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お化け少女と契約《エンゲージ》  作者: 探偵コアラ
お化け少女と契約《エンゲージ》
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第22話 リトルパーティ

 

 日曜日、夕日の沈む時間帯に俺達は集まっていた。場所は学校の校庭。昨日俺が先生に使用許可を貰った場所だ。来てみると本当に人はおらず、今も俺達以外に誰もいない。だから弥生、リク、鈴の3人は虚空化を解除して準備に励んでいた



「……あ、リク。そのお肉達はこっちに持って来て下さい」


「うん、りょうかーい。……むむっ!!」



 返事をしたリクは食材に目を向けると、真剣な表情でそれを見つめた。視線の先にあるのはバーベキュー用のトウモロコシ。学校の近くにある八百屋で買ってきたものだ。今朝採れたばかりということで色もよく、きっと美味いであろうそれを、彼は一心不乱に見つめている。すると、近くに居た鈴がその様子に気がつき声を掛けた



「……リク?どうかしたの?」


「ね、ねぇ……鈴」


「何よ。そんな改まっちゃって……。どうかしたの?」



 首を傾げ不思議そうな鈴。それとは対照的にまるで「何かの核心に気づいてしまった刑事」のようなリク。2人の間に風が通り、ほんの1,2秒ではあるものの妙な緊張感が漂った。そして何かを決意したように、リクは口を開いた



「……このとーもろこしって、今食べたら……ダメなのかな?」


「えっ……?」



 一瞬で空気が固まった。否、弥生は手際よく準備をしており、俺の後ろでは良太も普通に支度をしている。だから全体が固まったんじゃない。リクと鈴の周りの空気が固まったのだ。しかしそれも長くは続かず、鈴が我に戻って話しを進める



「い、今って……この生の状態で?まだ焼いてないのに?」


「うん。このままでもすっごくおいしそうだから食べちゃダメなのかなって……ついつい思っちゃうよね!!」


「思わないわよ、普通。まったく、どこの世界にトウモロコシを生で食べる人がいるのよ……」


「いないの!?と、ということは、ぼくってもしかして……かなり珍しい!?つまり、スゴイ!?」


「珍しいけど全然スゴくないからっ!!あと、少し興奮しながら言わない!!」



 鈴に言われたリクが「そうなの?」と言って首を傾げた。たまに出るリクの天然発言、今起きたそれに鈴が「はぁ」とため息をついた。すると



「もー2人共、早く持って来て下さいよー」


「あ、ごめんごめん。今持って行くから。ほら、リク」


「うん」



 弥生のブーイングに反応した2人が慌てて肉を持っていく。すると弥生はそれを箸でつかみ、網の上に置いた。すると周囲には肉の焼ける音が響き渡り、それに興奮した3人が「おぉー」と声を上げた。漂ってくる匂いを嗅いでみると確かに良い匂いがする



「ふふ、みんな仲良くやってるね」


「みたいですね、まぁ色々問題もありそうですけど……」


「大丈夫だってハル。俺はあるぜ、トウモロコシを生で食ったこと!!まぁかなり昔ではあるけどな」


「あるのかよ……」


「おう、なんたって俺は「ワイルドボーイ」なんて呼ばれてたからな、その名に恥じないアクシデントを起こして来た自信はある!!」


「それ、ワイルドなのか……?」



 誇らしい表情の良太だが、言っていることは自体は決して自慢にはならない。だからだろうか、同じように話しを聞いていた陽花さんも「あはは……」と苦笑いしていた



「アクシデント起こすからって、ワイルドなわけじゃないよねぇ」


「そもそもアクシデントとワイルドにどんな関係があるんだよ」


「……まぁそれは置いとくとしてだ、今聞こえなかったか?肉の声が」


「ハァ?肉の声……?」


「おう!!待ってろ肉、今俺が行ってやるからなぁー!!」



 訳のわからない事を言いながら良太は弥生達の元へと向かっていく。さっきの様子を見ると、弥生達はまだ肉を焼いているだろう。それを仲間達で騒ぎながら見てみるのも良いかも知れない



