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お化け少女と契約《エンゲージ》  作者: 探偵コアラ
お化け少女と契約《エンゲージ》
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第16話 紫乃原家ミーティング


「そ、それじゃあ、お邪魔します……」



 我ながら情けない声だということは分かった。だがそれも仕方のないことだと思う。理由は簡単。俺は今、陽花さん家にお邪魔しているのだ。別に女の人の家に入ったことがない訳ではないものの、久しぶりなのは確か。それなりに緊張してしまう



「おぉ、ここが陽花さん家ッスか!!すげーキレイ」


「ふふ、ありがと」



 隣で目を輝かせている良太の言葉に、目の前を歩く陽花さんがこちらを振り返って微笑んだ。確かに壁などに汚れは無いし、傷などもない。丁寧に使われている印象だった。そして陽花さんは廊下の突き当たりにある木製のドアを開け、部屋へと手招きしてくれた



「さぁ、ここがリビングよ。今飲み物入れるから、ソファーに座って待ってて」


「はい!!……って見ろよハル、観葉植物なんてあるぞ!!」


「分かったから、一々騒ぐなよ……」



 興奮の止まない良太に苦笑いしながら俺もドアを超えて入室する。すると目の前には、整理整頓された部屋が現れた。シンプルながら可愛らしい家具達が使いやすそうな位置に置かれている。それと同時に鼻腔に広がった甘い匂い。それが俺の妙な緊張感を解してくれた



「はい、どうぞ」


「ありがとうございます」



 ソファーに座った俺達に陽花さんがココアを出してくれた。氷の入ったそれは、飲んだ瞬間に喉を潤してくれる。まだ特別熱い訳ではないが、夏に差し掛かっているこの時期に飲むとより一層美味い



「それとこれ、お菓子ね」


「おっ、クッキーッスか?しかもこれ……手作り?」


「うん。実は今日ね、実習で作ったの。だからその……もしよかったら食べて」


「うぉぉ、陽花さんの手作りを食べて良いんですかっ!?」


「うん」



 少し照れながら言った陽花さん。そんな彼女を目の前にクッキーを貰える喜びに浸った良太がガッツポーズをして見せる。隣では鈴が頭を抱えて「ハァ……」とため息をついていた



「全く、もうちょっと落ち着けないのかしら、このおバカさんは」


「へへっ、良いんだよ。嬉しい時は素直に喜ぶ、これがシンプルな俺の生き方だ!!」


「別名、単純バカね」


「まぁそれは置いといて……頂きまーす!!……うっ!?……うめぇ、うめぇよ。ハル、今俺、猛烈に感動してるよ……」


「分かった。分かったから落ち着け。陽花さん、俺もこれ、食べても良いですか?」


「うん、せっかくなんだもん、食べて食べて」



 隣で号泣している良太をなだめ、俺はクッキーを食べてみる。程良い硬さが生む触感。口の中いっぱいに広がるアーモンドの風味。そしてクッキー独特の甘みが口の中に広がった。そして思わず言葉に出てしまう



「あっ、これ美味い……」


「ホント?」


「はい。俺、料理って得意じゃないんでなんて言って良いか分からないですけど……触感的にも味的にも食べやすいと思います」


「そっかぁ、よかったぁ。クッキーって学校で作ったの初めてだったから少し不安だったの。けど、そこまで喜んでもらえるなら安心だね」



 陽花さんが安堵の表情を浮かべた。すると俺の隣からスッと3本の腕が伸びてきてクッキーを掴み戻っていく。弥生、リク、鈴の3人だ。それぞれがクッキーを手に持ち、口へと持っていく



「もぐもぐ……むむむっ!!陽花、これすっごく美味しいですよっ!!」


「ホント、おいしい……。ねぇリク。もしかしてアナタ、いつもこんなおいしいものを食べているの?」


「うん、陽花ってすごく料理上手なんだ。クッキーもよく作ってくれるよ」


「なっ……」


「それは本当ですかっ!?」



 リクがそう言った瞬間、弥生と鈴の顔つきが変わった。明らかに真面目モード。雰囲気さえも変わっている。そして少しの沈黙を挟んで、ゆっくりと口を開いた



「……ハル、しばらくで構いません。これをご飯として陽花に提供してもらいませんか?」


「してもらいません」


「……良太、今までありがとう。短い間だったけど、楽しかった気が微妙にするわ。だけどこれからはアタシ、陽花の所に住むから、バイバイね」


「うぉぉい、ちょっと待てぇ!!短い間って、流石に短過ぎるだろ!!ってかそんな理由で住むとこ変えるなよ!!」



 割と本気な顔をしている弥生と鈴。どうやらオバケ達にもかなり好評らしい。そんな様子に微笑みながら陽花さんが別のソファーに座った。そしていよいよ、本題について話しが始まる



