第18話 対決!!ゲーム部 2戦目
あの戦いから数分後、陽花さんが俺達の元へと戻ってきた。驚くほど速い決着。その圧倒的な強さに、俺達の興奮は未だ収まっていない
「すげぇ!!すげぇッスよ、陽花さん!!強すぎッスよ!!」
「確かに。特に≪グラビティ≫って命中精度あんまり良くないって言ってた気がするんですけど……」
「あの薺って子、直進して来るタイプだったからね。動きが予測しやすかったの」
「なるほど。それで場所を読み取ってスキルを仕掛ける……と」
「まぁそんな感じかな。けどあの子、やっぱり強かったよ。もう少し速かったりしたら狙いが定まらないだろうしね。流石、ゲーム部が選抜してくるだけの実力者だよ」
そう言いながら陽花さんは広崎に目を向けた。一方の広崎はと言うと少し落ち込んで田嶋先輩達に謝っていた。だけど田嶋先輩達は彼女を責めず「よく頑張った」と誉めている。そう考えると、彼らも悪い人ではないのだろう
「それで、次は2回戦目だけど……どうしよっか?」
「俺か良太かってことですよね?えーっと……」
マズイ、と思った。実はさっきの戦いに熱中しすぎて順番を全く決めていなかったのだ。相手チームを見てみると、次の対戦者であろう平塚先輩がバトルフィールドに向かって歩き始めている。どうやら時間はないらしい。すると、俺の横を何かが通り過ぎて行った。良太だ
「さてと、それじゃあ陽花さんのバトルも終わったことだし、俺もさっさと快勝してくるかな」
「おい、ちょ、お前。何してんだよ?どっちが行くか、まだ話してないだろ?」
「へっ、こんなすげぇもん見せつけられたんだぜ?黙ってられるかっての。それに、さっきから体がウズウズしてしょうがねぇんだよ」
「……お前、ホント熱くなりやすいヤツだな」
「おう!!ってなわけで、行かせてもらうぜ。んでこの戦いを終わらせる。ハル、悪いがお前の出番はナシだ!!」
「……分かった。それでいいよ、別に。けどお前、そこまで言うってことは……勝つ自信、あるんだろうな?」
俺がそう言うと、良太はフィールドに向かって歩き出し、右腕を真横に上げた。拳に作られたグットサイン。それは「ちゃんと手がある」という事を意味しているのだろう。あえて口に出さずカッコつけるのがアイツらしい
「えっと、2回戦目は良太くんに任せて大丈夫……なんだよね?」
「多分大丈夫だと思いますよ。あそこまで言っておいて「何も手がありませんでした」ってことは、いくらアイツでもないでしょうから」
「手、かぁ。それが平塚くんに通用するといいんだけど……」
陽花さんの不安そうな顔がフィールドに立った良太に向けられる。それに気づいているのかいないのか、アイツは目の前の平塚先輩を見て微笑んでいる。すると、それが気に障ったのか、平塚先輩が少し眉を潜めた
「何を……笑っている」
「そりゃそっスよ。あんなすげぇバトル見せられた直後のバトルッスよ?ワクワクしないわけがないじゃないですか」
「ワクワク……だと。なるほど、状況を理解していない辺り、どうやらお前は筋金入りのバカのようだな」
「だったら、そのバカが宣言しておきますよ。この戦いは……俺の1戦で終わらせるってね」
「……身の程知らずが」
そう言った平塚先輩は微笑し、自身の手に武器を出現させた。その手に握られたのは「斧」。しかし、ただの一般的な斧ではない。巨体である先輩と同じくらい巨大なその姿。純粋に見て高攻撃力が予測されるそれは、まさにファンタジー独特の特権と言うほど現実味のないものだった。
それを感じとったのだろうか、対戦者である良太も「なっ……」と言って驚いている
「俺から勝利をもぎ取るということがどれほど難しいことか。その身をもって知るが良い」
