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お化け少女と契約《エンゲージ》  作者: 探偵コアラ
お化け少女と契約《エンゲージ》
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第15話 生徒会からの依頼

 陽花さんとリクが泊った次の日。俺は遅刻することなく、学校に着いていた。理由は簡単。朝、陽花さんに起こされたからだ



「……ふぅ」


「おぉ、ハル。よく間に合ったな。俺はてっきり数時間は遅刻してくると思ったんだが」


「……遅刻したとしても、そんなに遅くなるわけないだろ?この前のお前じゃあるまいし」


「なっ、俺の過去の傷を抉るのか、この卑怯者め……」


「言ってろ」



 席に座って早々、良太が話しかけてきた。いつも通り明るい態度。それを見ると昨日陽花さんと話したことを思い出す



☆     ☆     ☆     ☆     ☆



「今は誰かと一緒に居られる幸せって言うのを感じさせてくれないかな?」



☆     ☆     ☆     ☆     ☆



 頭によぎったその言葉。やはり誰かが一緒に入れくれるというのは、当たり前の事で、だけど奇跡的な事。そう考えると、今の俺の状況は非常に感謝すべきものなのかも知れない



「……んまぁやっぱり、幸せなことなんだよな」


「えっ?今何て言った?」


「別に、何でもないよ」


「そっか。にしても、ホント寝坊はすると思ったんだけどなぁ。陽花さんに置いて行かれて慌てて家を飛び出す……みたいな展開、なかったのか?」


「当たり前だろ。その「陽花さん」に起こされたんだから」


「…………は?」



 話しを聞いていた良太の顔が一変。目が見開き、口をポカーンと開けている。しかしすぐに我を思い出したのか、少しアタフタしながら話しを続けた



「お前、今何て言った?」


「いやだから朝、陽花さんに起こされたんだよ」


「お、おこ、起こされたって……ど、どんな風に!?フライパン持って「カンカンカンカン」って鳴らすアレか!?」


「んなわけないだろ!!お前は一体何をイメージしてるんだよ。普通に揺さぶってだよ。揺さぶって、起こされたの」


「……ってことは、お前、朝から陽花さんとかなり近かったんじゃないのか?」


「えっ……まぁ、揺さぶるぐらいだからな。それなりに近かったけど……」


「ぬぁぁぁぁぁあ!!この野郎!!なんで朝からハッピーサプライズ味わってんだよ!!それじゃあまるで新婚夫婦じゃねぇかよ!!」



 頭を抱え込み、1人で騒ぎだす良太。しかしその行動に誰も違和感を感じない。コイツは大抵騒がしいのだ。だから今更ちょっと騒いだところで「あ、またいつものやつか」と見られる。そんな目の前の人間に俺はため息をついてしまう



「お前、そんなに騒ぐなよ」


「うるせぇ!!俺は今猛烈に悔やんでいるんだよ!!昨日お前ん家に行かなかった事を!!お前ん家に行けば俺は朝から天国だったのに……」


「(うわっ、これはご飯作ってもらったとか、一緒に寝たとか絶対に言えない……)」



 昨日の出来事を思い出し、俺は心の中で苦笑いする。きっとあの事を話せば狂気に身を任せるか、立ち直れなくなりそうだ。勘ではあるが、ある程度コイツを知ってるヤツなら似たような予測をするだろう



「……ってなんだよ、急に頷いて」


「いや、何でもない。世の中には知らない方が良い事も沢山あるんだ」


「ふーん、まぁいいか。それより!!この贅沢野郎!!俺へのお詫びに国語の教科書、貸しやがれ!!」


「ちょっと待て、それお前が忘れただけだろ!!」



 こんな他愛もない話しをしていたその時、ドアが音を立てて開きクラスメイトの視線を一気に集めた。先生が来るにはまだ早い時間だ。そう思いながら俺もそこを見る。すると



「あの……水上くんと猿渡くんっているかな?」


「よ、陽花さん……?」



 腕に「副会長」と書かれた腕章をして陽花さんはひょこっと姿を現した。予想外だった人物にクラスは一瞬静かになったものの、何があったのかとざわめき始める



「おい、陽花さんだよな?お前なんか話し聞いてる?」


「いや、何も知らされてはいないけど……」


「……あっ、いたいた。ハルくん、良太くん」



 こちらを見つけた陽花さんが小走りでこちらに近づいてくる。口を開けて、もう1度静かになるクラス。そして陽花さんは俺の席の前に来ると笑顔でこう言った



「あのね、ちょっと話しがあるから……今日の昼休み、時間良い?」


「えっ、あ、はい。大丈ですけど……」


「よかった。それじゃああの……昼休み、いつもの場所でね」


「…………はい」



 陽花さんはそれを言い残し、走って行った。訪れるクラスの沈黙。なんとも微妙な空気が漂い、外で響いているスズメの鳴き声がよく聞こえる。するとその状況を打ち破るように、1人の男子生徒が喋りだす