「とりあえず、行きましょっか陽花さん」


「うん、そうだね」



 そうして俺達は、弥生やリクの元へと向かった



☆     ☆     ☆     ☆     ☆



「うめぇ!!この肉うめぇぞ!!流石肉!!ミート!!バーベキューのチャンピオンだな!!」


「もう、うるさいってば。もうちょっと静かに食べれないのかしら?これだからいつでも「おバカなおサルさん」って言われるのよ」


「そうか……って、それ言ってるのお前だけだからな!!それに俺はサルじゃねぇ!!」



 皿いっぱいに肉を載せた良太が言った。一方の鈴は涼しい顔をして肉や野菜を食べている。まるで気にしていないようだ。すると良太は目の前の肉を見て、腕を組み、真剣な表情で話し始める。どうやら「肉」について語る様だが



「良いか鈴?この肉ってのはな……」


「ほらほら、良いから食べなきゃ。はい」


「ッ!!モグモグ……うん、うめぇ!!」



語り、僅か2秒で終了。さっきの怒りはどこへ行ったやら、鈴から肉をもらった良太は途端に元に戻り、自分で肉を取り始めた。隣で「フフフ」と不敵な笑みを浮かべる鈴。どうやら良太の扱い方を覚えて来たらしい。だからさっきもあんなに冷静だったのだろう



「あはは、良太くん、すっかり宥められちゃってるねぇ」



 俺の隣に居た陽花さんが苦笑いしながら言った



「しょうがないですよ。「食べ物を与えれば大抵大人しくなる」、良太を扱う時の最善策ですから」


「……でも、なんだかんだ上手くいってるみたいだね。とりあえず一安心かな」



 陽花さんが安堵した。この3人の中では、良太が1番オバケとの共同生活時間が少ない。だからこのバーベキューで仲良く出来るか、少しではあるが心配していたようだ。しかし目の前ではこの状況。普段なら苦笑いするであろう場面だが、今回はなんだか微笑ましい



「……ありがとね、ハルくん」


「ありがとう……ですか?」


「うん。だってこんな楽しいイベント考えてくれたんだもん。私今、すっごく感謝してるんだよ?」


「感謝って……そんな、大げさですよ」


「ううん。本当に感謝してるの。こうやって、みんなで集まって遊ぶのってやっぱり楽しいなぁって、改めて分かったから。本当に嬉しいの。だから、ありがとう」


「い、いえ……」



 笑った陽花さんが可愛すぎて俺は思わず顔を背けた。マズイ、今のは可愛すぎる。いつも可愛いけど!!今のはかなりスペシャルだった!!しかも、嘘偽りが無いから余計に輝いて見える。だから俺は背けた顔をしばらく元に戻せなかった。すると、それに気づいた陽花さんが更に俺の耳元に近づいてそっと呟いた



「お礼……しよっか?」


「お、お礼……ですか?」



 一瞬動揺してしまう俺。それを気にも留めず、陽花さんは優しい声で話しを続けた



「うん。すっごく感謝してるから今回は特別。ハルくんのお願い……1つだけ、聞いてあげるよ」


「えっ!?」


「あ、もちろん私に出来ることのみ、だけどね」


「……」



 マズイ。恐らく今の俺の顔は相当真っ赤になっているだろう。それこそをリンゴの様に。夕陽の様に。いや、もしかした、それ以上かも知れない。そんなちょっとした詩人的な事を考えながら俺は陽花さんに目を向けた



「―――?」



 陽花さんは変わらない、優しい笑顔でこちらを見てきた。さっきの言葉の影響か、その姿が何となく艶っぽく見える。そして脳内で繰り返されるあの言葉


「お願い……1つだけ、聞いてあげるよ」


 その言葉が俺の頭の中を駆け巡り、心臓の鼓動を大きく跳ねさせる。実感は無いが、恐らくかなり緊張しているだろう。体温が上がっている気がするし、何よりいつもは感じないドキドキが止まらない。すると、その様子に気づいたのか、陽花さんが首を傾げた



