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お化け少女と契約《エンゲージ》  作者: 探偵コアラ
お化け少女と契約《エンゲージ》Ⅲ
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第104話 沼島の提案



 小麦の話を聞いた翌日の放課後、俺たちは学園内の喫茶店「ブラウン」を訪れていた。

 防音機能の整った個室。その一室の椅子に俺たちは座っている。

 俺を中心に右に弥生、左に小麦という配置。弥生は普段通りだが、小麦は緊張しているのか基本的に俯いてたまに顔を上げてを繰り返していた。

 そんな俺たちの対に座っているのは沼島先生。彼はテーブルに置かれたコーヒーを一口飲むと腕組みをする



「水上から呼び出すのは珍しいな。お前の隣に座っている見慣れないヤツが気になるところだが……。それは今から聞くお前の話しに関係しているんだろう?」


「そうですね。この子に関する話です」


「聞かせてもらおうか」

 


 沼島先生の言葉に頷き、俺は事情を説明する。

 小麦を見つけたこと、彼女から家出や夢の話を聞いたこと、そして沼島先生に協力してほしいということ。

 時間にして10分ぐらいだっただろうか。それら全てを話し終わると沼島先生は背もたれに寄りかかる



「なるほど、事情は分かった。こりゃ結構ダルいことになってるな」


「すみません。でも放ってはおけなくて」


「いや、助けたのは別に構わん。お前の自由だ。問題はそこじゃない」


「というと?」



 沼島先生はため息を吐きながら頭の後ろを掻いてみせる。

 あぁ、これはきっと本当に面倒なことになってるんだろうな。

 と思いながら内心で苦笑を浮かべる



「既に連絡が入ってるんだよ。海老衣の両親からな」


「えっ……?」


「海老衣の屋敷周辺には警備用のセンサーが設置されてるらしくてな。屋敷の境界線を通ったヤツは一定時間、居場所が特定できるようになるらしい。つまり海老衣がウチの学園に来たのはバレバレってわけだ」


「ちょっと待って下さい。小麦の家、警備用アイテムなんて置かれてるんですか?」


「あぁ。そうらしいが、その反応……まさか家のことは話してないのか?」



 沼島先生に問われると小麦は気まずそうに目を逸らした



「海老衣グループはデカい食品メーカーなんだよ。名前から分かる通りその子はその社長の娘。家出をした時に警備用のセンサーに引っかかって居場所が丸分かりだったってわけだ」


「なるほど……」



 小麦は俺からも視線を逸らす。恐らくセンサーに引っかかり、それに気づかないまま学園まで移動してきたのだろう。妙に抜けている部分がある彼女ならあり得ない話ではない



「それでぬーちゃん。連絡があったって言ってましたけど、どんな内容だったんですか?」


「あぁ。話が逸れたが問題はその内容だ。海老衣、お前はこの状況で素直に家に帰るつもりはあるか?」


「ないわ。あるはずがないじゃない」


「小麦、お前即答だな……」


「この展開を予測してたんだろう。お前が見つかったら「帰れ」と説得をするよう頼まれるわけでもなく、相談をされた。お前の本気を確かめるための試験がないかってな」



 沼島先生が軽く咳払いした。そして教師の目と声色へと変わった彼は真っ直ぐ小麦に言い放つ



「海老衣、両親にお前の夢を認めさせたかったら「魔法研究会」の試験を受けて合格してみろ」


「えっ……?」


「研究会のお偉いさんに連絡を取ったところ人手不足らしくてな。新しいメンバーを募集しているそうだ。各魔法国へ行って研究の手伝いをする見習い扱いらしいが新人としては妥当なポジションだろう」