「………………お、おい春人。これは一体、どういうこと……なんだ?」


「…………へ?」


「「へ?」じゃない。紫乃原先輩と……ど、ど、どういう関係なんだぉぉぉぉ!!」



 1人が叫んだその瞬間、さっきまでの雰囲気は打ち壊され一騒がしくなる。まるで風船に空気が十分溜められ、それが破裂したかのように一瞬だった



「おい、ハルくんって何、ハルくんって!?」


「ってか、なんで紫乃原先輩の呼び方が陽花さんなんだ!?」


「「昼休みにちょっといい?」って……どんだけうらやましい展開なんだよ!?」


「しかも、急いで立ち去るって……あれは恥ずかしがってるよな!?絶対照れちゃってるよな!?」


「先輩可愛いぞぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」


「くそぅ、こんなおいしい思いしやがって……。お前はゲームの主人公か!!」


「えっ、いや、だからその……お、落ち着いて……」


「「「「落ち着けるかァー!!!!」」」」



 目の前に広がるクラスメイトの男子の壁に、情けないながら一歩引いてしまう。恐らく、苦笑いでは済まされない。どうやらしばらくは質問の嵐を受けるしかなさそうだ



「それでね、良太ったら勝手に……ってアレ?なんか教室がいつも以上にうるさくない?」


「ホントですね、もう。ちょっと、ハル。どうしたんですか、随分騒がしいですけど……って、ハル!?」


「あ、あはは……。弥生、ちょっと後にしてもらっていいか?今はメチャクチャ忙しくて……」


「す、鈴?これは一体どういう状況なんでしょう……?」


「……多分アレね、触れない方がいいのよ、きっと」



 教室に入ってきた弥生や鈴もどうやら驚きを隠せないらしい。そんな弥生に申し訳ないと思いつつそう伝えると彼女達は苦笑いをしながら頷いた



「あ、あの……みんな?俺もちゃんと呼ばれてるんだけど……?」



 そんな時。俺の耳にはちゃんと聞こえた良太の声は、残念ながらクラスメイト達には聞こえていなかった



☆     ☆     ☆     ☆     ☆



「あはは、ごめんね。あの時生徒会の用事で呼ばれてたから急いでたんだよ」



 陽花さんが微笑してそう言った。あれから数時間後、昼休みを迎えた俺達は屋上にやってきていた。もちろん陽花さんとの約束があるからだ。隣には弥生達もいて、パンやご飯を食べている。俺は深いため息をついた



「それでも、あの後大変だったんですよ。もう質問の嵐で……。流石に今はもう落ち着きましたけど」


「スゴかったですよね。もうアレはまさしく、大人気のアイドルさんみたいでしたから」


「……弥生、その例えはかなり間違ってる気がする」


「そうそう。正しくはサインを求められる芸能人ってことでしょ?」


「いやいや、それも全く違うからな!!」



 自慢気に言った弥生と鈴だがどっちも大幅に間違っている。アレはそんな輝かしいものじゃない。中にはちょっとした殺意まで感じたのだ。そう考えると正しくは「大型動物に狙われた獲物」だと思う。そんな話を聞いて、微笑だった陽花さんの笑いが更に小さくなり、苦笑いに変わった



「けど、そんなに大変だったんだ。ホントごめんね。用事自体が学校に来てから知ったの。それで早めにハルくん達にお願いしようと思って」


「そう言えば陽花さん、なんで俺達をここに呼んだんスか?やっぱそのお願い……ですか?」


「うん。出来れば2人にお願いしたいなぁって思って。実はね……生徒会の話しなんだけど、今度ゲーム部と対決をすることになったの」


「ゲーム部と?」


「うん」



 「ゲーム部」。それはこの学校にある文科系部活の1種だ。ちょっと変わってるこの学校は、本来認められないであろう「ゲームをする部活」というのを正式に認めている。しかも、それなりの成績を残しているので結構有名。ごく僅かではあるものの、この部活に入りたくてこの学校に来る生徒もいる、なんて話しを聞いたこともある



