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お化け少女と契約《エンゲージ》  作者: 探偵コアラ
お化け少女と契約《エンゲージ》
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第20話 休日のお仕事


「ん……ん……」



 スズメの鳴き声が響き渡る朝、俺は目を覚ました。最初に見えたのは白い天井。隣からは温かな体温と、気持ち良さそうな寝息が聞こえる



「……良い寝顔してるな、弥生」



 俺は弥生の頭を撫でた。するとそれが気持ち良かったのか、笑顔でこちらに寄り添ってくる。柔らかい頬、ミルクのような甘い匂い。何と言うか、かなり可愛い。そんな事を思いながら俺は壁にかけたカレンダーに目をやった



「……そっか。今日は土曜日なんだな」



 昨日のゲーム部との対戦が終わり、俺達はそれぞれ家に帰った。結局、勝負は俺達の勝ちということで陽花さんはゲーム部に入らなくてもよくなったらしい

 実際に対戦したのは陽花さんと良太だけ。ということで良太は見事なドヤ顔をしていたが、陽花さんは「ハルくんが見てくれてたから頑張れたんだよ」と言ってくれたので一応力にはなれたんだろう

 ちなみに良太が勝てた理由は平塚先輩が自分にリミッターを掛けていたから。本人曰く「初心者と戦うのだから自分の初心者のステータスに合わせた状態で全力勝負したかった」らしい。つまり、結構良い人達だったということだ



「んまぁ、それは終わったから良いとして、重要なのは明日か」



 そう自分で呟きながら今度は弥生に視線を向ける。弥生が来て今日で六日目。つまり、明日でちょうど1週間ということになる



「なんか喜ぶことでもしてやりたいけど、特に案もないしなぁ……」



 寝転びながら俺は目を瞑って考え始めた。と、その時だった



「ハル!!ハル!!もう朝ですよ?起きて下さい」



 やけに元気のいい声が俺の隣から聞こえてくる。俺はそれに苦笑いしながら目を開けた



「大丈夫、起きてるよ」


「わわっ、ハル。もう起きていたんですか?なんというか珍しいですね?」


「目が覚めちゃったんだよ。それで弥生の寝顔を見て目を瞑ってた」


「ね、寝顔ですか……?」



 途端に少し赤くなった弥生がそう言った。色々省いてはいるが間違いではない。すると弥生は起き上がり、さっきまで使っていた枕を持って俺を叩いてきた



「な、なんで見るんですか!!恥ずかしいじゃないですか!!」


「ちょ、お前待てよ。急に枕で攻撃とか反則じゃ……」


「いいんです!!女の子の寝顔を見て、目を瞑って、色んな事妄想してる人には、叩いてもいいんです!!」


「妄想って……別に目を瞑ったからってするとは限らないだろ」


「いいえ、ハルは見かけによらずエッチなんです。スケベなんです。妄想マニアさんなんです!!」


「待て待て、お前は俺の何を知ってそんなこと言ってんだよ!?」


「えっ、それはもちろん勘ですよ?」


「勘っ!?」


「えぇ、勘です」



 何故か少しドヤ顔の弥生。枕攻撃が止んだのはいいが、今度は面倒な感違いをされている。と、その時。弥生が「あっ」と何かに気づいたように言った



「ハル、忘れてましたよ」


「忘れてたって……何が?」


「ハルって今日……学校に行くんですよね?」


「…………あぁーーーっ!?」



☆     ☆     ☆     ☆     ☆



 それから1時間後、俺と弥生は学校に居た。正確には俺達の教室。そこにあるイスに座っている。ちなみに弥生は「学校」ということでしぶしぶながら虚空化している。さっきから不満げな表情しながら、俺に文句を言ってくる



「ハルー、虚空化って解いちゃダメですか?」


「当たり前だろ?もし誰かに見つかったらどうするんだよ」


「うぅ……けどせっかくのお外なら虚空化無しで歩きたいのですよ」


「まぁ分からなくも無いけど……今は絶対我慢してろ。もうすぐ先生が来るはずだから」


「うぅ……」



 少しシュンとなっている様子を見るの辛かったが仕方ない。あと数分で先生と待ち合わせた時間になるのだ。もし弥生が見つかってしまえば、それはかなりの大ごとになってしまう。

 もちろん、俺から離れた見つかりにくい場所に行くことも勧めはした。だが「ハルと一緒にいます!!」と言って聞かないのだ。だから今は耐えてもらうしかない。そんなことを考えていると、ドアが音を立てて開き、先生が入ってきた



「……おぉ、水上。休日なのに早いなぁ。俺はてっきりまだだと思ってたぞ」


「「集合に遅れたら罰として俺の説教3時間だ!!」……って、先生が言ってませんでしたっけ?」


「あれか?あれはな、ジョークだジョーク。アメリカンなジョークなんだよ」


「どこがアメリカンなんですか……」



 相変わらずわけのわからない先生に思わず苦笑いした。授業では真面目なんだけど、それ以外ではかなり変わっているおかしな先生。俺はそんなちょっとした危険人物に呼び出されているのだ。と言っても、何か怪しい取引が始まる訳ではない



