表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お化け少女と契約《エンゲージ》  作者: 探偵コアラ
お化け少女と契約《エンゲージ》
25/141

エピローグ


 あれから数週間が経った。聞くと、リクや鈴も消えてしまったらしいが、俺や良太、陽花さんはオバケと出会う前と変わらない日々を過ごしている。変化と言えば、3人で集まる事があるくらいだろうか。その場ではみんな笑顔になるものの、やはり最後には寂しさが目立ってしまう



「……はぁ」



 その時俺は、自分でも分かるくらい大きなため息をついていた。放課後、クラスメイトが部活や帰宅でいなくなった教室に俺だけがいた。

 夕陽が眩しく机を照らし、影を作っている。あの日から、放課後はこうやって過ごすことが多くなった。これももう何度目か分からない。意味のない事だけど、自然とこの時間を過ごすことが日課になっていた。原因は、もちろん分かっている



「弥生……」



 ふと、その名前が出た。静かな放課後の教室で夕陽を見ると思いだす。忘れる事の出来ない存在。最後に涙と笑顔を見せた女の子。その姿が今でもしっかりと脳裏に焼き付いて離れない




―会いたい―




 そんなことを願ってしまうのも、もう何度目だろうか。多分、この時間を過ごす度に思っている。それほど俺は願っていた。


 あの温もりを、あの優しい声を、あの元気な姿を、そしてあの笑顔をまだ見ていたかった。そんな本音が心の中で零れた瞬間、俺は机に顔を伏せた


 自分でも分かっていた。今の現状が辛い事に。だから意味も無い時間を過ごして気を紛らわしていた。ボーっと景色を見る事で、全てを忘れ楽になろうとした。

 だけど、忘れる事は出来なかった。いや、出来はずも無かった。弥生過ごした日々は俺にとって大切な時間だったから。だから、忘れられないし忘れたくも無い。その矛盾とずっと闘ってきた



「……どうすれば、良いんだろうな」



 聞いてくれる相手もいないのに呟いた。もし弥生がいれば「何がです?」なんて言ってくれるだろう。彼女のその言葉が、あの声で再生される



「…………っ」



 その時だった。俺は伏せていた顔を起こし立ち上がる。瞳に入ってくる夕陽の光が強くて目を細めるものの、机の横にかけていたバックを取り、教室を後にした。まだ帰るつもりは無い。俺はそのまま階段を上へ上へと昇って行った



☆     ☆     ☆     ☆     ☆



「…………」


 俺はある教室の前に居た。目の前にはドアがあり、その上には「音楽室」と書かれたプレートがある。あの日まで、ここに特別な感情は無かった。むしろ影が薄くて気にも留めなかった場所。だけど今となっては大きな意味を持っている



「音楽室……か」



 今日、この場所をどの部活でも使わない事は把握していた。あの日から1度は来ようと思っていた。けれども実際に来るのはこれが初めてだった。ここは大切な場所であると同時に、俺にとって悲しみを抱く場所でもある。抵抗があった



「…………っ」



 ドアノブに手をかけ、ゆっくりとそれを開けていく。目の前に広がったのは綺麗に整頓された音楽室。机の位置なんかは若干変わっているものの、殆どあの日と変わらない。だからだろうか、急に胸が苦しくなり、吸った空気が重く感じてしまう



「ここに……アイツがいたんだよな」



 窓の前まで移動し、その周辺を見渡した。あの時弥生はここから俺に話しをしていた。過去も、嘘も、願いも、俺に教えてくれて……そして、消えた。

 跡形も残っていなかった。まるで最初からいなかったみたいに。完全な消滅。その影響で、アイツがこの世にオバケとして来たという証拠は俺達の記憶だけとなっていた。物理的には何も残っていなかった。それを思うと、俺は勝手に歯を食いしばっていた



「ったく、あのバカ……こっちの事も考えろって……」



 急に思い出が頭の中に甦ってくる。夜中にいきなり押しかけてきて、学校にまで付いて来て、勝手に怒って、校舎に潜入までさせて、クレープを欲しがって……。ダメだ。やっぱりどうしても、甦って来るものはあまりに少ない



