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お化け少女と契約《エンゲージ》  作者: 探偵コアラ
お化け少女と契約《エンゲージ》Ⅲ
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第97話 春人と弥生のラノンパークデートⅢ



 その景色はとても綺麗だった。時間帯は夕方。空はオレンジ色に染まりっており、賑やかだった頃よりも落ち着いた優しい気持ちにしてくれる。

 時間的に今日の最後となるアトラクションとして、俺達は観覧車に乗っていた。この提案をしたのは弥生。どうやら彼女の中で遊園地で最後に乗るのは観覧車と決まっているらしい



「んーっ!! 楽しかったですね」



 背伸びをした弥生が言った。そんな彼女に俺は首を縦に振って答える



「前とは違って朝から来てたから、色々回れたもんな。けど弥生、よかったのか?」


「よかったのかって何がですか?」


「お菓子だよ。結局、三種類しか買わなかっただろ? 俺はてっきり、もっと買うと思ってたけど」


「いいんですよ。三種類でも十分楽しめます。それにお金もあまり使えなかったんですよ。それはハルも同じじゃないんですか?」


「そ、そうだな」


「ですよねぇ。ここで使い過ぎちゃったらゲームが買えなくなっちゃいますもんねぇ」



 弥生が浮かべたのはニヤッとした表情。俺はそれに苦笑する。

 使い過ぎないようにしたのは、もっと他の理由があるんだけどな。

 そんなことを思いながら俺が自分のバッグに目をやった。弥生は夕日を見つめながら、俺に問いかける



「ハル、隣に行ってもいいですか?」


「あぁ」



 俺が身体を横に移動させ、目の前にいた弥生が隣に座った。

 ドキドキする。しかしそれだけではなく安心もあって。今なら落ち着いて「渡せる」気がした



「なぁ弥生、ちょっといいか?」


「どうしました?」


「渡したいモノがあるんだ」



 言いながら俺は自分のバッグに手を入れた。目的のものはすぐに見つかる。が、すぐには出さない。包装やリボンが綺麗に整えられているか確認。そして俺は小さめの箱を取り出した。

 見るだけでプレゼントだと分かったのだろう。差し出すと弥生は少し驚いた顔をしながらそれを受け取る



「わぁ、ありがとうございます。開けてみてもいいですか?」


「ど、どうぞ」



 照れを抑え込みつつ頷くと弥生が包装を丁寧に外しながらプレゼントの箱を開け、中身が姿を現した。

 出てきたのは大きめリボンが特徴的な髪留めだ。全体的に白、一部が黒の配色であり、デザインとしては至ってシンプル。

 弥生はそれに目を向けたあと、今度は俺の方を向く



「ハル、これって……」


「せっかくのデートだから何かプレゼントしたいなって思って。それだったら身に付けられて便利だし、それに……それがお前に似合いそうだなって思ってさ」


「ハル……」


「で、でもあれだ!! 俺、女の子のセンスとか分からないから、完全に俺のイメージで似合うって思っちゃって……気に入らなかったら、ごめん」


「私はすっごく可愛いと思いますよ。それにハルが私に似合うって思って買ってくれたんでしょう? だったら―――」



 弥生は頬を赤くしながら



「その気持ちがとっても嬉しいです。ハル、ありがとうございます」



 彼女は笑顔でそう言った



「早速、付けてみちゃってもいいですか?」


「あぁ」



 言いながら俺は弥生に背を向ける。特に意味があるわけではない。自然と身体が動いてしまったのだ。

 きっと背後では弥生が今使っている髪留めを外し、プレゼントの髪留めを付けている。その証拠に一瞬だけ、リボンと服の布が擦れる音がした。

 髪留めを変えるだけなのに、妙な緊張感がある。それに何だか色気を感じて―――



「どう……ですか?」



 弥生の言葉を合図に振り返る。そこにはプレゼントを選ぶとき、頭に想い描いた弥生の姿があった。

 小さめのヘアゴムでまとめられたポニーテールもよかったが、今は大きめのリボンがアクセントとなっており程よいボリュームを感じる。

 リボンの色も弥生の髪に似合っていて可愛らしい



「やっぱりだ。すごく似合ってるし、可愛い」


「ふふっ、ありがとうございます。それで……ハル、実は私からもプレゼントがあるんです」


「弥生もプレゼントを用意してくれてたのか?」


「はい。……どうぞ」


「ありがとう。開けちゃってもいいか?」


「開けちゃっても大丈夫です」



 弥生は自分のバッグから俺と同じ様に箱を取り出した。それを受け取った俺は嬉しさと興味で焦る感情を抑えながら、包装を外していく。

 そして外し終え、ゆっくりと箱を開けた



「おぉ、ブレスレットだ」


「はい。私もハルと同じ様に何か送りたいなって考えて、ハルに似合うかなって思ってそれにしました。その……私のセンスなので気に入らなかったら――」


「おっと、それは言う必要ないぜ。弥生がさっき言ってくれた言葉と同じ気持ちだ。弥生が選んでくれて嬉しい。文句なんてあるはずないよ」


「ハル……ふふっ、ありがとうございます」


「っと、付けてみるな。……どうかな? 似合うか?」


「はい。私のイメージした通りです。あっ、でも私、ハルが付ける時に後ろ向いてた方がよかったですか?」


「いや、向かなくて……って、それはさっきの俺か」



 お互いにプレゼントを送り、さっきとってしまった行動を二人で笑い合う。

 その時間はとても楽しくて。俺が今朝、求めていた笑顔があると思うと、心が喜びと安堵でいっぱいになる



「……ハル」



 笑い終え呼吸を整えた弥生が名前を呼んだ。それから―――



「私、ハルと恋人でよかったです。こんなに沢山の幸せをありがとうございます」



 弥生が微笑みながら言った。

 そんな彼女が可愛らしくて、愛おしくて。俺は弥生の身体を両手で包み込み、自分の胸に引き込む。

 彼女の身体はとても小さくて、とても華奢で、とても温かくて――



「ハル……?」


「ごめん。イヤ……かな?」


「そんなことありません。でも、どうしたのかは気になります」


「弥生にお礼を言われて、抱きしめたくなった。自然と身体が動いてた。ごめん。今、俺、自分を制御出来なかった」


「……ふふっ、そうなんですか?」



 弥生は身体を押し付け、その細い腕を俺の背中に回す。

 彼女も俺を抱きしめる、その体勢で



「それだけ私に夢中になってくれたってことですよね? だったら、私は嬉しいですよ」



 弥生が優しい声でそう呟いた。そんなことを言われたら、求める気持ちは止まれない



「弥生、キス……してもいいか?」


「……いい、ですよ」



 お互いの瞳が閉じて、口と口が重なる。弥生の柔らかい感触が伝わってくる。

 沈む夕日に照らされながら俺たちはしばらくの間、口と口を重ね合っていた




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