第19話 対決!!ゲーム部 2戦目 後編
「俺の……「スキル」ッスよ」
良太が笑った。不敵に、だが頼もしく。その瞬間、彼の足には光が集まり風が舞う。吹き飛ばされる程強くは無かった。だが反射的に足を踏ん張ってしまうレベル。それは平塚先輩も同じだったらしく目を細め、良太の行動に注意している
「お前の……スキルか。そう言えばまだ確認していなかったな」
「俺もッスよ。俺も、先輩のスキルを見てない。いや、先輩のクラスすら俺には判断できてないッスよ」
「俺のクラス……。なるほど、それなりにメジャーなクラスは調べたが、俺のクラスは判断できなかった……というわけか」
良太が頷いた。この戦いに向けて、僅かではあるが俺達なりに情報は集めた。『クラス』『スキル』『武器』、それぞれの有名なモノは調べある程度把握した。しかし今目の前で見ている平塚先輩の『クラス』は分からない。もちろん、慣れていない俺達はその人の所持する『武器』で察するしかないわけだが、「斧」がどの『クラス』に属するのかが分からない
「だから今はとりあえず……攻めてみるしかないッスよねぇ!!」
刹那、良太が一歩前に踏み出し力を込めた。すると、彼の体は高速で移動し気づけば先輩の目の前にいた。足元の光は収まり、後方から追いついてきた風がその速さを示している
「なるほど、それが貴様のスキルか」
「……《アサルト・スラッシュ》」
良太は先輩の言葉に一瞬気を取られたものの、すぐさま現状を理解し2つ目のスキル発動を行った。光り輝く刀が天へと掲げられたかと思うと、先輩に向かってすぐ振り下ろされ、砂煙が発生した。
《ハイ・アクセル》、良太が最初に使用したスキルだ。一瞬だけ移動速度を加速させ、相手に近づくことが出来る。接近戦を得意とする者ならかなりの確率で使用する基本技。
そして《アサルト・スラッシュ》、純粋な斬撃。エネルギーを纏った刀や剣を振り下ろし相手にダメージを与える技。シンプル故に、単純な威力が高いスキルだ。
この世界では体を切られてもダメージを受けるだけで切断されることは無い。だから《アサルト・スラッシュ》を使っても、先輩の体を傷つけることは無い。だからこそ、良太は迷わず発動させたのだろう
「これは多分ヒット……ですよね?とりあえずこれでダメージが入ったって考えていいんでしょうか?」
「まだだよ」
「えっ……?」
俺の隣には顎に手を当てて、冷静な判断をした陽花さんがいた。その表情は攻撃がヒットしたというのにあまり嬉しそうではない。むしろ歯を食いしばりそうな、そんな顔をしている
「それってどういうことですか?」
「確かに平塚くんはあの攻撃をまともに受けてる。実際、いきなりあんな速度で来られたなら、それに対応する手段は限られるから」
「それなら……」
「けどもし、その手段を持っていたとしたら攻撃は当たっても、ダメージは通らないよね?」
「ま、まさか……」
「うん、きっとそう」
陽花さんの真剣な眼差しが向けられたバトルフィールドには、さっきの攻撃で発生した煙が舞っていた。その影響で2人の姿はよく見えない。しかし次の瞬間、金属がぶつかる音が辺りに響き渡り、煙から何かが飛び出してくる。良太だ。そのまま彼は態勢を整え地面に着地した
「良太!!」
「おう、俺はなんとか無事だぜ。けどまぁ……結構厄介な事になった」
「厄介……?」
「あぁ、ようやく分かった。あの先輩、『鋼鉄騎士』だ」
良太が刀を構えたその時、煙は強風によって押しのけられ中に居た人物が姿を現した。その人はもちろん平塚先輩だが、さっきと姿が全然違う。体を覆うのは鋼の鎧。手に持つ「斧」は「盾」へと姿を変え、まるで巨大な壁のように立っている。《アサルト・スラッシュ》のダメージは見当たらない。どうやらあの鎧で無効化してしまったらしい
「まさか、これを使うことになるとはな」
『鋼鉄騎士』、別名『ガーディアン』と呼ばれるその『クラス』については俺達も知識は知っている。言ってしまえば防御型の騎士だ。その大きな盾と強度な鎧で攻撃を受けてなお無効化し、隙をついてダメージを与える。それがガーディアンだ。しかし、さっきまで先輩が持っていたのは斧のはず。それがなぜ盾に変わったのか、それが不思議だ
「……なんで、盾に変わってスか?」
「『武器変形』だ。『武器』よりも遅く追加されたシステムでな。一部の武器はその姿を変え、別のものに変化することが出来るようになる」
「……なるほど。つまり、元々「盾」使いだった先輩は、それを「斧」に変更することで『クラス』の特定をさせなかったってことッスか」
「その通り。「盾」であればある程度予測できるだろうが「斧」ならば使用する『クラス』は多いからな。少なくとも、「盾」よりは相手のかく乱になるだろう」
「そこまで考えてるとは……流石、ゲーム部の副部長ッスね」
「それで、お前はこの「鋼鉄騎士」を相手にどうするつもりだ?」
「決まってるじゃないッスか……《ハイ・アクセル》」
