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お化け少女と契約《エンゲージ》  作者: 探偵コアラ
お化け少女と契約《エンゲージ》Ⅲ
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第94話 戦う理由




「ハル、右です、右!!」


「あぁ、分かってる……よ!!」



 弥生の指示とほぼ同時に銃口が素早い動きを見せた。その先に見えるのは相手の姿。持っている銃はまだ春人の方を向いてはおらず、気づいた様子はない。正確には気付いているかも知れないが、まだ動きを見せてはいない。

 それは最大のチャンスだった。相手が標準を合わせ弾を放つまでの時間と春人が弾を放つだけの時間。どちらが短いか、もはや考えるまでもない



「ッ!!」



 春人がコントローラーのトリガーを引き弾が発射される。1発、2発……その瞬間に相手の銃口が春人に向けられ、標準が合わせられる。

 しかし、時は遅かった。相手の1発が春人に命中すると同時に春人の3発目が命中する。

 刹那、相手の姿が煙のように消え去った。もちろん、それ以上に弾が放たれることはなく、春人へのダメージもない。

 そして鳴り響く終了の合図。3分間続いた激闘は幕を閉じた



「……おぉ、やりましたね、ハル!!」


「あぁ!!」



 春人と弥生が喜び合いハイタッチをする。

 二人の前にあるのはゲーム画面。プレイヤーたちが集まりチームを組んで、獲得したポイントを競いあうゲームだ。

 ポイントは相手チームのメンバーを倒す他にもフィールドの宝箱を開封することで得られるので、純粋な戦闘力だけが問われるわけではない。

 結果の画面には春人とチームだった良太や氷河の成績も表示されている



「みんな成績は五分五分ってところだな」


「でもハルは特に動きが速かったですよ。シュババババ!! ってすごかったです!!」


「あはは、ありがと弥生」



 両手を精一杯に使って出来る限りの再現をする弥生に思わず春人は微笑みをこぼす。

 その時「ピンポーン」という電子音が鳴り響いた



「チャイムの音だな」


「いったい誰でしょうか?」



 春人はメッセージを打ち込み、ゲームの中断を良太と氷河に伝えた。それから弥生と一緒に立ち上がり、設置された玄関モニターへと向かい画面を見る。

 そこにあったのはファンタジア学園の制服でありながら珍しい白衣を羽織った少女の姿。

 春人と同じ特待生である「姫宮ゆず」だった



「ゆずですよ、ハル」


「あぁ。どうしたんだろうな。とりあえず、あがってもらおうか」


「ですね」



 コクりと頷いた弥生は玄関へと駆けて行き、ドアを開けてゆずを迎え入れる



「春人さん、弥生さん。突然、押しかけてしまってすみません」


「気にするなって。それよりどうしたんだ?その感じだと何かあったみたいだけど……」



 玄関に立ったゆずは一見すると普段と大きな違いはない。だが、表情に関しては違う。いつも浮かべている笑顔ではなく、少し困った様子をみせている



「実はちょっと、お話がありまして」


「お話ですか? だったら……ハル」


「あぁ。簡単に立ち話ってわけにはいかなさそうだしな。ゆず、もし時間があるなら上がっていかないか?」


「ありがとうございます。それじゃあ、お言葉に甘えさせてもらいますね」



 履いていた靴を綺麗に揃え、ゆずは2人の後を追って奥の部屋へと歩いて行った



☆     ☆     ☆     ☆     ☆



「ゆずは甘いコーヒーって飲めますか?」


「あっ、はい。甘いものは大好きですから」


「ふふっ、よかったです。それじゃあ……どうぞ」


「ありがとうございます」



 数分後、春人と弥生、ゆずの3人はテーブルを囲み座っていた。

 それぞれの目の前にあるのは温かいコーヒー。ミルクをたっぷり入れることで甘く、なめらかな味わいになった弥生オリジナルブレンドだ。彼女自身はコーヒーと言っているが、どちらかといえばカフェオレに近かったりする。

 それを一口飲み、ゆずはホッとした表情を浮かべた



「それでどうしたんだ、ゆず。なんか困ってるみたいだけど……」


「はい。実はさっき、こんなメッセージが私の研究室に届いたんです」




 ゆずは持っていた携帯端末を春人たちに差し出した。

 表示されるメッセージ。差出人は不明。内容を見てみると長くも短くも見える文章が書かれている。春人はその中で気になった、いくつかのキーワードを言葉にして発してみる



「過去の真実……。それにマジック・バトル・フェスティバルを勝ち抜く……か」


「マジック・バトル・フェスティバルを勝ち抜けば、過去の真実が分かるってことですよね……?」


「そういうことだろうな。けど、過去っていうのが分からない。ゆず、何か心当たりはないか?」



 もしかするとイタズラではないのだろうか。そう考えた春人がゆずに問いかける。

 一方のゆずは心当たりがあるらしく、ゆっくりと口を開いた



「恐らく、数年前に遭った私やお父さんの遭難に関することなんじゃないかと思っています」


「つまり、遭難の真実ってことか……?」


「前に遭難してラグさんに助けてもらったって話をしましたよね? 天候が急変した理由とか……あの時のことは未だに謎が多いんです。だからその謎が分かるんじゃないかなって」


