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お化け少女と契約《エンゲージ》  作者: 探偵コアラ
お化け少女と契約《エンゲージ》Ⅲ
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第100話 隠れた契約者たちの過去と謎


「……そうだな。まずは先生と俺たちについての話から始めようか」



 話は司さんのその一言から始まった。自然と背筋が伸びるのを感じる。隣にいる弥生も似ている、あるいは同じ感覚を抱いたらしく、身体をわずかに動かして見せた。

 記憶を遡っているのだろうか。司さんはテーブルに置かれたカップへと視線を向け、話を続ける



「俺たちと先生が最初に出会ったのは、どこかの洞窟だ。時間帯も夜だったらしく辺り一帯が暗かったが、俺たちの周囲は月明かりによって照らされていた。そんな俺たちが目覚めたすぐそばに男性の姿があった」


「それが父さんだった……?」



 俺の問いに視線を合わせてきた司さんはコクリと頷く



「俺たちが日本ではなく、魔法という概念の存在する国にいること。俺たちを目覚めさせたのは先生であることを説明してもらった」


「他には説明されなかったんですか? 連れて来られた理由……とか」


「日本で私たちを眠らせた魔法の効力が残ってたみたいでね。眠っちゃったから、それ以上は聞くことが出来なかったの」


「そして再び目覚めた時、周囲に広がっていたのは研究所のような風景だった。その場所は今ならどこか理解できる。ファンタジア学園、その「地下研究室」だ」


「地下……ファンタジア学園って地下にも研究室があるんですか?」



 ファンタジア学園にいくつかの研究室が存在する事は知っている。ゆずが研究で使っている部屋やカード魔法に関する研究を行う部屋が良い例だ。深く関わっていない俺が知らないだけで研究室自体はまだまだ存在するのだと思う。

 司さんの言う地下研究室もその一つだろうか。

 今度は美加さんが少しだけ首を横に振って答える



「ファンタジア学園の地下にあるわけじゃないよ。学園から離れた場所にあるんだ。昔、ファンタジア学園が所有していた研究室。過去に危険な研究をする場合に使ってたらしいよ。私たちはそこで結構長い時間を過ごしてたみたい」


「今では学園側も使っていない廃墟のような扱いだ。俺たちを人知れず保管し、潜伏するにはちょうどよかったのだろうな」


「なるほど……」


「けど、どうして魔法と関係のなかったはずの司さんたちがさらわれたんでしょう……?」


「正確には分からない。だが元々魔法の国で生活する予定だったから、それが関係あるとは思うがな」


「えっ……?」



 自分でもハッキリと分かるレベルで声が漏れた。頭の中にあった確信に近い予測―――その前提が覆される



「連れさらわれる前から魔法国を知ってたってことですか?」


「あぁ。以前、魔法師が俺たちの元にやって来たんだ。最初は魔力暴走する可能性の確認。その安全が確認できた後、魔法国への移住を提案された。お前もだろう、天川?」


「そうですね。それで迷いながら、でも行きたいなって気持ちが強くなって……。そんな時に突然、連れて来られたって感じかな」


「…………」



 彼らのその体験は俺たちと似ている。不意に連れて来られたという違いはあるが、魔法という存在に初めて触れたその経緯は恐らく同じ。魔法師を通して魔法と触れ、その後さらわれるというイレギュラーに襲われた。

 そして彼らが初めて目覚めた時に出会ったのは紛れもない俺の父さんだ。


 つまり、俺の父さんがイレギュラーを引き起こした張本人ということに―――



「水上、どうやらお前は勘違いをしているようだな」


「えっ……?」


「恐らく先生が俺や天川を連れ去ったのではないかと考えているのだろう。だが、最初に言ったはずだ。「俺たちと先生が最初に出会ったのは洞窟内」だと」


「あっ……」



 そこまで言われて司さんの言葉の意味に気づく。

 そうだ、彼らが父さんと出会ったのは洞窟内。日本で出会ってはいない。つまり、日本で彼らを襲いさらったのは父さんではないということだ



「私たちにだって日本にいた時の記憶はある。連れ去られる直前の記憶もね」


「日本にいた俺たちの元に訪れたのは先生ではなかった。むしろ先生は洞窟内での説明や地下研究室で目覚めた時、俺たちの世話を焼いてくれた恩人の様な存在だ。でなければ先生などと呼ぶこともない」


「そういうこと。だから春人くんが罪悪感を感じる必要は無いんだよ」


「ありがとうございます。けど、だったら一体誰が二人を……?」


「それが、分からないのだ」


「分からない……?」



 司さんがコクリと頷いた。眉間にしわが寄り、表情が一気に神妙なものへと変わる



「当時のことは一応覚えている。声をかけられ、不意の魔法によって眠らされる、その時までの記憶は確かにある。だが相手がどんな人物なのか、その部分が分からないのだ。まるで記憶にモヤがかかったように」