「ちょっと待って。それってつまり、いきなり私の夢が叶うってこと……?」


「そうだ。合格すれば両親が納得した上でお前は魔法研究会に入ることが出来る。恐らく、考えられる中でもベストなルートだろうな」



 小麦が口を閉める事も忘れて嬉しそうな表情を浮かべる。それは年相応の少し幼い表情で見ていて微笑ましい。

 確かに試験に合格してしまえば、最高の説得材料になるだろう。というかそれすら跳び越えて一気に夢を叶えることが出来る。

 だが、彼女の頭の中を埋め尽くしているのはあくまで「上手くいった理想の未来」だ。その手前で行く手を阻む試験に関しては視野に入っていない。

 それを察したらしい沼島先生が話を続ける



「だが魔法研究会は優秀な魔法師たちがよく選ぶ道の一つだ。いくら見習い扱いと言っても当然、その試験も簡単なモノではない。そしてもし落ちてしまえば、お前は問答無用で家に帰らなきゃならない」


「えぇ、分かってるわ。それで内容は? 試験はどんな内容なの?」


「俺も詳しく知らないが、すでに受けたヤツが何人かいるらしくてな。その中で合格者は―――0人。誰一人いなかったそうだ」


「ゼ、ゼロ!?」


「そうだ。お前はそれでも受けるんだな?」



☆     ☆     ☆     ☆     ☆




「なぁーにが「それでも受けるんだな」よ。受けるに決まってるでしょ。他に選択肢なんてないじゃない。ったく、先生みたいに偉そうに」



 小麦がそんな愚痴を吐きながら地面を何度か踏みつけた。その声に驚いた周囲の視線が一気に集まる。俺は慌てて彼女の頭を軽く叩き、静かにするように促した。

 沼島先生の話が終わった後、俺と小麦は学園を出て街の中を歩いていた。理由は少し散歩でもして彼女を落ち着かせるため。弥生はというと夕飯の支度があるので先に帰ってもらっている



「実際先生だし、俺たちより立場上なんだから当たり前だろ。にしてもエリートを何人も落とした試験を合格しろ、か。なんていうか大変なことになってきたな」


「しょ、しょうがないでしょ。まさかあなたを巻き込むことになるとは思ってなかったの。……悪かったと思ってるわよ」



 俺の言葉を愚痴と勘違いしたらしい小麦が小声になりながら言う。事態に巻き込んだことに対して彼女なりに責任を感じているようだ。だとすれば俺が持っている疑問にも答えてくれるかも知れない



「なぁ。理由、聞かせてくれないか?」


「家出した理由? それならさっき―――」


「違うよ。聞きたいのは家出の理由じゃなくて魔法研究会に入りたい理由だ。反対されて家出したり、難しい試験を受けてでも入りたい理由があるんだろ?」


「……」



 俺が尋ねると彼女はこちらの顔を少し見て、すぐに視線を前方へと向けた。しばらく黙ったまま歩き続ける。

 気づけば小さな公園へと辿りついていた。日が沈もうとしている時間帯。遊んでいた子供たちはもう帰っているらしく人の姿はなかった



「ねぇ、ブランコ乗りましょ?」


「おまっ、俺の話は無視かよ。遊ぶ前に研究会に入りたい理由を……」


「バカ、分かってないわね。こういう時には雰囲気が大切なのよ」



 そういうもんかな、と苦笑しながら小麦に続いてブランコに座った。公園自体が新しいわけではなく、その中でも比較的古めのこの遊具は少し動かすと独特の音が鳴る。

 その中に彼女の足が地面を擦る音、そして最後には小さな声が混じり合う



「そうよね。ここまでしてもらってるんだから、ちゃんと話さないと不公平よね」



 決意が込められている様に感じたその言葉をきっかけに小麦の視線が少し遠くの方へと向けられる



「あのね、結構長くなっちゃうかもだけど……それでも聞いてくれる?」


「もちろん。質問したのはこっちだ。ちゃんと最後まで聞くさ」


「……ふふっ、ありがと」



 小麦にしては珍しく素直に笑ってみせる。

 鳴り続けるブランコの音は薄暗くなりつつある周囲に静かに響き渡っていた

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