「なるほどな」



 ゆずの言葉を聞いて春人が頷く。

 彼女は言葉にすることを控えたが自然による遭難ではなく、犯人が存在する意図的な遭難だった可能性もあるのだ。とはいえ、現状では自然遭難の可能性が高いだろう。更に差出人不明なこともあって、今回のメッセージに真剣に向き合うのは得策とは言えないかも知れない。

 それでも一番重要なことはそれらではないと判断し、春人はゆずに問いかける



「ゆずとしてはどうなんだ? やっぱり知りたいのか?」



 春人の問いに、ゆずは素早く答える事は出来なかった。静寂が辺りを包み込む。もちろん春人や隣にいる弥生が威圧感を出しているわけではない。だからゆずも自分と向き合い、思考することが出来た。

 そして―――



「……知りたいです。私にとってあれは魔法に目覚めた大きなきっかけ。そこに不安な謎は残したくない」


「そっか。だったら、決まりだな。マジック・バトル・フェスティバル、出ようぜ」


「いいんですか?」


「良いも何もゆずには出る理由があるんだろ? だったら協力するよ」


「むしろ良太は出たいって言いそうです」


「だな。氷河も「未知の強者と戦いも悪くはない」みたいなこと言いそうだ」


「あっ、確かに言いそうですね」



 春人と弥生はモノマネを交えながら話を進め笑いあう。ゆずは2人の様子にキョトンとした表情を浮かべていたが、次第に小さく、そして少しずつ大きな笑みを浮かべた



「そうですね。皆さんはそういう優しい人たちですもんね。ありがとうございます」


「あぁ。……っと、ちょうどいいタイミングだったな」


「えっ……?」


「ゆずも携帯見てみろよ。沼島先生から集合のお知らせだ」


「きっとマジック・バトル・フェスティバルについてですね」


「あぁ。ゆずはそのまま行けるか?」


「はい、大丈夫です」



 春人と弥生が軽く支度を済ませ、三人は沼島の元へと向かって行った



☆     ☆     ☆     ☆     ☆



「よし、集まったな。俺はこの後も仕事があるから手短に済ますぞ」



 沼島に呼ばれて集まった喫茶店「ブラウン」。そこに春人たちはほぼ同時に集合した。



「ファンタジア学園に「マジック・バトル・フェスティバル」の招待状が届いた。これがどんなものかは……氷河、知ってるな?」


「あぁ。別名で『MBF』と呼ばれている魔法技術を競う大型の大会だ。参加者は魔法学園に通う魔法師。予選によって各国の代表チームを決め、代表チームは本戦へと出場。代表チーム同士が戦い、優勝を目指すというのが流れだろう?」


「その通りだ。そして招待状が来た以上、ウチからも代表チームを決めることになる。それ自体は学園内でやる選考会を通じて決めるわけだが、その1チームにお前らが出ないかっていう……ようはそういう話だ」



 途中で面倒になったらしい沼島が頭を掻く。だが眼は真剣そのものであり、春人たちそれぞれの様子を伺っている。

 すると良太が勢いよく手を上げた



「俺は出たいぜ、その大会」


「やっぱお前はそうだよな。強いヤツとの戦い、ワクワクするか?」


「する……けど、それだけじゃねぇ。「隠れた契約者事件」じゃ、ハルも陽花さんも勝ってるのに俺だけ相打ちだったんだ。それに鈴やアロンダイトにだって、かなり負担をかけた。だから俺はもっと強くなりたい。だから参加したいんだ」


「……そうか。他のヤツはどうだ? 水上、お前辺りは何かありそうな顔してるな」


「……分かりますか?」


「あぁ。とはいえ雰囲気だけどな。話があるなら話してみろ」


「はい。実は―――」



 春人は弥生やゆずと共に、ゆずの元に届いたメッセージやその事情について説明を始めた



☆     ☆     ☆     ☆     ☆



「なるほどな。お前らの事情や意見は分かった。紫乃原や氷河はどうだ?」



 問いかけられた陽花と氷河はそれぞれがコクリと頷いて見せた



「私は参加します。純粋に興味がありますし、ゆずちゃんの力にもなりたい」


「俺も同感だ。それに俺個人としても理由がある。拒むという選択肢は存在しない」


「氷河、その個人としての理由っていうのは……」


「まぁ気にするな、水上。一戦交えたいヤツがいて、この大会ならば実現できる可能性がある。ただそれだけの話だ」


「……じゃ、とにかくお前らも参加ってことでいいな?」



 沼島の言葉に全員が頷いて返す。

 これが春人たちがファンタジア学園の代表チーム候補となった瞬間だった

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