「それじゃあ、そろそろ本題に入るね」


「はい。明日の対決のことですよね?」


「うん。まず言った通り、対戦は3回戦行うの。先に2勝した方が勝ち。つまり、上手くいけば2回戦目で決着がつくことになるの」


「なるほど。その辺は案外普通のチーム戦なんですね」


「うん。その辺は割と普通。だけどね、問題は対戦で使うゲームで……。どうやら最新のモノを使うらしいのよ」


「最新……?」


「うん。『マジック・バトル・コロシアム』、略称は「MBC」なんだけど……って知ってるかな?」


「あっ、それって……」


「ハルくん、知ってるの?」


「はい、と言ってもちょっとした情報しか知らないですけど……」



 『マジック・バトル・コロシアム』、魔法や体術、武器などを駆使して戦う対戦ゲームだ。しかし、ゲーム中に操作可能なキャラクターは設定されていない。自分自身がキャラクターとなり対戦を行う「セルフバトルシステム」が導入されている。

 付属の『メガネヘッドホン』を装着することで、睡眠を促す音声や電波が発せられ、使用者を仮眠状態へと誘っていく。その結果、夢を見るようにゲームの世界に入り込めるらしい



「確かVR型対戦ゲームですよね?発売が先月だったかなぁ……」


「あっ、それなら俺も知ってるぜ。自分がゲームの世界に入って戦うアレだろ?」


「それだ。けどあれってどこの店も1,2時間で売り切れたはず……。そんなゲームで戦うんですか?」


「そうらしいよ。実際ゲーム部の部室を見に行ってソフトのパッケージが数台あったから間違いないと思う」


「数台って……アレ1個2万位するんですよね?ゲーム部のヤツらよく買えたな……」


「まぁゲーム部は大会なんかでかなり好成績を残してるからね。学校からの支給金だったり賞金があるからそこで買ったんじゃないかな?」


「なるほど……。けどそれだと俺達って結構不利じゃないッスか?」



 良太の言う通りだった。メガネヘッドホン自体は学校で使用される程普及していた。だから半数の生徒はバーチャル世界、もう半数は現実で授業を受けるなんて事も普通にある。故にバーチャル世界自体に不慣れというわけではない。

 しかし、授業で使う時にバトルなんて事はしない。精々科学の危険な実験を行ったりする様なレベルだ。それぐらいの感覚で戦闘を出来るかと言えばそんなに甘くは無いだろう



「うん。不利だね。だから……今から練習します」


「「……えっ?」」


「だから、今から練習するの。バーチャル世界での……戦いの練習をね」



 そう言って陽花さんは学校のバックから何かを取り出した。黒いヘッドホンが3つ、よく見ればメガネまで付いている。……あれ?これって、もしかして



「よ、陽花さん?それってもしかして……メガネヘッドホンだったりします?」


「正解です。これはVR型ゲームで使う『メガネヘッドホン』です」



 陽花さんは首を傾け、可愛らしく言うが誤魔化されない。彼女の手にあるのは今話しの話題に上がっていた『メガネヘッドホン』だ。まだ新しいらしく、ボタン部分がメタリックに輝いている



「って、陽花さん!?それどこから持って来たんですか!?まさか……学校!?」


「またまた正解。これは学校のメガネヘッドホンだよ」


「「メガネヘッドホンだよ」じゃないですよ。なんで持ってきちゃってるんですか!?」


「フッフッフ、私は副生徒会長だからね。このくらい造作もない……」


「うわっ、悪人だ。陽花さんが悪人になっちまったぞハル」


「くっ、まさか副生徒会長って権限をここで振るうなんて……。流石陽花さん、ゲーム愛が半端じゃないな!!」


「っておい、ハル!?そこ尊敬するとこじゃないだろ!!」


「……って言うのは冗談で、ちゃんと学校から許可を貰って借りて来たよ。ちなみにソフトも挿入済みです」



 表情が一気に変わり、ドヤ顔になった。普段の陽花さんと比べてみるとなんだか珍しい気がする。それだけ俺達が親しくなっているということなのだろうか。もしそうだったとしたらかなり嬉しい



「あとは着けて電源を入れればゲームスタートだよ」


「おぉ、あのバーチャル世界でバトル出来るんだな!!スゲェ楽しみだぜ」


「それじゃあ2人共、どうぞ」



 陽花さんが『メガネヘッドホン』を渡してくれた。ゲームの世界に入れるという破格の性能にも関わらず、本体である『メガネヘッドホン』自体はすごく軽い。俺達はそれを頭に着け準備を終えた



