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お化け少女と契約《エンゲージ》  作者: 探偵コアラ
お化け少女と契約《エンゲージ》Ⅲ
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第96話 春人と弥生のラノンパークデートⅡ


「う~ん!! おいしいですね♪」



 ベンチに腰を下ろした弥生が左手を頬に添え嬉しそうに言った。もう片方の手に持っているのはソフトクリーム。クリーム自体はバニラとチョコが混ざり合っており、コーンがピンク色の紙で包まれている。

 ファンタジアから比較的近く、規模もそれなりに大きいラノンパーク。この遊園地の園内には食べ物を販売している屋台がいくつか存在する。彼女が持っているソフトクリームも、とある屋台で売っていたモノだ。

 学園生が訪れる事も多く、食べ物に関しては量が少なめな代わりに値段が安くなっているのが特徴だったりする



「幸せそうだな、弥生」



 言いながら俺は自分の分のソフトクリームを口に運んだ。弥生のバニラチョコとは別の味であるチョコミント。これもまた独特の風味があって美味しい。

 一方の弥生はというとソフトクリームの味に興奮しているらしく、勢いよく首を縦に振っていた



「もちろんですよ。やっぱりお菓子は最高です。この甘さ……たまりません!!」


「弥生はホント、お菓子好きだよな」


「だって美味しいじゃないですか。もう最強です。もしかしたら無敵かも知れません」


「弱点は、そうだなぁ。食べ過ぎる事とか……?」


「おぉ、確かに。それはおっきい弱点ですね」



 何度か頷いて見せる弥生。話の内容は弱点なんて単語を使ってる辺り可笑しいのだが、彼女はそれを気にせず真剣な反応を見せていた。それだけお菓子の話に入り込んでいたということなのだろう。

 それからしばらくして、俺達は「ごちそう様でした」と手を揃えた。コーンを包んでいた紙をベンチの隣にあったゴミ箱に入れる。

 園内を包み込んでいる心地のいい風と適度に流れる愉快な音楽、それから賑やかな人の声が聞こえる。その雰囲気は平和そのもので、リラックスした俺は視線を周囲の景色へと向ける



「あれは……」



 ふと景色を楽しんでいると一つの遊具が視界に入った。

 観覧車。以前、弥生と乗った遊具の一つである意味、記憶に強く残っている場所だ。俺の頭の中に観覧車で起きたハプニングを連想される。

 が、連想されたのはその記憶だけではなかった。さっきまで食べていたのがソフトクリームだったことから、観覧車で弥生の言っていた言葉が浮かぶ



「なぁ、弥生」


「はい、なんですか?」


「前、観覧車でソフトクリームを食べている時にお前が「シチュエーションがいい」って言ってたの覚えてるか?」


「覚えてますよ。私の楽しかった思い出の一つですから。でもあの時のハルったら「ここが高いから特別かー」なんて言ってましたよね」



 弥生がイタズラを企む子供の表情をする。普段ならこちらも反抗して言い返すのだが、今回ばかりはそうはいかない。代わりに苦笑を浮かべる



「そうそう。あの時の俺は、弥生の言ってる意味をちゃんと分かってなかったんだよ。でもさ、今なら分かる気がするんだ」



 弥生が不思議そうに首を傾げる



「俺さ、今めちゃくちゃ楽しいんだ。何に乗ったからとか何を食べたからとか、そういうことじゃなくて。お前と一緒だから楽しい。だからあの時、弥生が楽しいって言ってた意味はこれなのかなって思ったんだ」


「ハル……」


「って、ごめんな。こんな話をするタイミングでもなかった。こういうのを観覧車で言わないとなんだよな。俺、思わず言っちゃって―――」



 再び浮かべる苦笑。しかしそれは続かず、俺は言葉を止めた。

 その理由は難しいことではない。弥生が俺の腰に手を回し、抱きついているからだ。急な接近に驚きやドキドキが加速し、身体全体が固まる。

 反射的に、まるで降参を示すかのように両手を宙に上げながら彼女の名前を呼ぶ



「や、弥生……? どうしたんだ……?」



 言うと弥生は嬉しそうに顔をあげた。視線が合うと彼女はニコリと笑ってみせる。そして



「私はやっぱりハルが大好きだなって。そう思っただけです」


「ちょ、弥生!? お前、こんなところで……」


「ほーら、ハル!!」



 弥生は座っていたベンチから軽く跳び、俺の目の前に立った。

 それから片手を差し出してくる



「デートの続きをしましょう。まだ時間はありますから」


「……ったく」



 俺は嬉しいため息をつきながら、差し出された手に自分の手を重ねて席を立った。

 弥生の言う通りまだ時間はある。それは楽しい時間が続くということで、単純に嬉しい。

 何より俺の「目的」を達成するまでの余裕もあるということだ。そういう意味でもありがたい



「……なぁ弥生、適当なタイミングでお土産屋とか見に行かないか?」


「お土産ですか?」


「あぁ。ほら、こういう遊園地ってお土産のお菓子が売ってたりするだろ? だからそれをいくつか買って、帰ったら食べ比べとかしようぜ」


「おぉ、いいですね。それはナイスアイデアです」



 弥生がグッドのサインを作りながら頷いてくれる。少々強引な提案だった気はするが、あまり考える必要は無いだろう



「それにちょうど私も行きたいと思っていましたから。助かります」


「なんだ、弥生もなんか用事があるのか?」


「え、えぇ、まぁ……それよりもまずは思いっきり遊びましょう」


「っと、そうだな。弥生、どこか行きたいヤツとかあるか?」


「そうですねぇ……。フフフ、だったらジェットコースターに行きましょうか」


「い、いいぜ。だったら、そのあとはお化け屋敷な」


「あー!! ハルったら私がお化け屋敷、苦手なのを分かってて言ってますね!!」


「弥生だって俺がジェットコースター苦手だって知ってて言ってるだろ」



 弥生のイタズラな表情に抵抗して、俺も同じ類の顔をして見せる。

 互いに軽口を言い合いながら、けれども状況を楽しみながら、俺達は足を進めて行った




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