「…………」
口を閉じ、自身を落ち着かせた良太は鞘から刀を抜き出し静かに構えた。客観的に見れば普通の刀と巨大な斧の戦い。もちろん大きさが全てではないのだが、やはり刀の方が不利に見えてしまう。静寂が空間一帯を包みこみ、緊張を感じさせた。今なら、弱々しく吹いた風によって運ばれた土の匂いすら分かる
「では行きますよ。バトル……スタートッ!!」
「ッ!!」
田嶋先輩の合図と共に先に行動に出たのは良太だった。刀を右手のみで持ち走っていく。その速度はゲーム内だからだろうか、現実よりも速い。そして彼の右手に握られた刀は平塚先輩に振り下ろされた
「……ふんっ!!」
「うわっ!!」
しかし、それに反応した平塚先輩は斧でそれを弾き、良太の態勢を崩した。するとその隙を逃すことなく先輩が斧を自身の背後に構える。歯を食いしばり悔しがる良太。そんな彼に構うことなく、平塚先輩は構えた戦斧を右から左に思いっきり振った
「くっ……!!」
良太は地面を蹴り、後方へ下がることでなんとか攻撃をかわした。しかし勢い付いていた戦斧は先輩の懐でまた力を込められ、先ほどと同じ軌道を描き良太を襲った
「そんなモン……食らうかよっ!!」
右手に持った刀を地面に突き刺すことで刀を盾に変え、良太は攻撃を受け止めた。しかし所詮は緊急防御、戦斧の持っていた勢いまでは止めきれず、僅か数秒でその防御は突破され良太の体に直撃、。大きな衝撃音が響き渡った
「うぐっ…………ぐわっ!?」
吹き飛ばされた良太はそのまま壁に激突し、地面に倒れた。微妙に動いてはいる為、気絶しているわけではない。しかし、それでもすぐには起き上がれないこの状況。それがあまり良い物でないことは俺達から見ても一目瞭然だった。そんな彼を見た平塚先輩はゆっくりとした速度で近づいていく
「良太っ!!」
「くっ……クソッ……」
俺の声に反応した良太は辛そうながらも立ち上がる。その目線の先には少しずつ近づいてくる平塚先輩がいた。何も言わず、淡々と足を進める先輩。そんな彼からは自然と大きな力を感じる。強者の放つ独特のオーラ。それは言い換えれば威圧感とも言えるのかもしれない
「パワーが半端じゃないな。「このまま」だと……俺に勝ち目はないかもな」
良太が苦笑いした。確かにこれまでの戦いを見ていても、良太は先輩に圧倒されており勝てる要素が見つからない。このまま戦いを続けても、良太の体力が底をつき倒される事は目に見えている
「……どうする?降参でもするか?もしすると言うなら……俺はそれを承諾しよう」
「降参……ッスか。ハハ、確かにそれもアリかも知れねぇッスね。選択肢の1つではある。……けど」
しかし、この『マジック・バトル・コロシアム』は武器と武器で戦う「だけ」のゲームではない。その他の要素、その他のバトルシステムが供えられ、今回の戦いに使用されることが許されている。それに関して良太は十分理解していた。だからこそ、良太は急に表情を変え「ニヤリ」と笑った
「俺は、負けたくねぇ!!仮にも約束してんだ!!「この戦いを終わらせる」って。それなのに簡単に終われるわけがねぇ!!」
「……そうか、降参はしないのか」
「もちろんッスよ。それにまだ、可能性だって残してんだ。「コイツ」を残したまま、終われるはずがねぇッスよ」
刀を構えた良太の周囲に、突如風が巻き起こる。徐々に増加していく彼の力。それは離れているはずの俺にもしっかりと伝わり、独特の感覚を与えてくる。1戦前、陽花さんが使用した時にはあまりにも自然ながられ過ぎて気づくことのできなかった力の大きさ。それを今なら感じる事が出来る
「コイツ……?」
「コイツです。そう、俺の……「スキル」ッスよ」
良太はそう言って、笑った