第2話 いざっ!!学校へレッツゴー!!
「ハル、ハル、ハールってば」
「う……うぅ……」
深い眠りに任せていた俺の意識がどんどん現実へと戻っていく。
久々に名前を呼ばれた。家での睡眠中に名前を呼ばれるなんていつ以来だろう。
幼い事にあったと思うが、正確には覚えていない
「もう、ハルってばお寝坊さんなんですね。それじゃあ……えいっ!!」
「…………うはっ!?」
掛け声と共に二、三秒後、俺の腹部は一気に重みが増していた。思わず声が出てしまう。それと同時に俺の意識は完全に呼び戻され、目を開けた。
そこにいたのは青髪の幽霊少女、弥生だ
「やっと起きましたね、ハル」
「あ、あぁ。おはよ、弥生」
「おはようございます、ハル。朝ごはん、出来てますよ」
「朝ごはん……?」
思えばさっきから何か良い匂いが部屋いっぱいに漂っている。食欲を誘うこの匂い、間違いない、ご飯の匂いだ
「あ……ごめんなさい。冷蔵庫の食材を使わせてもらいました。見てみたら賞味期限が近いモノが多かったので」
「なるほど。ありがとう、弥生。実を言うとこんな上手そうな朝ごはんは久しぶりなんだよ」
「そうなんですか?」
「あぁ。朝から自分で作ろうなんて思わないから。だから大抵は購買で買って食べてるんだ」
「あぅ……すいません。今日は私が朝ごはん作っちゃって……」
弥生が俯いた。どうやら自分が作ったことが悪い事だと思ったらしい。俺はそんな弥生の頭に手を起き、撫で始めた
「何言ってるんだよ、感謝してるんだ。本当なら家でおいしい朝ごはん食べたいわけだからさ」
「本当……ですか?」
「当たり前だろ。さて、それじゃあ弥生さんお手製のご飯を温かいうちに食べますかね」
「……はい、行きましょう!!」
弥生がピョンとベットからジャンプし、床に降りる。
「さぁハル、どうぞっ!!」
後ろを振り向き、俺に右手を差し出してくる弥生。
そんな彼女の手は小さいものの、どこか温かいものが感じられる。俺は迷わずその手を取って、ベットからリビングへと移動した
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「そう言えばさ、弥生」
「はい、どうしました?」
食器を洗い終わった弥生がタオルで手を拭きながらこちらを見る。一方の俺はお茶の入ったコップをテーブルに置き、同じように彼女を見た
「弥生ってオバケ……なんだよな?他の人に見えたりってしないのか?」
「えーっとですね、それは私達オバケが実体化したり虚空化出来るから大丈夫なんですよ」
「えーっと、実体化は分かるが虚空化って……?」
「いわいる透明になることです。この状態になると一般的な人間さんには見えないようになるんです」
「あぁ、なるほど。それを日常生活で使いこなしているからバレないってわけか」
「はい。でもですね、この虚空化って体力を使うので疲れるんですよ」
「そうなのか?」
「微量ではあるんですけどね、減ってます。特に風邪なんて引いちゃったらもーっと減っちゃいます」
両腕を思いっきり回して話す弥生に俺も思わず「なるほど」と言って頷いてしまう。
だが何かがおかしい。今の弥生の話しにはなぜか少し違和感がある。虚空化、日常生活、風邪…………そうだ、風邪だ!!
「って弥生、お前風邪引いたりするのか?オバケなのに」
「むぅ。ハル、オバケだって風邪は引くものなんですよ?だってその……元々は人間だったんですから」
「……そっか。結構複雑なんだな、オバケって」
「はい。難しいんですよ」
そう言って俺は目の前にあったコーヒーを啜った。そして思考を回転させる。
さっきの弥生は少し寂しそうな目をしていた気がする。そう、まるで何かを躊躇っているかのように、迷っているような瞳をしていた。
だが、それが気のせいだと思えるほどに、目の前では偉そうな顔をした弥生が「そうですよ」と言って無い胸を張っている。
そんな姿に俺に思わず笑いそうになった
「あの……ハル?今何かものすごーく失礼な事考えてませんでした?」
「えっ、失礼な事って……なんで?」
「なんとなくです。うーん、女のカンってヤツでしょうか?」
「あ、あはは……そ、それは流石に気のせいだろ」
女のカンは恐ろしい。そう思いながら俺は改めてコーヒーを手に取った
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「それじゃあ行ってくるよ」
「ハル……やっぱり学校には行くんですか?」
「まぁ俺も学生だからな」
「はぅ……それじゃあハルが行っちゃってる間ヒマですよ」
「そう言われてもこればっかりは仕方ないだろ?」
「むぅ……あっ、そうです!!」
流石に学校に行かないわけにはいかない。そう思いながら俺は弥生の頭を撫でてやる。
するとまるで、何かを思いついたように、彼女の表情が急に明るくなった。なんとなくだが、嫌な予感しかしない
「ど、どうしたんだ弥生?」
「フッフッフ。ハル、私は今、とーっても良い事を思い付いたのですよ」
「い、良い事……?それって悪い事の間違いなんじゃ……」
「とーっても楽しい事です」
「た、楽しいかぁ。気になるから帰って来てから……」
「私がハルと一緒に学校に行けばいいんですよっ!!」
俺の言葉も待たずに弥生が言った。周囲の空気が止まったかのように静かになり、外ではスズメが元気に鳴いている。いや、そんな素晴らしき自然を堪能している場合じゃない
「あの……弥生さん?」
「なんですか、ハル?」
瞳をキラキラ輝かせた弥生が可愛らしく首を傾げた。なぜか俺も敬語になってしまう。恐らく顔は引きつっているだろう。苦笑いが止まらない
「えっと、それはホンキ……なんですか?」
「ホンキです。だってハルのいないお家にいたってヒマじゃないですか」
「そ、それはそうだろうけど……」
確かに誰もいないってことが結構ヒマだということは分かる。学校にいる時間もそれなりに長いから弥生のヒマな時間が多いことも分かる。
だが、だからと言ってオバケを学校に連れて行っていいのだろうか。そんな自問自答が俺の頭の中で繰り返される
「ダメ……ですか?」
「うぅ……」
上目使いをした弥生がこちらを不安そうに見てくる。改めて始まる自問自答、しかし今度は繰り返されない。答えは意外にもすぐに出てきた
「……しょうがない。絶対に俺から離れるなよ」
その言葉を聞いた瞬間、弥生が全力で頭を縦に振って頷いた。どうやらかなり嬉しいらしい。そしてすぐさまドアを開け、外へと飛び出した。いつの間にか靴を履いている
「って弥生、お前その靴どうしたんだよ……」
「えっ、これですか?オバケは外を出歩く時勝手に靴を履いた状態になるんですよ。便利なでしょ?」
「便利って……オバケってどうなってんだよ……」
「まぁまぁいいじゃないですか。それよりハル、早速行きましょう!!学校へ……レッツゴーです!!」
「分かったから、ほら、走ってこけるんじゃないぞ」
そう言って俺はドアに鍵を掛けた。ちなみに弥生が俺の注意も殆ど聞かず、数秒後に軽くこけたのは言うまでもない