ!?」


「だから、一体誰のスカートの中を見たんですか!?」



 弥生が少し怒ったような表情で言った。もちろん俺にそんな記憶はない



「いや別に、誰のも見てないけど……」


「ウソです。さっきお友達と話している時にちゃんと聞こえてたんですよ」


「あっ……」



 どうやらさっきの会話を勘違いして聞いているらしい



「良太の野郎、こんな状況にしやがって……」


「いいから早く教えて下さい。さもないと……机をガタガタ揺らしちゃいますよ」



 果たしてこれは脅しと受け取って良いのだろうか?怖いような怖くないような事を言いながら弥生が机に手をかける。

 とりあえず言えるのは、今の状態で机を揺らされると、明らかに不自然だと言うことだ。俺が揺らした事になってしまえば、余計な注目を浴びてしまう



「わ、分かった。あとからちゃんと話すから。だから今は落ち着いてくれ……な?」


「……分かりました、約束ですよ?」



 頬を膨らませた弥生をなだめ、ホッと一安心し息を吐く。その時だった



「水上、お前は一体誰と話しているんだ?そこは壁だぞ?」


「えっ……」



 目の前で先生がため息をついていた。その瞳は明らかに可哀想なものを見るものだ。その様子に思わず俺も固まってしまう



「授業中に話すのはいかんことだが、壁に話しかけるとなると……何かよっぽどの事があったんだろう?」


「あ、いえ、その……」


「分かってる分かってる。そんなお前の話しは先生がしっかり聞いてやるから、とりあえず今は授業に集中してくれ。いいか?」


「……はい」



 俺が渋々頷くとをすると、先生は改めて黒板に向かって歩いて行く。すると隣の席の良太が再び俺に近づいてきた。

 一方の俺はこの状況に本当の意味で頭を抱えている



「……なんだよ、良太」


「なぁ、春人。やっぱり何か悩みがあるのか?」


「別にない」


「それじゃあ、なんで壁に話しかけてたんだよ」


「うぅ……」


「ホント、悩みがあるなら相談してくれよ?壁じゃ……スカートの覗き方なんて教えちゃくれないんだからさ」


「……その話しはもう止めてくれ」



 事の発端を思い出した俺は、そのまま机に顔を伏せた



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