第27話 『ファンタジア』
今話の更新をお知らせする活動報告に、更新以外のとあるお知らせをしています。
もちろんエンゲ関連です。
是非是非ご覧ください。
というわけで27話……スタートです!!
目の前にはいくつかコーヒーが置かれていた。湯気が宙を漂い、香ばしい香りが辺り一帯に広がる。良い匂いだ。そう思った矢先、とある青年がその1つを自分の元へと運び、砂糖を加える。そしてそれを一口飲むと落ち着いた表情でカップを置いた
「ふぅ、それで……結局春人くん達はケガとかは無かったんだよね?」
「あっ、はい。大丈夫でした」
「そっか。それならよかった」
優しい笑顔が向けられる。そんな彼に、俺は何故か安心感を抱いていた。
襲撃されて数十分後、俺達は青年の提案で近くのカフェに来ていた。彼は手慣れたように注文をし、俺達にコーヒーを奢ってくれた。本人曰く「キャラメルコーヒーだから甘くて飲みやすいよ」らしい。現に俺の隣では弥生が美味しそうにそれを飲んでいるのだから、本当の事なのだろう。そんな他愛もない事を考えていると、陽花さんが青年に視線を向けた
「……さて、それじゃあ落ち着いた所で本題に入ろっか。まずはそうだなぁ……とりあえず自己紹介をしてもらってもいいですか?」
「うん、そうだね」
陽花さんの言葉に頷いた青年はこちらに視線を向けてくる。数十分前に見た時と変わらない優しい瞳。それが俺に安心感を抱かせると同時に、適度な緊張感から自然と背筋が真っ直ぐ伸びる。そして彼の自己紹介が始まった
「自己紹介が遅れちゃってごめんね。僕の名前は「ラグ」。キミ達から見たら外国人……ってことになるのかな。「ファンタジア」って所から来たんだよ。よろしくね」
「えっと……ラグ……さん?ファンタジア……?」
「あぁ、ごめんね。いきなり言われても何の事だか分からないよね」
首を傾げる俺を見てラグさんは苦笑した
「えっと、まずはファンタジアの説明からなんだけど……ファンタジアって言うのは、日本の近くにある島国の名前なんだ」
「島国?……それってつまり、日本にあるテーマパークの名前とかではない……ってことですか?」
「もちろん。普段姿は見えないし規模も小さいけど、それでも1つの立派な国だよ」
俺の言葉に笑いながらラグさんが答えてくれた。だけど、その言葉の中にはまたまた疑問に思ってしまうワードがある。それは―
「……あの、すいません。普段見えないって……どういうことなんですか?そもそも「ファンタジア」なんて名前、聞いた事も無いんですけど……」
「うん、「ファンタジア」は魔法技術の発展した国だからね。普段は結界に覆われていて、見つからないようにしてあるんだよ」
「……はい?」
思わず目を見開き、体が前のめりになってしまった。その拍子にカップを倒してしまいそうになり、慌ててそれを抑え込む。するとラグさんは一口、コーヒーを飲んで話しを進めた
「えっとね、「ファンタジア」って国では魔法が使えるんだよ。例えば手から炎を出したり、物を浮かせたり……。普通じゃ出来ない事でも出来るようになる、そんな不思議な事が出来る国なんだ」
「……えっと、それって何かの冗談ですか?いや、流石にそれは冗談ですよね?」
「あはは、違うよ。本当の事。例えば、うーん……こんな感じかな」
ラグさんがカップに手を向けると、俺達の席の周りにだけ緑色の膜が張られ包まれる。さっきまで外の空で見ていた様な膜。もちろん色は違うものの、同じような雰囲気を感じる。すると、俺がそんな事を思っているうちにラグさんは手に力を込め、そして―
「えっ……?」
手をかざしたカップは宙に浮かび、俺の方へと向かって飛んできた。慌てて手を差し出すと、今度はそこに向かって落下し、着地する。そしてカップは浮く気配を完全に無くし、覆っていた膜も一瞬で消えてしまった
「な……なんですか、これ?」
「魔法だよ。ここは「ファンタジア」じゃないからね、今みたいに結界内じゃないと使えないけど、今ので魔法の存在は信じてもらえたかな?」
ラグさんがカップを手に取りながらそう言った。確かに目の前で体験したのだから一応存在はしている。しかし、あまりに非現実的過ぎるそれは、俺に熱い興奮をもたらしてくれた
『魔法』
恐らく誰もが一度は憧れ、想像したそれを今、目の前で見る事が出来たのだ。もちろん俺だって例外ではない。いや、むしろ「想像すること」がかなり大好きだのだから、魔法ともなれば興奮せざるを得ない。だからこそ、胸に抱いていた疑いは好奇心へと変わって俺の体を駆け巡る
「すごい……。今のが魔法なんですか?」
「うん。今のはコップを浮かせるだけだから何か『スキル』を使ったわけじゃないけどね」