「けど、なんでまたゲーム部なんてとこと生徒会なんスか?なんか問題を起こした……とか?」


「うん、まぁ問題と言うか……ゲーム部の人たちがね、生徒会のメンバーを部に入れたいって言って来たの」


「勧誘……ってことですか?」


「うん。それで、そのメンバーって言うのがその……私なんだけど……」


「よ、陽花さんですか!?」



 驚く俺達を目の前に陽花さんが苦笑いで頷いた



「うん。私ね、小さい頃にちょっとしたゲームの大会で優勝した事があったの。どうもそれを知ったらしくて……」


「なるほど……。あっ、でも陽花さんってゲーム好きですよね?嫌いじゃないならいっそのこと入っちゃったらダメなんですか?」


「それも考えはしたんだけどね。でも今はやっぱりリクとの時間を大切にしたいかなって思ったの」



 陽花さんのその考えは俺にもよく分かった。俺もなるべく弥生との時間を大切にしたいと思っているし、きっと良太も同じだと思う。その証拠にリクとの時間の話が出た途端、目つきが微妙にだが変わった気がする



「だから断ったんだけど、なかなか諦めてくれなくて。それで今日の朝言われたの。明日、勝負してくれって。そこでもし私が勝ったら諦めてくれる。だけどもし、ゲーム部の人が勝ったら……」


「部活に入ってくれってことッスか」


「……でも陽花さんって、優勝するほどゲーム上手いんですよね?だったら何も問題ないんじゃ……」


「その対戦形式が3回戦制なの。1人で3回戦っても良いってことにはなってるけど、基本的に同じ人が戦えばどんなに上手く誤魔化しても弱点って言うのは見えてきちゃうでしょ?別人みたいに戦うなんて技術私にはないし……。今回の対戦するゲームはそれが大きく影響するの。だから2人の力を貸してほしいのよ」



 なるほど、陽花さんの言っていることは分かった。確かに同じ人が戦えば(あくまで基本ではあるが)クセなんかが見破られ、簡単に攻略されてしまう可能性がある。もちろん3人を同じ戦い方、もしくは似た戦い方で押し切ればいいけど相手はそれを専門に扱うゲーム部だ。欲しい人材を手に入れるための戦いであれば、部内でも優秀な人間を採用してくるはず。そうなれば押し切れるなんて考えは持たない方が良いだろう



「急で申し訳ないとは思うんだけど、どうかな?」


「……俺は良いですよ。昨日も言った通りゲームは好きですから、全然大丈夫です」


「俺も行くッスよ。ハルだけカッコイイとこ持ってくなんて許さないからな!!」


「あ、あのなぁ……」


「ふふ、2人共ありがとう。それじゃあ、詳しい話しをしたいんだけど……今日の放課後空いてる?」



 口元に人差し指を置き陽花さんが聞いた。この学校に来てずっと帰宅部の俺に予定は無い。隣にいた弥生もクリームパンを頬張りながら「大丈夫ですよ」と頷いている



「はい、俺は大丈夫です。えっと良太は……」


「俺も大丈夫ッス。今日と明日は部活休みなんで」


「そう。だったらよかった。それじゃあ今日の放課後は……私の家でいいかな?」


「よ、陽花さんの家ッスか!!」


「うん。もしよかったらなんだけど……どうかな?」


「行きます行きます!!行っちゃって良いなら是非是非行きたいッス。なぁ、ハル?」


「あ、うん。でも、いいんですか?」


「ハルくんと同じ一人暮らしだから大丈夫。むしろ大歓迎しちゃうよ」



 そう言って笑顔になる陽花さん。どうやら行っても問題ないらしい。隣にいた弥生達も「陽花のお家ですか!!」と盛り上がっている



「それじゃあ今日の放課後ね。えっと集合場所は……校門の前でいいかな?」


「はい。大丈夫です」


「終わったら即行で行きます!!」


「あはは、廊下で人にぶつからないようね」



 そう言って、陽花さんは持っていたカフェオレを1口飲んだ。その瞬間、少し強い風が俺達に当たった。少し熱いからか、その冷たさが結構気持ち良い



「さて、それじゃあそろそろ教室に戻ろっか。もうすぐ授業が始まっちゃうみたいだし」


「はぁぁ、授業かぁ。早く終わんねーかなぁ……」



 頭を掻きながら言った良太に、言葉にはしていないものの同意する。そして俺達は教室に向かって歩いて行った




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