「それで、昨日帰り際に俺を止めて言って来た「頼みたいこと」ってなんですか?」


「あぁ、それなんだがね、実は……」



☆     ☆     ☆     ☆     ☆



「ハル、ちゃんと取ってますか?」


「あぁ、取ってるよ。ほら、もう袋1個分は取ってるぞ」


「なっ、流石ですねハル。よぉーし、私も負けてられません!!」



 更に気合いを入れた弥生が「それ」を掴んで引っ張った。すると「それ」は綺麗に抜け、そのまま袋へ運ばれる。

 俺達は先生に頼まれた「草取り」をやっていた。一応範囲は校庭となっているものの、生えているのは一部分。そこまで時間のかかる作業じゃない



「見て下さいハル。この大きな草!!多分取った中で1番大きいですよ、これ」


「おー、すごいな」


「はいっ!!もっともっと大きいの探しますよー!!」



 俺の適当な返事にすら弥生は嬉しそうに答えた。恐らく虚空化を解除しているからだろう。本人いわく「遊ぶ時には虚空化は解除したいんです!!のびのびと遊びたいのですよ」らしい。そこまで言っていたのだから、この状況が嬉しくてしょうがないのだろう。しかし、俺は違う



「……そろそろ飽きてくるな」



 流石に草を取るだけの作業と言うのも慣れてくるとつまらなくなってくる。弥生は虚空化解除の喜びが持続されているらしく、どんどん草を抜いていいるが俺の方は徐々に手が止まっていく



「なんか……眠いな」



 程良い熱を発する太陽、気持の良い風、それらが俺を眠りへ誘おうとしてくる。普段寝るのは教室や家が主だから外で寝ることは滅多にない。だがこの心地よさ、自然の生みだした奇跡の空間で俺は新しいものを掴んだ



「あぁ、外で寝るって……かなり良いかも」



 その一言を最後に、俺の意識はどんどん薄れていく。更に弥生の鼻歌が子守唄となりより一層眠気が強化された。その時だった



「おーい、水上ー!!」


「げっ!?この声はもしかして……先生っ!?」



 突然の声に慌てて振り返ると、そこに居たのは案の定先生だった。俺だけしか見えてないらしく、弥生には気づいていないようだが、近づいてくれば流石にバレてしまうだろう。なんて思っていると先生はこっちに向かって走ってきた



「せ、先生!!こっちに走っちゃダメですよ!!」


「ん、どうした?こっちに来ちゃダメだったのか?」


「えっ、あ、いや、ダメ……というか、なんというか……」


「なんだ、何か見つけてしまったのか!?まさか……隕石的な物質か!?」


「違います。それは違います」


「ふむ、それじゃあ何を隠しているんだ?ほら、先生に見せて……みろ!!」


「うおっ!!」



 先生の前に立ち塞がっていたものの、その守りは簡単に避けられ後ろを見られてしまう。そうなれば、後は弥生が虚空化してくれているのを願うしかない



「(頼む弥生!!虚空化しててくれ!!)」


「……おい、なんだ水上。なんでこんな所に女の子がいるんだ?」


「(バレるの早ぇー!!)」



 思わず声に出しそうになった言葉を飲み込み、俺はゆっくりと振り向いた。そこに居たのは虚空化していない弥生。彼女は笑顔で「こんにちわ」と言っている。だけど、今はそんな場合じゃない。なんとか誤魔化さなくてはいけない。俺は頭をフル回転させるものの、いきなり過ぎたのか何も思いつかない



「えっとですね、あのですね、この子は……その……」


「弥生です。よろしくお願いしますね、川梨せんせー」


「おぅい!!」



 今度はバッチリ声に出てしまった。なぜ笑顔で、しかも名前呼びであいさつをしたのか。俺には弥生の考えが全く分からない。もしかしてバレてしまっただろうか?そう思って俺は先生の方を見た。すると何故かこちらも笑顔だった



「こんにちわ。ったく水上、お前もなかなかやるじゃないか」


「……へっ?」


「なんせこんな可愛い彼女さんと一緒に学校の手伝いしてるんだもんな。良い青春してるじゃないか」


「……あの、先生?」


「なんてな、安心しろ。俺の中じゃ2人は仲のいい男女って事で覚えとくよ。それ以上だってことは……ナイショだもんな!!」


「えっ、ちょ、先生!?なんでそんな楽しそうなんですか!?」


「あばよ、少年。かの……仲良しな子と、草取りデートを楽しむが良い!!」


「く、草取りデートって……っていうかちょっと待って下さい先生!!先生!?」



 俺が必死に声を掛けるものの、不敵な笑みを浮かべながら先生は去って行った。多分、オバケの存在はバレて無いと思う。けど、妙な感違いを生んでしまった気がする。いや、気がするんじゃない。絶対に勘違いしてただろう



「あ、あはは……参ったな。まさかあんな解釈されるなんて……」


「ちょっと、照れちゃいますね。でも、ちょっぴり嬉しいです」


「えっ……?」



 その瞬間、風が強くなり俺や弥生の髪が靡いた。ゲームや漫画でよくありそうなワンシーン。少し照れくさい状況だったこともあって、目の前の弥生が一層可愛く見える。するとその視線に気づいたのか、少し恥ずかしがりながら弥生は俺の後ろを指差した



「ハル、ちょっと休憩しませんか?向うの渡り廊下なら日陰になりますし風も弱くなるはずですよ」


「あぁそうだな。少し休むか」



 置いていた草入り袋をフェンスの近くに置き、俺達は渡り廊下へと足を進めた




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