「…………っ?」
1つの言葉に、俺は思わず声を零した。今、ラグさんが言った事の中に聞き覚えのある言葉があったのだ。以前、ゲーム部での対戦の際に聞いた言葉。それは―
「『スキル』……ですか?」
「うん。スキルだよ。……って、そっか。春人くんや陽花さん達は「マジック・バトル・コロシアム」をやったことがあるんだっけ?」
「はい、ゲーム中の「技」みたいな……」
「うん、それそれ。実はあのゲームってね、ファンタジアで実在するスキルを参考に作ってあるんだよ」
「えっ?ってことは≪ストライク≫とか≪グラビティ≫とかも実在する……ってことですか?」
「もちろん。武器だって同じように参考にされてるんだよ」
「そ、それじゃあ「ファンタジア」ってまるで……」
ゲームの世界がそのまま再現された国。まさにそういう印象だった。それだけ目立つ特徴があるなら流石に発見されそうだが、それはきっと他の魔法で何とかしているのだろう。少し無理矢理な解釈だが、それでも納得出来てしまう。それだけ衝撃的な事だったのだ
「あのゲームはファンタジアの魔法研究会が作ったんだけど、魔力を検知するシステムが搭載されてるんだ。これを使えば、プレイした人が魔力を持っているか確認する事が出来るんだよ」
「なるほど。けど、魔力を持っているか確認してどうするんですか?それが分かっても、意味が無い気がするんですけど……」
「魔力量が少量だったら問題ないんだけどね。けどもし、それなりに強い魔力を持っていた場合は色々と問題が無いか調べないといけないんだ。「魔力暴走」なんて危険もあるからね」
「魔力暴走……?」
「そう。さっきも言った通り魔法は特定の場所や結界外では使う事が出来ない。だから体の中に魔力が溜まっちゃうんだ。そして、最終的に抑えきれなかった魔力は溢れだして暴走する……これが「魔力暴走」。魔力の強い人はこれになりやすいんだよ。だから、そんな人を探し出してファンタジアで検査をしているんだ」
「あぁ、それでゲームを使って魔力量を調べようとしているんですね」
ラグさんが頷いた。確かにゲームならば多くの人が触れるから、効率よく高魔力持ちの人を探し出すことが出来るだろう
「まぁ、魔力暴走の危険がある人はなかなかいないから、稀と言っても良いんだけど……それでも最近は増えてきているからね。警戒しているんだよ。と、まぁ魔力暴走に関してはこのぐらいにして、今度はキミに関係のある事を説明しようかな」
俺がコーヒーを飲んだ瞬間、話しの話題が変わった。俺は静かにカップをテーブルに置き、彼に視線を向ける。いや、俺だけではない。同じく被害に遭った弥生もラグさんの事を見ている。そんな中、ラグさんは口を開いた
「さっきキミを襲っていた男の人……あの人は多分、ファンタジアの人間だ」
「ファンタジアの人間って……じゃあその魔法研究会の人ってことですか?」
「ううん、違う。魔法研究会の人だったらあんな乱暴な事はしない。ちゃんと本人や親さんたちに説明をするはずなんだ」
「それじゃあ、アイツは……」
「恐らく魔法に対する方針に反対する人たち……だろうね」
「反対……?」
「そう。今、魔法は学校教育でも取り組むくらい重要な要素として重宝されている。だけどそれは、一歩間違えればとても危険な力なんだ。その気になれば、世界だって壊すことが出来ると思う。そんな力を悪い事に使おうとする人がいるんだ。きっとその人たちが春人くんを襲ったんだと思う」
ラグさんの考えには安易に納得できた。
つまり、ファンタジアには魔法を悪用しようとしている人間がいるのだ。きっとラグさんはそんなヤツらを取り締まる、そんな役目をしているのだろう。
しかし、俺の中にはまだ疑問が残っていた。それは―
「けど、なんで俺が狙われたんだろう……?」
不思議だった。もし俺が魔力持ちだとすれば魔法研究会から注意を向けられるのは納得できる。けど悪用しようとするヤツらが俺を狙う理由が分からない。しかもさっきの黒いローブの男は俺を抹消すると言っていた。
つまり俺の命を狙っていたという事だ
「ラグさん、俺は魔力持ちだったりするんでしょうか?」
「……うん、キミは魔力持ちだよ。それもなかなか高いレベルのね。それにキミは……ううん、キミ達はかなり珍しい力を持っているんだ」
「珍しい……力?」
俺の問いにラグさんが頷いた。隣では陽花さんがいつもの笑顔ではなく、真面目な表情をしている。彼女だけではない。弥生やリクも同じように真剣に話しを聞いている。そんな4人の視線を受けながら、ラグさんはゆっくりと口を開いた
「そう。キミ達が魔力以外に持っている力……「霊力」だよ」