良太の足に再び光が集まり、さっきと同じように先輩との距離を一気に詰めていく。そして刀を持った右手を上下左右に振り始めた
「ッ!!ッ!!ッ!!ッ!!」
どんどん攻撃を当てられる先輩。しかしその表情に変化は無く、淡々と良太の攻撃を受けている。一方の良太は攻撃を続けているものの、歯を食いしばり疲労を見せ始めた。息が荒くなり、攻撃速度も落ち始めている。明らかにマズイ
「どうした、この程度か?」
「こんのぉ……だったら《ストライク》だっ!!」
「ッ!?」
《ストライク》、その単語を聞いた瞬間先輩の表情は変化を見せ彼の体もバックステップで交代する。それを見て、良太がニヤリと笑った。そして右手を後方へ引き刀を輝かせる。スキル《ストライク》の発動直前だ
「ここで《ストライク》だとっ!?」
「終わりだぁぁぁぁぁあ!!」
スキルによって帯びたエネルギーで攻撃を仕掛ける良太。その刃が真っ直ぐ先輩に向かっていき、攻撃が見事にヒットしようとした。しかしバックステップによって命中までの時間を増やした先輩にとって、それを阻止することは安易だったらしい
「《メタル・ウォール》」
「なっ……」
刹那、良太と先輩の間には鋼の壁が出現した。良太の《ストライク》はこれに命中し、大きな穴をあけている。しかし、それと同時に刀の光は消え、先輩の鎧に弾かれてしまった
「くっ!!」
悔しがりながらも後ろへ飛んで距離を作る良太。その右手に握られた刀は負傷はしていないものの《ストライク》の光は消え、スキル発動時間も終了していることを意味していた
「いくら剣士とはいえ、《ストライク》を持っているとは驚いたぞ」
「……」
「《ストライク》は守りを切り裂いてなお攻撃を当てる為のスキル。一見すれば防御無効の強力スキルだが、弱点として他の物に当たると効力をなくしてしまう……そうだよな?」
「……その通りッス」
良太の右手に力が入った。《ストライク》は発動後、初めて触れた防御物を切り裂き無効化するスキルだ。このゲームではある程度知られている知名度の高い技であるものの、いきなり使用されると対処に手間取ってしまい苦戦することが多いはずだった。
しかし、先輩はそれに鋼鉄の壁で早々対処してきた。つまり良太の《ストライク》は効かなかったということになる
「《ストライク》で俺の防御を無視して攻撃してくる、その発想は褒めてやる。だが、そんな単純な策でこの俺を倒せると思うなら、それは大間違いだ」
「「これ」で、倒せるなんて思ってないッスよ」
「……なに?」
「いいッスか、先輩。切り札ってのは……最後の最後で使うものなんスよ」
良太がニヤついた、その時だった。右手に握られた刀は真紅の輝きを放ち始め、その周りでは炎が渦巻いた。その火力の影響だろうか、俺達のいる場所まで気温が上がり暑くなっている気がする
「なっ……なんだこれは……」
驚いた平塚先輩が地面を見ると、少しではあるが白い煙が上がっていた。そのエフェクトに関しては調べたことがある気がする。確か、地面との温度差が激しくなると発生する環境変化エフェクト。つまり、この地上と足元の土とではそれなりに温度差があるということになる
「……その炎が温度を上昇させているのか。それで、ソイツをどうするつもりだ?」
「こう……するんスよっ!!《ハイ・アクセル》」
3度目の《ハイ・アクセル》で再び良太は平塚先輩の近くに移動した。しかし、ここまで先ほどとほぼ同じ。つまり、攻撃を無駄に繰り出し、体力を無駄に使ってしまうことになる
「これはさっきと同じ状況……いや、違うか。その手の炎刀、それが貴様の「切り札」を生みだすのか」
「……」
「だが、忘れなるなよ。俺にもまだ『スキル』は残されている!!《メタルリック・シールド》」
先輩の持つ盾が光を放ち、『スキル』が発動した事を示した。その瞬間、盾は倍以上に分厚く変化する。まさに「鉄壁」と言えるであろう盾。それが、炎刀の前に立ちふさがった
「通常の《ストライク》ですら突破出来ない鋼鉄の盾だ!!コイツを目の前にして、どうする少年?」
「……俺はよく、とあるヤツから「単純」って言われます。けど、アイツはこうも言っていた。「だからこそ迷いがない」って」
「ッ!?」
刀は勢いよく振り下ろされるも、確かに盾によって弾かれてしまい無効となる。しかしその刀身に纏った炎は一切弾かれず、盾をすり抜けて先輩に直撃した
「ぐっ……これは……」
「アイツが教えてくれた「単純」の強さ。その結果が、この《フレア・ストライク》だぁぁぁぁ!!」
今度は刀を振り上げ、更なるダメージを与えた。すると先輩の横にはゲージの様なものが出現し、緑色のメーターが大幅に減少。そのまま0となって無くなり、後には黒い枠だけが残った
「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」
完全に息切れし、地面に倒れ込んだ良太。そんな彼の前には「勝者 剣士「良太」」と書かれたモニターが表示されている。
彼の勝利。そして、俺達の勝利が決定した