「そんな……美加さんは?」


「私もだよ。同じように声にも姿にもモヤがかかったみたいに分からない。だから特徴を伝える事も出来ないの」



 美加さんが悔しそうに眉を潜める。

 二人の記憶の中にあるはずの姿、声―――人物を特定するための要素が分からない。しかも、どちらもモヤがかかっているように共通の特徴。

 魔法が存在するこの場所であれば何か魔法の効果を疑うのは自然な事だろう。だけど、記憶に関する魔法というのは数が少なく、効果も他の魔法に比べて長く持たない。

 もちろん、純粋に恐怖によって記憶が曖昧になって分からないという場合もあると思う。むしろ、そちらの方が可能性としては高いのではないだろうか。


 そんな考えごとをしていると、司さんは呼びかけで俺を現実に戻す



「大丈夫か、水上」


「あっ、はい。すみません。ちょっと考え込んじゃって。でも誰だか分からないんだったら、その人が父さんって可能性もあるんじゃないですか?」


「それは違うよ。と言っても感覚的な話になるから信じにくいのは当たり前だけど雰囲気が違った。とても冷たいあの威圧感は水上先生にはなかった。だから違うって言い切れる」


「そう、ですか」



 美加さんの力の込められた言葉を聞いて安心する。この人たちがここまで違うと言っているのだ。父さんは連れ去った張本人じゃない。

 と、司さんは一度軽く咳払いをし、こちらに真剣な眼差しを向けてくる。そして



「正確な情報を提供出来なくてすまない。だが現段階で俺たちが伝えておきたいことは一つ。「隠れた契約者事件」にはまだ見ぬ黒幕が存在しているかも知れないということだ。その可能性があるということは覚えておいてくれ」



☆     ☆     ☆     ☆     ☆



 話を終え俺たちは施設の門の前にいた。ここに来た時に見かけた元気な子供たちは施設内で遊んだり、眠ったりしている。

 空を見れば少し暗くなっていた。室内に入るのも時間帯を考えれば当然だろう。

 出入りをする門の前まで歩いて来た俺たちは振り返り、見送りに来てくれ司さん、美加さんと視線を交わす



「二人とも、今日は来てくれてありがとうね」


「いえ。こちらこそ。ありがとうございました。大事な話を聞けたし、何より司さんと美加さんの元気な姿が見れて良かったです」


「また時間があれば遊びに来てくれ。ぜひ歓迎しよう」


「その時はお菓子とか作ってきますね。もちろん、みんなの分もいーっぱい作ってきますから」



 両手を精一杯に広げて言う弥生。そんな彼女を見て美加さんや司さんが微笑んでくれる。

 もちろん、彼らが伝えてくれた話を忘れるつもりはない。まだ見ぬ黒幕の可能性。存在の有無が曖昧な今、それを中心に活動をすることは出来ないが、頭の中に置いておく必要はあるだろう。

 だが今日は純粋にここに来てよかったと思えた。弥生の言う通り、また来よう。


 その時は他のみんなも一緒に―――



「あうっ!?」


「っ!!」



 門を超えて施設外へと踏み出した時、俺の身体に衝撃が走った。次の瞬間、何かが倒れる音がする。

 倒れていたのは一人の女の子だった。特徴的だったのは背中のリュック。小柄な見た目なので俺よりも少し年下に見える



「あぁ、ぶつかっちゃったか……ごめんな」



 少女に手を伸ばし謝罪した。

 視線が合う。が、彼女はすぐに顔を背けた。中が見えない様、器用にスカートを抑えつつ立ち上がりスカートについた土を掃う。

 それからもう一回、視線が合う。よく見れば彼女の瞳には涙が浮かんでいた。



「しっかり前を見て歩きなさいよ、じゃないとケガするわよ」


「いや、俺の方は何ともなかったけど……。キミこそ怪我してないか? 涙目になってるし」


「なっ……!! これは、その……そう、目にゴミが入ったのよ」


「ゴミって……このタイミングで?」


「そうよっ!!」



 少女が自信満々な表情で頷く。果たしてその表情を見せるようなことだろうか。というか嘘っぽいなぁ……。

 なんて考えていると、彼女の顔がハッとしたものへと変化する



「って、そんなことはどうでもいいの!! わたしは急いでるんだから」


「急いでるって……何か用事でもあるのか?」


「用事って言うか……って、関係ないでしょ!! わたしはアナタの相手をしてあげられるほど暇じゃないの。心配とかもいらないから。それじゃあね」


「お、おい……」



 俺の言葉も聞き入れることなく少女は走り去っていく



「行っちゃったか……」


「ハル、誰かとぶつかったみたいですけど大丈夫ですか?」


「あぁ、俺は大丈夫だ。むしろ女の子側の心配をしたんだけど、走って行っちゃってさ。俺たちより少し年下って感じだったけど、この施設の子じゃないですよね?」


「あぁ、見たことのない顔だったな」



 とりあえず施設から抜け出した子ではないことに安心する。言葉的にも見た目的に怪我した様子はなかったし、何より立ち去ってしまった以上、彼女の事を気にし過ぎてもしょうがない。

 施設に設置された大型の時計を見てみると、そろそろ寮に戻っておきたい時間だ。

 俺と弥生は司さん、美加さんに向けてお辞儀をする



「それじゃあ、今日はありがとうございました」



 そんな挨拶を最後に俺達は施設を後にした


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