「どうかした?なんかちょっと顔が赤い気がするけど……」


「えっ、そ、そんなこと無いですよ!?」


「……あっ、もしかして今、ちょっとエッチなこと考えてたとか?」


「ま、ま、ま、まさか!!そ、そ、そ、そんなこと考えるわけないじゃないですか!!あは、あはは……はは……はぁ」



 笑い疲れて思わずため息を吐いた瞬間、陽花さんが不敵な笑みを浮かべた



「……ふふ、ハルくんってば分かりやすいなぁ」


「えっ?分かりやすい!?」


「うん。だって誤魔化すのが下手すぎるんだもん。普段は結構上手そうなのに、こういうことになると弱くなっちゃうんだね。そんなハルくん、私は好きだよ」


「好きってまた、そんな冗談を……あっ!!もしかして陽花さん、俺をからかってました!?いや、絶対からかってましたよね!?」


「えー、そんなことないよ。まったく、そんな風に思われてたなんてお姉さんショックだなぁー。そんなこと言う悪い子には、お礼はしてあげないよ?」


「……元々する気、ありませんでしたよね?」


「そんなことないってば。してあげる。もちろん、エッチなことはダメだけど……それ以外で、ハルくんを助けてあげたいなっては思ってるよ」


「……それじゃあ、いつか俺がピンチになったら助けて下さい。ほら、生徒会の権限使って……」


「ってそれ、職権乱用って言うんじゃないの?完璧にアウトだと思うんだけど」


「そ、それじゃあ職権は使わずに助けて下さい。それでお願いします」


「ふふ、りょーかい。私が助けちゃうのを楽しみに待っててね?」



 そう言って陽花さんは網の前に居るリクの元へと向かった。陽花さんが助けに来るってことは、俺はピンチになるってことなんだけど……、まぁ陽花さんが楽しそうだからそれで良いか



「正直、ちょっと俺も楽しみにしてるしな」



 自分でも分かるくらいニヤついて言った瞬間、隣で不服そうな声が聞こえた



「むぅー……」


「うわっ、や、弥生!?どうしたんだ、そんなに脹れっ面して」


「だってハル、ニヤニヤしてるじゃないですか」


「えっ、あー……」



 ご機嫌な斜めな弥生に思わず困ってしまう。恐らく自分を無視して話されたからだろう。誰しも空気の様に扱われれば、そりゃ不機嫌にもなってしまうだろう。すると彼女は俺の膝に座り、皿の上のニンジンを頬張った



「……あむ」


「えっ……弥生?」


「……寂しかったんですよ?だから少し座らせて下さい」


「いいけど……それ、食べづらくないか?地面と違って安定してないし……」


「……じゃ、じゃあ、ハルが私を支えて下さい」


「えっ……?」


「お願いします。ハルが私を支えて下さい」



 脹れっ面なまま、弥生が言った。照れているのか、顔をこちらには向けてくれない。しかし、その体は俺にもたれかかっており、決して嫌がっているようには見えない。だから俺は少し恥ずかしかったが彼女を支えることにした



「分かったよ、ちゃんと支える」


「……ひゃ!!」



 俺は弥生の腰に手を回し彼女を抱き抱えた。するとそれに驚いたのか、弥生は可愛らしい声を上げた。それでも俺は彼女を離さない。すると機嫌が直ったのか、弥生は背けていた顔をこちらに向けた



「ハ……ハル?」


「俺がちゃんと支えてやる。お前が求めるなら、こうやってしっかり支えてやる。だから、いつでも言え。弥生は俺の大切なパートナーなんだから」


「……ふにゃ、ありがとうございます、ハル」



 弥生が腕に顔をうずめた。温かい体温。まるでミルクの様な甘い匂い。それこそが、彼女が今ここに居ることを証明し、俺に示してくれる。弥生の存在が、ちゃんとここにあるって教えてくれる。そう思った瞬間、彼女と出会えた事に、とても感謝したくなった



「ありがとな、弥生」



 俺はそっと、小さく呟いた



☆     ☆     ☆     ☆     ☆



「バーベキュー楽しかったね、ハル」



 リクが満面の笑みでそう言った。食後、俺はオバケ3人の面倒をみることになった。陽花さんと良太は洗い物中。良太曰く「たまには陽花さんと一緒に居させてくれ!!」だそうで、陽花さんも承諾した為こんな状況になってる



「美味かったよな……ってリク、頬にバーベキューソース付いてるぞ?」


「えっ?どこどこ?」



 自分の頬をペタペタ触り確かめるリク。しかしソースの付いている部分とは程遠い場所を触っており、認識できていない。だから俺は、そんな彼の頬に手をやり、ティッシュでそれを取ってやった



「……ほら、取れたぞ」


「ありがとう、ハル。けど、ほっぺにソースが付いてたらいつでもあの味が楽しめるよね?むむっ、これってもしかして……かなりお得?」


「お得……じゃないな。むしろ付けてたらかなり恥ずかしいと思うぞ」


「そっかぁ。いつでも食べられて良いと思ったんだけどなぁ」



 今度は頬を膨らましたリク。言っていることは分からないでもないが、流石にそれを勧めるのは間違いだろう。そう思った俺は隣で苦笑いした。すると、後ろから足音が聞こえてきた