「……なんだよ、これだけじゃないか。たったこれだけ。そりゃそうだよな、1週間だもんな。1週間じゃ……足りないよな」



 すると自分の頬を何かが通って行くのが分かった。瞳から流れて下へ落ちていき、そのまま地面へ落下する。どうやら俺は、泣いているらしい



「……あーあ、泣くなんて思ってなかったんだけどなぁ。やっぱり俺……悲しんでるんだな」



 自分では意識しないようにしていた。いや、分かっていたからこそ、この場所に来るのに抵抗があったんだ。だけどもう来て泣いてしまっている。もう自分を止める事が出来なくなっていた



「……弥生、なんで消えたんだよ。何もかも、まだまだ足りなさすぎじゃないか。こんなんで終わりって……そりゃないだろ……」



 溢れる文句を言いつつ、一歩一歩前に歩き、そして窓の前へと辿りつく。上を見上げた。空はオレンジ色に染まり、輝く夕日が色んな物を照らしていた。あぁ、これが弥生の見た景色なんだな。そう思った



「…………」



 いつの間にか言葉は出てこなくなった。あまりに納得出来ず言葉じゃどうしようもない、そんな状況になっていた。だが不思議とこの景色を見てれよかったと思った。アイツが最後に見た景色。それを俺も見る事が出来た。つまり、アイツがこの世界にいたって証拠を俺はまた1つ見つけた事になる


―その時、だった―



「そんな所で何をしているんですか?」


「えっ……?」



 一瞬驚いた。だってその声が俺の今、会いたい人にあまりにも似ていたから。まるで本人ではないかと思うくらい。だけどアイツは消えたのだ。もうこの世界にはいない。だから俺と話す事は無い。だから、この声はきっと他の誰かに……違いない



「あの……」


「あ、あぁごめんごめん」



 思考を巡らせていたせいで、声の主を見ていなかった。無反応と思われたのか、少し不服そうな声を漏らされ、俺は慌てて振り返った



「ちょっと夕陽を見……て……」



 そこまで言って俺の体は固まった。正確には彼女の姿を確認して固まった。言葉も出てこない。だけどこれはさっきまで感じていた納得できないからじゃない。本当に声が出なかった。何か言いたいという欲求すら忘れ、今は目の前の事に驚いている。そして数秒後、俺はようやく第一声を発した



「弥……生……」


「はい、私です」



 俺の目の前にいたのはアルバムで見た女の子だった。「小鳥遊弥生」、そう呼ばれる人物が俺の目の前に立っていた



「小鳥遊弥生……なのか?」


「はい、小鳥遊弥生ですよ。正真正銘、間違いありません。私は、アナタの知ってる「弥生」です」



 彼女の言葉にまた沈黙が起こった。だけど「弥生は消えた」という現実が俺に襲い掛かり、目の前にある希望が幻想だということを告げる。だから俺は疑わざるを得なかった



「け、けど待ってくれ。お前はもう……消えたんじゃ……」


「あの……それに関してなんですけどね。どうやら私……戻ってきたみたいなんです」


「……えっ?」


「どうやらまだまだ……思い出が足りなかったみたいなんです。大好きな人との……ハルとの、時間や思い出がまだまだ足りなかったんです。だから、戻ってきました」



 少し苦笑い気味に言った彼女の言葉を理解した途端、俺は走り出す。そして彼女を抱きしめた。温もり、声、姿。俺の求めていたものが続々と感じられた。もう離したくない。そう思った


 そして彼女は「笑顔」で、こう言った



「うらめしやぁ……です♪」





 さて、まずは


「ありがとうございます」


と言わせて下さい。


 このお化け少女と契約エンゲージはコアラ初の1次創作ということで苦戦も多かった作品ですが、更新の度に多くの人が読んで下さっていて、それが執筆の原動力となっていました。



感想を下さった

『断空我』さん

『大岸 みのる』さん


活動報告などで応援して下さり、誤字脱字まで教えて下さった

『ちびひめ』さん


各キャラのイラストを手掛けて下さった

『譲木 那音』さん


そして、全ての読者の皆さん


 この場をお借りして言わせて頂きます。本当にありがとうございました。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