「そう言えば弥生、お前達はどうする?」


「私達ですか?そうですねぇ……ハル達と同じようにお昼寝しときます」


「そうね、たまには昼寝でもしてみるわ。何より、あたしの隣じゃすっごいあくびしてる子いるし」


「ふぁぁ……」


「そうか。それじゃあお互い、しばらくは夢の世界だな」


「はい。それじゃあみんな、おやすみなさい……」



 そう言った弥生に続き、リク、鈴も目を閉じて眠りに入る。今日は学校で沢山遊びまわったのだろうか

。それなりに疲れているようで意外と早く寝息が聞こえてくる。完全に眠るのも時間の問題だろう



「それじゃあ私達もいくよ。右耳部分にあるスタートボタンを押して」


「……これだな」


「夢の世界にレッツゴーだぜ」



 手探りでボタンを見つけ、押してみる。すると急な眠気が襲い掛り、瞼が徐々に閉じていく。体の節々から力が抜け、そして俺の意識は遠退いて行った



☆     ☆     ☆     ☆     ☆



「……着いたみたいだな」



 気がつくと俺は荒野の大地に立っていた。少し乾いた空気が体に当たり、土の独特の匂いがする。明らかに俺の住んでいる場所とは違っており、初めて目にして感じるその全てに少し興奮してしまう



「ここは……荒野みたいだね。先生達が「新品だから元々入ってるステージデータが残っている」って言ってたのはこういうことだったんだ」



 隣では紫色の髪を靡かせ、辺りを見渡した陽花さんがそう言った。学校の制服に黒い三角帽子。そして紺色のマント。魔法使いをイメージさせるその姿は陽花さんによく似合っていた



「おぉ、バーチャル世界で荒野に立つ日がくるなんて……。授業じゃいっつも科学室とかだったからかなり新鮮だぜ!!」



 逆方向では良太が両手を広げ満喫していた。見た目は学校の制服で、腰に剣の納められた鞘がある。どうやら使用武器はその剣らしい



「良太は武器、剣なんだな。部活とも合っててちょうど良いんじゃないか?」


「そうだな、この世界でも剣を振るえるって思うとワクワクしてくるぜ」


「そっか、良太くんは剣道部だもんね。確かに似あってるなぁ」


「よ、陽花さんにそう言ってもらえるとは……俺生きてて良かったぁ!!」


「生きててって、お前……」


「大げさねぇ。流石おバカお猿さん。アホ丸出しだわ」


「だから俺はサルじゃねぇ!!猿渡だ!!って……おい、今の声鈴じゃないか?」



 突然聞こえた声に良太が周りを見渡した。いや、コイツだけじゃない。俺や陽花さんも同じように左右を見渡した。確かに今聞こえたのは鈴の声だ。だがオバケの3人は寝ているはずだし、メガネヘッドホンを付けてもない。だからこの世界に入ってこれるはずがないのだ。しかし、今明らかに声がした。聞き間違いではない



「確かに今のって鈴ちゃんの声……だったよね?」


「はい。間違いないと思います。けど、なんで……」


「なんでって、ここにいるからに決まってるでしょ?」



 すると、良太の胸ポケットがモゾモゾと動き始め、何かが勢いよく飛び出してきた。鈴だ。しかし体はもちろん小さくなり、背中には4枚の羽根が生えている



「うわっ、なんでお前がこんな所に居るんだよ!?」


「知らないわよ。いつの間にかアンタのポケットの中に居たんだもの。……それに、ここに来ちゃったのはあたしだけじゃないみたいよ?」


「えっ……?」



 その瞬間、俺の胸ポケットも動き始めた。もちろん何か仕掛けがある訳ではない。徐々に見えてくる見覚えのある頭。そしてひょっこり外に顔を出し頭上を見上げてこちらを見てきた



「あっ、ハルじゃないですか。なんでこんな所にいるんですか?」


「や、弥生……お前こそなんでここにいるんだよ?」



 まさかとは思ったが、現実に起きてみるとなかなか驚いてしまうもので、俺は意味も無いのに後ずさりした。すると陽花さんの方でもリクの声と共に会話が聞こえる。どうやらオバケ達もここに来てしまったらしい



「でもなんでここにリク達が?この世界にはメガネヘッドホンを付けてる人しかこれないはずなんだけど……」


「それが本当に謎よ。あたし達にも分からない。もう、なんでこんなに小さくなっちゃってるのかしら……」


「いいじゃんかよ、元々小さ……うげっ!?」


「うるさいっ!!……まぁとりあえずは陽花達の目的を達成するべきじゃない?元々は練習の為にここに来たんだし」


「けど、それで大丈夫なのか?お前らはちゃんと戻れるのか?」


「多分ですけど戻れると思いますよ」


「根拠は?」


「……ズバリ、オバケの感です」


「…………」


「や、弥生ちゃん。流石に感じゃちょっと……」


「と、とにかく!!練習レッツゴーですっ!!さぁ、色々やっちゃって下さい!!」



 誤魔化した弥生が少し離れた場所を指差し言った。途中がおかしかったが、練習すべき状況なのは正解だと思う



「それじゃあ、とりあえず練習、始めよっか」



 そう言った陽花さんは場所を移動しつつ、手のひらに木の杖を出現させた。恐らく魔法の杖なのだろう。戦う準備は万端のようだ



「んじゃ、3人でバトルロワイヤル……ってことで良いんすよね?」


「うん」


「手加減は無しだからな」



 そしてオバケ達の見守る中、俺達にとって初めての「戦い」が始まった




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