「足音……?あぁ、そう言えばさっき、弥生と鈴がトイレに行くっていってたっけ。帰って来たのかな?」



 そう思いながら振り向くと、鈴が小走りでこちらに走ってきた。大荒れではないものの、息を切らして俺の目の前で止まった。その顔は微妙に赤く、少し走ってきたのがよく分かった



「おっ、鈴戻ってきたか」


「も、戻ってきたけど……ハル。夜の学校ってかなり怖いのね。真っ暗だから何も見えないし……」


「けどお前、オバケだろ?それでも苦手なのか?」


「イタズラとか何かに夢中になってたら良いけど、冷静に見ると怖くなってきたの」


「あぁ、なるほど。子供によくあるパターンだな」


「こ、子供じゃないわよ!!」



 怒った鈴が俺をポカポカ叩いてくるものの、決して痛くは無い。むしろちょっと可愛いくらい。柔らかい拳が背中に連打され、ミニ肩叩きのようになっている。すると隣で見ていたリクも両手を上げ、こちらに向かってきた



「あー、ぼくもぼくも!!ぼくもやるー!!」


「お、おい。ちょっと待ってって。2人で叩くとか反則だろ」


「反則なんかじゃないわ。これは……共に闘うと書いてズバリ、「共闘」よ」


「意味とか説明しなくていいから!!それになんか共闘っぽくないし」



 それでも叩いてくる2人に思わず苦笑いをしてしまう。しかしその時、周りを見渡して気付いた。何かがおかしい。この場には今、違和感しかない。リクは元々俺と一緒にいて、鈴はさっきトイレから帰ってきている。それじゃあ……弥生は?弥生は一体どこにいるのだろうか?そう思った俺は一緒にいたはずの鈴に聞いてみることにした



「そう言えば鈴、弥生はどこだ?まだトイレなのか?」


「えっ、弥生?……う、うん。まだトイレだと思うけど……おかしいわねぇ」


「……」



 明らかにおかしい態度。それはふざけて誤魔化しているのではなく、真剣に言い訳を考えている表情だった。見てみると、隣にいるリクも笑顔が消え、少し切ない表情をしている



「おい、鈴。本当に弥生はトイレに行ってるのか?」


「えっ?行ってるのかって……。だ、だってあたしと一緒に行ったでしょ?アナタもそれは知ってるはずでしょ?」


「けど、まだ帰ってきていない。トイレは学校内にあるはずだ。お前がさっき言った通り、中は暗くて怖いはず。そんな場所に弥生を置いてきたのか?」


「……」


「違うよな?なんだかんだ面倒見の良いお前だ。本当ならちゃんと弥生を待ってるはずだろ?それなら、なんで一緒じゃないんだ?」


「……」


「……鈴」



 興奮を抑え、俺は彼女の名前を言った。正直、話している途中ムキになっていたのだ。だから一旦落ち着かなければならない。そうでなければ、この子から現状を聞きだすことは出来ない。いや、違う。仮に聞きだしたとしても、きっと俺は冷静でいられない。そんな気がした



「なぁ鈴、教えてくれ。俺は弥生が心配なんだ。だから……」


「……分かったわよ」


「えっ?」



 俺が折れる事は無いと判断したのか、ため息をつく鈴。しかしいつもと比べて何かが違う。決して軽い雰囲気じゃない。今のため息だって重すぎる。そして何より、彼女の表情が変化していた



「分かったわ。あの子のこと、教えてあげる。ただし、これは弥生に「言わないで」ってお願いされた話しよ。もちろん、リクだって口止めされてる。それでも……アナタは話しを聞くの?」


「多分だけど、重要な事なんだろ?だったら後から弥生に怒られたって、ちゃんと聞きたいさ。だから頼む。教えてくれ」


「「後から怒られたって」……か。それが実現すると良いわね」



 深刻な表情になった鈴が言い放ったその言葉は、俺を一瞬凍りつかせる。どうことだ?怒られるのが良い?その意味が正直俺には全く分からない


 しかし数分後、彼女の話しを聞いた俺はその意味を理解することとなる。理解するだけじゃない。彼女の言った通り、「弥生に怒られたい」と本気で思った。笑い話ではない。真剣にそう思った。


 それまだ知りもしない俺は、まだ気づいていなかった。そんな俺を目の前に、悲しい瞳をした鈴やリクがいる。そして、彼女はその堅かった口をようやく開き、衝撃の一言を言い放った



「弥生はね……この世界から、消えるの」




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